銀河天使な僕と君たち   作:HIGU.V

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空白期おまけ +各人の現状

 

・タクト・マイヤーズ 稀代の謀略

 

 

「では、これより、第13回定例会議を始める。欠席者はⅠとⅣとⅤ。4人しかいないけれど各自屈託のない意見を聞かせてほしい」

 

 

薄暗いブリーフィングルーム。その卓を囲んでいるのは一人だったが、通信ウィンドウが空白の席の上に3つほど浮かんでいた。暗い室内に光るその明かりがその場の重々しさを一層際立てており、新兵であったら立っている事もできないような重圧すらこの場にはあった。

ルクシオールは現在マジークに停泊中だ。エルシオールも同じくマジークに停泊している。NEUEの銀河全ての戦力を結集してもこの2隻を相手取るのは至難の業とされているような超戦力が集結している。そんな状況だ。

 

 

「あの0さん、やめませんか? 数字で名前を呼ぶの」

 

「あら? 私は秘密結社のようでなかなか気の利いた演出と思っていたのですが、Ⅵさん? 」

 

「でもⅢ、わかりにくいじゃない。紋章機の番号だなんて、結局機体名で呼ぶ方がわかりやすいし」

 

 

しかしながら、会議が始まると先ほどの雰囲気は一変、ワイワイと、それぞれのウィンドウから楽し気な声が聞こえてくる。お察しの通り、このマジークに寄港中の3人が返答しているのだ。ルクシオールに直接来るような用事ではないが、彼らがここ数年続けている集まりであるゆえに。

Absoluteへ迎える唯一の手段クロノゲートがヴァル・ランダル近郊からEDEN本星ジュノー近郊に移されて交通の便が良くなったとはいえ、そうそう集まることができるわけでは無いのだ。この機会を逃すことはできない。

 

 

「本題に戻そう、各自コードネームは自由にしていいから」

 

「了解よ、0。それじゃあアタシから。全く新しい報告はなし。この前アタシ宛のメッセージがミルフィー経由で来たけど、お礼の内容だけだったわ」

 

「確か、ミルフィーさんの……ん、Ⅰさんの妹さんの任官のお祝いに女の子が喜ぶものを教えてほしいと、この前Ⅱさんに来たのでしたわね? それに関してですか? 」

 

「会う暇ないから郵送した。喜んでもらえたと返事が来た。それだけ書いてあったわ。月一の文通はしているけど、直接会ったのは0とⅠの結婚式だけというのはちょっと弱かったわね」

 

 

彼等が話していること、それはラクレット・ヴァルターの異性関係に関する話であった。

 

事の次第はかなり前に遡る。タクトはラクレットが当時戦争中であったヴァル・ファスクであるという事を知り、名目としてラクレットを知ろうといった企画をいくつか考え実行していた時期だ。その頃に軽く調べたというよりは冷静になって考えたのだが、ラクレットには今まで仲の良い異性の影がないのであるという、タクトからすれば驚愕の事実であった。

 

エンジェル隊とは先輩後輩のような関係であり、ココやアルモも似たような関係。整備クルーやほかのエルシオールスタッフも年上の為友人ですらないのだ。かといって学校の友人がいるのかと軽く調べると、一人特殊とはいえ美少女が友人であったが、どうやら思い人がいる様子。タクトが一瞬考えた『ラクレットに所帯を持たせて人間側に取り込みましたというポーズを作る作戦』は成立しそうもなかったのだ。

 

その後は忙しくて特に何もせずにいたが、EDENが解放されラクレットとレスターが忙しく星系中に講演活動に回っている時、ランファとミントから提案があったのだ。「ラクレットってこのまま彼女ができないかもしれない」というものである。

タクトは何かがあったことを察したが、詳しく聞くことをしなかった。ただ彼も思うところがあった。生まれてから14までを勉学と訓練に励み、文武両道を体現し戦争で活躍、その後も精神的鍛練を加えて自己研鑽を欠かしていない。

年ごろの少年が好む異性と交流や非生産的な娯楽にも興味を見せず、闇雲に仕事に精を出している。異性としてみた場合、正直自分より評価が高いであろう、そんな人物だ。いやだからこそ、本気で彼の事を好きになる女性が現れたとして『女性側から自分では釣り合わない』と身を引いてしまう可能性すらあろう。

 

冗談のような可能性だが、エンジェル隊からも、タクトからも『可愛い弟分』にふさわしい相手ができるようにちょっと世話を焼きつつ出歯亀をしようとしてこの集まりは結成されたのだ。ここ数年の最有力候補であったアプリコット・桜葉、通称リコはこれ以上の関係の発展が認められないという結果になってしまったが。まあ、彼らも暇ではないので、解散以降集まるのは初めてである、文章で面白そうなことがあったら報告を回す程度の事はやっていたが。

 

 

「んーとなると、やっぱり新エンジェル隊に期待するしかないかなー。ココなんかも怪しいと思ったけど、結局ご飯食べて帰ってきただけだったみたいだし」

 

「旧知の女性以外では、『戦友』と呼べる以上に信頼関係を気付かないことには始まらないでしょう」

 

「ですわね。私の商会に、自分の娘をラクレットさんに~という頼みをする取引先は沢山おりますし」

 

「まあ、アイツも最近は異性に興味を持ち始めたようだし、楽しくはなりそうね。それに」

 

 

ここでⅡのウィンドウから笑いが堪え切れないのか、噴き出した声が聞こえる。声が震えてコメディーショーを見ている客のように息も絶え絶えになっていく。

 

 

「織旗楽人……何者なのでしょう……」

 

「いやー、本当誰なんだろうねー」

 

「こんな重要なポジションを、ぽっと出の新人に任せるなんて……」

 

「ちょっと、皆! や、やめて」

 

 

織旗楽人の存在を知った時に一番反応が大きかったのはランファである。彼女は何が面白かったのか、外見のデータを見て爆笑してしまったのだ。渡された外見のデータはカマンベールがとある英雄の『女性だった場合』の外見ととある女性の『男性だった場合』の外見データにできるであろう子供を25歳まで成長させたものである。それが妙にツボにはまってしまったのだ。

 

 

兎も角元エンジェル隊は、『ラクレットに彼女を作ろう計画』をタクトの指揮でてきとーに実施していた。

 

 

 

 

 

 

ラクレット・ヴァルターの一日 簡易版

 

 

彼の一日は5割の確率で自室以外から始まる。シミュレーターの座席か、実機の座席の上で目を覚ますという事があるのだ。改修が終わった愛機に一秒でも早くなれるために、多くの時間を操縦に費やしているのだ。 現在いる新型の高速艦にももちろん自室はあるが、ノア作のパッチを当てたシミュレーターに数年ぶりの実機が愛おしすぎるのだ。戦艦のクルーからは微妙な扱いを受けているのは、仕方ないのかもしれない。

 

この日目が覚めたのは自室であった。つけられた副官の2等兵の少年に口うるさく自室に戻るように言われたことを思い出しながら彼は動きやすい格好に着替えることにした。

 

現在の海賊討伐の日々は、ラクレットにとって実戦から離れたブランクで鈍った精神を研ぎなおすにはちょうど良い刺激であるのだ。だからこそ、彼は人生で最も自分の体を意識して動かしている。

特に考えずに自己流で訓練していた戦前、挫折の後プロの指導を受けて訓練していた戦中、他人を指導しながら客観的に分析していた戦後。そのどれとも違う、自分で自分を昇華させていくスタイルだ。積み上げるのよりも磨き上げるのをメインとしたところか。

18歳の体は既に戦士として円熟期を迎えている。この後50年ほどほぼ老けることもないのだ。まるでサイヤ人である。だからこそ、これ以上変化は起こりづらい体を100%自分の操作の下に置く訓練を心掛けている。

 

まあ、簡単に言うと今までのおさらいをしつつ違和感を探しているだけであるが。艦での階級は艦長、副艦長に次いで3番目に高い彼は周りに気を使っているつもりでも、周囲に本人が気にしていない圧力をかけてしまうこともある。加えてネームバリューも実績もあるのだ。日課のランニングをトレーニングマシンで行っていると、日に日にクルー達の早朝の訓練に参加する割合は上がっていった。良い事なのであるが、集団の中には正直つらいと思っている人がいることも事実であった。

 

しかし、ラクレット的にはもはや朝起きて顔を洗うのと同じ感覚で行っているのだ。30km/hの20分ランニングから始まる2時間弱のメニューは。

 

 

 

朝のトレーニングが終わり朝食やシャワーを済ませると、事務仕事をすることが多い。討伐した海賊の規模や被害総額、彼らの拠点にあった物資。被害届が出ている船の積み荷との符号を確認。ただ戦場で蹴散らすだけならば、誰でもできる。大事なのはこれ以上起こさないことと、解決の着地点を探ることだ。

海賊と一口に言っても規模はまちまちで、オーソドックスな艦一隻を拠点に略奪するもの、船団を組んで商船や備蓄拠点衛星を強奪するものなど様々だ。海賊団のトップは大抵殺す必要があるが、末端に関しては攫われて強制されていた、生まれた船や星が海賊の物であったなど、情状酌量の余地があるという場合もあるのだ。そういった者達を再教育用の施設に入れて、軍人や民間企業への就職できるように取り計らうなど、やろうと思えばどこまでもできるのである。

 

ラクレットとしても、書類をいじっている間は頭を使うので、嫌いではない。彼は自分の力を生かせる労働環境が何よりも大事だと考える人なのだ。エルシオールでも女性スタッフと親しく話すよりも、レスターの後ろをひょこひょことついていき、手伝える仕事を探す方が性に合っている位なのだから。

また、ヴァル・ファスクとしての力の訓練も兼ねているのだ。かなり限定的で劣化もしてしまっているために、自身の為に調整されたものでない限り、直接手に触れても完全に支配下におけないといったレベルの能力であるが、十分書類仕事には有用なのだ。

 

客観的に見てもらいたい。ラクレットは軍人であり、兵科は戦闘機のパイロット。実力は銀河最強(要出典)。自分の担当以外の仕事も積極的に手伝い、事務能力も標準以上にはある。人柄は温厚で礼儀正しく、部下からの信頼は厚い。上司からも高すぎる能力に目をつぶれば非常に優秀な部下である。私生活にも酒癖やギャンブル癖などもなく、いたってクリーン。そんな人物なのだ。

功績は枚挙に厭わない程あり、平時の任務でも確実に結果を残している。自分を磨くことに余念がなく、格闘術から重火器の取り扱い、要人護衛技能から尋問の方法まで軍人なら持っておいて損はないであろうものをかたっぱしから習得しているのだ。

 

そんな彼の階級が中尉から一切の昇格がないというのを疑問に思う事があるかもしれない。しかしこれは彼が昇進を蹴り続けているからというシンプルな答えが存在する。

彼は自分に指揮官としての才能というよりは適性がないことに自覚があった。軍の上部の中の一部では、ヴァル・ファスク能力所持者の中で信頼が置ける人物という面が評価されたのか、戦艦の艦長か操舵主にならないかという誘いも来たのだが、ラクレットは非常に心惹かれつつ断った。

現状、一般的な戦場の主役は戦艦だが、超常的な戦場では紋章機こそが主役なのだ。自分の軍人、戦士としての直感がまだその時ではないと囁いた為に、戦闘機乗りとして中尉階級でいることにしたのである。それでも限界があるのか、近いうちに大尉になる予定もあるが。

彼を高い地位にしすぎても、彼に陶酔する人物は多く派閥を形成してしまう可能性があるのだ。人間関係というのはかくも面倒なものである。

 

 

そんな事情を頭の隅に置きながら書類仕事を終えると、軽い昼食をとり、体を使った特訓に移る。格闘術の型の復習から、武装した人間を無力化する方法など、護衛任務の際に役に立ちそうなことを重点的にである。

一応過去のそれなりに学んだが、本格的に講習プログラムシミュレーションを用いての特訓を行っているのだ。特に他意はないのだが。

 

おおよそ、海賊の拠点に付くのもこのくらいに時間に設定されて動いているので、軽く切り上げた後、遭遇すれば出撃し海賊を駆逐。そうでないのならば、戦闘機のシミュレーター訓練を始めるのである。

4本腕という、人体とは違う構造になってしまった紋章機だが、そもそも体のように動かしていた前がおかしいのであり、機体を操るだけであれば、すぐにそれなりのレベルに習熟した。しかし、冷静にラクレットが考え直した結果、4本にした時は足を動かす感覚にすればどうかという発想により、動かしてみたところ、人間の動きにとらわれてしまうといった問題が発生した。現在はそれを直すために、試行錯誤中である。

 

そうして、夕食をとった後、体力が残っているか、明日の予定は などを加味して次の訓練のメニューを決める。これがラクレットの現在の一日である。

 

女気など微塵もない、この道5年の男の姿がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

エンジェル隊以外の現在の各キャラの状況

 

ラクレット 18歳

海賊討伐でまた伝説を作った後、故郷クリオム星系近辺に駐留して警邏部隊の名誉隊長をするような命令を受けた。一日中オフィスの奥の厳重に鍵がかかった部屋に閉じこもり食事やトイレの形跡すら見せずに物音を立てずにいるらしい。

彼には今後起こることに対する知識はほぼない。カズヤという少年が、紋章機でヒロインの機体と合体してイチャイチャする位にしか。当然Ⅱエンジェルの顔も絵くらいしか見たことがなく、名前も知らない。

 

カマンベール 25歳

ジュノー近郊にある極秘研究施設でノアといろいろ作っている。最近の悩みは子供を作る時間が果たしてくるのであろうかという事と、身長を伸ばす研究をしたら負けなのであろうかという事。

 

エメンタール 27歳

NEUEにて就学を積み、その経験を活かしてブラマンシュ商会デパートシップの建造などにアドバイザーとして参加。その後は商会のオリジナルエンターテインメントが十分育ってきたことを確認し、完全にNEUEに拠点を移す。現在はマジークで魔法関連の資格を取得しそれを生かしてまたいろいろ作らせている。現在EDEN(トランスバール皇国)所属の唯一の魔法使いの為いろいろ重宝されている。

今後起こること全てを知っているからこそ、ラクレットのサポートに回ることにしている。ラクレットが自覚しないままに、物語が壊れないように。

 

ルシャーティ&ヴァイン ???

最近肩書ではなく、本当に結ばれたらしい。NEUEの調査のサポートとして先文明時代の資料を探す日々。ノアが1回しかカズヤの座学訓練の時間を取れなかったために、ヴァインが行くことになった。その際、マスターコア内部のミルフィーに改めて謝罪をし、あっけからんと許された結果、吹っ切れたものがあったらしい。ルシャーティとしては、他の女が大きな要因という事に若干思うところがあったようだが、おおむね夫婦仲は良好のようだ。

 

 

タクト 26歳

史実通りルクシオール艦長の准将

レスター 26歳

同じくエルシオール艦長

ココ&アルモ 23歳

それぞれタクト、レスターについていく。というか、どちらかがルクシオールに移動、どちらかがエルシオール残ることを決められて、そのまま流れで。

 

ノア 15歳

カマンベールとほぼ同じだが、若干プライベートも大事にするように。そのほうが研究効率が上がることを認めたようだ。暇つぶしに元から興味のあった民俗学や考古学の学術書を閲覧しているあたり、割とあれであるが。

 

カトフェル、エロスン等

カトフェルは軍学校に収まり、日がな一日エリートをしごきながら、ウォルコットとチェスをうつ。エロスンは実は、皇国の若手で最も出世した士官(大佐→中将)軍のトップであり、宰相でもあるルフトの右腕として忙しく働いている。

 

 

織旗楽人

謎の人物、経歴不詳だが年齢は20代半ばほどの何処にでもいそうな筋肉質な男性。いったい何者なんだ。

EDENの偉い人たちが書いたとされるプロフィール覧にはこれでもかというくらい胡散臭い事実が載っており、何か秘密を隠すため、また秘密を探ろうとする者へのデゴイ兼牽制ではないかと噂されている(例・特技、壁を走り抜けること、ヘイトを稼ぐこと)いったい何者なんだ。

その為、エンジェル隊や事情通などは、彼の事を口にするたび、『織旗楽人、一体何者なんだ……』と口をほころばせながら言うのが流行り。

 

 

 

 


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