一応連載小説のつもりですが、続きとかあんま考えてないのでそんな長く続かないかも。
――悟空が死んだ。
それは余りにも突然のことだった。
冷たくなった悟空の手を握り、泣き崩れるチチの姿を見て、悟飯はただ呆然とするしかない。
目の前の事実を脳が理解することを拒み、悟飯はまるで深海の暗闇に落ちていくような気分だった。
「おとう、さん……」
溢れ出る感情が涙となって悟飯の頬を伝い、零れ落ちた。
孫悟飯にとって孫悟空は無敵の存在で憧れだった。
とても強くて、優しくて、数多の脅威を退けて。
ベジータやフリーザ、自身も闘い、間近で見たからこそわかる強敵たちを、悟空は見事に打ち砕いてきた。
悟飯は偉大な父の背中をずっと追いかけてきた。
悟空さえいれば、何もかもがどうにかなるという安心感があった。
思い返せば、学者になるという夢も、悟空がきっかけだった。
もっとうんと小さい頃、悟空は悟飯を抱きかかえ、筋斗雲に乗り、パオズ山に住む多くの動植物について語り聞かせたことがあった。
当時、理解できたのはほんの一部。それでも、パオズ山の生物の神秘に悟飯は目を輝かせ、聞き入った。
その時の悟空の表情が、悟飯の目に今も焼き付いている。
ずっと悟空が自分の秘められた力に期待していることは悟飯も気づいていた。でも、悟空は一度も学者の夢を否定することはなかった。
修行をさせようとする時もあれば、勉強を見てくれる時もあった。
悟飯はそんな優しく最強で、少し抜けている所もあるお父さんが大好きだった。
啜り泣くお母さんと、少しも動かないお父さんを抱き締め、ボクはただ声を上げて泣いた。
◇◆◇◆
悟空は一週間ほど前から胸の痛みを訴えていた。最初のうちはカリン塔に行き仙豆をもらっていたが、それでも全く治る気配がないため、ブルマの助けを借り、西の都の病院に向かった。
診断結果はウイルス性の心臓病。
治療法はなく、症状は末期で延命も難しいらしい。
すぐに仲間たちは数々の知り合いを尋ね、治療法を探した。しかし、豊富な知識を持つ神様にもその治療法はわからず、占いババも孫悟空の助けとなるものが水晶に写らないとのことだった。
最後の頼みの綱であるドラゴンボールに希望をかけ、探しに行こうというタイミングで、まるで運命が導くように悟空は息を引き取った。チチと悟飯に看取られ、悟空は死んだ。
自然死した者はいくらドラゴンボールでも生き返ることはできない。それは、幾度となく地球を救ってきた悟空も例外ではない。
その訃報が届き、ブルマやクリリン、ピッコロといった数多の仲間たちがパオズ山の悟空の家に集まった。
全ての者が悟空の死を悲しんでいた。あのベジータですら信じられないという表情を浮かべ、勝ち逃げして死んだ悟空になんとも言えない様子だった。
彼らはただ、悲しみに暮れた。生まれたばかりのトランクスだけが無邪気に笑っていた。
フリーザ親子が地球にやってきてから二年が経った頃の出来事だった。
数日後、悟飯は筋斗雲に乗り、ただパオズ山を見下ろしていた。
チチは悟飯に一人になる時間をくれた。また、逆にチチにも一人になる時間が必要だろう。
家には、祖父の牛魔王もいるので、万が一の心配もない。
「…………」
泣き疲れたのだろうか。パオズ山の美しい景色が心をほんの少し軽くしてくれたように感じる。
「……お父さんなら、どうするかな」
悟空なら、こんな時に何をするだろうか。
父の姿に思いを馳せる。
悟空の育ての親であり、自分の名前の大元でもある孫悟飯が亡くなった時、悟空はどう立ち直ったのだろうか。
思いっきり泣いただろうか、怒っただろうか。
一通り感情を吐き出した後は、やはり修行をするのだろうか。
悟飯はどう考えても、最終的に悟空が修行をしている姿しか思い浮かばず、変なおかしさが込み上げてきた。
「……よし、筋斗雲。家に帰ろう」
筋斗雲は悟飯の言葉に反応し、家へ向かって飛んでいく。
「お疲れ様でした、お父さん。後は、ボクに任せてください」
自分が父、悟空の代わりになるとは今も思っていない。
しかし、この決意はきっと無駄にはならないだろう。
この時の悟飯はそう思っていた。
◇◆◇◆◇◆
「あ、ああ、……!」
目の前に広がる地獄のような光景に心が折れそうになる。
たった二人の人造人間によって、呆気なく人の命が踏み躙られた。
この一年、修行を欠かしたことは一度もなかった。
悟空の抜けた穴を埋めるように、悟飯は一心不乱に修行した。
チチは心配してくれていたが、悟飯の気持ちを推し量って何も言わなかった。
悟飯は申し訳なさを感じながらも、母の優しさが有り難かった。
ピッコロに頭を下げ、徹底的に鍛えてもらった。
悟飯の本気が伝わったのだろう。
ピッコロはあんなに嫌っていた神の力も借りて、悟飯を強く鍛えてくれた。
悟空ほどではなくとも、それに近い強さを身につけたつもりだった。
なのに、目の前の脅威に全く歯が立たない。
仲間たちは殺され、物言わぬ屍となった。あのベジータでさえ、簡単に殺されてしまった。
もう残っているのはピッコロと天津飯、そして悟飯だけだ。
『悟飯、今すぐドラゴンボールを集めるんだ! 俺達でなんとか時間を稼ぐ!』
『ピッコロさん! で、でもボクだけここから離れる訳には!』
『早くしろ! 間に合わなくなるぞ!』
『……はい!』
テレパシーでピッコロに言われてすぐ、悟飯は戦場を離れ、ブルマからドラゴンレーダーをもらいに行った。
「逃がしはしないよ!」
「俺達からそう簡単に逃げられるわけないだろう」
「今だ、天津飯!」
「っ!! 太陽拳!!」
ピッコロの合図に天津飯が応え、悟飯に攻撃を仕掛けようとした人造人間達に完璧なタイミングで目眩ましに成功する。
「やるぞ、天津飯。ここからは命を賭した時間稼ぎだ」
「ああ、わかっている。修行の成果を見せてやるさ」
その隙にピッコロは右手の指先に気を集め、天津飯は両手で胸の前に三角形を作り、そこに気を集める。
人造人間の目が正常になるギリギリまで粘って、最大限の威力の必殺技を叩き込んだ。
「魔貫光殺砲!!!」
「新・気功砲!!!」
戦場となった南の都に大きな爆発が起こった。
「はぁ、はぁ、……は、早くしないと、ピッコロさんが殺されてしまう……!」
一方、悟飯は全速力でドラゴンボールが
どういうわけか、ブルマにもらったドラゴンレーダーには一箇所に集まったドラゴンボールが表示されていた。
ドラゴンボールを集める手間が減ったと思う反面、嫌な予感が悟飯に過る。
それを肯定するように、空が暗くなった。
「空が暗く……まさか……!」
悟飯は命を削るような思いで残った気を絞り出し、遠くに見える神龍に向かってスピードを更に上げて飛んでいく。
「お前たち、何を!!」
「……願いは叶えてやった。ではさら――」
悟飯が着いてすぐ、ドラゴンボールは石になった。
目を見開いて、悟飯はその光景を見ていた。
若返ったピラフ一味に目もくれず、発光していたドラゴンボールが光をなくし、冷たいただの石になるまで、悟飯はただ見ていることしかできなかった。
「ピッコロさん……ピッコロさん……!」
嘘だと否定したかった。それでも、目は非情な現実を映すだけだ。
「ピッコロさん――――うああああ゛ぁぁぁぁああ!!」
ピッコロが死んだ。ドラゴンボールも使えない。
仲間たちはもう永遠に生き返ることはない。
――プツンと、頭の中で何かが切れるような音がした。
「ああぁ、ああああ゛あぁぁぁぁ――――!!!!」
髪の毛が黄金に光り、碧色の目からは涙が伝う。
「人造人間……! お前たちはもう、許さないぞ……!!」
声に怒りを滲ませ、ブルマの飛行船とすれ違いながら、そのまま悟飯は元の戦場へと戻った。
しかし、その頃にはもう人造人間たちはどこかへ消えてしまっていた。
悟飯は倒れた仲間たちに駆け寄って、力が抜けたように地面に崩れ落ち、ただ泣いた。
悟飯は今回も、何もできなかった。