最初の仕事は簡単だった
カイザーにとって不都合な奴らを黙らせる
もしくは子会社に喧嘩を売ってきたアホ共に躾をする、そんな程度だった
もとより技量のある私からすれば喧嘩を売ってきたアホ共…ヘルメット団なんぞ雑魚でしかない
センスも技量も無いカス共私が簡単に負けるわけが無い
全員倒した、センスのありそうな奴は会社に送った
企業の邪魔者も全員排除してやった
その度、理事は「よくやった」と私を褒めてくれた
初めて言われた時、私は何を言われたのか分からなかった
何かの冗談だと思ったそれが…本当であるとき、いつの間にか涙を流していた
『私はその大人と違ってお前を見捨てない、分かっているだろう?』
そうだ、貴方は私を見捨てない
だからこそ私は従っている、犬のように、愚直に……
だからこそ
だからこそ、"アビドス"が嫌いだ
前まではたった2人だった
バカな生徒会長とキレたナイフのようなピンク野郎
浅葱色の髪をしたバカに何度嘘をつき、ピンク野郎と銃口を向けあったことか
何度も義手を壊され、奴のショットガンをへし折ってやった
いつしか浅葱色のアホが居なくなった
その時のピンク野郎は見ていてこちらが気分悪くなるものであった
見ていてあまりにも気分が悪いので何度もぶん殴った
…全く抵抗しなかった、なんならこのまま殺せとまで言ってきた
それは、私の望んでいた言葉じゃなかった
たかが1人死んだくらいで、そんな気持ちになるのか
失望だった、私が望んでいた物では無かった
勝手に死ねと言って、その場を去った
いつの間にか、アビドスには人が増えていた
1人から5人に…4人も増えていたのである
不思議だった、意味が分からなかった
…まさか、あんな終わりかけの学校に人が来るなんて思わなかった
聞き覚えのない名前ばかりがリストにあった
どれもこれも……不快だった
偵察に出かけた時、私は彼女達の笑顔を見た
とびきりの、今をみんなと生きて楽しんでいる笑顔
借金を負っているとは思えない位の清々しい笑顔
…私はそれを見て、激しい憎悪に覆われた
どうしてお前らにそんな顔ができる
絶対に返せない額の借金がありながら、どうしてお前らは笑える
それを邪魔する私は悪役なのか?悪者という存在か?
ちがう、少なくともそんな……私は断じてそんなものでは無い
奴らを見ていると、昔を思い出す
カイザーに属する以前の…肥溜めのような場所にいた私達を
死んでしまった彼女たちを思い出してしまう
だからこそ、私はアビドスが嫌いなのだ
〇
「…私にヘルメット団の指揮を?」
「そうだ、アビドスを襲わせる」
カイザー理事に呼び出され、開口一番に言われたことはヘルメット団の指揮
あのバカ共を率いてアビドスを攻めろというのだ
「あのような雑魚共を纏めたとて、アビドスの良い的当てになるだけでしょう」
「それでいいどうせ奴らにはろくに弾も残っとらん、全部消費してしまえ」
「了解です、理事」
奴らは強い、アビドスの奴らは少数精鋭だ
しかしそれを支えるのは強い意志と弾丸であり…奴らにはもう弾は少ししかない
よく考えて見れば奴らは死にかけの学校だ、弾をどこで買うというのか
バイト代?ハッ、弾はそう安くない
特にアビドスという砂漠地域にもなればかなりの値段になる
潤沢に弾丸を奴らは使えない、…筈だ
意思は強い、こんな状況でも諦めない程奴らの意思は強い
へし折れば簡単に無力化出来るだろうが…それが出来ていないのが現状だ
であれば簡単な弾切れの方だろう
さすがに奴らもナイフや徒歩格闘で戦う筈もない
それ以前に「これ以上戦えない」という事実が奴らにのしかかるはず
そうなれば強い意志も簡単に折れる…一度で2度美味しい状況になる訳だ
……こういった人から幸せを奪う仕事には慣れている、"慣れてしまった"
しかし奴らにも奴らなりの生活があるように、私にも私の生活がある
理事に捨てられれば、私は終わりだ
行き場の無い人を襲い残飯を食す屑犬へと落ちる
…少なくとも、もうそんな生活はしたくない
するくらいなら、死んだ方がいい
〇
「よおセツナ、新しい仕事が入ったんだって?」
私が部屋に戻ってターボカスタム用の脚部装備を点検していると、ミライが私にそう言ってきた
どこから漏れた、なんてことは聞かない
機密情報どういう訳でもないのだ、バレて問題は無い
「ヘルメット団を率いてアビドスを攻める」
「…あのバカ共をか?」
私はそう決めつけて点検の手を止めずに言う
ミライは今にも笑いだしそうだった、釣られて私も笑ってしまう
「面白いよね、あんな奴らを私に指揮して欲しいんだと」
「もっと"使える"奴らにして欲しいもんだよな…あー、ヴァルキューレの事務員とかよ」
「そもそもカイザーとずっぷずぷで参戦すらしないでしょ、居ても邪魔なだけ」
それもそうか!と大笑いするミライ
その大笑いにやはり釣られて私も笑ってしまう
…彼女が居ると彼女の動作に何もかも釣られてしまう
何故だろう…理由はよく分からないけれど…
…まぁ、楽しいからいいか
〇
「私が貴方たちの指揮に来たPMC、…指揮に従」
「腹減ったー、今日の飯何ー」
「サンマ、焼けてない」
「クソが」
…ため息が出る
幸先が宜しくない…これだと実戦もロクでも無いのでは……
少なくともコイツらじゃ本当にアビドスの的にしかならない
たとえ指揮したとて、その差が埋まるものか
「戦闘時の指揮には従えよ」
「えいえーい」
「秘蔵のライターで焼けば上手くなるだろ」
「あ、おい!それ私のだろ!返せ!」
「はぁ?落ちてたやつだがぁ!?」
…こんな馬鹿ども、使えるものかよ
〇
結果を言えば大敗退である
最初からヘルメット団に私の指揮に従う気はなく、それぞれが勝手に動き始める
射撃も下手くそで、立ち回りも…わざわざ飛び出して、体をさらけ出してから打ち出す
それに対してアビドスは凄まじく冷静で弾切れを全く気にせず攻撃してきた
それどころか奴らの動きは最適化されていて…まるで誰かに指揮されているかのようだった
「…アイツか」
それは、1人の大人だった
昔に見た異形でも…カイザー理事のようなオートマタでもない
人型、人……ヘイローのない、男
直ぐにそいつがキヴォトスの人間じゃないことに気付く
ヘイローの無い男の大人なんて、居れば直ぐに注目の的だ
顔がどうであれ、近付く女は絶対に居るだろう
見た目はグレーの服を着た優しそうな男の人
少なくとも…人を殺したことがあるようには見えない
…そこで私は最近【シャーレ】とかいう組織が出来たことを思い出す
その超法的機関には、男性の大人が居る…という事も同時に思い出した
つまるところ、あれが先生と言う奴である
恐らく、アビドスの奴らが苦肉の策として要請したのだろう
それに応えて…あのバカな大人はここに来た訳だ
なんでこんな終わりかけの場所に来たんだ?借金について知らないのか?
…まぁいい、つまるところ面倒事という訳だ
シャーレによる支援があろうとも、借金があることに変わりない
どうせ奴らは借金に溺れて消える、そういうことだ
ひとまず使えないゴミ共は全員撤退した、後は─────
「どこに行くのさ」
「…帰るだけだよ?」
「そう?じゃ、死のうか」
物騒な奴、これだから野蛮人は
現れた野蛮人は盾を構え、ショットガンを構える
あの浅葱色のアホを彷彿とさせる長髪、そしてピンク色
…他の誰でもない、小鳥遊ホシノだ
「私、何もしてないのに殺されるの?」
「過去に"勝手に死ね"とか言ったやつがよくほざくね」
「あの時のお前は見てられなかった、死んだ方がマシだったね」
現在地は建物の上、双眼鏡で奴らを見ていた
いつの間にか…音もなくここまで来ていた、いつも通りだな
M16A1を構える
なんの緊張もない、いつも通りの…言わばじゃれあいのような物
アビドスの街に、ショットガンとアサルトライフルの銃撃音が響き渡った