女が強いあべこべ社会な種族の宇宙海賊で戦闘員をやっている男の話   作:スペースパイレーツ

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クロウとプリム②

 幼い頃、ゼファの子どもたちは皆、戦士としての訓練を受けるのが当然だった。それはクロウとプリムも例外じゃなかった。だがクロウの場合は他よりも厳しい立ち位置にいた。

 

 男でありながらサイオニックを使えるとはいえ、周りにいる女の方が地力が強い。特にプリムは才能があり、勝負していたクロウは実力差を痛感する毎日を送っていた。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 荒れ果てた訓練場の中央で、クロウは地面に膝をつき、息を荒げていた。体中に擦り傷ができ、服も土まみれだ。対するプリムは、まだ余裕を残した表情で木剣を構えている。

 

「クロウ……もう無理しなくていいんじゃない?」

 

 プリムは少し困ったように眉を寄せた。目の前のクロウはすでに何度も倒されている。それでも、また立ち上がろうとしていた。

 

「まだ……終わっちゃいない……!」

 

 クロウは震える腕に力を込め、よろめきながらも立ち上がる。その姿を見てプリムは小さく息を吐いた。どう足掻いてもここから逆転して勝つのは無理だ。

 

「クロウ、あんたは頭がいいし、戦い方だって悪くない。でも……その体じゃ……私たちと一緒に前線へ出るのは厳しいんじゃない?」

 

 嫌味のようにも聞こえるが、これは彼女なりの親切心だった。宇宙は非常に厳しい、それはゼファの女のように強い生命体であっても容易く死に至る世界だ。そんな世界に今のクロウでは無駄死にするだけと考えていた。

 

「うるさい……!」

 

 しかしそんな言葉で彼は止まらない。

 叫ぶと同時に、クロウは再び突っ込んでいく。しかしプリムは冷静にそれを見極め、ひらりと身をかわす。そして次の瞬間にはクロウの足元をすくい、あっという間に地面に転がした。

 

「動きもわかりやすすぎ」

「ぐ……」

 

 クロウは悔しさに唇を噛みしめる。

 地面に拳を叩きつけ、痛みに顔を歪めながらも、再び立ち上がろうとした。その姿を見てプリムは思わず苦笑する。

 

「もう、ほんと頑固なんだから……。いい? ゼファでは、戦える者は戦う、支える者は支える。それでいいの」

「俺は戦える側に入りたいんだよ!」

 

 クロウはぐっと歯を食いしばる。幼いながらに、その目には確かな決意が宿っていた。

 

「……ほんと、どうしてそんなに負けず嫌いなのよ」

「――なりたいからだ」

「何に……?」

 

 クロウは息を深く吸ってまた言った。

 

「カエラムみたいに……なりたいからだ!」

「……どうして?」

「今のゼファは……みんなバラバラだ。だからまた纏めるには象徴(アイコン)が必要なんだ」

 

 それは幼いながらに決めた、道のりの険しい夢。

 一族が厄災に見舞われた際に立ち上がったゼファの英雄のようになれば、バラバラになってしまった彼らをまとめられるかもしれないという、果てしない夢だった。

 

「ゼファがもう宙賊とか言われないように、俺はしたい」

「……」

「だからこんな所で諦めたくないんだ」

 

 そんな壮大な夢を本気で叶えたいと考えているクロウを見て、プリムはすっかり黙ってしまった。決して呆れてるからじゃない、魅せられたからだ。

 

「……そう、じゃあ続き、しよう」

 

 願わくば彼の近くにいて、その壮大な夢を見れたらどんなに素敵だろうか――などと思いながら。

 

 ◆

 

 スティング――それはクラン・オブ・ストームの拠点であり、帝国の支配を逃れた者たちの避難所だ。

 

 この星は、広大な荒野と険しい岩山が広がる過酷な環境だった。地表の大半は乾いた赤褐色の砂に覆われ、強い風が吹けば砂嵐が発生することも珍しくない。だが、そんな厳しい環境の中でも、スティングは活気に満ちていた。

 

「やっっと帰ってきたなぁ」

「少しの間だけど、休息は嬉しいもんだ」

 

 中心地には金属製の建物が無造作に並んでるような寄せ集めのような造りだが、無骨な美しさがあった。通りには様々な種族が行き交い、独自の文化が混ざり合う。二つの瞳を持つ者もいれば、四つの腕を器用に使う者、羽毛に覆われた者、機械と融合した者まで、ありとあらゆる存在が肩を並べていた。

 

 そして航海から帰還したゼファの女達は、思い思いに繰り出しては友人達と時間を過ごす。屋台に並んだり、仲間と肩を並べて酒を飲み交わしたり色々だ。

 

 そんな中でとある酒場の一角にいた女達は、豪快に酒を飲みながらコソコソ話していた。

 

「――にしても……船長なんであんな不機嫌だったんだろーな」

「さぁ」

 

 それは自分達の船長であるソヴのことだった。

 スティングの港に着き、指令があるまでは好きにしろと大号令を敷くまでは良かったが、そのあとは露骨にテンションが低かった。

 

 あまつさえ見かねたアリシアが、軽く注意すると「うっせえ」と言う始末。あの時のアリシアの顔はクルーメンバー全員が恐怖を抱くぐらい、冷たい表情だった。

 

「なんだ知らないのかよ」

 

 するとクルーの中で古参の女が言った。

 眼帯をつけ、顔には傷と如何にもな見てくれをした彼女は、仲間達に面白い事実を教えた。

 

「プリムとクロウ……今日はなんか2人で過ごすからだよ」

「んえ!? まじっすか! あの堅物ですぐ股を開きそうに無さそうなクロウが??」

 

 偉い言われようだが、クロウはとにかくガードが硬い。

 これまで番を持たないほぼ全員のクルーがクロウに迫ったりしたが、とにかく躱されまくっている。無理矢理はやめろというお達しは出てるが、迫ること自体は認められているため、何度もアタックされまくっていたが……クロウは決して靡かなかった。

 

 それはとびっきりの美しさを持つプリムを前でもそうだった。

 

「なんか妙な約束事みたいな結んでるみたいでよ、プリムはデート権利をもらったらしい」

「いいなぁ……うらやましい。でもそれがなぜ船長の苛立ちに繋がるんです?」

 

 眼帯の女クルーは一応辺りをキョロキョロ見渡した後に言った。

 

「船長とプリム、そしてクロウは幼馴染なんだよ」

「えっ」

「じゃあ……それって」

「三角関係って奴さね……」

 

 ゴクリ……とクルーは息を飲む。

 なんだその関係性、ちょっとドロドロしてるじゃんと高揚感すら湧いてきたクルーは、更にコソコソと話す。

 

「まさかそんな関係性だなんて……!」

「当事者は嫌だけど、外野から見たら何かワクワクする……!」

「そうだろそうだろ? だからよ……船長はとにかく落ち着きが――」

 

 それ以上言葉を続けようとした瞬間――視界の先に()()2()()が映った。プリムはクロウの腕を取り、楽しそうに市場を巡っている。彼女の顔は戦士としての凛とした雰囲気はなく、ただデートを楽しむ1人の女の子だった。

 

「プリムとクロウ……!」

「見せつけやがって……!」

 

 グギギとクルーが見る中で、2人は気づく事なくゆっくり歩いていた。

 

「私こういう場所、好きなんだよねー……。クロウは?」

「嫌いじゃないよ」

 

 プリムとクロウが見て回っているスティングの市場は、小さな星とは思えないぐらい、様々な種族が集まっている場所だ。

 異国情緒あふれる屋台が並び、果物の甘い香りとスパイスの刺激的な香りが入り混じる。様々な種族が行き交い、商人たちの威勢のいい呼び声が飛び交う中で、クロウとプリムの二人はいつもとは違う装いをしていた。

 

 クロウは黒を基調とした民族衣装を身にまとい、胸元にはゼファの戦士が正式な場で着る銀の装飾がついている。袖のないデザインが、彼のしなやかに鍛えられた腕を際立たせていた。

 対するプリムは、鮮やかな藍色の布地に金の刺繍が施された、ゼファの女性らしい衣装を纏っている。腰に巻かれた薄手の布が歩くたびにひらりと揺れ、彼女の優雅な雰囲気を引き立てていた。

 

 「ねぇ、クロウ!」

 

 プリムは嬉しそうにクロウの腕を取り、市場を巡る。

 

 「これ、見て! 綺麗な飾りじゃない?」

 

 彼女が指差したのは、ゼファの伝統的な装飾品だった。銀細工の髪飾りに、小さな青い宝石が埋め込まれている。

 クロウはちらりと視線をやったが、特に感情を表すことはなく、淡々とした口調で返す。

 

「お前には派手すぎるんじゃないか?」

「えー、そうかなぁ?」

 

 プリムはいたずらっぽく笑いながら、飾りを手に取って自分の髪に当ててみせる。

 

「ほら、似合うでしょ?」

「……」

 

 クロウは黙ってプリムを見つめる。

 

「……まぁ、悪くはない」

「ふふ、素直じゃないなぁ君は」

 

 プリムはくすくすと笑いながら、飾りを元の位置に戻した。その後も彼女は市場を楽しそうに歩き回り、あれこれと興味を示す。一方のクロウは、それに付き合いながらも、相変わらず表情を崩すことはなかった。

 

「ほらクロウ、これ食べてみて!」

 

 プリムが手渡したのは、市場の屋台で売られていたゼファの伝統的な菓子だった。見た目は素朴だが、スパイスの効いた甘さが特徴的な食べ物だ。

 

 クロウは一瞬だけそれを見つめたが、ためらうことなく口に運ぶ。ゆっくりと咀嚼し、無表情のまま一言。

 

「悪くない」

「もう、そればっかり!」

 

 プリムは笑いながらクロウの肩を軽く叩く。

 

「もっと楽しそうにしなよ〜」

「……俺は元々こういう感じだろ」

「ふーん? じゃあ、こういうのはどう?」

 

 プリムはふっとクロウに身を寄せる。近くで彼を見上げると、その瞳には変わらず冷静な光が宿っていた。しかし若干照れ臭いのか、少しだけ瞳が揺れているのをプリムは見逃さなかった。

 

「別に、悪くはない」

「ふふっ……」

 

 それを聞いたプリムは、まるで勝ったかのように微笑む。そしてまた、クロウの腕を引きながら市場を歩いていった。彼女は最初からわかっていたのだ。

 クロウは感情をあまり表に出さない。けれど、それは決して楽しんでいないわけではないということを。

 

「お、あれ……気になるなぁ」

「今度はなんだ」

 

 市場を歩き回るうちに、プリムはますます楽しそうな表情を見せていた。クロウは彼女に引きずられるようにしてあちこちを巡りながらも、時折、気配を探るように辺りを見回す。その無意識の警戒心は、戦士としての本能か、それとも単なる癖か――プリムはそれを指摘せずに、ただ笑って彼の腕を引いた。

 

「ねぇクロウ、占いとかやってみない?」

 

 指差したのは、屋台の一角に設けられた簡素なテントだった。中には年老いた占い師らしき女性が座っており、前には奇妙な紋様の描かれた石や、古びたカードが並んでいる。

 

「占いなんて信じてないだろ、お前」

「雰囲気は好きなのさ」

 

 プリムは軽快に歩を進め、クロウもため息混じりに後を追う。

 

「いらっしゃい……。む……お前さんたちは恋愛占いかね?」

「そうですよー」

「違う」

 

 さらりと嘘を吐いたプリムの頭をクロウは軽く小突くと占い師はくすりと笑った。全くもって油断も隙もない。

 

「じゃあ、運勢でも見てやろうか」

「クロウのも見てもらおうかな」

「俺か?」

「どんな未来が待ってるか気にならない?」

 

 クロウは微かに眉を寄せたが、結局プリムの押しに負ける形で椅子に座る。占い師は彼の手を取り、皺の刻まれた指で掌をなぞった。

 

「ふむ……。波乱万丈、試練が多い人生だねぇ。だが、それを乗り越えた先には確かな光が見える」

「……光?」

「そうさね。お前さんには重い責務がある。それが吉と出るか、凶と出るかは……お前さん次第だ」

 

 クロウは占い師の言葉をじっと聞いていたが、やがて静かに立ち上がった。

 

「……まあ、当たるかどうかは別として、興味深い内容ではあった」

「ふふっ、クロウが興味を示すなんて珍しいね」

 

 占いは誰にでも当てはまるような内容を、それっぽく言ってるだけに過ぎないと彼は考えていた。だからこそ自分の歩む道が容易くないのは承知の上だ。ただ光があると言われると、少し不安は和らいだ。

 

「じゃあ私のも――」

 

 そう言ってプリムも見てもらった。

 結果はそれなりに前向きな内容ではあった。

 

 ◆

 

 それから2人は街をとにかく見て回ったり、酒を嗜んだりと好きに過ごした。気づけばもう夕方近くになって、二人は市場の別の一角へと足を運んだ。そこはゼファの武器職人たちが集まるエリアで、鋭く輝く短剣や、精巧な銃器が並んでいる。

 

「クロウ、ちょっと武器見ていい?」

「ああ」

 

 プリムはある店の前で立ち止まった。そこにはゼファの伝統的な武器である双剣が並べられている。

 

「……中々の逸品だな」

「だね、私はこれがいいかな」

 

 プリムはにこりと笑いながら、一振りの短い双剣を手に取る。ゼファの戦士たちは女性が多いこともあり、この国の武器は細身でしなやかなものが多い。それでも、十分に鋭い切れ味を持っていた。

 

「クロウはどれが好き?」

「……実用性で言うなら、これだな」

 

 クロウが指差したのは、柄の部分に細工が施された一本の長剣だった。無駄のない形状で、重心のバランスが良さそうな一振りだ。

 

「ふーん……じゃあ、それ、買っちゃいなよ!」

「いや、俺はいい」

「えー、せっかくの機会なのに?」

「まだ使えるからな、今持ってるのは」

 

 クロウの言葉に、プリムは肩をすくめて苦笑した。

 

「ほんっと、堅物だねぇ。でも、そういうとこ嫌いじゃないよ」

「……そうかよ」

 

 クロウはそっけなく返すが、その口元はほんのわずかに緩んでいた。最初は乗り気じゃなかったが、誇りある戦士というのを忘れて、1人の住民として過ごすこの時間はやはり心安らぐ。

 

(平和な……時間……)

 

 これが終わればまた命のやり取りが行われる世界へ舞い戻る。もし……そんなことをしなくていい生活が続くなら、どれほど幸せだったろうか。

 

「クロウ」

 

 そう考えているとプリムがレーザーライフルをクロウの前に突き出した。

 

「なんだ?」

「最後にさ……勝負しない?」

「勝負?」

「そう、昔よくやった狩猟の勝負!」

 

 プリムはニヤリと笑う。

 

「デートの最後にはいいでしょ?」

 

 ◆

 

 スティングの市場を抜け、二人は荒野へと足を踏み入れた。夕焼けが広がる空の下、赤褐色の砂が風に舞い、荒涼とした風景が広がる。遠くでは、スティングの居住区の明かりがちらほらと灯り始めていた。

 

 クロウは手にしたレーザーライフルのストックを肩に当て、砂地をじっと見つめる。プリムも同じくライフルを構え、薄く笑みを浮かべた。

 

「覚えてる? 昔もこうやって競ったよね」

「ああ。お前に負けた回数のほうが多かったけどな」

「ふふ、それは認めるんだ?」

「事実だからな」

 

 プリムは茶化すように言いながらも、しっかりと標的を探している。

 

 目を凝らせば、荒野の砂の間を這うように動く影があった。ターゲットはこの星の小型捕食生物スリザード。体長は二メートルほどで、細長い体をくねらせながら、砂の下に潜り、また浮上する。まるで地を這う首長竜のような姿をしていた。

 

 クロウは銃の準備をし終えると、プリムに向かってニヤリと笑みを向けた。

 

「だがそれは昔の話だ」

「へぇ……じゃあ……見せてもらおうかな」

 

 二人はほぼ同時に膝をつき、ライフルの照準を合わせる。

 スリザードの群れが蠢く方へと照準を向けた2人は、絶好のチャンスを伺う。

 

(今だな)

 

 まず引き金を引いたのはクロウだった。

 赤い閃光が一瞬煌めき、まっすぐに飛んでいったレーザーはスリザードの首元を正確に撃ち抜き、砂の上にその巨体が崩れ落ちる。

 

「わ、やるぅ」

「群れ全部狩ってやろうかな」

「そうはいかないさ」

 

 プリムはまたすぐに撃ち、もう一体のスリザードを倒す。

 

「私だって戦士なんだから」

「こりゃ……負けてられないな」

 

 2人は一進一退の攻防を繰り広げた。

 しまいにはプリムの放った光弾をクロウが合わせて相殺したりなど、超人的なスキルを見せつけながらも、勝負は長続きしていった。

 

「――所でさ、クロウ」

「ん? 気を逸らす作戦か?」

「違うよ、真面目な話」

 

 するとプリムが真剣なトーンで語りかけた。

 

 

「今度の会談のこと、どう思う?」

 

 クロウは一瞬黙ったが、すぐに答える。

 

「ゼファの復興の一歩になるなら、悪くない」

 

 クラン・オブ・ストームが中心になって、新興クランの同盟を築き上げれば、悪事を働くクラン達にも対抗出来る戦力を得られるし、どこにも入っておらず、難民生活をしているゼファの民の居場所を作ってやれるかもしれない。

 これはかつての誇りを取り戻し、エキュメノ時代への回帰へと繋がる。何よりもクロウはそれを強く願っていた。

 

 だがプリムは少し違った。

 

「……そうだよね。クロウはそう言うと思ってた」

 

 彼女は静かに言いながら、砂地にしゃがみ込み、手のひらで砂をすくう。そして、指の間からさらさらとこぼれ落ちるそれを見つめた。

 

「最近みんながあんたをまるでカエラムの生まれ変わりみたいに扱うの、ちょっと違うって思わない?」

「……」

「だってクロウはクロウだよ? カエラムがどんな人かは知らないけど……」

 

 何も言わなかったクロウを見て、プリムは更に続ける。

 

「あたしたち、戦士として戦うのは当然だけど……それでも、人なんだよ。 でも、もしクロウが象徴になっちゃったら……それは、もうクロウじゃなくなる気がするんだよね」

 

 彼女はクロウを見上げる。その瞳には、はっきりとした不安が滲んでいた。

 

「私は幼馴染のクロウが好き」

「……プリム」

「どんなに辛くても、立ち上がる勇敢な貴方を見て……私は魅せられた。でも象徴に成り果てたら……って思うと」

 

 プリムはずっとそれが不安だった。

 近くにいるのが当たり前な彼が、自らの手から離れてしまうのを。

 

「みんながカエラムの後継者としてクロウを押し上げたら……クロウは遠くに行っちゃうんじゃないかって、思うんだ」

「遠くに、か……」

 

 クロウはゆっくりと息を吐く。

 確かに、ゼファの未来を背負うことになれば、もう今のような自由な時間はなくなるかもしれない。彼自身、そんなことは考えたこともなかったが……プリムの言葉には、一抹の寂しさが含まれていた。

 

(幼馴染……だしな、ずっと近くにいてくれたのはこいつだけだ)

 

 しばらく、風の音だけが荒野に響く。

 クロウは静かに歩み寄り、プリムの頭にそっと手を置いた。

 

「……俺は俺だよ。昔も、今も、これからもな」

「……本当に?」

「ああ」

 

 クロウは力強く頷く。

 

「俺のゼファを立て直したいという目標は変わらない。でも、お前が思ってるように……もし俺が象徴にされたとしても、絶対に自分を見失うことはない」

 

 カエラムそのもの――になる気はない。

 死ぬ気もない、復興のためにこの希少価値ある立ち位置を利用するだけだ。

 

「じゃあさ、最後は必ず戻ってきてくれる?」

 

 プリムがそう言うとクロウは薄く笑った。

 

「当たり前だ、どんな立場になっても俺はお前の幼馴染だ」

「ふーん……ふふふ、()()それで良いよ」

 

 満足そうに笑いながらプリムはまたライフルを構える。

 まだ時間は少しだけ残っている。

 余すことなく使い尽くさないと勿体無い。

 

「じゃあ、もう少しだけ勝負しよ。……今のとこ互角だし」

「ああ、そうだな」

 

 こうして2人は夜まで一緒に時間を過ごした。

 余談だが、帰ってきた2人を見てソヴは一線は超えてないよなと、しつこく聞いてきてまた一悶着起きたのは別の話だ。

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