遅れましたが一応は5月中なので許していただきたい。
鉄の踵
保護歴一一九年十月七日。
古関ウイの死から二ヶ月後のこと。
T区の三の一の四の八にて。
「ヒナタ、調子はどう?」
「心配には及びません。しっかり、水分も摂れていますから」
そう言ってヒナタは笑みを見せるが、頬は少し
──目の前で親も同然の存在を喪えば、こうもなるのか──マリーから相談されていた通りだ。先生として、生徒には手を差し伸べなければならない。
「ヒナタはあの日と向き合っているんだね」
「私は、あのとき、先生を助けられませんでした」
「そう。私たちは、ウイを助けてあげられなかった」
エックハルトの過去がなんであれ、彼の感性がこの社会で育ったことは揺るぎない事実である。取って付けたような薄っぺらい言葉で共感したふりをするよりも、正面からぶつかるべきだと考えたのだ。
「キミだけが罪を
「……エックさん」
「もしあの日のことで悩みがあるなら、私にも分けてほしい」
「ありがとうございます。では一つ、聞いていただけますか」
もちろん、エック先生は首を縦に振った。ヒナタは安心した様子でふーっと息を整える。決心がついたように、二人は目を合わせた。
「ウイ先生の声が聞こえるんです」
ペラ、ペラ。
一本の光源から放たれる、微かな明かりを頼りに。せっせと文章の行間を縫って駆け回る。
一頁一頁をじっくりと読むには、地下図書館の所蔵量はあまりにも膨大で、エック先生に残された時間はあまりにも少なかった。
「殊勝ですね、先生。一人の生徒のために寝る間も惜しむとは」
天にまで届く様相で積み重ねられた本を眺め、黒服はそこから一冊だけ手に取った。
「クラフトチェンバーについて、知りたいのですか?」
「あれが光ってウイが死んだとき、その場に私とヒナタも居合わせていた。私に変化は見られないが、ヒナタは固定者……なにか影響を受けたかもしれない」
「ふむ、単なる心的外傷の類なのではないでしょうか。恩師が液体となって消えるのを目撃したのですから、到底癒やされ得ない傷を心に負ったとしても。なんら不思議ではありません」
「もしそうであれば、時間に解決してもらおう。しかし、もしそうでなければ、
エック先生は分厚い本をパタンと閉じてバベルの
ここには彼の求める答えは、少なくとも納得のいく答えはない。
「では、私から一つの仮説をたてましょう。先生のお気に召すかは測りかねますが」
「聞こうか」
「ウイさんの身体が液体へと変化したことを踏まえると、神秘を抽出された身体は耐えられずに朽ちてしまうと考えられます。しかし、ヒナタさんを始め、固定者となった元生徒たちは存在しているわけです。さて彼女らはどうして生きているのでしょう」
「……さしずめ、生まれ変わったといったところかな」
「そう形容してもいいですね。肉体が保たなくても魂があるのなら……これは魂と定義されるものが実在することが前提となってしまいますが」
人間の認識能力では不可知とされる物自体を土台に論じるなんて、カントが聞けば鼻で笑うことだろう。
「魂、ね」
「ユメさんとは面識があるでしょう? かつての彼女は梔子ユメ。保護者が現れる以前に死んでいた生徒です。保護者がどのような奇跡を施したのか明らかではありませんが、なんであれ現実に蘇らせてみせました」
思わぬ情報で驚くエック先生をよそに、黒服は話を続ける。
「その昔、ゲマトリアでも魂の証明、及び研究を試みたことがあります。たとえば、二つ以上の魂の統合など──肉体を失って魂だけとなったウイさんが、その場に居合わせたヒナタさんと混じってしまったのかもしれません」
「そんなことがあり得るのか」
「ククク……どうでしょう。あくまで推測の域は出ませんので」
好き勝手に語って満足したのか、黒服は木製の椅子に深々と座って口をつぐんだ。
二人は静寂を噛みしめ、しばらくしてエック先生が先に席を立った。
「先生、一人で抱え込んで根を詰めすぎないようにしてください。昔からの悪い
「どうも。お心遣い痛み入るよ」
約五年後。
保護歴一二四年九月十三日。
──白い。真っ白だ。居心地が悪い。いや、もはや良し悪しの問題じゃない。居心地なんてものはない。ここは?
上下左右すべてが無機質だ。そうだ。目前に本があった。山積みだ。なぜ?
私は、白い服を着ていて、手にはライターがある。ライター? 私はさっきまで手ぶらだったはず。どうしてこんなものを握っている。
煙の匂いがする。パチ、パチ。これは、火だ。燃えている。
燃えている! 本が。私か。違う! 私は火なんて。
火柱は天井まで届いて、私の前を立ちはだかって。奥には、奥には人らしき影が見える。しかし、まるで人ではない。
女性だろうか。緑の服を着ている。大きなヘイローを携えて。床に届きそうな長髪。私のことをじっと見ている。
この視線、今まで夢で見てきたものと同じ感覚だ。まさか、あれが正体?
そう考えたときには、すでに火だるまだった。どうして燃えているのだろうか、私は。気付いたら、女性のほうへと足を動かしていたのだ。
「あ、あ、ああ、?」
焼ける。皮膚に火が通っていく。呼吸ができない。
そんなことは些事だ。あの女性、彼女はまだ居るのか? 私は手を伸ばそうと──
「──はぁっ、はあ、ふ」
目覚めると、エックの手が重力に逆らって伸びていた。天井に触れそうなほどにピンと伸ばしきっていた。
起き上がると、ベッドが汗を吸収してぐっしょりと濡れている。緊張しきって爆発でもしそうな心臓を押さえつけた。
「ふぅーっ……ふぅーっ……」
次第に落ち着きを取り戻すと、時間を確認する。どうやら、BCFが鳴るよりも早く飛び起きてしまったらしい。
義務起床時間より早く起きても罰則はない。とはいえ、睡眠時間が無意味に削れたのはエックにとって惜しいことだった。
乾ききっていないシーツに身体を沈ませる。寝汗でベッタリとした衣服と肌が擦れあうたび、彼の不快感を増大させた。
疲労ゆえの悪夢だろうか。彼はあの感覚を忘れるために目を開けたり閉じたりを繰り返す。BCFが鳴るまでの辛抱だと言い聞かせた。
──夢にいた、あの生徒は──
車を飛ばして十五分。視界の隅に奉仕場が映る。次第に大きくなって見えるその建物は、周囲の無骨な建造物とは違って異彩を放っていた。
ピラミッド状のそれは、百メートル前後のビル群を小さく見せるほどの高さである。雲の隙間から天辺が垣間見え、その光景は神話に出てくる塔を想起させる。キヴォトスに立つ保護者の権威を象徴するものであり、見上げた市民は否応なく畏敬の念を抱かせられる。
キヴォトス各地に点在するこの超巨大ピラミッド体。これらは分割された保護府の職能を担う省の建物だ。
福楽省──エックが向かっているここには、〈データベース〉の情報や報道、芸術などの管理を担う機関が敷き詰めてある。近年では、娯楽を担当する部局が新しく置かれていた。
エレベーターホールから七十歩ほど離れた位置。名も知らない同僚たちとすれ違いざまに軽い会釈をして、背もたれのある柔らかい椅子に座った。机の下にある機械と後頸部を接続して数秒後、モニターが小さく発光する。
ぼやけて見える文字列に、エックはメガネを掛けてじっと凝視した。
〈ジャンル*有人音楽─ブラック・デス・ポイズン 来歴 修正〉
〈ジャンル*古典料理─うまトマハンバーグ 項目及び言及 削除〉
〈ジャンル*報道─二・二十一保護表彰 ドン・アランチーノ 全修正 要付託〉
軽く肩を揉んでから伸びをすると、エックはさっそく目の前の奉仕に取りかかった。
彼が属する〈記録局〉は「データベースの管理」を担当していた。彼に割り振られる業務は、改変(表向きには修正)するべきだと判断された情報の、適切な処理である。
一番目や二番目は、いわば歴史の辻褄合わせ。キヴォトスが統一されてからまだ二十四年ばかりだというのに、そこに百年も盛るのだから齟齬も生まれる。大半の業務はこういう十数分程度で終わる些細なものだ。
二つの業務を早々に片付け、骨が折れるであろう三番目の案件に取りかかった。前者は数字や資料と睨めっこする能力さえあればブルドッグ族でも容易い作業だが、後者だとそうはいかない。
ファイルを展開する。半年前に行われた表彰、その報道に誤りがあるとのことだった。
表彰された「ドン・アランチーノ」という人物は不適となった。より適切な人物に書き直し、上層部に付託せよ──指示書にはそう命じられている。
ロボット種であり、アランチーノ族の優秀な協力者、ドン・アランチーノ。彼の身に何が起こったのかを民衆が知ることはない。明らかなことは、彼が表舞台に立つことは二度とない、という一点のみ。
──ちょっとした不祥事であれば、ここまでの処置は取られないはずだ。おそらくは内乱、もしくは暗殺でも謀ったのだろう──
しかし、ドン・アランチーノが政治犯だったかはエックによる根拠のない推測でしかない。なぜなら、保護者君臨から現在にいたるまで
もしかしたら、彼はR区の郊外でひっそりと余生を過ごしているのかもしれない。あるいは、すでに処分されている。彼の末路は人々の想像力次第である。
エックは報道記事を読みながら、その表彰式の光景を頭に起こす。今まさに表彰されんとする人物の顔をイメージしてみた──ドニャ・マンダリーノ。無名の清掃奉仕員であるものの、生来の生真面目さゆえに過去の一度も義務違反をせず過ごしてきた。そして、三十年間の無違反を賞して表彰されたのだ。
ドニャ・マンダリーノなる人物は存在しない。だが、たった数十バイトの文字列と識別番号さえあれば存在することになる。紙切れも偽造写真も必要ない。この修正案が通れば、三日後にはデータベース検索に出てくるようになるだろう。
無名の流動者が表彰されることも珍しくない。無違反による表彰も、年に十数回といったところか。誰かがこの記事を読み返したとして、その違和感に気付くことはない。
かくして、保護府が賞賛するに相応しい人物へと置き換わった。エックはデータを送信すると、首元のケーブルを抜く。昼前に奉仕を終えられたからか、満足げな様子で椅子にもたれる。午後にはまた案件が積まれる現実には目をつむって。
そんな彼の肩にポンと鋼鉄の冷たい手が置かれた。
「調子はどうかな。教授」
「ついさっき一通りの奉仕を済ませたところです、局長」
大柄な
「では、一緒に昼食といこうじゃないか」
威圧感のある姿とは裏腹に、なかなか親しみ深い人物である。少なくとも、結果を残せているエックからはそう見えていた。
二人は階下にある共有食堂へと向かう。福楽省の全協力者が施設内の食堂を利用するので、十階層に渡って食堂フロアがあってもぎゅうぎゅうの大盛況だ。
カイザー局長は食堂フロア一番上の階層で止まり、エックもその後を追ってエレベーターから降りた。この階の食堂はお偉方専用なので、
なにかを思い出したのか、局長が後ろを振り向いてエックに食事チケットを一枚渡す。
「ここの階層だとキミのでは通れないだろう」
「なるほど。では、ありがたく頂きます」
ぱっと見だと、そのチケットはエックが持っている紫色のものと大差ないように見えた。しかしよく観察してみるといくつかの相違点が浮かんでくる。
角に一本の線。識別番号と同じ役割だと思われるマーク。ざらざらとした手触り。光にかざしてみると、どうやら透かしもあるようだ。
「試作段階ではあるがね。偽造防止の技術が使われているんだよ。ゆくゆくはすべてのチケットに、と。科学省は大層に張り切っているそうだ」
「しかし、偽造騒ぎを聞いたことはありませんが」
「まったくな。現状で満ち足りているというのに、危険を冒してまで偽造するようなノータリンなど。そう滅多にお目にかかれない」
二人はお喋りを維持したまま、チケットと料理の乗ったトレーを交換して窓際の席についた。ちょうど大空路が正面に見えるので、なかなかの眺めを楽しめる。
「お世辞にも費用対効果がよいとはいえません」
「たかが数件の義務違反を未然に防ぐだけだろうな。しかしだ、教授。されど数件なのだ。保護者が照らすキヴォトスは完璧であらねばならないのだよ。その完璧を、愚者ごときに汚されてはたまったものではない!」
握りこぶしを振る局長は、まるで街頭演説かのように興奮しきっていた。さすがに食卓を叩かない程度の理性は備えているようで、次第に落ち着きを取り戻していく。
「永遠平和のためにも、完膚なきまでの秩序の実現を叶えなくてはなりませんからね」
「その通りだ。それこそ、
永遠平和のために──保護府がこれ見よがしに掲げているスローガン。その夢を実現しようと、協力者たちは保護者の下で日々邁進するのだ。
まったく馬鹿げている。フォークで突き刺した蕩ける肉を口へと運び、窓の外に広がる冷たい街を見ながら、エックはそう思考した。
永遠平和とは、まさに
欠乏を埋め立て、苦悩を破壊して、危険を排斥して。
最後には、人間を棄てる。
残るのは鉄のみ。
「なんだ、暗い顔をしているな。私の長話で飯が不味くなったか」
「いえ。そういうわけではありません。ただ、欠乏を満たしてもなお道を外れようとする人間の愚かさに辟易しているんです」
「……まあいい。キミを食事に誘ったのは、固定者の餌にもならないような下らん話をするためではない。キミの華々しい活躍についてだ」
「華々しいとは無縁のデスクサービスですけどね」
「謙遜もし過ぎてはいけないぞ。たった二年で数え切れない功績を挙げた。凡人には到底できない奉仕ぶりだ。保護者もさぞ喜んでいることだろう」
実際、エックハルトは数多くの隠蔽、もとい修正を成功させた。思考教授としての下積みが活きたのだろう。
くすぐられる功名心を必死に押しとどめ、ただ果たすべきことを果たすため、協力者としての実績を積み上げた。
すべては保護者と会うためと、自分に言い聞かせて。
「保護者曰く『献身者には、それに相応しき賞賛を』だ。受け取るといい」
局長はナプキンで口を拭いた後、一枚のチケットをエックに渡した。その紙切れには〈五感映画 テスト鑑賞〉と書かれていた。見聞きしたことのない単語にエックは首をかしげる。
「ここ最近設置された、あの……あー、娯楽局だったか。そこのプロジェクトらしい。きっといい体験になるぞ」
「協力者の中でも上の人に配られている
「気にせずとも違反行為ではない。それに、私はこういうものに興味がなくてな」
なんだか受け取らないといけない雰囲気になっても、エックは顔色一つ変えなかった。先生でいられる貴重な自由時間を削らないといけないのは癪だったが。
「何から何までありがとうございます」
「礼はいい。近々、教授宛てによい報せが届くはずだ。これはその前祝いだと思え」
局長の言う〝よい報せ〟というのがなにか。気になりはしたものの、エックはその場で聞き出すのは控えた。局長が勿体ぶった伝え方を好み、それでいてその意図を汲まずに尋ねられると不機嫌になることも知っていた。
昼食時間の終了を知らせる音色が鳴ると、エックはオフィスに戻って午後の奉仕を終わらせ、帰路についた。ハンドルを握りしめて黄昏時となった空を眺める。
「クックック、素晴らしい景色ですね」
「……いつから居た?」
「出勤時から後部座席に溶け込んでいました」
「暇なの?」
その真っ当な疑問を無視し、黒服はエックの胸ポケットを漁る。例のチケットを抜き取りじっくりと観察した。
「映画ですか。興味深いですね、地上では食事以外の享楽はないと思っていたのですが」
「まだ卵から孵ったばかりだからね」
エックは片手運転のまま華麗にチケットを取り返してポケットにしまう。眠い目を擦りながらも、そろそろ自宅が近づいてきた。
「それ、観に行くんですか」
「そりゃ、当然。せっかく貰ったものだし。感想も伝えなきゃでしょ」
「律儀ですね」
一週間後。エックはチケットに記された場所へ向かった。M区の郊外に置かれたその施設は、非居住指定区域でひた隠しにされていた。何重にも渡るセキュリティ、不気味な機械音が木霊する廊下の末、ようやく目的地に着いた。
いくら最新のものとはいえ、ここまで厳重にする必要があるのかと彼は訝しんだが、その疑問は目前の光景を見て消え去った。
薄暗い部屋だが、不安は湧かない。むしろ、安心感のある空間だった。まるで生を享受する以前にあった無限の暗闇のようだ。絨毯のように柔らかな床材も相まって、とても居心地がいい。
巨大なモニターらしき幕が垂れ下がり、ずらっと並んだ席にはコネクタが備わっている。暗がりでよく見えないものの、彼の他にも来客とみられる人影があった。省長クラスのカイザー族らしき顔ぶれもいる。
空いている席に座ってヘッドレストのコネクタに接続する。
〈注意喚起*このプロジェクトはテスト段階です。鑑賞後の副作用も報告されています。皆様は被験者という立場にありますので、当局は副作用について一切の責任を負いません。ご了承ください〉
〈この度は、娯楽局がお送りいたします五感映画に足を運んでくださり誠にありがとうございます。皆様の肘掛けにあります半球型のトラックボールにお手を置いて、今しばらくお待ちください〉
脳内に響く形式的挨拶。エックは指示通り、ボールの上に手を被せた。すると手が自然と吸着してピッタリと離れなくなった。微弱な電流を流しているのだろう。
数分して、モニターが白く光る。上映開始だ。
世界は暗闇に突き落とされる。
血の雨。銃の声。死の香。
暗雲。破壊。混沌。
狂気と痴愚で窒息する。
──一筋の光。
雨は止み。声は消え。香は失う。
晴天。創世。秩序。
保護がもたらす真の安寧。
光の化身は我々の手を取る。
幕は閉じた。五感映画の名に恥じない出来だというのが、エックの率直な感想だった。しかし、わかっていたことだが単調な中身である。ただの保護者礼讃であり、そこに物語は存在しない。甘く評価したとしても叙事詩にさえ値しない脚本だ。
劇場は拍手で包まれ、すでに両手が自由となっていたことに気づいた。エックも周囲の雰囲気に吞まれて手を叩いた。
拍手はいつまでも鳴りやまない。身体に振動が伝わるほどの喝采は、五分ほど続いた。
ようやく帰れると足を踏み出した瞬間、逆らえない脱力感に襲われる。膝から崩れ落ちながらも彼が周囲を見渡すと、どうやらこの症状はエックだけではないようだ。
救助奉仕員の呼びかけが、意識が途切れる寸前の最後の記憶だった。
目覚めると、自宅のベッドだった。すぐにエックは辺りを見回して異常がないことを確かめる。
不思議な体験だった。まるまる一ヶ月、あの劇場にいた気さえする。しかしチケットの切れ端に書いてある時間を見ても、上映時間はきっかり七分だと主張している。
昼前の上映だったのに外はとっくに日が傾いていた。彼は相当な時間を寝ていたらしい。
五感映画なるものはかなり危険だ。エックが実際に経験したような副作用があって、これが未だテスト段階なのかが理解できる。
──しかし、あの高揚感。あの激情は素晴らしかった──
エックは耳裏を押す。浮かび上がる一週間先までのスケジュール表には、たった一つだけ予定が入っていた。
〈第一四八八回 保護者会 出席〉
ふと局長の言葉を思い返す。
『礼はいい。近々、教授宛てによい報せが届くはずだ。これはその前祝いだと思え』
呆気にとられたエックは、慌てて通知を開いた。
〈管理局より:エックハルト、あなたを正式な純協力者に任命する。これは、
さて、ついに保護者との対面ですね。
どうなることやら。