怒りを溜め込むタイプ   作:シニゴ

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コユキの場合(前編)

 昼休み

 

 こんにちわーコユキさん。え?ああ、そんなに慌てなくてもいいですよ。ユウカさん達には伝えてませんから。貴方が二週間と経たないうちに、また横領に手を染めたことを。

 

 だからそんなに身構えないで…………あ、そうだ!一緒に焼きそばパンでもどうです?丁度校内の売店で新発売されてたんですよ。

 

 私、結構新商品とかに目がなくてですね、思わず買いすぎちゃったんです。だから処分してくれる人が居て、ついでに感想とかも聞けたら嬉しいな〜って思ってたんですよ。

 

 ええ?嫌だなあ、信用できないだなんて。確かに先日は貴方に強く言い過ぎました。ユウカさんにはそのことについて謝ってくるよう言われましたし、私自身完全に冷静さを失っていたなって思ってます。だから今こうして会話のきっかけを作ろうとしているんじゃないですか。

 

『ぐううぅぅぅ』

 

 それに、お腹の虫も鳴っている。お互い腹ペコなんですし、食べましょう?

 

 

 

 

 

 

 

 いや〜美味しかったですね、焼きそばパン。最近はセミナーの方も忙しくて、この時間帯は栄養食で済ませる事が多かったんですよ。

 そしたらですね、ユウカさんにまた注意されましてね?

『あなた、またこればっかり食べてるの?残りの書類は私が引き受けるから、偶にはちゃんとした食事を摂りなさい』

 

 って。

 …………本当にすごい人ですよ、早瀬ユウカさんは。

 数字に強くて、面倒見が良くて、責任感がある。セミナーの会計士という立場に甘んじて不正を行う事もなく、かと言って自分の事しか考えていないわけではない。

 2徹3徹仕事に振り回される事があっても、周囲の人間を気にかける事を忘れない。相談だって茶化さず真面目に答えてくれるし、きちんと相手の事情を考慮し、最大限配慮した上で結論を述べてくれる。加えて、学業だって優秀だし……本当、いつ自分の時間を取っているんだとは思いません?

 

 私自身何度もお世話になりました。

 セミナーの補佐役員に抜擢されたての頃は特に。右も左も分からない自分を第一に指導してくれたのはユウカさんでしたし、当時の私は……まぁ、慌てん坊でしたからね。ユウカさん自身手を焼いていたと思います。

 新人の教育なんていうものはいつの時代どこの組織に於いても避けられるタスクですし、人手が増えるって言っても、人手として働けるまでの間は、満足に働けていないって事ですから。それでミスを何度か犯しましたし、ユウカさんの手を煩わせたことも結構あります。

 

 それでもあの人、私のこと見捨てないでいてくれたんですよ。

 それである日、訊いたんです。そしたら……

 

『どうしてって……真面目だから、かしら。ちゃんと指摘したミスはメモを取ってるし、休日でも連絡はすぐに確認してくれる。何より分からないことは潔く分からんって言ってくれる所とか…………あんまり気付いてはないと思うけど、私だって本当は不安だったのよ?この子にきちんと指導してあげれているのか、セミナーの先輩として振る舞えているか……とか。確かにミスも多いけど、誰だって初めはそれが普通よ、心配することじゃないの。だから大丈夫。貴方はちゃんと貴方のペースで成長してるわ。あとはそれをなるべく長く続けるだけ……ってもうこんな時間?!』

 

 ……本当、涙が出そうになりました。嗚呼、この人はちゃんと私のことを見てくれているんだってね。

 だからこそ、私もしっかりとユウカさんを見てきました。

 

 どんなタイプの書類が苦手か、どんな銃を愛用していて、ミレニアム学内の各部活生とどう関わり、どう予算を交渉しているのか。観察すればする程、人情家で心優しい人だとつくづく感じました。他が少ない少ないって騒ぐ予算を決定することがあってもそれは最大限譲歩された金額なんですから、ゲーム部もエンジニア部も少しはユウカさんに感謝すべきだと思います。って事をユウカさんに言ったら、今度は

 

『もう慣れたわよ。それに、嫌われてしまうのも仕事の内のようなものよ?』

 

 って、すっかり慣れきってしまっているんですから、本当報われて欲しいなって感じです。

 

 でも、そんな日が来たのは意外と早くってですね。ほら、いつぞや大騒ぎになったじゃ無いですか?連邦生徒会長が失踪して、その穴埋めにシャーレの「先生」が来た事で、皆んなが皆んな大忙しだった。

 

 仕事の小休憩がてらに、ユウカさんに訊いたんです。

 

 シャーレの先生はどんなでした?って。するとあの人、先生のことを浪費家でライフワークバランスが壊滅的だって評価したんですよ。当時はまだ、シャーレ設立されたてで、ユウカさんも通うようになって僅かな期間しか経って無かったものですから、冗談だろうと思い笑ってしまいました。

 しかし後々考えてみると、ユウカさんに限ってそんな極端な事言う訳がありませんし、逆に言えば、ほんの数回の接触でそう言う性格なのだと分かってしまうぐらい先生は個性的な方なのかな〜って思ったりしたんです。

 

 そしてある日ユウカさんに突然の用事ができ、シャーレの当番を欠席せざるを得なかったことがあったので、代わりに私が出向いた事があるんです。

 

 それがきっかけで何度かユウカさんの代理にシャーレに通うようになって、自然と先生の人柄を理解するようになりました。

 でもそれがユウカさんは何処か嫌そうで。ある日ユウカさんが多忙だと思い、シャーレの当番を肩代わりしましょうかって提案すると、面白いぐらい大きなリアクションをとって断ってきたんです。

 

 それで分かったんです。

 ユウカさんは先生のことが好きなんだなぁって。

 

 え?『それと私に何の関係が』ですか?…………アハハハ!まあ、そうですよね。コユキさんはそういう人ですよね。人の話を最後まで聞かない。人の注意を真剣に聞かない。ルールがあっても、マナーがあってもそれを持ち前の頭脳と勘で滅茶苦茶にしていくはニハハと笑って誤魔化すのが貴方ですしね、コユキさん…………ねえ、覚えてますか?二週間前、貴方がセミナーの決定予算を改竄して横領した金額がいくらだったか。そしてそのお金が、何処の、誰のために確保されていたものだったのか。そしてその損失によって発生した混乱を収めるために会計士のユウカさんと私が、どれだけ彼方此方に手を回し、頭を下げて回ったのか。嗚呼、別に怒っているわけではありませんよ。ええ、そもそも貴方にはとっくのとうに期待なんてしていません。原因が判明した当時、だって私は嗚呼またコユキだなって思ってましたし、今回ばかりは貴方じゃないだろうだなんて、欠片を期待してませんでしたから。2年生になりたての頃の私の口座から、全預金の三分の二を掻っ攫った挙句『何がいけないのか分からない』だなんて巫山戯た事を、堂々と面と向かって私に発言したあの日から貴方に、期待なんてしていません。

 怒りに震える私に、ユウカさんが何て言ったか知っていますか?『確かに問題ばかり起こすし懲りることもない。けれども根は悪い娘じゃないし……あの子もあの子なりに悩みを抱えている筈よ。今回はそれがちょっと悪い方向に……ちょっとじゃないわね、うん。あの子には私とノアがキツく叱っておくわ。でもコユキも一人の後輩だって事を忘れないであげて。貴方も落ち着いて接していけば、あの子も可愛さや優しさが分かる筈よ』って、貴方を擁護したんですよ。本当に、優しいですよねユウカさんは。

 ……寧ろ優しすぎると思えるぐらいに。

 話を戻しますね?実は二週間前、貴方の横領が発覚した時、ユウカさんは非番だったんですよ。それじゃあ何処に何をしに行ってたのかって言うと、私用でシャーレに行ってたんです。数日前から何処か落ち着きがないなぁって感じでしたし、前日なんて朝からソワソワしてましたし、帰宅前に二組の可愛らしいドレスの写真を見せてきて、『ど、どっちがいいかしら?』って訊いてくるもんだから、直ぐに理解できました。ユウカさん、明日先生とお出かけでもするんだろうなあって。

 先生に好意を寄せる生徒は他校にも大勢居ますし、ユウカさんだってセミナーの立場故に、貴方なんかと比べてずっ〜と忙しい身ですから、自然と応援してたんですよね、私。だからこう言いました。『先生ならどっちも似合うって言う筈ですよ。なんなら、モモトークで聞けばいいじゃないですか。“先生、どっちが似合います?”って』そしたらユウカさん、

『そっそそんなあからさまな事できるわけないじゃない?!』って言って、赤面して……本当に可愛いかった。だからこそ、腹立たしかった。そんな彼女が待ちに待った日を全て台無しにした貴方が。

 知ってますか?ユウカさんはあの日、先生と逢瀬する為に着たドレスを着替える間もなくミレニアムに駆けつけて、会計室で事態に対応していたんですよ?デートが台無しになった事の文句も言わず、私に八つ当たりする事もなく、ただひたすらに事態の収集に努めていました。漸く終わりが見えたのはそれから6時間後で、リオ会長が手を回してくれたからです。

 ……そこから先は言わずとも覚えていますよね?

 ええ、そうです。激昂した私が貴方の顔面を鷲掴み、ノアさん達が止めに入るまで何度も何度も貴方の頭を机の角に打ちつけた。私自身驚いています。なにせC&Cの方々の手を借りて、漸くコユキさんから私を引き剥がせたって言うんですから。

 ……あ、今更ですけどお怪我は大丈夫でしたか?……

 …………え〜っと、なんで泣いてるんですか?いや『ごめんなさい』って、いやいや(笑)私に言われても困りますよ。

 だって人が他者に怒りを抱くのは、その人に何かしらの期待を抱いてるからで、それが実現されないから人は落胆し、裏切られた様な気分になって怒りという感情を生み出すんですよ?貴方にこれっぽっちも期待すらしていない私がどうして怒らなきゃいけないんです?

 まあ、謝りたくなるのも無理無いですよねー。だって、貴方、自己肯定感低いですもん。まっ、それも無理無いことですよねー。だって他人に褒められたり、認められたりして初めて、自己肯定感ってのは育つものですからねー。貴方のことを今や誰も肯定してくれはしないだろうし、期待してくれる人間なんていないでしょう。

 だって、貴方はいつまで経っても、どれだけやらかしても、その場しのぎでニハハと笑って誤魔化し自己保身に懸命になって開き直ることが得意なだけの犯罪者なんですから。『生徒』という立場故に先生に、『後輩』という立場故に先輩達の優しさに甘えるだけの寄生虫なんですから。

 だからね、コユキさん。私は貴方のことを以降コユキとは認識しません。『寄生虫』として扱います。だからねコユキさん、もう2度と、私たちの仕事を増やす様な真似はしないでくださいね♪

 

次何かしでかしたら、

 

 ガチャッ

 

その可愛らしいお口に銃口突っ込んで、駆除しますから

 

 …………………………………………さぁ〜てと、もうそろそろ昼休みも終わりますね!授業に遅れるのもあれですし、私はこれでおさらばさせてもらいます。それではコユキさん、さようなら〜

 

 

 

 

 放課後

 

 あ、ノアさん。こんな時間に珍しいですね。どうしたんですか?ああ、追加の書類ですか。そこらへんに置いといて下さい。御手を煩わせてすみません。

 えっ?……『コユキちゃんと昼休みに何を話していたんですか』……お互いの関係を修復していただけですよ。最終的にお互い悪かったって、所に落ち着きました。コユキさんも意外と繊細で、途中で泣き出されちゃって困りましたけど大丈夫です。気にする程じゃありませんよ。

 




因みに、コユキによって簒奪された主人公の預金は全額もとに戻っています。事件後、コユキは校内の無償奉仕3ヶ月の刑に処されました。

主人公…もといカナエの愛銃ってどれがしっくりきますかね?自分としてはどれも似合うような感じなんですけども

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