三日目
9:40AM
私達は砂漠に居る。何を言ってるか分からねぇと思うが私達は今、本当に砂漠に居る。
ことの発端はカナエだった。
7:30AM
──────「ネル先輩、アビドスに行きましょう」
「急だな」
そんなやり取りが、朝食を食べ終えた頃に始まった。
「最近は家事とゲームばかりで、少し暴れたりないんじゃないですか?」
と言って、牛乳を注がれたコップを手に取るカナエ。ネルはそんな彼女の問いかけにまあな、と返す。
「でもまあ、暇はしてねぇよ。何処かの誰かさんが私を指名してくれたお陰だな」
その言葉に、カナエはむせた。盛大にとまでいかないが、床に6〜7滴の牛乳が落ちるぐらいには。
「そ……ゲホッ……れについては本当に感謝しています。なんやかんやあって、もう三日目ですからね。折角の四連休も、明日で終わりです」
二日前は学園の創立記念日で、昨日は祝日。そして、今日と明日の土日を合わせて四連休になったのである。
普段の週末の倍は休めるこの期間の生徒たちの活動は、実に多様である。友達と遊びに行ったり、他学園へ旅行に行ったりなどなど。研究色の強いミレニアムではそれらと対照的で、多くの生徒がテーマにしている分野の研究や開発に没頭する。当然、それに比例して部活動も活発になるので、行き過ぎた活動や危険な実験による事故も多発する。学園の財政と安定を司るセミナーにとって、連休は休日などではない。繁忙期となることが常であり、休みを取れることなんて滅多にない。
それを踏まえての提案なんだろう、とネルは推察した。昨晩のことが未だ気掛かりで、ノアからの頼みもある。だからここは、素直にカナエの提案に乗ることにした。
承諾の旨を伝えると、カナエは実に満足気に頷いた。折れた鼻の痛みを、何処かに置いてきたかのように。表裏のない彼女の笑みを見て、昨晩のことを思い出す。
「んで、お願いしたいことってのは何だ?それがカナエとどう関係するんだよ?」
僅かな間を置いて、ノアは話し出した。
「……最近のカナエちゃん、どこか様子がおかしくないですか?なんていいますか、こう……常に萎縮しているような……」
ノアの質問に、ネルは心当たりがあった。つい先程のカナエがそうだったのだから。怯えるように、此方を見つめる瞳を震わせていた。
「コユキちゃんの一件から、避けられているような気がするんです。此方が目を合わせると逸らされたり、何処かに行ってしまったりで……一体どうしちゃったんでしょう」
「コユキの件……か」
コユキの横領に耐えかねたカナエが、校内で暴力沙汰を起こした件は、まだ記憶に新しい。今にして思えば、カナエは本当に特異な生徒だった。ミレニアムでは珍しい編入生かと思えば、リオが直々にセミナーにスカウトしたというのだから。
もっとも、リオとは付き合いが長い。あいつなりに考えがあっての勧誘だろうと、そのときは納得した。
一方で、私自身はカナエに会うまでは、アイツをどうせユウカのような生真面目な性格だと想像していた。任務が終わるたびに、請求書の内容にねちねちと口を挟んでくるようなタイプだと。
だが、実際はまるで違っていた。
任務で発生した被害や請求について、ユウカほど細かく言及することはなく、むしろどこか協力的な面さえあった。
一時は「C&Cの予算を増やすよう、会計に口添えしようか?」と持ちかけてきたこともあるほどだ。
しかしだ、
『戦闘では、嫌でも被害というものが生じますからね。それに気を取られて任務を達成できなかった……なんて事になれば、学園は請求書の額面以上の損失を被る訳ですし。そうならないよう日々奮闘してくれているC&Cの皆さんには、本当にいつも感謝しています』
なんて言ってた奴が、
『このクソ
と言って、そこらの机より丈夫に造られている実験台にコユキを叩きつけていたときは目を疑った。任務を終えて、リオへの報告も兼ねて本校に立ち寄っていたのは、不幸中の幸いだった。
私とアスナ、カリンの三人がかりでなんとか取り押さえることのできたカナエの膂力が、あのままコユキに曝され続けていたらどうなっていたのか、想像に難くない。
「まあ、それに関しちゃ結局『コユキに非があった』つう運びになったんだろ?お前の言う昨今のカナエとどう関連するのか、私には分からねえ」
ましてやカナエは、今更コユキに対して罪悪感を感じるようなタイプじゃない。そこまで右往左往する性格ではないだろう。
「はい。だからこそ、今最もカナエちゃんに物理的に近い存在であるネル先輩に、お願いしたいんです」
端末の向こうで、ノアは一拍おいて続けた。
「カナエちゃんから目を離さないであげてください。そして何か様子がおかしい事があれば、電話で教えてください」
と、ノアは言っていた。承諾こそはしたが、要は見守ってくれってことだ。私はコイツの親か何かかよと、今更ながら思う。
9:50AM
「それにしても、本当に砂しかねえな」
と、サイドカーからの景色を端的に述べる。目を凝らせば、所々にビルや廃墟の一部が砂から顔を覗かせているのだが、それを情景の一つとして捉えるには、あまりにも虚しすぎた。
「数十年前に、学園の自治地区を覆い尽くすほどの砂嵐が発生したと聞いています。ネル先輩なら知っていると思っていましたが……」
「知らねぇ訳じゃねえよ。ただ、実際に来て見るのは初めてだ、ってだけだ」
ミレニアムは様々な最先端技術を扱う学園故、多くの招かれざる者──産業スパイや経済スパイ──があらゆる組織から送り込まれる。
そういった輩を、持ち前の武力とミレニアムの会長、調月リオの諜報力でもって掃除するのがC&Cなのだが、そんな彼女たちにとって、特に厄介な勢力がある。
その名は、「カイザーCorp.」。民間軍事会社や兵器の販売を始めとした、様々な系列企業を擁する大企業である。長年、ミレニアムそしてミレニアムと提携関係にある企業に諜報員を送り込んでいるネズミの巣であり、陰でC&Cと幾度も銃火を交えてきた存在でもある。
その為、カイザー本社と、その支部の動向はC&Cとヴェリタスの共同戦線によって常に監視されている。
そういった経緯もあり、アビドスが復興の為の資金繰りと借金の返済に喘いでいたことを、ネルは知っている。そしてその利息の返済の為に、当時のアビドス委員会が自治区の土地の利権を、他でもない融資元のカイザーへ売り飛ばしていたことも。
アビドスの大半の土地を支配する存在と陰ながら敵対関係にあるネルにとって、アビドスはあまり足を踏み入れたくない場所である。カナエの提案を承諾したのは、それで彼女の心労が多少なりとも救われることを望んでいるためか。
「なるほど道理で。……それにしても、本当に今日は暑いですね」
カナエは、ヘルメットを剥ぎ取るように脱いだ。それをネルの座席後ろのスペースに放り投げると、タオルで顔をささっと拭い、グリップを握り直した。これ以上にないぐらいにスロットルが捻り込まれ、エンジンはそれに応えるように鼓動を響かせる。
タイヤが砂粒を弾き飛ばし、置いてきぼりにされた空気が風となって二人を涼ませた。
「ははは!もっとトバせよカナエ!」
「言われなくても」
そう言って、カナエはギアチェンジを行い、愛車を更に加速させる。暫くは埋まりそうもない大きな轍を引いて、二人は遠い砂漠と一体化したゴーストタウンに向かった。
元いた砂丘の頂きから十分もかけず、バイクは市街地へと到達する。砂一面の世界から人が生活を営んでいた場へと、場面は変わる。そこから更に、数分かけて目的地に到着した。
「ここです」
そこは倉庫であった。波打つ白い外壁が、活気ないゴーストタウンの中で一際存在を目立たせていた。
ポケットからスマホを取り出し、ボタンでも押すような動作をカナエがすると、眼前のベージュ色のシャッターが規則正しい動作音を立てて、引き上げられる。
バイクを再び走らせ、突入する。シャッター枠を括り抜けると、アビドスに来て久しく見る、砂一つない清潔な空間が広がっている。外と中のあまりの乖離にネルは少し驚いた。
そんな彼女を他所に、カナエは停車し
「キンキンに冷えたファ○タでも飲みましょう、先輩」
と、ネルの返事を待たずにサドルを跨いで奥に行ってしまった。帰ってきたときには、両手で沢山の缶ジュースを抱えて。
互いに水分を補給を済ませて暫くの頃、ネルは前々から抱いていた疑問の一つを持ち出した。
「お前、随分と金持ちなんだな」
自宅にバイク、そして果てには倉庫ときた。セミナーに属している以上、カナエがそこらの生徒よりも高給取りなのは分かる。C&Cの部長を務める自分だって任務相応の報酬を貰っているのだから。しかしミレニアムのような、他より高度に発達した都市部に一軒家を持つとなると話が違ってくる。土地の価格が他校の相場と段違いなのだから。
「別にそれ程でもないですよ。ユウカさんと比べれば」
「あいつは株で儲けてるからな。でもお前は? っていう話をしてんだ」
「……色々あったんですよ。本当に、色々」
話すと長くなります。そう言って、カナエはまた倉庫の奥へと行ってしまった。奥に隙間なく並列されたロッカーやらキャビネットに、何の用があるというのだ。
歯切れの悪いを答えを残したカナエについていくと、彼女がそこで何をしているのかが分かった。
「ハハハ……なんだ……こりゃ」
そこには、開かれたロッカーの奥で、潜み、今か今かと獲物を待ち侘びている獣のような雰囲気を醸した、無数の銃が並べ立てられていた。
「言ったでしょう、色々あったって」
さて、とカナエ。
「どれにします?」
突然の問いかけにネルは、はてなを浮かべた。
「言ってたじゃないですか、『暴れ足りない』って。だから……」
カナエは眼前の一丁を手に取る。
「暴れましょうか」
場面は変わって、D.U.(ウトナピシュティム地区)のとある高層マンション。そこの高層階の一室に住むとある生徒に、連絡が入る。
クラシックな固定電話の着信音が鳴り始めて十数秒後、一室の主は漸く受話器を手に取った。
「もしもし」
「遅いぞウクロ!電話が鳴ったら数秒で出るのがマナーというものだろうが」
「ウクロ」と呼ばれた生徒は、受話器の向こうで声を荒げる大人に、慣れた態度で返す。
「人にマナーを説くのなら、声を荒げないでほしいものね。理事さん」
それで、とウクロは続ける。
「何用?休日である筈の日曜日に連絡してきたってことは、それ相応の案件だって認識で宜しいのかしら?」
「神保カナエを覚えているか?」
その名前に、ウクロの寝惚けていた意識は僅かに覚醒した。ウクロにとって、カナエはある意味で最も関わりの深い人物だからだ。
ウクロは語気を僅かに強めて言った。
「あの不器用さんが、何かしたの?貴方か本社の癇癪を買うような何かを」
「……我が社がミレニアムと水面下で敵対関係にあることは、今更言う必要もないな?」
「そうね。というか一部の業界では最早、水面下のことですらないんじゃない?サイバー部が努力しているようだけど、小細工でどうにかなるほど、うちの会社の悪評は些細なものではない筈でしょう?」
「ふん、相変わらずの減らず口だな。まあいい。本題に戻ろう」
「理事」と呼ばれたカイザーの大人は続ける。
「ほんの数分前、お前の古い友人である神保カナエが、我が社にとって無視できない人物を連れて、アビドスに入った」
「誰?その無視できない人物というのは」
「美甘ネルだ。知っているな?」
美甘、という姓に聞き覚えがあった。確か、数週間前にミレニアム学区に潜入した際に、カイザーから寄越された重要資料の中にそんな名前の人物が居たような……
記憶を辿っていくうちに、何やら面倒なことになりそうだ、と心中に溢す。
「あのCleaning&Clearingの美甘ネル……のこと?」
「ご名答。あのC&Cの美甘ネルだ」
やっぱりだ、予感が的中してしまった。ミレニアムが誇る凄腕のエージェント部隊、そこの部長が私の旧友と何をしでかそうというのだ?
「連中の座標は伝える。お前は一先ずアビドスに向かい、そこで奴らの動向を監視しろ」
「監視、だけでいいのね?」
「ああ、揉め事を起こして対策委員会の注意を引きたくはない。奴らが動き出せば、ゲヘナやトリニティが、前回同様に介入してくる恐れがあるからな」
前回……と聞いて、ウクロは顔を苦める。
シャーレの先生に率いられたアビドス対策委員会とカイザーPMCの間で生じた、小鳥遊ホシノの争奪戦。便利屋68の裏切りから始まり、最終局面においては対策委員会に加勢した風紀委員、トリニティの砲兵隊のおかげで、アビドスの完全な吸収合併を目論んでいた理事の計画は失敗した。
「暁のホルス」は対策委員会に奪還され、展開したカイザーPMCの部隊はその殆どが壊滅状態になるなど、当初の想定を遥かに上回る損害を出した。
そんなPMCに籍を置いているウクロだが、その日は悪夢と形容し得る最悪の一日であったと記憶している。何故トリニティの砲弾幕の中、アビドス対策委員会の足止めに加え、ゲヘナで最も恐れられている「空崎ヒナ」を相手にせねばならなかったのか!
思い出すだけで、頭痛を引き起こしそうだ。
「それは良かった。私もドンパチは暫く十分だと思っていたところよ」
それに、とウクロは続ける。
「永らく連絡も寄越さない友の顔を拝みにいきたい、とも思っていたわ。引き受けてあげる」
11:00AM
場面は変わって、アビドス砂漠のゴーストタウン。空気は一変した。飛び散る破片、飛び交う弾丸、そしてかつての街の活気がどこからともなく舞い戻ったかのように、響く笑声。
「オラオラオラオラァア‼︎」
外壁が剥がれたビルの側面を地上のように走り抜け、跳び交ってはドローンを撃墜する。そんな、ゴーストタウンではお目にかかれないような光景を、地上でカナエは見守っている。
「ハイスコアですよ、ネル先輩」
彼女が手に持つ端末の画面にはスコアが表示されていて、仮想敵として飛翔するドローンをネルが撃墜する事で加算される仕組みになっている。
因みにほんの10秒前、ネルはカナエの最高記録を抜いた所だ。
ネルの死角から飛翔する小型のドローン十機が、彼女に狙いを定めて、フレーム下部に備え付けられた銃塔を指向する。しかし、次の瞬間にはドローンの大半が撃墜されてしまった。砲口が彼女を捉えるよりも早く、ネルは空中で身を翻し、銃弾を浴びせていたのだ。
そこでタイムアップとなり、かろうじて生き残ったドローン達はもとの収納スペースへと帰還していく。
一方のネルは重力に逆らわず、自由落下……するのかと思いきや、彼女は愛銃の片割れをビルの外壁向けてぶん投げた。するとどうだ?衝撃音と砂埃を立てて突き刺さった愛銃を支点にし、手元に残った一丁の銃をしっかりと片手で握って勢いをつける事で、ターザンのつた渡りのように空中を移動し始めたではないか。
出会った時からどうして二丁のSMGを鎖で繋げているのかカナエは疑問に思っていたが、あのように使うのか、と漸く理解する間にネルが着地する。
「あんなのありなんですか?」
「ありなんだよ。カナエもやろうと思えばできるぜ」
「えぇ……」
若干引き気味なリアクションをとるカナエだが、割とありなのでは?と内心思っていたりする。そして視線をネルのツインドラゴンへと移し、
「やはり、ネル先輩にはそのSMGが似合いますね」
と言う。少し前、カナエとネルは暫く雑談した後、大量の銃を抱えて倉庫を後にした。そしてこの射撃場に足を運び、二人揃って暴れたのだ。カナエは自宅から持ち出してきた大柄のSGに加え、ゲヘナ製・トリニティ製の様々な火器を手に、ドローンチャレンジに挑んだ。
後発のネルも、ツインドラゴン以外の銃を手に取ってチャレンジに挑んだ。初めはセミオートのソードオフSG、次に小型軽量のマシンピストルをそれぞれ二丁持ちでタイムアタックに臨んだ。
「私はあまり銃を着飾らせないタイプですけど、先輩の銃に彫られた装飾はとても綺麗だなって感じてます」
「へへへ、だろ?この龍のデザインは拘りに拘ったからな!」
カナエの本音に、00の口元は綻んだ。誰であれ、自身の好みを肯定されると嬉しくなるものだ。
「そういうカナエの銃は、私の物とは違う意味で個性的だな。どうなってんだそのマガジン?」
と言って、銃に話題がカナエの物に移り変わると、彼女もまた、口元を緩ませた。
「んふふふ、よくぞ聞いてくれました!」
そう言って、カナエは自前のSMGを勢いよくネルへ手渡した。
「私が愛用しているMP40は、些か改造が施されてましてね。継戦能力を高めるためにマガジンを二本挿しできるよう、ハウジング部分をスライド式にしたんです!」
ネルは手元の銃に目をやる。掠れや古傷があるが、ボルトを始めとする各部の動作は非常に滑らかで、トリガーの引き代にも違和感がない。使い古されてはいるが、メンテナンスが欠かされていないおかげで精悍な気品を感じる。こういったものは、ただ紋様を彫るだけでは真似できない。
カナエもまた、無意識のうちに、ネルとは一味違った紋様を愛銃に彫っていたと言うことだろう。
「なるほど、よくできてるじゃねえか」
と言って、ハウジング部に手を伸ばす。後付けとは思えない程、精巧な作りになっている。
「これ、改造は自分でやったのか?」
「いえ……知り合いに、銃に精通した人が居まして。その人に頼んだんです」
「へえ……」
僅かな逡巡の後、ネルはカナエを固まらせる言葉を口にする。
「なあ……カナエ。その知り合い、私に紹介してくれねえか?」
そして同刻、噂をされた影の様に、ある人物がカイザーが所有するアビドスの土地へと降り立った。
それは、D.U.地区からヘリに搭乗し、揺さぶられて一時間と少々経った頃である。
「ウクロ」と呼ばれる生徒を乗せたヘリが、轟音を鳴らして発着場へ降下する。途中、ヘリが放つ強烈なダウンウォッシュによって、砂埃が巻き上げられ、パイロットを務めるPMC兵士の視界を遮り、ヘリを揺らがせる。アビドス砂漠そのものが、彼女の到来を拒絶しているかのように。
「着陸します。衝撃にご注意を」
客席に座るウクロはパイロットの報せに頷きもしない。彼女の意識は既に、手元の仕事用の端末に送られた報告書と監視カメラの映像に向けられていたからだ。
ヘリの固定脚が接地し、視界が僅かに上下した。それで漸く彼女は、意識を外の世界に向けた。
「ご苦労様」
とパイロットを労うと、蒸し暑い機内にウンザリしていたかのようにドアをスライドし、キャビンの外へのりだす。アビドスの大地に降り立った彼女を出迎えたのは、上司の理事でもなければ彼の者の部下でもない。
睨みつけ、見下すように彼女を照り付ける太陽であった。
「……暑いわね」
迎えは来ないようだ。寄こす余裕もないのかしら?
視界に映る理事の私兵達は、右へ左へと忙しく基地の復旧作業に勤めている。あちこちで解体と建設が同時並行で進められ、重機や溶接機が火花を散らしている。
仕方なく徒歩で移動していると「ウクロ様」と構成兵士の一人が此方を呼び止めた。
「これを貴方に渡すよう、理事から仰せつかりました」
兵士は脇に挟んでいた封筒を差し出す。ウクロが手に取り、開封すると中にはなんらかの鍵と、美甘ネルに関する数枚の資料が。
「ありがとう。彼からは他に何か言われてる?」
「はい。車は北第一倉庫だ、とも仰っていました」
「分かったわ」
資料を読みながら、兵士の言っていた倉庫へ歩を進める。シャッターを持ち上げて、用意されていた黒のランドクルーザーに乗り込む。封筒の鍵を差し込んで、エンジンが心地いい低重音を響かせたら、彼女はアクセルを踏み込んだ。
北側にある、基地のひしゃげたゲートをSUVは猛スピードで通過する。そして後に浅い轍を残して、車は砂漠を走り抜けていった。
「えーと、ネル先輩……それってどういう意味ですか?」
「いや、単純に私の銃も改造してもらおうかと思ってな。いつもならエンジニア部に任せたりするんだが……あいつら、何食ったらこんなの思いつくんだよって機能を手違いで追加したりすんだよ。タバスコ発射機能とかな」
そのワードに、カナエは聞き覚えがあった。そういえば、いつしか騒ぎになったな。エンジニア部の過失で、修理に出されていたネル先輩の銃からタバスコが発射されるようになり、ヘルメット団とコトリさん達がタバスコ塗れになった事件が。
「にしても、カナエにガンスミスの知り合いがいたなんてな。お前の銃の感じからして、腕は確かなんだろ?私の銃もいい具合に仕上げてくれそうだな!」
そう言って、瞳の奥を輝かせる彼女の期待をカナエは苦しく感じた。
「ネル先輩」
心中で意を決したように、カナエは重々しく話し出す。
「悪いことは言いません。私の知り合いに頼るのは止めた方がいいです」
どこか、諭しているように聴き取れる口調で続ける。
「私が世話になったガンスミスは……その……些か、性格に問題があるタイプです。彼女に先輩程の人物が借りを作ってしまったら最後、どんな悪事に巻き込まれてしまうのか想像もつきません」
最近の様子とはギャップがありすぎるカナエの真剣な眼差しと口調から、ネルは真面目に聴き入れることなのだと理解する。
「それに、彼女はあの悪名高いカイザーコーポレーションに所属している人間です。ネル先輩が好むような、正義感や誠実さとは無縁な人なんです。だから──」
まるで懇願しているかのように変わっていくカナエの声色。私──美甘ネル──は、そんな彼女をなるべく刺激しないように応えた。
「分かった」
「分かったから、そんな悲しそうな顔するなよ。無茶なお願いして悪かったな……」
「……すみません」
そんな彼女達の一連のやり取りを、カナエの私有地外に設置された監視カメラが記録していた。映像を寸分の狂いもなく映すレンズは二人に指向され、備え付けられているセンサーによって、会話は筒抜けである。本来は治安維持を名目に、カイザーの私有地に設けられているそれは数分前から、ある人物の操作を受けていた。
他ならぬ、カイザーの密命を受けている黒杭ウクロの手によって。
「随分な言い草ね、
人差し指で、端末上にカメラの映像として映し出されているカナエをアップする。
「まあ、あながち間違ってはいないのだけれども……誰のお陰でここまでやってこれたのか、忘れてるんじゃないかしら?」
ゴーストタウンを一望できる砂丘の頂きで、ウクロは呟いた。
「それにしても……これがあの『ミレニアムの勝利の象徴』とはね。資料に記されている通り、随分と小さい。身長は……150もないくらい?」
そう思索していると、画面の向こうで動きがあった。
カナエが銃を、ネルは自身が堕としたドローンを回収し始めていた。それらを積み荷として、バイクで牽引している台車に乗せると、エンジンをふかして颯爽と射撃場を後にした。
「移動するの……どこへ?」
「此処です」
そう言って、カナエはバイクを停めた。「柴関ラーメン」と、赤地ののれんをかけた屋台の隣に。
猫耳を生やしたツインテールの店員が、いらっしゃいませ、と私達を出迎え、席に案内した。その店員とカナエは旧知の仲のようで、出会って僅かの間に会話を弾ませていた。
「そういえば、以前お店を開いてた場所、凄いことになってましたね。まるで爆撃でも受けたかのような」
「そ、それはまあ、ちょっとしたトラブルがあったというか……」
「……まさかとは思いますが、美食研究会の仕業ですか?」
「美食研究会……?よく分かりませんけど、まあ本当にちょっとしたトラブルですから!それより、ご注文をどうぞ」
セリカさんとカナエに呼ばれた店員は、はぐらかすようにメニューを手渡した。彼女はそれをしぶしぶ受け取り、私にも見えるように見開いた。
カナエにお勧めは何かと聞くと、「柴関ラーメンです」と返ってきたので、それの中盛りを頼んだ。一方のカナエは大盛りを注文して、私達は午後の空腹を満たした。
今回からオリキャラを一名追加しました。私自身、下手にオリキャラとか追加すると、余計に覚えなきゃいけないキャラクターの存在が増えるので、あまり好きではないのですが、この方がストーリーがより良い方向に発展するなと思い、投入しました。
貴方は不慮の事故で、とあるC&Cの部員に鼻をへし折られた!事故後、賠償として、一週間自宅に住み込みで働いてくれるとしたら、どのメイドにへし折られたい?
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ネル
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アスナ
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アカネ
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カリン
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最強のパーフェクトメイド、トキです。
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エッチなのはダメ!極刑!