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屋台の暖簾をくぐった頃には、空は夕焼けに染まっていた。カナエのバイクでミレニアムに帰った頃には、時計は七時を越しているだろう。
「ご馳走さん。うまかったぜ」
「はい、とても美味しかったです。また来ますね!」
バイクに乗り込み、一旦倉庫に寄ったカナエは銃とドローンを手早く片付け、出入り口をロックする。一仕事を終えたカナエは、ネルを乗せたバイクのハンドルをミレニアムに向けて切った。
ラーメンの会計はカナエと割り勘にした。店主の犬獣人──柴大将はセリカと同じく、カナエと知り合って長いらしい。食後は暫く三人の雑談を聞くことになった。ひょんなことから話題は私に移り、「私の先輩です」とカナエに紹介されると、店側の二人は酷く驚いていた。大方、背の低い私を中学生とでも思っていたのだろう。
当のカナエは私を怒らせまいと、必死にフォローを入れてくれたが、当の本人が吹き出しかけていた事を、私は見逃さなかった。仕返しに、左手側で横に広がるカナエの太腿をつねってやろうかと思ったが止めた。
「なあ、カナエ」
「何ですか?」
「後ろのSUV、見えるか?」
「え?」
そう言って上半身を捻って、振り返ろうとする。そこに、ネルの制止が飛ぶ。
「バカ、あからさま過ぎんだろ! 必要最小限の動作で見ろ!」
続けて、目線のみを動かして見るように伝える。視界の端で、此方から遠過ぎず近過ぎない絶妙な距離を保つ黒のSUVを、カナエは確認する。
ネルにその事を伝えると、彼女は不規則に減速或いは加速してみろと言う。
カナエは頷き、右手のスロットを手前に捻り込む。彼女の愛車の加速に、SUVは見失わんとしっかりと追従してきた。それがネルのこれからの行動を決断させた。
彼女は高速で移動するサイドカーから立ち上がると振り向き、利き足を後部の背もたれの頂きにのせる。隣のカナエはネルの突然の行動に驚愕していた。カナエが呼び止めるように叫ぶが、ネルはそれを遮るように伝える。
「二十メートル先まで進んで、銃を構えとけ」
そう言うと、カナエが「え!?なんでですか!」と言い切る前に、ネルはサイドカーから跳躍した。砂を被った道路脇の電柱を更に踏み台にして、宙高く跳び出した。
夜の闇と夕焼けの赤が混じった空を背景に、ネルは眼下に走る鉄塊を、ツインドラゴンの照準孔に収める。ほんの一秒にも満たない中でそれを終えた彼女は、ウクロがハンドルを握るSUVに向けて、9mm弾をばら撒いた。
フルオートの二丁撃ちにしては悪夢とも言える正確さで、パラペラム弾はエンジンを蜂の巣にした。弾丸はルーフを伝うように弾着し続け、車の左後輪を撃ち抜いた。
一方のウクロも、それに遅れながらも反応し、ハンドルを大きく左に切った。しかし、それが悪手だった。車線の両脇は、道路から退かされた砂が堤防ように盛り上がっていて、それは車線に沿うように続いている。SUVは後輪を撃ち抜かれているせいで、正常なコントロールを受け付けず、砂の堤防に角度をつけて突っ込んだ。
猛スピードでSUVは堤防から飛び立つと、空中で、徐々に左前輪から地面に吸われるように車体が傾き始める。不安定な体勢で着地した弾みで車体は横転し、砂漠の上をクッションのように転がり続け、四回転した所でそれは止まった。
堤防に降り立ったネルは、確かな手応えを感じつつも、用心してSUVに接近した。一歩近づくごとに、横腹を晒して廃車同然となったそれの運転席を睨むように凝視する。
そして、ネルが堤防から降りたその時、SUVの車底から十字にマズルフラッシュが閃く。エンジンの横っ腹に隠れていたウクロが、ネルの僅かな着地音を聴き取り、車底と砂地の間から伏射したのだ。ウクロの愛銃から放たれたライフル弾は、C&C部長の急所を精確に捉え、彼女の頭部と胸部へ、それぞれ合わせて六発の命中弾を与える。
的確な攻撃で、ダメージは確かに入った。しかし、同時にそれはネルに獰猛な笑みを浮かべさせた。
ネルは、敵のタフネスと、先程自身に先手を打たれた上での対応の早さに感心しつつ、ウクロの射線に、自らジグザグに突っ込んだ。闇に紛れた奇襲で対応が遅れたが、敵の銃がライフルである以上、激しいマズルフラッシュは、暗闇の中では大きな目印となる。射手の居場所を暴露すると同時に、発砲のタイミングを報せる警報として働いてしまうのだ。
ミレニアム最強と謳われるネルの身体能力は、自身を穿たんとするNATO弾の殆どを躱しきり、全力疾走の中で、反撃すら可能にした。
「おらおらおらおらぁっ!!」
両腕を突き出すように銃を構え、伏せるウクロごとSUVの横っ腹をズタボロにした。ウクロも負けじと空になった弾倉を取り替え、セミからフルオートで応射する。
分類も口径も異なる両者の弾丸は、闇夜を切り裂くように空中で交差し、擦れ合い、衝突する。ネルが得意とする接近戦に持ち込まれる前に、ウクロは撤退を決意した。ライフルで応射しながら、左手で閃光弾のピンを抜く。
そしてネルがSUVのルーフに着地したその時、それは眩く炸裂した。
「ッ、目眩しか」
車の屋根から、ウクロを見下ろすように銃を構えようとしたネルは、その閃光をモロに喰らった。一方のウクロはというと、事前に身を翻していたため、怯むことはなかった。スラグ弾を装填したショットガンを、ネルに向けて撃ち放つ。
「テメェッ!」
近距離の一発玉を受けたことで生じた、彼女の僅かな隙をウクロは最大限活用した。例えば、簡単な操作で信管を弄れ、起爆時間を即座に変更できるようにしたポテトスマッシャーを、SUVの車底後方に投げ込んだりした。
後方には、容量80Lの燃料タンクがある。安全ピンが抜かれたじゃがいも潰し器によって、タンク内のガソリンが一気に引火したら、一体どうなるだろう?
ネル先輩が跳び出して、数秒も掛からぬうちに夜道の静寂は打ち破られた。初めは、ネル先輩の9mm弾。続いて聞こえてきたのは、何か重量のあるものが、何度も打ち付けられるような音。そして、私がバイクを停めて彼女の元へ駆け出した時、銃声が再び鳴った。
「ネル先輩の9mmと……7.62mm弾!」
それで確信した。私達を尾けていたあのSUVのドライバーと、ネル先輩が撃ち合っているのだと。
カナエはネルの援護へと急ぐ。しかし、砂の堤防を登り切るのと同時に、SUVは爆発した。夜に溶け込むように黒いランドクルーザーは、今や歪な火柱の薪となり果て、車体の外部と内部を構成していた様々なパーツを四散させた。
「ネル先輩!!」
カナエは奔る。愛用している武器の中で、最も強力なショットガン「Faust」を手に。
火柱が彼女と、彼女の愛銃を照らしだす。カナエは血眼という表現すら事足りぬ程に目を見開き、燃え盛るランクルの周辺に警戒と銃口を向ける。カナエの右手の人差し指は引き金に掛けられていて、引き代分を既に引き切っている。
このお陰で、不意打ちを喰らったとしてもほんの一瞬の間に反撃できる。ゲヘナに身を置いていた頃はよく多用した手だ。そんな技術を、再び使う日が来るだなんて思いもしなかったが。
「ネル先輩」
カナエは縋るように呼びかける
「いるなら返事をしてください」
返事はない。代わりに足裏から微かな振動を感じた。足元を見遣ると、そこには爆発で吹き飛んだ車のボンネットがあり、カナエはそれを踏みつけていたのだ。
カナエは慌てて退き、弾痕塗れのエンジンフードはバネ仕掛けのように吹っ飛んだ。歪んだ鉄板があった場所に、砂と煤に塗れたネルは横たわっていた。
「此処だよ」と、彼女が言い切る前に「ネル先輩!」とカナエが抱き付く。まるでアスナを連想させる彼女の行動は、ネルの思考を一瞬停止させる。しかし、当のネルは敵がまだ近くに居ることをすぐに思い出した。カナエを押し除け、自身を援護するように言うと、彼女は頷いた。
ネルが吹き飛んだのと真逆の方向に、ウクロの足跡は続いていた。ネルが先頭、カナエは後方を警戒しつつ、二人は十分間それを追跡した。三つ目の砂丘をこえた所で足跡とは別の要素が、彼女達の行手を阻んだ。他でもない、時間だ。
太陽が沈んで暫く経った今、街灯や目印一つもない砂漠のど真ん中で、これ以上の追跡は危険だとネルは判断した。
こういった追跡戦は本来、サイバー戦に秀でたヴェリタスによる情報支援や、アスナの豪運による導きを頼りにしているが、この状況下に於いてはそのいずれにも頼ることはできない。
ましてや此処はアビドス。ミレニアムでは通じるネルの土地勘も通じない不毛の大地である。爆破されたランクルの火柱を目印に、ネル達はバイクへ踵を返した。カナエが愛車のエンジンを掛けようとする中、ネルはランクルの飛び散った部品の中から、手掛かりとなる物を探し出し、回収してバイクに乗り込んだ。
ミレニアムの街並みが近づく夜道で、カナエは問いかけた。
「さっきの車の運転手……一体、何者だったんでしょう?」
袖についた煤を払いながら、ネルは肩をすくめる。
「さあな。ただ、只者じゃないのは確かだ」
「どうして、そう思うんです?」
「私の奇襲をまともに喰らったくせに、何事もなかったように反撃してきやがった。しかも、灯りの乏しいこの時間帯に、中距離からでも急所を正確に撃ち抜く腕前だ。即席で仕掛けたトラップまで無駄がなかった……」
ネルは一拍置き、獰猛な笑みを浮かべた。
「久々に楽しめそうな相手だったな」
──一方その頃、ネルの言う相手は、砂漠のど真ん中で、基地に連絡を取っていた。
『ウクロ様、どうなさいました?』
「迎えを寄越してほしいの。場所は……今の私の位置よ」
『承知しました。ですが理事様が用意されたランドクルーザーは? あれならアビドスの如何なる地形も難なく走破できるはずですが……』
「爆破したわ」
『は?』
「正確には、爆破させられた。というべきかしらね」
『……は、はあ?』
ミレニアムへの帰途の中、ネルはカナエに学園に寄ってくれないかと伝えた。他でもない調月リオに、数刻前に起きた戦闘と敵の存在について報告するためだ。
「無理にとは言わねえよ」
と、ネルは断りを入れた。カナエがノアと距離をとっている事を知っている為だ。セミナーの彼女なら、会計のユウカと共に、まだ業務に取り組んでいるだろうから、自身に付き添わせた結果、学園内でバッタリと鉢合わせしてしまうかもしれない。
しかしカナエは、そんなネルの考えに反して同行する意思を伝えた。
「私のせい、ですね」
ネルが煤を払いやめた。
「私が、ネル先輩を、考えもせずアビドスに連れ出したから」
「お前のせいじゃねえよ」
彼女は続ける。運転のため前を向くカナエからは見えないかもしれないが、安心させるように、僅かに微笑んで
「お前の誘いに乗ったのは、私の意思だ。お前が気にする事じゃねえし、気に病む事でもねえ」
それに、とネルは続ける
「丁度、暴れ足りなかったからな」
それは二重の意味を持つのだと、カナエは理解した。
アビドスの射撃場でのこと。そして追跡者との戦闘。今日起きた全てのことに、彼女は満足しているのだと聞こえた。だから彼女は、私に向かって笑いかけているのだろう。目線をちらっと、隣に向ける。サイドカーからこちらを見るネル先輩の「へへ」と言っているような明るい顔に、心の中の痛みが、溶けるように引いていくのを感じた。
いつまでくよくよしているのだ、私は。彼女がここまで言ってくれているのに、情けない。
あと少しでアビドスを抜ける。高速に乗り、砂と闇が濃い世界は、メンテナンスの行き届いた誘導灯と照明で緩和された。
ミレニアムの学区に到達した時には、闇など無縁の世界が広がる。高速を降りると無数に連なるビルと電子の街。高層建築物の一軒一棟が、ネオンを発して世界を照らす。
戦闘描写って、書いていると不思議と筆が止まらないんですよね。どこまでを具体的に、或いは抽象的に表現するかが悩みどころではありますが。
貴方は不慮の事故で、とあるC&Cの部員に鼻をへし折られた!事故後、賠償として、一週間自宅に住み込みで働いてくれるとしたら、どのメイドにへし折られたい?
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ネル
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アスナ
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アカネ
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カリン
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最強のパーフェクトメイド、トキです。
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エッチなのはダメ!極刑!