「酷くやられたな、ウクロ」
薄暗く広々とした一室で、理事はウクロにそう切り出した。彼、正確には人間ではなくロボットなのだが、一言一言の間隔と紳士さを思わせる物静かな口調の節には、部下であるウクロに対する怒りが、静かな膿のように色濃く滲んでいた。
「随分なものいいね。誰のおかげで、サイズの合わないその椅子に座れたのか、忘れたの?」
ウクロはそう言うと、執務室用に誂えられた高級絨毯の上で、グリーンのコートを無遠慮に叩いた。被った砂塵が、古い蔵書物から叩き出された埃のようにウクロの周囲に舞いあがり、カーペットに識られた繊細な唐草模様に吸い込まれていく。
「ふんっ。あんな小娘ひとり、満足に対処できないくせして!」
「私の任務は、あくまで偵察よ。撃ち合って勝ってこいと言われた覚えはないわ。人をコキ使う前に、その型落ち式の電子脳を交換しなさい」
それから暫くウクロと理事による嫌味と皮肉と、半ば屁理屈混じりな言葉の合戦は続いた。ここ最近、失態とそれによって露見した不祥事の後始末に追われる理事、そしてそんな彼に馬車馬の如く働かされるウクロ。この二者が一室に集うと、両者は侮辱の引き金がすこぶる軽くなるのだと、密かに社員に陰口を叩かれている。
「まあ、あの女の闘い方は理解した。次は上手くやれるわ。それにーー」
ウクロはポケットからプライベート端末を取り出す。亀裂が走った縦長の液晶画面の中で、赤い印が明滅しながら街中を高速で移動していた。
「思いがけない収穫もあった」
ウクロは理事に見えないように顔を俯せ、口角を静かに上げた。そして印は動きを止める。
***
ネルにとって、最早見慣れたものとなった住宅街をバイクは規則正しいエンジン音と共に疾走する。目的地への到達を知らせるように、徐々にエンジンの回転数が落ち始めた。家主の帰宅をガレージのセンサーが検知し、シャッターが均一な速度で引き上げられる。カナエはバイクを頭からガレージに納め、エンジンを切る。ネルが降りようと、フェンダーに手をつく。すると、彼女の手のひらに砂塵が引っ付き、湾曲した表面に小さな手形がくっきりと残った。私たちは家に上がるまえに互いに装いを叩き、少しでも身の清潔を取り戻すことに努める。ネル先輩は脱いだスカジャンの襟を掴んで、上下に大きく激しく振った。今になって気づいたが、爆発に巻き込まれたせいで煤汚れが点在しており、戦闘の激しさを物語っていた。
洗濯と風呂そして夜食をインスタントで手軽に済ませると、私達はさっさと就寝した。全身に張り巡られた緊張とアビドスの砂漠で炙られた身体が、清涼なシーツの中で解かされる快感に、意識が溶け出すように、急速に遠のいていく。瞼を閉じると、警鐘に似た言い聞かせるような口ぶりで、リオ会長の言葉がはっきりとした音声を伴って、瞼の裏側に浮かび上がった。
『魔王に等しい……いえ、それ以上の存在が、このキヴォトスには実在するわ』
ーーーーーーーー
翌朝、一階に降りたというのに、ネルの姿が見当たらない。ネルがベッドとして利用するリビングのソファに目を向けると、一枚の手紙が置かれていた。
『悪い。リオから呼び出しがあった。朝食は冷蔵庫に入れてあるから適当に食ってくれ』
時計に目線を移す。針は8時半をぴったりと指し示したところだった。冷蔵庫を確認すると、ベーコンと黄身がやや溢れて固まった目玉焼きからなる簡易な朝食がラッピングされていた。
これがネル先輩からの最後の朝食となる。今日は四日目。明日から学校が始まる。そう思うと、空いた腹の内側に鉛を流し込まれたかのような気分になる。カナエが朝食からラップを剥ぎ取ろうと手を伸ばしたその時、ドアベルが鳴った。寝起きの鼓膜を裂くようにけたたましく鳴るそれは、不吉な者の到来を告げるようであった。カナエは冷蔵庫を閉じ、玄関へ重々しく歩む。覗き窓に片目をあてると、青のツナギを着てキャップを深々と被った人物がダンボール箱を脇に挟んで佇んでいた。
相手の姿を確認する間に、その人物は再びドアベルに手を伸ばした。けたたましい報せに続いて、「すみませーん。お届け物でーす」と間延びした声がドア越しに届く。
「配達をお願いした覚えはないんですけど…」
カナエは解錠することなく、ドア越しに話しかけた。配達員と思しき人物は脇に挟んでいたダンボールを体の正面に移し、上面に貼られた伝票のようなものを確認しだした。
「えっーと…此方は、美甘ネル様のご自宅でしょうか?配達先の住所が此方となっております」
「ネル先輩なら今外出しています」
「…でしたら、再配達が手間ですので、其方でお預かりしていただいてもいいですか?今日中に配達しなきゃいけない荷物が、他に140個もあるので…」
「140っ?!」
運送に詳しくはないが、移動や休憩も含めば1日があっという間に終わってしまう量ではなかろうか?ここで追い返すのも何処か申し訳なく感じたカナエはドアのロックを外した。
「分かりました。今、ドアを開けますね」
カナエは解錠し、配達員に当たらないようゆっくりとドアを外開いた。外は素晴らしく晴れていて、逆光で配達員の顔がよく見えなかった。しかし着ていたツナギの正面には汚れどころかシミ一つなく、着たての新品のように見えた。そして何より目を引くのが、紺色のそれより遥かに存在感を放つ軍靴だ。軍靴を履く生徒はキヴォトスでは数少ない。本職でもない者が、重く嵩張るそれを好んで使うこと事態、珍しいのだ。しかしカナエはそのような人物を一人だけ知っている。カナエが眼下に見つめるそれは、他でもなくその者が愛着していた靴だ。視線がゆっくりと、鈍く日光を反射する黒革のそれから、深くキャップを被る配達員の顔へと持ち上がった。
瞳が徐々に上がり、これ以上なく見開かれる。相手は既にキャップを外していた。
「久しぶりね、カナエ」
考えるよりも先に、身体が動く。左腕に渾身の力を込め、扉を引いた。しかしウクロはそれを見越したように軍靴を扉とその枠の間隙に滑らせた。施錠が妨げられ、軍靴1片の隙間からウクロの顔が覗きこむ。
「ちょっと。まだ話の途中ーー」
「うるさい!」
カナエはウクロの足ごと圧し切るつもりで扉を引いた。しかし、足よりも先にドアノブが圧し折れてしまった。支点を失い背後に尻をつきそうになるも、カナエは無駄なく後転しながらホルスターからモーゼルを取り出す。銃口がウクロの額を狙おうとするが、ウクロはすかさずに肉食獣を思わせる低姿勢から飛び込んだ。逆手に持ち替えたライフルで銃把の底を弾き上げる。鉄プレートに覆われた床尾板が、鈍い音と共にモーゼルの大型拳銃を叩き上げ、弾丸が天井の石膏を貫いた。
ウクロは腰に組み付きながら、腰に差した銃剣を引き抜いた。黒染め処理された刃が鞘から解き放たれ、押し倒されたカナメの頬を掠めて、床に突き立てられる。歪に研がれた刃を横目に、カナメは視線を正面に戻した。無感情を思わせる様な、影の刺した眼がカナエを見下ろしていた。
「随分な挨拶ね、カナエ。そんなに私が嫌いになった?」
押し倒されても、右手はまだ銃把を握りしめている。手首だけでも曲げれば銃口の射線上にウクロの頭部を収めることができる。そう考えついた次の瞬間、ウクロの左腕が手首に伸びた。起きかけた銃口は、再び床に押さえつけられる。
「抜け目ない。ミレニアムでも暇はしてないようね」
「…何のようですか」
「…よう?古い友人を訪ねるのに、理由が必要なのかしら」
「誰が友人ですかっ」
無意識に口調が荒む。脳のあらゆる部位があらゆる警鐘を鳴らし、全身から汗が沸き出すような感覚に陥る。どうしてここが分かった。どうやって、いつ。思考の動転に煽られて昨晩の出来事が脳裏に再生される。黒のSUV、銃撃、爆発。SUVの運転手がウクロだったとして、車一台の通行すら目立つ夜間のアビドスで、私達を追跡する必要がなぜあった。そうまでして、彼女が出向く必要があったというのか?
(だとすれば、狙いはネル先輩?)
「……どうやって此処を突き止めたんですか?」
「貴方、爆発に驚いてあのおチビさんに駆け寄ったでしょう?その隙に、バイクに発信器を仕掛けた。それだけのことよ」
ウクロの口角が、眼の下で頬を裂くように持ち上がる。
「昔から変わらないわね。大事な人が傷つくと、周りが見えなくなるその癖。忠犬のようで、本当に可愛いらしい」
そういうと、彼女は銃剣を床から引き抜く。立ち上がり際に、彼女はカナエのモーゼルを蹴り飛ばす。右手から跳ばされたそれは、たたきの隅に叩きつけられるように転がる。ウクロが立ち上がって、腑が圧迫感より解放される。心地よい。
「まあ、突然の訪問だったから、私にも非はあるわね。でも、突然発砲されるとは思わないでしょう?貴方が私でも、同じ行動を取った筈よ」
「頬を切りつけるのも?」
「正確には“掠めた”よ。貴方の身体なら、明日の朝には元通りでしょう。その鼻もね。さあ、居間に案内してちょうだい。貴方と私、水入らずで雑談でもしましょう」
そういうと、ウクロはライフルを肩に提げてたたきに後退る。徐に膝を曲げると靴紐を解いた。踵を揃え、軍靴を置く時も身体の正面はカナエに向けられていた。カナエには勝ち筋が無かった。モーゼルはウクロの背後、頼りになる愛銃達も二階の自室に置いてきた。自慢の膂力もウクロの組討の前には、容易くいなされる。
「…何にも触らないでください。絶対に」
「はいはい」
ウクロは微笑むような口ぶりで返した。それが苛立たしく、同時に彼女の底知れぬ不規則さを醸し出しているようだった。
「いい家ね。落ち着きがあって」
カナエは、ウクロの言葉を無視してリビングに歩み出た。今の彼女はウクロの一言一句よりも、その一挙手一動に注意を向けている。椅子に手を掛ける行為ですらウクロをよく知るカナエにとっては、警戒の対象であるのだ。しかし、それはウクロも同じようで、彼女の鮮やかな褐色の瞳は、前髪の奥で、静かにカナエを見つめていた。ウクロはテーブルに肘をつき、頬杖をつき始めた。手を保護する上質なレザーグローブに包まれた、蜘蛛の脚のように細く長い指が色白な頰肉を押し上げる。
「警戒しないで。貴方に手を出すつもりなら、こうして一人で来やしないわ」
「…自分のしてきた事を、まるで自覚していないような口ぶりですね」
ウクロはその言葉が可笑しいのか、くすぐる様な笑いを漏らす。
「私をおばあさんだと思っているの?」
そう言うと、ウクロは椅子に背をあずけ、徐にリラックスした。
「それにしても、ミレニアムに通っていたとはね。ゲヘナと違って、優秀な生徒が多いと聞いているけれど…」
ウクロの目線が、カナエの鼻に焦点を合わせた。
「問題児も中々なようね。貴方に怪我を負わせるなんて」
その口ぶりには何処かカナエを思いやる様な、傷口に染み入る響きがあった。鼓膜を透き通り、本能が打ち鳴らす警鐘を掻き消すそれを、カナエは唇の端を噛んで振り払った。痛みほど意識を固持させるものはない。ウクロから学び得た教訓の一つだ。カナエは喋らなかった。彼女にとって、この状況でとるべき最善の行動がまるで思い浮かばないのだ。沈黙が占めるリビングで、壁に架けられている時計が自らの存在を示す様に、秒針の刻む音を明瞭に響かせていた。ウクロの双眸が、微かな弧を描く唇の上で僅かに鋭さを緩める。席を立ち、そのまま去ってくれ。カナエは心中でそう叫んだ。
「まあ…お互い調子も良くなさそうだし、この続きはまた今度ね」
ウクロはそう言いながら、席を後ろに引いた。カナエを優に上回る178cmの長躯が、彼女の前でおもむろに立ち伸びる。
カナエは耳を疑った。彼女はなんて?ーーまた今度?ーー来るのか?ーーまた来るのか?!
ネルから食らった頭突きなど、比較にならない衝撃が脳髄に走る。五指が握り拳の中で軋み、爪先が皮膚に食い込む。膝から下が、焦燥や憤りに似た名付けがたい感情に炙られ、それに悲鳴をあげるように震え始めようとする。カナエは拳を自身の腿に叩き下ろした。衝撃波で背後のガラスが揺れ、ほんの一瞬、痛みで瞼が狭まる。しかし、痛みで瞑りかけな眼が、ウクロから逸れることは決してなかった。
「わた…し…に、」
カナエの、絞り出した声が家中に響く。
「私に、何のようですかっ!何をやらせようっていうんですか!」
自責に削られ、怒りに押し潰されたカナエの告白は金切り声となって吐き出された。かつての自分。ゲヘナの自分。ウクロのもとで、薄暗く、鉄と乾いた排泄物の悪臭に目を沁みらせた自分。「教育」という名目のもと、口に憚れるようなことをしてきた自分。ミレニアムで歩み始めた新たな生活と日々の彩りによって、意識の奥底に封印されてきた忌々しい過去の全てが、ふと昨晩のことのようにフラッシュバックする。
「ああっ、あっ、あ……」
頭蓋骨の内側を、荊を生やしたミミズが暴れたような頭痛が走る。今すぐにでも、過去に連なるすべてを消してしまいたい。人を手繰り寄せ玩具を扱う童の、悪意なき悪意を煮詰めたような笑みを浮かべるウクロ。この女を手にかけ、地中奥深くに埋めてしまいたい。誰かにそう命じられれば、私はすぐにそれを実行に移すだろう。成功するかは分からない。ただ、この脳裏を喰い荒らす蛇の幼虫を模ったトラウマを排斥できるなら、なんだってしてやれる気がする。ふらつく爪先がテーブルの脚にかかり、視界が激しく蠢動する。反射的に右手が何か、角張ったものを掴む。テーブルの端に手をつき、カナエの膝は地面すれすれに浮いていた。脚は未だ産まれたての何かのように、震えている。
「また会いましょう。そう日を跨がぬうちにね」
ウクロの爪先がリビングの外、玄関へ続く廊下に向かい始める。視界が明滅しだす。カナエの瞳は、自身を見下ろすウクロの笑みを瞼の裏側に浮かべながら閉じられた。
***
ミレニアムの校内から出発するバスの中で、C&Cの部長、美甘ネルと、その部員である一ノ瀬アスナは席を共にしていた。バスがゲートに差し掛かるとその軌条に前輪が乗り上げ、車内と共にアスナの胸が縦に揺れる。
「ねーねー部長ー」
C&C専用にデザインされたメイド服の内側から些細な引っかかりで溢れそうなそれは、後輪が乗り上げるともう一度縦にゆれ、仮眠を取っているネルのこめかみを掠めた。
「ねーえ!部長ー!」
「ダァぁぁーおめぇは大型犬かなんかか!少し寝かせろ!」
正確には、彼女も揺さぶられていたというべきだろうか。仮眠という名の狸寝入りをかましていたネルに、アスナは「部長」と呼び掛け、その度に身を寄せる。ネルは目尻を釣り上げて唸るが、後に続く言葉に角はない。己の体格を自覚していない大型犬に、手を焼いているような光景が繰り広げられた。アスナは手慣れたように大きく腕を広げ、ネルを抱き寄せる。二人のやりとりが一見無人に見えるバスに乗客が居ることを示す唯一の音だった。
バスが、住宅街の前の通りに着いた。バスが停車すると、アスナはネルが此処で降りるのを知っていたかのように、彼女を開放した。
「おい、何でついてくるんだよ」
「別にいい〜じゃん。暫く部長とは会えてなかったし!」
バスから降りても、アスナはネルの隣を引っ付くように歩いている。
「あのなあ、私はこれからカナエのとこで仕事があんだ。このままあいつの家に上がり込む気か?」
「え?カナエちゃん……?…………あっ、思い出した!部長、あの子の所でご奉仕してるんだっけ」
アスナの瞼が、合点を打つように大きく縦に開いた。この後の展開に予想をつけているかのように、ネルの表情が固くなり始める。アスナは暫く神妙な顔つきをして、飛び抜けた提案と共に笑顔を炸裂させた。
「それじゃあ、私もお邪魔しちゃうね!カナエちゃんはリーダーのご主人様なわけで……突き詰めれば、私のご主人様にもなるわけだからね!」
と言って、屈託のない笑顔でネルを顔を覗きこんだ。しかし、当のネルは待て待てと言うように目頭を摘んだ。脳裏に浮かぶのは、ノアからの連絡。思うところのある今のカナエに、アスナを会わせていいものなのか。ネルは逡巡して、カナエにアスナの来訪について記したメールを送ることにした。しかし、数分待てども既読すらつかない。
「へえ〜。此処がカナエちゃんの自宅?」
歩くうちに返信が来ると思っていた。カナエはそう言うやつだ。連絡すれば、1分と掛からずに簡潔で詳細な返事を返すセミナーの補佐。そのカナエがどう言うわけか、メールを送信して十分も経ったと言うのに無反応。加えて、家の前に中型のトラックが停車している。アスナはカナエの自宅をフェンス越しに観察し、麻薬探知犬か何かのように、トラックの方向へ関心を移した。
「配達員の人、どこ行ったのかな?」
運転席を覗き込んだアスナはそう呟いた。彼女は荷台の方へ駆け寄ると、気になったように閉ざされた観音扉そして白の下地から錆を浮かせているロックレバーを凝視した。
「おい、何して」
ネルが言い切る前に、アスナがロックレバーを手前に引いた。ネルは彼女の突然の行動に目を見開いたが、C&Cの中で最も付き合いの長いアスナの行動を止めはしなかった。昔から勘が鋭く、C&C設立から数多くの任務を共に切り抜けて仲間だ。そんなアスナにネルは全幅の信頼を置いている。
「よいしょ」
金属の噛み合いが外れた。施錠が音を立てて解かれ、アスナの手によって観音扉が開かれる。荷台の床板に陽光が差し、暗闇と共に広がっている奥行きが、アスナ達に明かされる。
「…んだこりゃ?」
荷台は空だった。積載物は一つもなく、ただ平坦無味なコンテナの内側が曝け出されていた。
「不思議だねー。何も積んでない」
アスナが床に肘をついた時、家宅の玄関が物音をたてて開かれた。カナエかと思い、徐に視界をトラックから外し、玄関に向ける。
「…あん?」
そこに居たのは、カナエではない見知らぬ人物であった。黄みを極限まで抑えた絹のように透明感のある頭髪。170cm以上はある長躯が、その正面をゆっくりとネル達に向けた。
「あら?」
ウクロは、ぶら下げるように手に掴んでいたキャップを被り直した。前髪をキャップの内側に押し込み、笑みを浮かべてネル達に歩み寄る。
「何かご用ですか」
ウクロは目元を柔和に曲げて、ゆったりとした笑みを浮かべる。
「これ、アンタのトラックか?」
ネルは親指で隣のトラックを指し示しながら、ウクロを見上げる。ウクロの片方の目には、古い切り傷のようなものが瞼から頬にかけて走っていた。ネルの警戒心が、一段階上がった。カタギの顔立ちではない。己の車に赤の他人が群がっていれば、キヴォトスでは車上荒らしを疑うのが常識だ。ましてや、相手が荷台を無断で物色していれば、怒号の一つでも飛んでこよう。だと言うのに、目の前の女は微風に揺れる穂のように、荒波立たぬ口ぶりで接してきた。カナエからの返信はまだ来ない。カナエが目の前の配達員らしき者の応接をしていたからだ、と言われればそれまでだ。しかし、頭の奥が"コイツをタダで帰すな"と、警鐘を鳴らしている。
「荷台が空みてぇだが」
ネルとウクロの距離はニメートルと僅かばかり。ネルの愛銃『ツインドラゴン』が火力を発揮するのに過剰と言えるほどの超至近距離であった。ネルが瞬きの合間の、ほんの一瞬だけ目線をアスナに向けた。彼女はネルからのアイコンタクトを、持ち前の直感と経験で読み取った。ミレニアムでは、最早公然の秘密となってしまったC&C。エージェントである彼女達の敵は多い。日常の影に紛れて、隙につけ込まんとする輩。端金で雇われた不良達。そういった者たちとの戦闘に備えて、彼女達は普段からなるべく二人一組で行動するようにしている。また、シンプルで確実な情報伝達のスキルも培っている。
ネルの質問に注意を向かせて、アスナの掌が肩から提げた"サプライズパーティー"の銃把に向かう。
「ここに何の用だ?」
そして、ツインドラゴンのセレクターが『セーフティ』から音もなく外された。ウクロは、ネルの指先の僅かな力みを見逃さなかった。双眸が反射的に細まった。頭を動かさずに、隣のアスナを見やる。指先が既にトリガーガードの内側に添えられていた。
「仕事ですよ。丁度この家で、荷物を配り終えたんです」
ウクロは気付いてないように、明瞭で事務的な口ぶりで話す。しかし、ネルの警戒を解くには至らない。彼女の赤目が細まり、静かに鋭さを増した。何故なら、彼女の視界の底。つまり、ウクロの軍靴に微かに砂が付着していたからだ。硬く結ばれた靴紐の奥に、アビドスの砂が染み付いていた。
点と点が繋がり、導火線となる。
「よお」
一瞬、気前の良い笑みを浮かべ、
「昨晩ぶりだな。クソ野郎」
次の瞬間には、銃口が突き出されていた。
エデン条約編、クリアしたのですが……個人的には、ナギサ様が愛おしいなと感じました。なんと言うか、トリニティという派閥争いの渦中にて唯一見出した光のような存在を、当人でもない露出狂に全てを否定され狂わされたわけですから。その心労は察するに余りあるものだと感じております。
貴方は不慮の事故で、とあるC&Cの部員に鼻をへし折られた!事故後、賠償として、一週間自宅に住み込みで働いてくれるとしたら、どのメイドにへし折られたい?
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ネル
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アスナ
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アカネ
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カリン
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最強のパーフェクトメイド、トキです。
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エッチなのはダメ!極刑!