恋人の宝多六花にじ~っくり見とれたい!   作:前野へーた

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最後の文化祭、チャイナドレスが煽る六花への独占欲

 あれから、もう一年が経ったのかと思うと、なんとも不思議な気分になる。ちょうど去年の文化祭、六花が和洋折衷のドレスでステージに上がり、俺は彼女の姿に嫉妬や独占欲を感じながらも、目を奪われた。

 

 それを境に俺たちは恋人同士として一気に距離を縮め、今ではお互いの体を何度も求め合うほどの関係になっている。まだ高校生だから将来を具体的に約束できるわけではないけれど、なんとなく「このまま一緒にいたい」という気持ちを意識するようになった。

 

 文化祭の朝、校舎の廊下には出し物の準備に駆け回る生徒たちであふれていた。教室や体育館のステージ、渡り廊下の模擬店──どこを見ても秋の祭典を楽しむ空気が満ちている。去年は外の特設ステージで六花が魅せる姿に震えるほど感動したが、今年はそれを上回る衝撃が待っているらしい。

 

 というのも、「彼女がチャイナドレスを着るらしい」という噂を聞いていた。正直、去年のドレス姿ですら破壊力抜群だったのに、今年はどんな風に俺たちの度肝を抜いてくれるのか。

 

 しかも、あれから一年かけて、俺たちは「キスしか知らなかった」段階を越え、お互いの体を深く知った。自然と、彼女のファッションに対する見方も以前とは違う。どこがどう強調されるのか、どのあたりに視線が行ってしまいそうか──そういうことを想像するだけで、胸がざわついて仕方ない。

 

 外では、軽く色づきはじめた木々が風にそよぎ、落ち葉が舞い散る。秋晴れの空の下、早朝から活動を始めていた模擬店の煙や香りが漂い、朝の涼やかな空気に食欲と高揚感が混ざり合っている。そんな活気に満ちた雰囲気の中、六花がきっとまたステージに上がるのだと思うと、なんとも言えない誇らしさと独占欲が同時に沸き起こる。俺だけが知る彼女の柔らかさ──その記憶が頭を過ぎり、軽く息をのむ。

 

 文化祭のメインステージ近くに行くと、ざわめきの中心にはやはり六花の姿があった。短めに仕立てられたチャイナドレスをまとい、彼女は控えめな笑みを浮かべている。身長は155cmと小柄なのに、遠目でもわかるほどメリハリの効いた体つきが際立っていて、すれ違う生徒や来場者が振り返ってしまうのも無理はない。

 

 まず目を引くのは、首筋から肩、胸元にかけてのラインだ。彼女の上半身はどちらかと言えば華奢(きゃしゃ)な方で、ほんのり浮き上がる鎖骨と細い二の腕が、クールと言われる普段の雰囲気をそのまま体現している。しかし、その先──ウエストからヒップへなだれ込む曲線は、まるで違う世界を宿しているようだ。

 

 チャイナドレスの最大の特徴ともいえるサイドスリットが、彼女の下半身の豊満さをあからさまに露出させている。足を踏み出すたびに、肉づきのいい太ももがチラチラ(のぞ)き、さらに踊るような布の揺れが、ウエストからヒップのラインを強調しているのだ。彼女が動くたびに視線を誘い、視界の端々に真珠のように輝く白い肌が映る。

 

 彼女の肌は、全体的にきめ細かくしっとりとしており、照明や自然光を受けると柔らかな光を反射する。特に、太ももの付け根あたりの弾力が、俺にはもう馴染み深いものだ。何度も触れ合ったからこそ、柔らかさだけでなく、そこに秘められた微かな筋肉の弾力や温度まで思い出せてしまう。

 

 彼女は下半身をコンプレックスにしていたはずなのに、今では「これは私の武器だ」と言わんばかりの自信すら感じられる。実際、ステージ周辺で彼女を見つめる視線は少なくない。どこか恥じらいを漂わせながらも、それをわざと(あお)るように立ち回る姿からは、彼女自身の意識が変わったことが伝わってくる。

 

 去年まではキスの感触すら不慣れで恥じらいを見せていた六花が、この一年で何度も俺の体を求めるようになり、俺も応えるかたちで彼女の体を隅々まで知るようになった。その間に、「自分の体をどう魅せるか」を覚えたのかもしれない──少なくとも俺には、より一層美しく、そして大胆に映る。

 

 立ち姿だけでも十分に圧倒的なのに、彼女がふとスカートのスリットを軽く押さえる仕草をしたとき、内側に隠れていた柔らかなラインが一瞬のぞき、見る者の心臓をわしづかみにする。俺はその場面を直視してしまい、頭の中で昨日までの彼女の肌を思い出してしまう。もちろん、こんな場所でそんなことを思い浮かべるなんて不謹慎だが、すでに一度知ってしまった感触は消せるはずもない。

 

「俺だけの彼女」なのに、周囲の誰もがその魅力に気づいてしまう──その事実が、胸の奥を焦がすような嫉妬を呼び起こす一方、誇りや自尊心もくすぐられる。なんとも言えない甘美なジレンマの狭間に、俺は立ち尽くすしかない。

 

 彼女が着ているチャイナドレスは白を基調として、淡い銀糸で植物モチーフの刺繍が施されている。高めの襟は首元をきゅっと締め、上半身の繊細さを際立たせつつも、胸元のカッティングはほんのりV字に開いていて、華奢ながら女性らしいラインをちらりと感じさせる。サイドスリットは両側に深く入れられ、(もも)上部どころかヒップの曲線まで浮かび上がるほど大胆だ。

 

 肩には薄手のファーを羽織っているが、秋の涼やかな風に合わせているだけで、視線の焦点をあえて下半身へ流すように計算されているようにも見える。靴はやや厚底のチャイナ風ヒール。彼女の身長を少しだけ高く見せるだけでなく、足首を華奢に、太もものボリュームをさらに引き立てる効果がある。

 

 髪型は高い位置でゆるくまとめた部分と、少しだけ垂らした前髪とのバランスが絶妙だ。黒髪の艶やかさが、ドレスの白と銀の色合いを引き立てる。耳元には小ぶりなイヤリングが揺れ、ほんのり差し色になるようにブルーの石がはめ込まれている。ひょっとすると、彼女の「真珠のような肌」と対になる色を意識して選んだのかもしれない。

 

 ◇

 

 六花は一見クールで近寄りがたい雰囲気を漂わせているけれど、俺が知っている彼女は実に繊細で優しい。日頃から貧乏くじを引かされても文句を言いながらも受け入れるお人好しな面があるし、俺が何気なく甘えても、結局は付き合ってくれる。

 しかし今、彼女がステージ周りや模擬店で堂々とチャイナドレス姿を見せているのは、そんな「お人好し」な部分とは正反対の、刺激を求める性格が表に出ている証拠だ。まるで「私を見て」と言わんばかりに歩く彼女の足取りはゆったりとしていて、落ち着きのある笑顔と少しだけ()ねたような表情が混ざり合っている。

 

 かつては「コンプレックス」と言っていた下半身を、今ではむしろ武器にしようと考えているのかもしれない。自分の魅力を存分に使うことで、あえて周囲の視線を集める。それによって、俺の嫉妬や独占欲を(あお)ってもいるのだろう。

 

 でも、それは俺を困らせたいわけじゃなく、「ここまで魅せても、あなたはちゃんと私を独り占めする勇気がある?」と問いかけているかのようだ。そう思うと、気が急く一方で、胸の奥が妙に熱を持ちはじめる。

 

 文化祭は(にぎ)わいのピークを迎えている。秋晴れの空の下、模擬店の煙が立ち上り、スピーカーから音楽が流れ、あちこちでカメラのシャッター音が聞こえる。グラウンドの一角には特設ステージがあり、バンド演奏やパフォーマンスが引きも切らない。そのステージ袖には、後ほど六花が出演するダンスイベント用のメンバーが集まっているらしい。

 

 校舎内の廊下はポスターや案内板が並び、カラフルな装飾に包まれている。人の流れは多いが、皆が楽しそうに談笑したり、写真を撮りあったりしていて、余裕のある雰囲気だ。六花のチャイナドレス姿は、そんな日常と非日常が入り混じる文化祭という舞台で際立って見える。ちょうど秋の光が傾きかけている時間帯で、窓からの斜めの陽射しが、彼女の白い布地を幻想的に照らし出す。

 

 やや斜め後方から六花を見ている位置取りになった俺は、彼女の下半身のラインや振り返ったときの横顔を絶妙に捉えられる角度にいる。視覚の中心にはどうしても、その大胆なサイドスリットと曲線を刻む太ももが飛び込んできてしまう。

 

 時々、彼女がこちらをチラッと見る。ふと目が合った瞬間、軽く微笑むような、あるいは挑発するような視線を寄越(よこ)してくる。そのたびに、俺の中に眠る嫉妬や独占欲がうずき出すが、同時に「こんなにも美しい姿を独り占めできるのは俺なんだ」という誇らしさも湧き上がる。まるで、彼女と俺の視線のやりとりだけで物語が進行しているようだ。

 

 チャイナドレスの脇には、金色のスカシ模様があしらわれていて、そこから若干透けて見える肌が印象的だ。特にウエストのくびれ付近には細かい刺繍が配置され、彼女が動くたびに柔らかな布が肌に貼りついたり離れたりする。

 

 スリットを境に(のぞ)く太ももの奥──ここまでは見えないはずなのに、わずかな動きで生地がたわむと、肌の陰影がちらついて、「もう少し上まで見えてしまうんじゃないか」という幻想を抱かせる。彼女がスカートのすそを引く瞬間の指先は、爪に淡いピンクのネイルが塗られていて、そのさりげない装飾がまた甘い色気を醸し出す。

 

 さらに、ヒールの高さも絶妙だ。小柄な身長を補うだけでなく、足首からふくらはぎにかけてのラインをすらりと見せることで、太もものボリュームと対照的な華奢(きゃしゃ)さを強調する。六花の長い黒髪は上部でまとめられており、そこに取り付けられた小さな金色の飾りが、歩くたびに揺れている。その一瞬一瞬を切り取るだけでも、一枚の絵画のように完成度の高い光景を成しているように感じる。

 

 あれから一年、俺たちは恋人関係を深め、キス以上の体験を何度も重ねてきた。ふとしたきっかけで彼女がコンプレックスを打ち明けたときも、「俺はそれが好きだ」と告げたら、不思議そうに微笑んでいた。六花にとって、下半身のグラマラスさを肯定されることは初めてだったのかもしれない。

 

 そうして彼女は、自分の体を武器に変えていった。周囲に対しては相変わらずクールな印象を与えながらも、実は刺激的な冒険心を胸に秘めている。今回のチャイナドレスも、クラスの提案というよりは、彼女自身の好奇心が決め手になったのだろう。

 

 今はまだ高校の文化祭という小さな舞台かもしれないが、この先、彼女がどんな場所でどんな姿を見せるのか──考えるだけで少しだけ不安がこみ上げる。いつか、もっと遠くの世界へ飛び立ってしまうのではないか、そんな危惧(きぐ)が俺の胸を鋭く刺す。

 

 実際、彼女を見つめる人々の顔には、羨望(せんぼう)や憧れ、あるいは畏敬(いけい)にも似た感情が表れている。六花という存在は、気軽に手を伸ばせる相手ではない。その事実こそが「高嶺の花」と呼ばれる所以(ゆえん)なのだ。

 

 だが、彼女は同時に俺の恋人でもある。誰もが届かないと思うほどの存在が、俺にだけは寄り添い、その肌を預けてくれる──この矛盾に似た快感が、俺の独占欲と誇りを同時に満たす。彼女の内面には優しさとお人好しの性格があり、それを知っているのはきっと俺を含めたごく少数だ。

 

 だからこそ、こうした公の場で、あえて大胆な姿を披露することに「どういうつもりなんだ?」と問いただしたくなる時もある。しかし、彼女が周りを魅了すればするほど、俺の心の奥で「それでも俺のものだ」という声が響く。愛しいのに焦れったい。その混ざり合いが、恋の甘さをさらに濃密にしている。

 

 夕方になりかけの校庭で、六花が少しだけ人目を避けるように歩いていくのを見つけた。どうやら休憩がてら裏手のほうへ向かおうとしているらしい。俺はその後を追い、人気(ひとけ)の少ない木陰でようやく声をかける。彼女は振り向きざま、クールな顔に少しだけ微笑みを浮かべた。

 

「あまり見過ぎると、他の人に気づかれちゃうよ?」

 

 そんな挑発めいた言葉を受けて、俺は胸の中に()まっていた独占欲をどう放出すればいいのかわからず、言葉に詰まる。彼女は苦笑するように歩み寄ると、片腕を俺の首にかけて密着してきた。そのまま、唇が重なりそうなほど近づいて……でも、あと一歩が埋まらない。

 

「フフ。あのさ、欲しくない? 私ら二人だけの、誰も気にしなくていいお城」

 

 その問いかけがもたらす甘い緊張感に、俺は言葉を失う。彼女の息遣いが耳元に絡みつき、瞳がどこか楽しげに揺れている。──この一年で、俺たちが積み重ねてきた時間と、その先にある未来を象徴するような瞬間だった。

 

(終わり)

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