「おいちい」
「毎回来てくれて助かるぜ、そう言って貰えると俺もやる気が出るってもんよ」
柴関ラーメン、やはり美味しい
今までろくに味の付いて居ない物か不味い物しか
食べたことがないからかとても格別に思える
そもそもこのラーメン自体が飽きを知らない位美味しいのも問題だが……
「よくこんなの作れるね、毎回同じ味の筈なのに飽きが来ない」
「あたぼうよ、隠し味やらなんやらでお客さんを飽きさせないようにしてるからな!」
この人の言動や笑顔を見ていると、本当に客のことを考えているのだと分かる
良くもまぁ赤の他人のことをそこまで思いやられるものである
食を提供する職業だからか?もしくは相手が基本的に子供達だからだろうか?
どうなのか分からない、彼に明確な悪意が"無い"から分からない……
ともかく彼の心中がどうであれこのラーメンが美味しい事は確かだ
他にここまで美味しいラーメンを食べたことが無いからかもしれないが…
「……大将、ギョーザのテイクアウトで」
「あいよ!少し待ってろよ、すぐ作るからな!」
私はきっちり汁まで啜って飲み干した後にそう言った
後に小腹を満たす物を買っておきたかった、どうせ大将のことだ…時間が経って冷めても美味しいのだろう
この後に任務があるかさておき、少なくとも暇な時間はあるだろうからそれを潰す思惑もある
……にしてもギョーザって、どんな味なんだろうな
客が頼んでいるのを見て私も頼んだけれど……ふーむ
私がギョーザについて色々思っていると、新しい客が現れたようだ
そしてそれは……私が知っている人物達でもあった
「……便利屋か」
「…え、えぇ!?かかか…カイッ……いや、依頼主のメッセンジャー!?」
「そこまで驚かなくてもいいだろうに」
私の姿を見た彼女はそれはもう凄く驚いていた
顔面蒼白で白目なのもあって…あれだ、目の前に死神が出てきたみたいな反応
よくそんなギャグみたいな顔を簡単に出来るよな、尊敬できるよ
「あっれれ〜?この人依頼主さんとこの"レッドショルダー"じゃん
ㅤ依頼に失敗したアルちゃんを始末しに〜……なんて!」
「えっ、えええぇぇ!?わ、私この人にボコボコにされちゃうの…!?」
後ろにいた便利屋のメンバー…あー、ムツキだったか?
彼女が陸八魔アルをおちょくるように囃し立てる
それを真に受けたアルが白目で驚愕して……さっきも見た気がするな?
「…1回目の失敗だろ、少なくとも"依頼主"は1回の依頼失敗で抹殺をする程器は小さくない」
「そっ、そうよね…うん……まだ1回………もう1回……」
私が訂正を入れるように言うが、何か嫌な思い違いをしたのか顔がさらに白くなっていく
彼女はなにやら思い込みが激しそうだ…恐らく持っている運によってそれが良い方向に行くことがあるのだろう
「…何か用?」
「何も、見覚えのある顔だっただけだ」
「そう」
白い髪に黒いメッシュが入った女…確かカヨコとかいう奴だったか
他のやつに比べて目に見えてわかる頭脳タイプ、ムツキと同じように油断ならないタイプだ
「ほらっ、餃子のテイクアウトだ」
「…ありがとう」
さっさと帰ろうかと思っていた時、丁度大将が餃子のテイクアウトを出してくれた
ご丁寧に袋に入れてくれている…持ち運びが楽でいい
「後これもな」
「…これは?」
礼を言った私に対して、彼は何か紙を渡してきた
受け取って見てみればそこには【ラーメンひとつ無料】と書いてあるのだ
私は数秒それを見た後に彼の顔を見た
「いいの?」
「いいってもんさ!お前さんの笑顔、最近の客じゃ滅多に見ないもんだからな!」
大将にそう言われて私は思わず頬を触っていた
この私が笑っているというのか、ミライに石像より笑わないと言われた、私が
そう思うと、心が何故かこそばゆくなった
早くそこから離れたくて…私は小さく礼を言って出ようとした
「あう」
「"あ、ごめん!…大丈夫?"」
出ようとした矢先、誰かの体にぶつかる
身長はこちらの方が小さいというのに…何故かコケたのは相手だった
しかし"彼"はコケた自分よりも私の事を心配して声をかけてきたのである
「問題ない」
「"そう……君って、ブラックマーケットにいた子だよね"」
立ち上がって彼が言った言葉
私はそれを聞いて直ぐさまサイドアームを構えた
一瞬で銃を構えた私を見て彼は慌てたように言う
「"ちょっちょっと待って!私は君をどうこうする気はないから!"」
「………そうか」
信用出来ないその一言に顔を顰めた
不利な体制の大人達の最初に銃を向けられて言う言葉は相手を安心させる言葉だ
大丈夫大丈夫、私はお前に何もしない
見ての通り武器も無い、何かをしようってわけじゃない…
昔は信じた、今は…引き金を引かなかっただけえらいと思いたい
引き金を引く前に彼が私と同じような血液の流れている人型であったこと…そして何よりヘイローが無かった事が引き金を止まらせた
人を撃つ恐怖じゃない、それはもう何回も味わった
こいつが、例の【シャーレの先生】かという感情だった
生徒を救うだのなんだのほざいている夢物語野郎
アビドスに来て…アビドス高等学校の奴らを守ろうとしている邪魔者
思えば今すぐ殺せばよかったのかもしれない
未来のことを考えれば…ここで殺せば全て良かったと、思う
私は僅かに銃口を下に逸らした
それは私がこの気弱で頼りなさそうな大人を少しでも信じた証で───
「……迫撃砲」
「"え?"」
次の瞬間には、全てが吹き飛んでいた
〇
「まさか民間人の店に迫撃砲を叩き込むとは」
私は誰よりも早く起き上がり裏路地に隠れながら言った
奴から銃口を逸らした瞬間に空を切るような特徴的な音が聞こえやがった
どこのバカか分からない…しかしあの音はカイザー規格のものでは無かった気がする
他の"学園"だ、しかし一体どこだったか……
もう一斉射してくれれば思い出せそうな気もするが…
「……流石に民間人に気付くか」
そこから数秒待つが、何も聞こえてこない
相手の観測手か誰かが先生に気付いたのか、それとも大将か…
少なくとももう撃たれないのだろう、残念な話だ
私はとっとと離脱することにした
ここはアビドスの自治区近くだ、学園の戦闘に関わっていると後々面倒になる
もしもの為の戦闘のためにセーフティを解除しておき、さっさと抜け出す
スタスタとそこから歩いて行って……少なくとも迫撃砲の範囲から逃れた辺りだった
「…ッく」
旋回、射撃
一瞬しか見えなかった何かの影に回避行動を取りながら引き金を引く
しかしそれはどれも手応えを感じられない…いや、命中はした筈なのだが…
「硬いな」
「貴方は…カイザーの……あぁ、"レッドショルダー"か」
影から現れたのは白いモップ…いや、髪の毛
小柄な体格に見合わない大きさのLMGを持った女の子
その紫色の制服に、腕章にある文字には「風紀委員会」とある
セツナは知っている、目の前の人物が一体誰なのか
「…運が無いと思うべきか、それとも元々無かったか」
「どっちもじゃ無いの?……丁度話があるから、来て貰える?」
「…断る」
応じる気は無い
カイザーの外でも有名になってしまっている私が捕まったらいつ離してくれるものか
あの会社よりもいい額を支払うと言ってそのままゲヘナに入学させられそうだ
……………少なくとも、私にあの学園は合っていない
もう少し、静かな場所で……朽ち果てていたい
回忌「すいません、天ぷらテイクオフで……」
バイトさん「???(脳内を飛び回る天ぷら)」