「報酬の受け渡し、完了しました」
『そうか……ではそのまま奴らを監視しろ』
「了解しました」
仕事が終わればまた別の仕事
理事から命令された仕事は便利屋の監視だった
多分、依頼の失敗成功を早く聞きたいのだろう
そして自分からは電話しない、電話してきたところで有利を取る
……いつも通りの手段だ、変わりない
通話を切った電話を懐に仕舞い、私はアビドス校舎周辺にある建物に行くことした
侵攻するのはアビドス校舎だ……その近くに居れば自然と監視は出来る
「……戦闘じゃ無いだけマシ、か」
こんな姿である為、私は戦闘には行きたくなかった
変に目立つし……何よりホシノに補足されてしまう
面倒な事だ…しかし着替える方が面倒くさい
それに自分の好きな武器を使いたいものだ
慣れない武器なんぞ使う必要は無い
私はそう思いながら、偵察の為に食料を買いに行くのであった
…そうだ、次いでにアビドスにちょっと細工をしておこうか
なぁに簡単な細工だ、もしあの便利屋の社長が不戦にしようとした時の……ちょっとした細工だ
〇
アビドス校舎周辺には住宅街がある
かつてはキヴォトス1の規模を誇る学校であったアビドスは今や砂嵐により酷い状況だ
無論そんな未来が見えない場所に定住する人も少なく、多くの人はいなくなってしまったのである
で、それを表すのがこのガラッガラの住宅街である
これ程に住宅があると言うのに人っ子一人居ないのだ
基本的に皆、ショッピングモール等がある方に住んでいる
ここにあるのは廃れたアビドス校舎のみ、確かに住む理由がない
つまり誰もいないのだから、私が偵察していても誰も文句を言わない
仮に「この人不審者です!」と通報されてもアビドスのヴァルキューレは終わっているので問題無い
こんな僻地に来て態々フンスフンスと仕事をする奴が居てたまるか
なんならそんな奴はヴァルキューレ本部からケツを叩き出されるだろう
防衛室長とカイザーがズプズプである為なのと、アビドスを牛耳ってしまおうとしているカイザーからすれば目障りだ
……狂犬、と呼ばれる人物が"また"生まれなければだが
「さて」
私は双眼鏡で確認する
いつ便利屋が来るかなんて知らないが、どうせ明日以降だ
そう気にする事でもない
偵察で一日中その場に居るのなんてとっくの昔に慣れている
スナイパー訓練はしていないが、普通の偵察任務ならそつなくやれるだろう
今回は簡単な偵察任務だ……そこまで肩を張る必要も無い
ゆったり、ゆったりとやっていこうでは無いか
太陽が沈んでいく
その代わりに現れるのは勿論月である
金色に輝く月…私にとって月と雨は味方だ
月は新月の時に完全な味方になってくれる、暗闇が私の体を隠す
雨はもっといい、いついかなる時でも私の身を隠してくれる
このふたつが組み合わさった時は……私を見つけられない
奴らは私を見つけられなかった、私を逃してしまった
追撃部隊がどうなったか知らない
あいつらは腕利きだった、そんなヤツらをあの大人が手放す筈がないだろう
簡単な罰を与えて不問としたか……もしくは機嫌で…………
まぁ、もう私の気にするところでは無いのだがね
私はそう思いながらコンビニにて買った食料を食べる
手早く済ます為、そして出費を抑えるため不味くて栄養の高い奴にしている
不味いには不味いが、昔のよりは全然マシだ
これだけの味で一日分の栄養を確保できるなら十分である
水は……砂漠地帯だから少し高いが、仕方ない事だ
ジュースでは妥協出来ない代物だし……一応代わりとしてスポーツドリンクは買っているがそれでもだ
ちなみにミレニアム製の水筒に入れている為いつでも冷たく飲める
あそこの化学は凄いのだと、私は思った
そんなこんなをしていれば─────いつの間にか夜が明けていた
〇
夜が明けてしまえば、後は待つだけ
ジリジリと照りつける日光から逃れるために室内に居るがそこまで視界は悪くない
…流石に電気が通ってないから冷房はつかないのだがね
まぁ付いたとしても私は冷房を付ける気は無い
そこから痕跡を辿られたら面倒だ、カイザーに行き着く可能性もある
私はカイザーの兵士なのだ、やっていることは全部違法である
明るみに出れば全て面倒事になるのだ……まぁ全部トカゲのしっぽ切りされるだろうが
しかしそうなると私のやること……生きる事が出来なくなる
会社の加護が無い1人の少女なんぞ誰でも簡単に潰せるだろう
……その時は、古巣に戻ることにもなるかもしれないが────
そう思っていると、便利屋の奴らが現れた
傭兵を引連れている…今から侵攻するようだ
陸八魔アルが何やらもどかしそうな顔をしているが、気にする程でもないだろう
どうせ、昨日たまたま見た奴らを襲うのに難儀しているだけだ
あの後すぐ出たから何があったか知らないが……まぁどうでもいい事だ
『あーっ!昨日お客さんとして来た人じゃない!
ㅤ依頼成功祝いにチャーシュー多めにしたのに!この恩知らず!』
『ぐっ……そ、そんなつもりじゃ…』
……どうやら揉めている様子だ
双眼鏡に付けられた集音装置から得られた会話で察するに…まぁ、そういうことだろう
あの社長、アウトローに憧れていると言うが中身がソレ足り得ない
言うてしまえば育ちの良いお嬢様お坊ちゃまが憧れる悪……になろうと思っているのだろう
冷静冷酷……その他諸々のアウトロー的な要素
バッサリ切り捨てるがあいつはかっこいい所しか見ていない
デメリットを何を見ていないのだろう…まぁ、仕方ないか
誰もが私みたいに考えが死んでないんだ、こんなに死んでる方がおかしいのだろう……
『や、やっぱりやめようかしら……』
『社長……』
心に残った良心が痛むだろう?
……いや、ゲヘナの連中なのになんで良心があるんだ?
ゲヘナの連中はかなり野蛮だと聞くが、彼女はただの特異点か?
…まぁ良いや、それよりもさっさと始めてもらおう
私は用意していたスイッチをカチリと押した
目には爆発が見えており、そして少し遅れて爆発音
ここまで爆風が来る物では無い……グレネードが爆発した程度の、小さな爆発だ
しかし、あの一触即発の場…爆発が起きたらどうなる?
この際便利屋の連中はどうでもいい
しかし……雇った傭兵達は?
彼らはただのキヴォトス人……そして、こんな場所にいる傭兵共
フラストレーションは確実に溜まっているだろう…そんな所にいきなり爆発が起きたら?
『てっ、てめぇ良くも不意打ちしやがったな!?』
『野郎ぶっ殺してやらぁ!!!』
『えっ何今の私たちじゃないわよ!?』
『ん、来るならぶっ殺す』
『うへー、なんか仕込まれたね』
勿論傭兵はアビドスのせいにして攻撃を始める、と
爆発をスタートとして傭兵達の攻撃が始まる
不意打ちの不意打ち的ではあるが、まぁ気にすることでは無いだろう
『社長、やるしかないよ』
『うっ、うぅ〜…………仕方ないわね、行くわよ!』
『くっふふー、みんなどかーんってしてやるー』
『全員……アル様の敵……!』
「がんばえー」
私は適当に応援した、この勝ち負けに私の損がある訳じゃない