女が強いあべこべ社会な種族の宇宙海賊で戦闘員をやっている男の話   作:スペースパイレーツ

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クロウと三人娘

「会談の詳細な内容が決まった」

 

 後日――クロウとプリムはアリシアに呼び出された。

 内容は彼女が言った通り、4つのクランによる会談の日程だ。

 間違いなくゼファの未来に関わる重大な案件なため、プリムはいつもの捉えどころのない雰囲気はなりを潜め、クラン・オブ・ストーム所属のクルーとして、真面目に聞いていた。

 

「今から2週間後……船長と護衛が会議に参加、その際にそれぞれのクランから貢物を出す事になった」

「貢物ですか……」

 

 クロウとプリムはお互いに顔を見合わせる。

 

「ゼファの伝統だ、友好と信頼の証に贈り物を授ける。我々は元々エキュメノの主要種族であり、誇り高い戦士。戦士は互いに獲物を信頼の証として献上し、誓いを交わす」

「伝統になぞらって会議を開く事で、改めてお互いの意思が同じであると対外にも示すためですか?」

「その通りだ、クロウ」

 

 敢えて古い方式に拘るのも、ゼファなりの理由があった。

 特に一族の復興となれば、そりゃ伝統を想起させるようなやり方のが印象的だ。

 

 理由はわかったが、一体何を捧げるのかとクロウが考えていると、アリシアの後方でチラチラと何かが見えた。

 

「じ〜……」

「おい……ララ! 顔出しすぎ……!」

「イリンこそ声大きいよっ、アナも何か目で訴えてるし」

「…………2人とも、目立ってる」

「「えっ」」

 

 クロウはジトっとした目を向ける。

 あの3人組にはもちろん覚えがある。クラン・オブ・ストーム屈指の賑やかし役であり、元気印の3人娘……ララとイリン、そしてアナだ。そんな彼女達はアリシアから見つかってないと思って、何やらゴソゴソと話している。

 

「……それで貢物だが、我々が主導を握るためにも……デカい獲物が必要になった」

 

 アリシアはチラリと後ろを見て、呆れたようにため息を吐くとホログラムを展開する。

 

「スティングのダークホールド洞窟内には、ドロメオという怪物がいるのは知ってるな?」

「この星の頂点捕食者ですね」

 

 プリムは興味深そうにホログラムを見ながら言った。

 ドロメオは翼のない竜のような生き物だ。ブラスターすら簡単に弾く堅牢な鱗に、強靭な顎、体内には可燃性ガスを生成する内臓器官があり、咆哮と同時に火を吐くクリーチャーだ。大きさも30〜40メートルとかなり巨大で、スティングでは1番脅威とされる生き物だ。

 

「クロウ、プリム、君らにはドロメオを殺して頭を持ってきて欲しい」

「まぁ倒すのは出来ますが……」

「後ろにいる3人組はどんな関係が?」

 

 クロウとプリムはついに突っ込むと、アリシアも後ろを振り返って言った。

 

「おい、もうバレてるから早く出てこい……何で私もお前たちのサプライズに付き合わされなきゃならんのだ」

 

 ハァとため息を吐くとドタバタと駆けつける。

 3人はアリシアの前に躍り出ると、一斉にポーズをとった――なおダサい。

 

「ぬっはっはっはっ! どうしてバレたのかわからないが、我らトライデントが、ソヴ船長の護衛になると決まったのだ!」

 

 まず赤い髪を靡かせたイリンが威勢よく吠え――

 

「そしてララたちに実力があると知らしめるために」

 

 黄色のボブカットのララが緊張しながら補足すると――

 

「僕たちとクロウ先輩、プリム先輩の5人で倒しに行く事が決まったのだー」

 

 青髪のストレートヘアが特徴的なボクっ娘アナが締めた。

 

(トライデント……かぁ)

 

 クロウは何とも言えない表情をした。

 3人娘とも皆から言われている彼女たちは、確かに力は強い。だが3人とも調子に乗りやすい性格であり、船長もそこさえ何とか出来たら頼もしいと言っていた。

 

「……ふーん、君らがかぁ」

 

 プリムも同様に難しい顔をして、3人をマジマジと見る。

 この中でプリムは一時期教育係みたいな事をしていたことがある。故に3人の性格や戦闘スタイルをよーくわかっているからこそ、本当に大丈夫かと思っているようだ。

 

「プリム先輩が露骨に嫌そうな顔を……!」

「僕たちだってやれば出来る事を証明するよー」

「ララも頑張る、もう前とは違う、いいとこを見せる」

 

 と3人は大丈夫大丈夫と胸を張る――クロウに目を向けながら。

 

「君たちが気合いを入れるのはいいんだけどね……」

 

 プリムは「やっぱり……」と呟くと、クロウを呼びつける。

 

「クロウ、彼女たちは君にいい所見せたくてやらかすかもしれないから、覚悟しておこう」

「あいつら……」

「ゼファの女らしいっちゃらしいけどね」

 

 3人娘の目論見がわかったクロウは、心底心配になった。一応船長の護衛という役割はかなり重要で、普段の仕事――帝国の宇宙船襲撃、敵対種族の撃滅とは全く違ってくる。それなりの礼節はそうだが、舐められないような胆力も必要だ。

 

 そしてもちろん……実力も。

 

「クロウ、プリム、言いたいことは分かるが……この仕事を通じて彼女たちに経験を積ませてやれ」

「「「お願いしまーす!」」」

「……了解」

 

 元気いっぱいでニコニコする3人娘を一瞥しつつ、早速クロウとプリムは準備をする事にした。ちょっと面倒な事になったなと内心で呟くと、アリシアがクロウとプリムにこっそりと声をかける。

 

「2人とも、少しいいか?」

 

 ◆

 

 スティングの夕日が、果てしなく広がる荒野を紅く染めていた。地平線は陽炎のように揺らぎ、乾いた風が砂を巻き上げる。荒涼とした大地の上を、一台のホバービーグルが疾走していた。

 

 ――ブゥゥン……

 

 エンジンの低いうなりが響く中、クロウは無言でハンドルを握り、前方を睨んでいた。ホバービーグルはスティングの住人たちにとって欠かせない移動手段で、浮遊機能によって砂地の悪路も軽々と進むことができる。とはいえ、今この車両の中は、静かとは程遠い騒がしさだった。

 

わー! すっごいスピード! 風が気持ちいいー!」

 

 後部座席からイリンの大声が響く。

 

「ほらほらララも! もっと楽しみなよ!」

「えぇ~、でも風強いし、砂が……!」

「せっかくの冒険なんだからもっと楽しもうよ!」

 

 快活なイリンはララにもっと楽しそうにしろと、騒いでいる。宇宙船の中とは違って、惑星を探検する楽しさは分かるが、それにしたってテンション上がりすぎていた。

 

「……僕はどちらかというと、もう少し落ち着いて乗りたいな……」

 

 青髪のアナが、外を見つめながらぼそっと呟いた。

 どうやら彼女とは気が合いそうだなとクロウは思っていた。

 

「よーし、じゃあちょっと立ってみる?」

「やめろ」

 

 クロウが低い声でピシャリと制した。

 

「はしゃぐのは勝手だが、落ちたら置いてくぞ」

「ひぃっ……クロウ先輩こわっ!」

「つれないなぁ、クロウ先輩は」

「でも…………そんなとこもいい」

 

 後部座席の3人娘はブツブツ言いながらも、素直に座り直した。まだ言う事を聞いてくれる分はマシではある。

 その隣で、プリムは助手席に座り、頬杖をつきながらくすくすと笑っていた。

 

「クロウ、すっかり保護者みたいになってるね」

「……お前も少しは言ってやれ」

「うーん、でも楽しそうだし?」

 

 クロウはため息をつきつつも、再び前方に意識を戻すと気になっていた事を聞く。

 

「船長は何と?」

 

 クロウが視線を前に向けたまま問うと、後部座席の3人は顔を見合わせ、次の瞬間、一斉に誇らしげな笑みを浮かべた。

 

「ぬふふっ、聞いて驚けクロウ先輩!」

「私たち、将来有望な戦士なんだって!」

「そう、今後のゼファの中核になるって!」

 

 イリン、ララ、アナが次々と興奮気味に言葉を重ねる。その表情は自信に満ち溢れ、まるで既に一流の戦士として認められたかのようだった。

 

「……随分と高評価だな」

「船長はよく褒めてくれるんです!」

 

 3人が声をそろえて答える。

 まぁ才能に関してはクロウも認めているし、活躍している事も知っている。

 

(イリンは炎のサイオニックを使えるパワー形、ララは光、アナは氷と……バリエーション豊か。実際彼女たちのおかげでテクノクラート達が命を助けてくれた事に感謝していた)

 

 テクノクラート――つまり技術士のことだが、ゼファでは男達の中でも人気の立ち位置にいるクルーだ。敵の襲撃時に一騎当千の活躍を見せた彼女たちによって、命を救われた彼らはトライデントにゾッコンだったりする。

 

(人気者だからな……彼女達は)

 

 ある種……アイドルみたいな存在になっている彼女らは、スティングにおいても他種族からチヤホヤされている。ソヴは多分……トライデントの人当たりの良さやキャラとしての魅力を買っているかもしれない。

 

 彼女達はさらに続けた。

 

「船長が『お前たちは将来有望な戦士であり、今後の中核に置きたい』って!」

「それで……クロウ先輩の下についていれば、もっと洗練された逸材になれると……僕らは言われたんです」

「だから、ララたちもこの任務で頑張るって決めたんです」

 

 3人娘は目を輝かせながら、クロウを見つめる。

 

「…………」

 

 クロウは言葉もなく前を見つめたまま、しばらく沈黙していたが――

 

「……最近、船長は俺に面倒な仕事を任せすぎてる気がする」

 

 低く、ぼやくように呟いた。信頼されていると良い方に捉えたいが、何というか最近は雑用も多かった。特にここ数日は些細な買い物さえも頼んできた。

 

『おい、クロウ……クルーの日用品を市場で買ってこい』

『それ……1番下に任せれば――』

『船長命令だっ!』

 

 あの時は不機嫌そうに鼻を鳴らしながら頼んできていた。理由を聞いても言ってくれないため、どう改善したら良いかわからない。

 

「くそ……俺が何したって言うんだ」

「くくく……」

 

 すると助手席のプリムが、くすくすと笑い出した。

 

「ふふ、クロウ、もしかして気づいてないの?」

「何がだ」

 

 クロウが不機嫌そうに顔をしかめると、プリムは頬杖をつきながら、まるで面白いことを見つけたような顔をした。

 

「船長、クロウが私と一日一緒にいたことを、根に持ってるんじゃない?」

「は?」

 

 クロウは眉をひそめ、思わず横目でプリムを見る。その言葉に後部座席の3人娘も一瞬静かになった――しかし次の瞬間。

 

「ええええええ!?!?!?」

 

 3人娘が一斉に叫び声を上げた。

 

「船長が!? ヤキモチ!?!」

「……つまり船長ってクロウ先輩のことを……?」

「そんなの……本当にあるんだ、三角関係……」

 

 イリン、ララ、アナは大騒ぎしながら身を乗り出し、興奮した様子でクロウとプリムを交互に見つめた。

 

「……いや、待て、落ち着け」

 

 クロウは手を片方上げて制そうとしたが、プリムがさらに続ける。

 

「わからないの? だって別に本気で嫌がらせしたい訳じゃないぐらいは分かるでしょ?」

「……それは、わかるが」

「しかも船長……アリシアさんにも、何とか時間作りたいって言ってるし」

 

 プリムは流し目しつつ、クロウにさらりと暴露する。

 それって言っていいのかとクロウが思っている中、三人娘はさらにヒートアップしていた。

 

「で、最近クロウは船長からやたら面倒な仕事を任されてる……うん、これは完全にヤキモチだね」

「「「キャーーーーーーッ!!!」」」

 

 3人娘の悲鳴がホバービーグルの中に響き渡った。

 

「そ、そんな……!」

「船長、クロウ先輩のことそんなに……!?」

「つまり……クロウ先輩を巡る恋のバトルが、もう始まってるってこと……!?」

「やめろ……何だその変なバトルに巻き込むな……! おい! 話を変な方向に持っていくんじゃねえ!」

 

 クロウが低い声で牽制するが、3人娘のテンションは爆発寸前だった。

 

「プリム先輩! そのときクロウ先輩と何があったんですか!?」

「えっ、もしかして、めちゃくちゃいい雰囲気になったり……?」

「それを見て、船長が悶々として……いやーん」

「アナの棒読み面白いね……。うーん、それを知るには君らには早い――かな?」

 

 プリムは思わせぶりに言いながら、クロウをちらりと見る。

 

「……お前、適当なこと言うなよ」

 

 クロウが渋い顔をすると、3人娘はさらにキャーキャーと盛り上がる。

 

「クロウ先輩! こうなったらフリーのクルー全員と番いましょう! ゼファの復興にも繋がりますし!」

「ララたちもフリーだし」

「未来のため、未来のため」

「…………怪物退治より疲れたぞ、もう……」

 

 まだ向かってる最中なのに、激戦したかのような疲れがドッと押し寄せてくる。プリムはまだしっとりと揶揄ってくる分、対応はしやすいがトライデントは別だ。若い上に浮いた話が大好きな彼女達は、ある意味で1番ゼファの女らしく、魅力的に写るゼファの男に対してはかなりグイグイ来る。

 

「良い戦士はやっぱり後世に残さないと」

「……クロウ先輩はそれをしっかり理解しなきゃ。じゃなきゃ僕らがわからせちゃいます」

「ララも同じく、そう考えてます」

 

 全員と番いましょう発言も、だいぶマジだ。

 三人娘の目はすでに血走っていて、寒気すら感じる。

 

「……もう降りてぇ」

「ダメだよクロウ、ちゃんと仕事は果たさなきゃ」

 

 クロウは呆れ果てたように、深いため息をついた。

 ホバービーグルは砂煙を巻き上げながら荒野を突き進んでいくが――その中でクロウは、確かに最近のソヴの態度を思い返し、なんとも言えない気持ちになっていた。

 

 ◆

 

 ダークホールドの内部は、まるで異世界のようだった。天井は遥か高く、見上げると闇に溶け込んでいる。岩肌には無数の鉱石が埋め込まれており、青白く鈍い光を放っていた。それが水面に反射し、広大な地下湖を幽玄に照らしている。

 

 洞窟内の空気は湿っていて、ところどころに立ち込める蒸気が視界を曇らせる。遠くの壁には無数の小さな穴がぽっかりと口を開け、まるでこの洞窟そのものが生き物であるかのように見えた。滴り落ちる水の音が静寂を切り裂き、時折何かが岩陰で蠢く気配がする。

 

 クロウたちは崖の上から、その光景を見下ろしていた。

 

「あれだ」

 

 クロウが低く呟く。

 視線の先、巨大な生き物が闇の中で蠢いていた。

 

 ドロメオ――この星の頂点捕食者。

 

 そいつは長大な体躯をくねらせながら、地下湖の淵でじっとしていた。まるで全てを見通しているかのように、獣じみた瞳が薄暗闇の中で光っている。胴は太く、鎧のような鱗がびっしりと覆っていた。動くたびにその鱗が擦れ、鈍い音を立てる。四肢は短いが、分厚い筋肉がついており、一撃でも喰らえば人間など一瞬で粉砕されるだろう。

 

 何より――腹がゆっくりと膨らみ、収縮している。

 ガスを溜めている証拠だった。

 

「よっしゃ、この5人がいれば楽勝楽勝!」

「その事だが……」

 

 イリンが威勢よく吠えた瞬間、クロウが口を開く。

 

「俺とプリムは協力しない」

「うん、実はそうなんだ」

「「「えぇっ」」」

 

 プリムはごめんねと舌をちろっと出して謝るが、3人からしたらそれで済ませて良い話じゃない。

 

「アタシら自信ないですよ!」

「ララまだ食べられたくない」

「…………僕辞退します」

「待て待て、これはアリシアさんからの頼みなんだよ。あと辞退すんな」

 

 慌て出す三人娘を宥めながら、クロウは話す。

 

「アリシアさんは3人だけでもドロメオ1体倒すのは出来ると信じてる」

「「「!」」」

「……どうやら、この護衛任務を任される前は、アリシアさんの下でずっと弟子やってたらしいな」

 

 クロウはそう言うと3人は同時にコクリと頷いた。

 ここに向かう前にアリシア副船長から相談されたのは、弟子卒業を兼ねた最終試験だった。

 

 3人だけでドロメオを倒すように言ってくれ――最初に言われた時は、本当に大丈夫かとクロウとプリムは思ったが、アリシアは大丈夫だと言い切った。

 

『あの子たちは私が可愛がってる、だからこそ……厳しい試練を課しても甘い判断を下してしまいそうになる。だから2人がしっかりと見極めてくれ』

 

 アリシアは同行しない理由を、申し訳なさそうに話していた。本当に大切に思っているのが、しっかりとクロウとプリムに伝わってきた。

 

「……これは君らの晴れ舞台だ、ちゃんと実力を出せば倒せる」

「……はぁ、アリシアさんが言ってるなら仕方ない……」

 

 イリンはララとアナの方へ向くと、ニコリと笑った。

 

「強くなったって……先輩方に見せつけてやろう」

「「うん」」

 

 すると3人娘はフルフェイスのバトルマスクを付け、フード付きクロークを纏う。戦闘服は機械化されており、宇宙空間でも自在に動き回れるぐらい、機動力に優れている。

 

OA(オディール・アルマ)システム……展開、ソルティス」

 

 イリンがそう口にすると、その手に火を纏った大きなハンマーが握られていた。オディール・アルマ・システムは、ゼファの超能力者が持つサイオニック・エネルギーを物理的な力へと変換するための武装システムだ。その基盤には、エキュメノの超物理学技術――サイオニック共振場理論が応用されており、ゼファ以外に扱う事は出来ない。

 

「ラディア・ハスタ」

 

 ララは光り輝く細い槍を作り出し――

 

「クリオレギーナ」

 

 アナは2振りの氷のサイオニックエネルギーを纏った鎌を取り出した。

 

  三人の少女は、崖の端に立つと一瞬だけ静かに息を整えた。バトルマスクのセンサーが戦場の情報を解析し、クロークのフードが微かに揺れる。次の瞬間――

 

「行くよ!」

 

 イリンが号令をかけると、三人は同時に地を蹴った。

 重力制御と推進機構を兼ね備えてた装備によって、崖を落下するのではなく、まるで風に乗るかのように滑空しながら急降下していった彼女たちは、巨大な怪物に狙いを定める。

 

「いっくよ!!」

 

 先頭を行くイリンが、巨大なハンマー《ソルティス》を肩に担ぎながら、目標をロックオンした。ドロメオの巨体は静かにうごめき、その獣じみた瞳がゆっくりと彼女たちを捉える。しかし、イリンはひるまない。

 

「喰らいなぁ!!」

 

 彼女は推進力を一気に解放し、流星のように地面へと突撃した。その手にしたハンマーが、周囲の空気を燃やしながらオレンジ色の閃光を放つ。

 

「ハァ!!」

「ギャオオオオ!!」

 

 轟音とともに、《ソルティス》がドロメオの肩口へ叩きつけられた。直撃を受けた部位の鱗が砕け、火花とともにエネルギーの衝撃波が広がる。ドロメオは低く唸り声をあげたが、すぐに反撃に移ろうとする。

 

「させないっ!」

 

 続いてララが《ラディア・ハスタ》を構え、空中から鋭く突進した。槍の先端から放たれるサイオニック・エネルギーが一直線に伸び、ドロメオの前足を貫こうとする。しかし、獣は反射的に体をひねり、致命傷を回避した。だが、それで終わりではない。

 

「こっちも忘れないで」

 

 冷静な声とともに、アナが背後に回り込んでいた。彼女の《クリオレギーナ》は、周囲の湿気を一瞬で凍らせ、白い霧を発生させる。

 

「オオオオ!!!」

 

 振り下ろされた二振りの鎌が、ドロメオの尾に深く食い込んだ。瞬時に氷の結晶が広がり、獣の動きを鈍らせる。イリンとララが同時に攻撃を仕掛けたタイミングと完璧に呼応していた。

 

「悪くないな」

「ね、普通に戦えてる」

 

 そんな健闘する三人娘をクロウとプリムは、感心しながら見ていた。チームワークも申し分ないし、サイオニックエネルギーの使い方も上手い。それでいて、戦況を的確に見極める力もある。

 

「ただ……やっぱり精神面かな」

「ああ……」

 

 しかし2人は彼女らの弱点が露わになる兆しを見ていた。

 

「よし、このまま押し切るよ!」

 

 イリンが勢いよく叫ぶ。ドロメオの動きは確かに鈍っている。肩口にはハンマーの一撃、前足には槍の傷、尾には氷の結晶――三人の攻撃が着実に効果を上げていた。

 

「なんだ、意外とやれるっ」

 

 ララが軽く笑いながら、槍を構え直す。アナも口元を綻ばせながら頷いた。

 

「この調子なら、案外すぐに倒せるかも……」

「よーし、仕上げにいくよ!」

 

 イリンが再び《ソルティス》を振り上げ、ドロメオの頭部を狙って突撃する。ララとアナもそれに合わせ、正面と側面から挟み込むように攻撃を仕掛ける――が、その瞬間だった。

 

 ――ゴウッ!!!!

 

 ドロメオの腹部が大きく膨らみ、次の瞬間、灼熱のブレスが一気に解き放たれた。

 

「しまっ――」

 

 先ほどまで鈍っていた動きは、ただのフェイントだった。三人娘は勢い余って突っ込みすぎていた。回避のタイミングを完全に失い、真正面から炎を浴びる形になった。

 

――ドォォォン!!!!

 

 爆炎が洞窟内を埋め尽くし、三人の小さな影を飲み込んだ。

 

「くっ……あぁぁ!!」

 

 イリンのクロークが燃え、バトルマスクのレンズに亀裂が入る。ララは腕を覆いながら必死に熱を振り払うが、熱波に巻かれてバランスを崩し、岩肌に叩きつけられた。アナも防御態勢を取る暇もなく、吹き飛ばされる。

 

「う、嘘でしょ……!?」

 

 ララが地面に膝をつきながら呆然とする。今のはただのブレス攻撃ではない。あまりにも圧倒的な熱量、そして威力――彼女たちのサイオニック・シールドすら突き破るほどだった。

 

「やっば……!」

 

 イリンが地面を転がりながら必死に体勢を立て直すが、ドロメオの反撃は終わらない。炎を吐き終えたかと思うと、その巨体を振り回し、鋭い爪でララを薙ぎ払おうとする。

 

「――っ!」

 

 ララは反射的に《ラディア・ハスタ》を構えて防御するが、獣の腕力は想像を超えていた。

 

 ――ガキィィン!!!

 

 衝撃が槍を伝わり、ララの手がしびれる。防ぎきれずに吹き飛ばされ、背中から水際へと叩きつけられた。

 

「ララ!!」

 

 アナが叫ぶが、彼女自身もダメージが大きく、すぐに動けない。イリンも立ち上がろうとするが、火傷した腕が痺れて力が入らない。

 

「まずい……っ!」

 

 三人娘は一気に窮地に追い込まれた。

 

 ――そんな様子を、崖の上からクロウとプリムが静かに見下ろしていた。

 

「……だから油断するなと」

 

 クロウが苦々しく呟く。プリムも腕を組みながら、少し心配そうな表情を見せた。

 

「悪くない戦いだったけど、気を抜くのが早すぎるよね。戦いは最後の最後まで油断しちゃダメなのに」

「さて……どうする」

 

 ドロメオはゆっくりと口を開き、次のブレスの準備を始めていた。灼熱の光が喉の奥でちらつく。

 

「アリシアさんの教えを思い出せば……大丈夫だぞ」

 

 クロウは腕を組みながら、地面に伏せる三人娘をじっと見つめた。

 

 ◆

 

 「やば……」

 

 イリンは肩で息をしながら、クロークを叩いて煤を落とす。腕には火傷の痛みが残り、ララとアナも息を荒くしながら地面に手をつく。

 

「私たち……また同じことしてる」

 

 ララが唇を噛みしめた。

 

「勢いに乗ると、すぐ油断して……。それでアリシアさんに何度も怒られたのに」

「戦いは最後の一撃まで終わらない――って、あの人、口酸っぱく言ってたよね」

 

 アナが静かに呟く。アリシアの厳しい指導の日々が、まるで昨日のことのように脳裏に蘇る。

 

『いいか三人共、調子に乗るのは勝手だが……その油断で仲間が死んだら、どうするつもりだ?』

『最後まで戦況を見極めなさい。敵が動けなくなるまで、気を抜くんじゃない』

 

 三人娘の脳裏には尊敬する師の言葉が過っていた。

 

「……はぁ、ほんとダメだね、私たち」

 

 イリンは荒い息を吐きながら、拳をぎゅっと握った。

 

「でも、まだやれる。まだ……終わってない!」

「「うん」」

 

 ドロメオは喉の奥に炎を灯し、再びブレスを放とうとしていた。その光景を見て、三人は目を合わせる。

 

 そして――

 

「……今度こそ、冷静にいくよ」

 

 イリンが低く呟いた。彼女たちは、今までとは違う落ち着いた気配をまといながら、静かに戦闘態勢を整えた。

 

「まず、僕がブレスを防ぐ」

 

 アナが両手に《クリオレギーナ》を握り直し、足元の水を凍らせ始める。冷気が一瞬で広がり、周囲の温度を急激に下げていった。

 

「ララ、僕が作った氷の道を使って、ドロメオの喉元を狙って」

「了解!」

 

 ララは槍を構え、氷の橋が作られるのを待つ。

 

「イリン、あなたは――」

「言われなくても、仕留めるよ」

 

 イリンがハンマーを担ぎ、ゆっくりと後ろに回った瞬間にドロメオの喉の奥で、灼熱のエネルギーが膨れ上がった。

 

「今!!」

 

 アナが氷の鎌を振るい、巨大な冷気の壁を生み出した。ブレスの熱が壁にぶつかると、蒸気が一気に噴き上がる。灼熱と極寒がぶつかり合い、洞窟内に霧が立ち込めた。

 

「……今だ!」

 

 ララはその隙を突いて、氷の道を滑るように疾走する。槍の先にサイオニック・エネルギーを集中させ、ドロメオの喉元へと突き出した。

 

「《ラディア・ハスタ》!!!」

 

 槍が一直線に飛び、ドロメオの喉に深く突き刺さる。獣の咆哮が洞窟中に響き渡った。

 

「イリン、決めて!」

「いっくよぉぉぉ!!」

 

 イリンは高く跳び上がり、ハンマーを振りかぶる。

 

「《ソルティス》……最大出力!!」

 

 推進装置が作動し、彼女の体が一瞬で流星のように加速する。炎の軌跡を引きながら、ドロメオの頭上へ――

 

「喰らえぇぇぇぇ!!!」

「――――――!!!」

 

 《ソルティス》がドロメオの頭部に直撃する。圧倒的な一撃が炸裂し、衝撃波が洞窟を駆け抜けた。

 

「ギャオオオオオオオッ!!!」

 

 ドロメオの体が大きく揺らぎ、その場に崩れ落ちる。喉に刺さった槍からエネルギーが迸り、鎌の冷気が全身を凍てつかせる。

 

「オオオオ……」

 

 そして、ついに――巨大な獣は、動かなくなった。

 しばしの沈黙が流れ、三人娘はお互いに顔を見合わせる。

 

「……勝った?」

 

 ララが、息を切らしながら呟く。

 

「……勝った」

 

 イリンがハンマーを肩に担ぎながら、静かに言った。

 

「やった……やったぁぁぁ!!!」

 

 三人はその場に崩れ落ちるように座り込み、歓喜の笑顔を浮かべた。そんな様子を見ていたクロウ達は静かに拍手して、三人娘の活躍を讃えていた。

 

「……やるじゃん」

 

 崖の上で、プリムが小さく笑った。クロウも満足げに頷く。

 

「最初は危なかったが……最後は良かった」

 

「ああ……戦い方が変わった。冷静に、そして確実に仕留めた」

 

 クロウは腕を組みながら、静かに呟く。

 

「アリシアさん、いい弟子育てたな」

 

 遠くで三人娘の歓声が洞窟に響く中で、微かな物音に2人は気づいた。

 

「じゃあ次はお手本?」

 

 ニヤリとプリムが笑うと、クロウは静かに装備を展開する。

 

「そうだな、もっとスマートに倒せる事を教えてやろう」

 

 ◆

 

「やったやった!! これで私たちも一人前!」

「…………僕達の活躍に、クロウ先輩も劣情を抱くはず」

「ちょ、ちょっとそれは行き過ぎかも?」

 

 三人娘が歓喜に包まれているその瞬間――洞窟内に響く轟音と共に、岩盤がひび割れ、もう一体のドロメオが姿を現した。

 

「え……!? また!?」

 

 イリンが目を見開き、ララとアナもその場に立ちすくむ。油断していた彼女たちは、次の攻撃を予測できていなかった。

 

「オオオオオオ!!!」

 

 ドロメオは、先程倒れた個体とは比べ物にならないほど巨大で、怒りに満ちた目が輝いていた。そのまま岩盤を砕きながら、猛然と突進してくる。

 

「な、なんで……!? こんな時に……!」

 

 ララが焦りながら槍を構えるが、ドロメオの速度は予想以上に速かった。

 

 その瞬間――クロウが鋭く足元を踏み込む。

 

「どけ、怪物」

 

 彼の声がつぶやかれた瞬間に、紫色の光が明滅した。

 クロウは一瞬で飛び上がり、その体に紫電を纏わせると、雷のような轟音を響かせながら、彼はドロメオに向けて猛烈な勢いで飛び蹴りを放つ。

 

「ギャ――」

 

 紫電がまとった足がドロメオの顔面に直撃。ドロメオはその衝撃に反応する暇もなく、あっという間に吹き飛ばされ、岩壁に叩きつけられた。

 

 三人娘がその光景に呆気に取られる中、クロウは静かに着地し、無表情で振り返った。

 

「油断してるから、こうなる」

 

 彼は肩をすくめながら言った。

 

「……しっかりしろ」

 

 三人娘はその言葉に、もう一度気を引き締める。そして、再び戦いの準備を始める。

 

「クロウさん……」

 

 イリンはポーっとした様子で力無く言った。

 なおララとアナも同じ反応だった。

 

「次は私たちがいいとこ見せようか」

 

 やや遅れてプリムがクロウの隣に並ぶと、お互いにOASを展開した。

 

「ゴルディアス」

 

 クロウの湾刀はあらゆる物質を切り裂く紫電の刃だ。

 彼はこれを使って数々の帝国の戦艦を切り刻んできた。

 

「テセラクト」

 

 そしてプリムの武器は、光と重力のサイオニックエネルギーを纏う双剣だ。

 

「行くぞ、プリム」

「うん」

 

 そして2人は怯んでいるドロメオに向かって駆け出すと、空中を走るようにして移動しながら、凄まじい速度で斬撃を繰り出した。

 

「「ハァアアア!!!」」

 

 雷と光、そして灰色のオーラを帯びた斬撃が硬い体を細切れにしていき、悲鳴すらあげる暇なく巨大な怪物はただの血煙と化す。まさに斬撃の嵐の中に放り込まれた怪物は、あっという間に捌かれていき、後には血の海だけが残った。

 

「ふぅ、こんなもんか」

「クロウ、かっこつけた?」

「つけてない」

「ふふふ……そういう事にしてあげる」

 

 2人は血を拭い、軽い仕事を果たしたかのようなリアクションを取ると、お互いに拳を合わせる。若きゼファの英雄の力を見ていた三人娘は、ただ感嘆の声を漏らしながらも、しっかりと2人を目標に見据える。

 

「……す、すご、すぎ」

「…………先輩達……かっこいい……」

「背中、遠い」

 

 いつか必ず――先輩に追いついてみせると。

 

 

 

 

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