仮面ライダー妖魔 番外編   作:玲音考人

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真黒と清那の出会いの物語にして、本編にて禍炎として登場する前の活躍、そして一度命を落とした後、再び表舞台に現れるまでを描いた、裏側の物語となっております!


仮面ライダー妖魔スピンオフ 拝啓、在りし日の君へ
#1


 

…全てが暗闇に包まれた空間で、僕は目覚めた。

そしてそのことに違和感を覚える。

僕は確かに…死んだはずだと。

 

ならばここは死後の世界、というやつなのかもしれない。

そう自分で結論付けて周囲を見渡す。

 

辺り一面を包み込む無限にも思える闇の中、微かに遠くに見えるのは青い光。

行くあても何もない、死者の身だ。

僕は身体を起こすと、そこへ向かって歩き出す。

 

思ったよりも距離がありそうだなと思ったところで、ふと僕は自分が今、何故こんな場所にいて、何故こうなっているのか、その原点を思い出す。

 

…どうせ時間はあるんだ。一つ一つ思い出してみよう。

僕の… 白石(しらいし) 真黒(まくろ)の歩んで来た道のりを。

 

⭐︎⭐︎⭐︎

 

拝啓、在りし日の君へ

 

⭐︎⭐︎⭐︎

 

「真黒ー、冬休みの数学の宿題少なくなくてラッキーだな!」

 

真黒「いきなり机に飛び付くのはやめてくれ、漠夜。まあ、今年は受験だからなぁ…」

 

 ある冬の日…世間的にはクリスマスと呼ばれる日の布留杜市照羅巣地区にある布留杜第四中学校の3年A組。

 受験本番も近付きつつあるそんな時期に、帰り支度を進めていた真黒の机の上へと飛び付いてきたのは友人の灰山(はいやま)漠夜(ばくや)

 

漠夜「うっ…確かに。受験も結構ピンチだし…量はさておき意外とむずそうだし答え見て解いてやる…!」

 

真黒「やめとけよ。山本先生そういうのめちゃくちゃ目敏い上に厳しいだろ。確実にバレてお説教コースだぞ」

 

漠夜「なーに言ってんだ。プロ答えうつしゃーの俺にかかればちょちょいのちょいだぜ!」

 

真黒「自慢げに言うことではないし、まずプロ答えうつしゃーって何?」

 

漠夜「えー、良いじゃん。プロだぜ?プロ」

 

真黒「そこじゃない。…ま、コツコツやることだね。やって分からなかった問題を答え見て直すのは怒られないんだし」

 

漠夜「ちぇっ、真面目にやるしかないかー。にしても、数学なんて簡単に解けちまう奴ってのはなんなんだろうなー、うちのクラスなら…朱井さんとか」

 

真黒「ああ、また学年一位だったんだっけ。でもあの人は基本他の教科も点数高いし、僕達とは才能も努力も段違いなんでしょ」

 

漠夜「そんなもんかねー」

 

 数学の宿題についての話題の中で、不意に上がったのはクラスメイトの 朱井(あかい) 清那(せな)について。

 単なる一クラスメイトとして、そこまでの興味もなさそうな様子で真黒は一瞬彼女を見遣り、そして視線を戻す。

 

真黒「…そんなもんでしょ。知らないけど」

 

⭐︎⭐︎⭐︎

 

漠夜「またなー。ヤベッ、そういやお前今日誕生日じゃん!なんか祝ってやった方が良かったか!?」

 

真黒「気にしなくて良いよ。いつも通りが一番だから。…それじゃ、また」

 

漠夜「そうか?…なら、一日遅れになっちまうが明日クリスマス兼誕生日プレゼントやるから楽しみにしてろよ!!明日なー!」

 

真黒「え?ちょ、勝手に決めるなよ!…行っちゃった。別に良いのに……」

 

 いつも通りの帰り道。学校から暫く行った丁字路で、真黒は右に、漠夜は左に曲がり家への道のりを進もうとしたところで、今日という日が真黒の誕生日であったと思い出した漠夜は祝えなかったことを謝る。

 対して真黒は気にしていないと告げるも、漠夜は強引に祝う約束を取り付けるとそのまま走り去っていくのだった。

 

 白石真黒という少年は普通、通常通り、平穏というものを何よりも重んじていた。

 そうあることに、幸せを感じていた。

 そんな真黒は例え誕生日であったとしても、クリスマスであったとしても、至っていつも通りの道筋で、いつも通り家へと帰り着く。

 …その先に待っていた光景がそのいつも通りの日常を破壊し尽くすとは知らずに。

 

真黒「ただいま。…ん?誰もいないのか…?今日って父さんテレワークだったよな…紅葉ももう帰ってきているはずだけど…。良いって言ってるのに誕生日を祝うって言ってたし…」

 

 自身が帰ってきても不気味なほどの静けさのままの自宅を不審に思う真黒。

 共に暮らす家族である父の紺一(こんいち)も妹の 紅葉(もみじ)も、真黒の誕生日を祝うとやる気だったので家にいるはずだったことを思い出し、不思議に思いつつリビングのドアを開けて、真黒は絶句する。

 

真黒「は…?」

 

 まず目の前に飛び込んで来たのは見覚えのあるズボンを履いた下半身と、これまた見覚えのあるスカートを履いた下半身。

 そこから段々と見えてくる全体像。光を失った瞳で宙を仰ぎ見てそのまま動かなくなっている紺一と、紅葉の姿。

 その顔は苦悶に歪んだ表情になっており、首筋には何かで締められたような跡。

 誕生日を祝う飾りが飾り付け途中の状態で放置され、目の前には誰がどう見ても死んでいる家族二人。

 その光景は、真黒の思考を吹き飛ばすにはあまりに十分であり、あまりに残酷だった。

 

真黒「父さん?紅葉?…どうしたんだよ、なあ…返事してくれよ!!」

 

 真黒は慌てて二人に駆け寄り、声を掛けるが、当然返事はない。

 そんな真黒に、背後から忍び寄る影があった。

 

「ふんっ!!」

 

真黒「!?な…!」

 

「ハハハッ!良い顔だなぁ…!その顔、最高だよ…!」

 

真黒「かい…ぶ…つ…!?」

 

「俺はイッタンモメン!いやぁ、その絶望の表情…最高だよ。お前の家族も良い顔してたし…今回は当たりだな!」

 

真黒「お…前が…ふた…りを…っ……!」

 

イッタンモメン「そうさ!あぁ、安心しろ。すーぐに同じとこへ送ってやるよ」

 

真黒「この…!」

 

 背後から真黒の首を絞めたのは布が集まって形を成しているような外見のイッタンモメンと名乗る怪物…モノノケだった。

 腕から伸ばした布で真黒の首を絞めつつ真黒の家族を奪ったのも自分だったことを明かすイッタンモメンに、真黒は怒りを見せる。

 

イッタンモメン「幸せな奴をどん底に叩き落とした時が一番良い表情をするんだ。ハッハッハッ!」

 

真黒「っ…」(絶対に許さない…!…けど…父さんも…紅葉もいない世界で、生きていく意味なんて……なら、もう、諦めても良いかな……)

 

「朱井式浄化術・清浄弾!」

 

イッタンモメン「ぐあっ!…なんだ…!?」

 

真黒「うっ…ゲホッ、ゲホッ…朱井さん…!?」

 

 真黒はイッタンモメンへの怒りを見せながらも、家族を奪われたことで生きる意味を見出せなくなり、そのまま抵抗する力を抜いてしまう。

 そのまま締め殺される…かと思われたが、間一髪のところで何者かが家へと突入し、エネルギー弾がイッタンモメンを弾き飛ばす。

 その攻撃の主は朱井清那。…真黒のクラスメイトだった。

 

⭐︎⭐︎⭐︎

 

清那「白石君!大丈夫!?…後は私に任せて…!清浄弾!」

 

イッタンモメン「ぐっ!…こいつ…陰陽師か!面倒だな…ここは撤退だ!!」

 

清那「待ちなさいっ!…逃げられたか」

 

 イッタンモメンは邪魔が入ったことに苛立つ様子を見せると、そのまま窓を割って外へと飛び出して行く。

 清那は咄嗟に追いかけようとするが、あっという間に空の彼方へ飛び去って行くイッタンモメンの姿に、追跡を断念する。

 

真黒「…なんだよ…なんなんだよ……」

 

清那「白石君。…えっと、その…」

 

真黒「…なんで僕を助けたんだよ!?なんで…なんで父さんと紅葉を助けてくれなかったんだよ…なんで…!」

 

清那「白石君…」

 

真黒「いっそのこと、僕も死なせてくれよ!父さんも!紅葉も!誰もいない世界で…なんで僕だけが生きてかなきゃいけないんだよ…っ…。家族で一緒に暮らせればそれで良かったのに…!それだけで幸せだったのに…なんでなんだよ!!」

 

清那「……お、落ち着いて。…いや、落ち着けるわけないよね…ごめん」

 

真黒「僕なんか…放っておいてくれれば良かったのに…いや、二人の代わりに僕が死ねば良かったんだ…なんで…なんで二人が死んで僕が生き残るんだよ…なんでだよ…!僕が犠牲になれば良かったのに──」

 

清那「それは違う!」

 

真黒「!?…何が違うんだよ!父さんと紅葉を助けてくれなかったくせに!だったら僕のことも助けないで放っておいてくれよ!!」

 

清那「…そうはいかないよ。白石君、まずは私の家に来て。全部、説明するから」

 

真黒「……は?」

 

 イッタンモメンの去った後、真黒は完全に冷静さを失った様子で清那に詰め寄る。

 そんな真黒を見兼ねた清那は事情を説明し、保護するために自宅へと招待する。

 

⭐︎⭐︎⭐︎

 

「…そうか、モノノケに…分かった。まあ、何を言っても気休めになどならないと思うが…暫くはこの家にいると良い。…申し遅れたが、俺は朱井清彦だ。君は…」

 

真黒「……白石真黒です」

 

清彦「そうか。…いきなり家族を奪われて、辛いだろう。今はゆっくりと心を休めるんだ」

 

清那「ありがとう、お父さん」

 

真黒「……」

 

 朱井家にて、清那の父の清彦(きよひこ)は清那から話を聞いて事情を把握すると、真黒には暫くこの家で過ごすよう伝え、迎え入れる。

 一方の真黒は落ち着きを取り戻しはしたものの、暗い表情のまま、黙り込んでしまう。

 

清那「さて…色々説明しなきゃだよね。アレはモノノケ。平たく言えば妖怪かな。…穏当な個体も多いけど、中にはああして人を襲うような悪い個体もいる。…そして、そういう悪いモノノケから人を守ることを使命としているのが陰陽師。…私の家、朱井家もそういう陰陽師の一族で…先祖代々それを生業としてきた」

 

真黒「……」

 

清那「…それで…その…ごめんなさい!」

 

真黒「……なんで、朱井さんが謝るのさ」

 

清那「…私がもっと早く気付けていれば…白石君のご家族を死なせなくて済んだ。助けることが出来たはずだった」

 

真黒「……もう良いよ。どうでも良い。…僕は出て行く」

 

清那「ちょっ、どこ行くの…!」

 

真黒「決まってるよ。帰らせてもらう。…僕の家はあそこなんだ。ここじゃない」

 

清那「待ってって!どうやって暮らしていくつもり!?」

 

真黒「それは…そんなことは後で考えれば良いことだし…兎に角、僕は帰る!」

 

清那「駄目だって!…まさかと思うけど、家族の後を追おうとか考えてないよね…?」

 

真黒「っ…別に、思ってないし」

 

清那「嘘だよね。…それなら私は白石君を帰らせるわけには行かない」

 

 何がなんでも家へと帰ろうとする真黒の様子に違和感を感じた清那は真黒が家族の後を追おうとしていることに気付き、なんとか止めようとする。

 

真黒「…もう良いだろ!僕は放っておいてほしいんだ!僕が死のうがなんだろうが、朱井さんには関係ないだろう!?どうしてそこまでしようとするんだよ!」

 

清那「関係なくなんてない!…だって今、こうして関わってる!それに…私はまだまだ未熟だから、救えないことだってある。君の家族を守れなかったことを…私はきっと一生後悔する。だけれど…だからこそ、目の前の命はせめて、絶対に守る。手が届くところにいるのなら、絶対に守り抜くって決めてるの。だからお願い…生きて。家族の後を追ったりしないで…」

 

真黒「っ……」

 

 清那の真っ直ぐだが突き刺さる言葉に、真黒は一瞬言葉を詰まらせるも、すぐに反論する。

 

真黒「何のために生きろって言うんだよ…。10年前、母さんが病気で死んだあの日から、僕の世界の全ては父さんと紅葉…妹だけだった。二人と一緒に、平穏で普通な生活を送れたなら、それだけで良かった。それだけで良かったんだ…なのに、それすら奪われて…そんな僕になんのために生きろって言うんだよ…!」

 

清那「…白石君自身が、幸せになるためにじゃないかな」

 

真黒「え…?」

 

清那「……私は、確かに君の家族を救えなかった。そんな私にこんなことを言える資格があるかなんて分からないけど…それでも、あんな目に遭った白石君が生きることに絶望して不幸のまま終わりなんて結末は違うって、そう思うから…だから、幸せになろうよ。奪われて、絶望して、それで終わりなんてあんまりだよ。私が絶対に、君を幸せにしてみせる。だから…お願い、今はここにいて」

 

真黒「……っ」

 

 真黒は幸せになるべきだと伝える清那の人には一点の迷いもなく、本気で自身の幸せを願っているのだと、真黒は感じ取る。

 そんな清那の姿勢に心押された真黒は、出て行こうとした足を止め、荷物を床に下ろす。

 

真黒「……幸せに、なれるのかな…僕が…」

 

清那「今は、そんなこと考えられないのだとしても、いつか絶対に白石は幸せになれる。幸せにしてみせる。私がそう約束する」

 

真黒「……朱井さん…」

 

 家族を失い、普通の日常を奪われた真黒。ここから全てが始まったのだった…。

 

⭐︎⭐︎⭐︎

 

 世界というのはある意味残酷なもので、例え誰かが大切なものを失って絶望の闇に落ちたとしても、それでも変わらず回っていく。

 年末年始の慌ただしい空気の中、父と妹の葬儀を終えた真黒は、クリスマスのその日よりも落ち着きを取り戻してはいたものの、それでもどこか空虚な感覚を胸に抱き、冬休み明けの中学へと足を運んだ。

 

真黒「……」

 

漠夜「真黒。その…おはよう」

 

真黒「…漠夜か。おはよう」

 

漠夜「…最近、眠れてないのか?」

 

真黒「……うん」

 

漠夜「…そうか」

 

真黒「心配かけてごめん。僕は大丈夫だから」

 

漠夜「あ、おい…!…俺も腹括るか」

 

 学校でも元気のない様子の真黒。そんな真黒を見てよく眠れていないことを看破した漠夜は何かを決意する。

 

真黒「……」

 

清那「白石君、ここにいた」

 

真黒「…朱井さん」

 

清那「帰ろう?」

 

真黒「…分かった」

 

漠夜「…あれは…朱井さん…。成る程、そういうことか」

 

 放課後、清那に声をかけられた真黒は連れ立って帰っていく。

 その様子を見た漠夜も何かを悟った様子を見せると、その後を追う。

 

⭐︎⭐︎⭐︎

 

真黒「…っ……父…さん……もみじ…」

 

???「……俺がお前を救ってみせる」

 

 夜中、悪夢にうなされる真黒。その前に謎の異形の影が現れ、真黒へと近付いていく…。

 

──翌朝

 

真黒「……なんか、久々によく寝れた気がするな。…そういえばあの日の夢を見てないような…」

 

コンコンコン

 

清那「白石君、起きてる?」

 

真黒「朱井さん?起きてるけど…どうしたの?」

 

清那「入るね。いや、微弱だけど妖力があった気がしたから何かないかと思って。…あれ、何だか少し、顔色良くなったね」

 

真黒「ああ、うん。…よく眠れたからかも」

 

清那「…そっか。……そういうことね」

 

 朝、どこか少しスッキリとした顔で目を覚ました真黒が不思議に思っていると、そこに清那が入ってくる。

 

清那「さ、今日も学校だし、着替えたら下に来てね。朝ごはん出来てるから」

 

真黒「…ありがとう」

 

清那「気にしないで」

 

 朝ごはんの支度は出来ていることを伝えると、清那はそのまま部屋を出る。

 

真黒「…今日も、生きないと」

 

⭐︎⭐︎⭐︎

 

漠夜「なんか真黒、最近調子良さそうだな」

 

真黒「ああ、うん。…ここ一週間くらいは悪夢を見なくなって…よく眠れるようになったんだ。…何でかは分からないけど…」

 

漠夜「まあ、何にせよお前が元気になってくれて良かったよ。お前までいなくなるんじゃないかとヒヤッとしたぜ」

 

真黒「…そんなに心配してたのか。ごめん」

 

漠夜「そりゃお前、親友が今にも死にそうな顔してたら気にもするだろ。…ま、回復したなら良いけどよ」

 

 一週間が経ち、ここのところは悪夢を見ていないという真黒は、そのお陰かかなり体調が回復した様子を見せていた。

 そんな真黒に嬉しそうな様子を見せる漠夜に、真黒は照れ臭そうに応える。

 

真黒「…まあ、今でも受け止め切れてるかって言われると受け止め切れてなんてないけど…それでも、生きるよ。父さんと紅葉のためにも」

 

漠夜「おう。それが良い」

 

 少しずつ生きていくことに前向きな姿勢を見せる真黒は、漠夜と別れて帰路に就く。

 

真黒「じゃあ僕、こっちだから」

 

漠夜「おう、また明日な!」

 

真黒「うん。…また明日」

 

 クリスマスのあの日から、変わらず親友として接し続けてくれる漠夜の存在に少なからず心救われていた真黒は、そのまま朱井家へと帰っていく。

 

真黒「…ただいま帰りました」

 

「真黒兄さん、おかえりなさい」

 

真黒「麗那ちゃん、ただいま」

 

 朱井家へと帰った真黒を出迎えたのは小学校3年生の女の子…清那の妹である朱井麗那(れな)だった。

 麗那は幼さを感じさせない淑やかな笑みを浮かべると、真黒に駆け寄る。

 

麗那「真黒兄さん、その…勉強で教えてほしいところがあるんです」

 

真黒「良いけど、お姉さんに聞いた方がいいんじゃない?」

 

麗那「姉さんは陰陽師関係で不在なので…それに、真黒兄さんの授業好きですし」

 

真黒「そっか、朱井さんは仕事か。…まあ、そこまで言われたら応えないわけにもいかないね。良いよ」

 

麗那「やった!ありがとうございます…!」

 

紅葉『お兄ちゃん!ありがとう!』

 

真黒(……紅葉…。そういえば、麗那ちゃんは同い年だったか…)

 

 真黒に懐いているのか、勉強を教わろうとする麗那に、真黒は表情を緩めるとその頼みを快諾する。

 嬉しそうにはにかみ、自室へと向かう麗那の背中を追いながら、真黒は同い年であった自身の妹のことを思い出す。

 

真黒「ここは…」

 

麗那「あ、そうなんですね」

 

真黒「そうそう。飲み込み早いね」

 

麗那「いえ、真黒兄さんの教え方が良いからですよ」

 

真黒「そう?…良い時間だし、そろそろ休憩にしよっか」

 

麗那「そうですね。あ、私お菓子持って来ますね!」

 

真黒「あ、それくらい僕が…行っちゃった」

 

 麗那の要望通り暫く勉強を教えていた真黒は一区切り付けて休憩を取ることを提案すると、麗那は菓子を取りに下へ向かう。

 

真黒「……この家に来て、もう一ヶ月か…。受験も近いし、気を引き締めないと。……折角清彦さんがお金まで出してくれると言ってくれてるんだから、ちゃんとやんなきゃね」

 

清彦『そういえば真黒君は受験はどうするつもりなんだい?』

 

真黒『……しなくても良いかなって。元々照羅巣を志望してましたけど…あそこ私立ですし。…居候の分際で受けるようなとこでもないですし。なので職を探そうかなと思ってます』

 

清彦『お金の心配をしてるならその心配は不要だよ。その分くらいは俺が出す』

 

真黒『!そんな…悪いです』

 

清彦『…私達には君の家族を守れなかった責任がある。…だから、頼む。どうか君の進路を諦めないでほしい。…この通りだ』

 

真黒『そ、そんな…頭を上げてください…!僕なんか、そこまでしてもらうほどじゃ…』

 

清彦『気にするな、と言っても難しいだろうけれど、気にしないでほしいんだ。…俺達大人の役目は子供の未来を守ること…君の家族を守れなかった俺達に何が出来ると思われるかもしれないけれど、せめて目の前の君の未来は守らせてほしいんだ。頼む!』

 

真黒『…分かりました。清彦さんにそんな頭を下げさせたいわけじゃないので…。その、ありがとうございます』

 

 真黒が思い返すのは朱井家にすぐ来ての頃、自身の将来を諦めようとしていた真黒を必死に説得してなんとか高校受験をさせようとしていた清彦に、真黒は折れて高校を受けることに決めるのだった。

 

麗那「お菓子持って来ました。クッキーがあったので、食べましょう」

 

真黒「ありがとう。…麗那ちゃんは気が効くね」

 

麗那「!…はいっ!…えへへ、褒められちゃった」

 

真黒「?…食べないの?」

 

麗那「あっ、た、食べます!…頭を使った後の甘い物は、格別ですね」

 

真黒「そうだね」

 

 二人でクッキーを頬張る真黒と麗那。

 こうして和気藹々と時を過ごしていくのだった…。

 

⭐︎⭐︎⭐︎

 

真黒「──ってことが学校であったんだよね」

 

紺一「それは傑作だな」

 

紅葉「お兄ちゃん、ご飯食べ終わったらゲームしようよ!」

 

真黒「良いよ。やろうか。…言っておくけど、今日も僕が勝つからね」

 

紅葉「ふっふっふっ…今日お兄ちゃんが帰ってくる前に特訓してたんだから、今日こそお兄ちゃんに勝つよ!」

 

真黒「お、言ったな」

 

紺一「二人とも、ほどほどにな」

 

「「はーい」」

 

 夕飯を囲んでの和やかな時間。

 しかし、次の瞬間突如として景色が暗転し、仄暗い部屋に変わる。

 

真黒「!?…父さん…紅葉……」

 

紺一「……」

 

紅葉「……」

 

真黒「っ…嘘だ…こんなの…!」

 

 紺一と紅葉の二人が物言わぬ姿で倒れているその景色──一ヶ月ほど前に紛れもない現実として真黒に突きつけられ、刻み込まれた景色が真黒を絶望の淵に叩き落とす。

 

真黒「っ!…夢か…」

 

「うわっ!?起きた…!」

 

真黒「!?誰だ…!」

 

「い、いや、これは違うんだ真黒…俺はその…」

 

 悪夢から目を覚ました真黒。その隣から聞こえた声に、悪夢によって過敏になっていたこともあり真黒は警戒心を強める。

 声の主は人ならざる姿をした異形の存在…長めの鼻に黒を基調とした体躯、ところどころにある煙のような靄のような模様が特徴的な姿のモノノケだった。

 

真黒「モノノケ…!…何でここに…!……いや待て、何で僕の名前を知ってる。…そういえば今の声、どこかで聞いたような……」

 

???「ヤベッ」

 

真黒「!」

 

漠夜『ヤベッ、そういやお前今日誕生日じゃん!なんか祝ってやった方が良かったか!?』

 

真黒「漠…夜…?」

 

???「っ…まさか、バレるとはな…」

 

真黒「お前本当に漠夜なのか!?」

 

???「ああそうさ。灰山漠夜は人間界に溶け込むための仮の姿…俺の正体はモノノケ…バクだ」

 

真黒「バク…漠夜が…モノノケ…?」

 

 真黒の目の前に現れていたのはバクというモノノケであるということを本人が明かすと同時に、その正体が真黒の親友である漠夜であることを明かし、目の前で漠夜の姿になってみせる。

 

真黒「…一体何を企んでる」

 

漠夜「え?」

 

真黒「僕に近付いて…何を企んでるんだって聞いてるんだ!答えろ!」

 

漠夜「お、落ち着けって…俺はただ、人間の生活に憧れがあったから、人間に化ける能力と催眠能力を使って灰山漠夜として中学生の生活を楽しんでただけなんだ」

 

真黒「…そんなこと言われて…信じられるわけないだろ。お前達モノノケが!僕から全部奪ったんだ…!そもそも何も企んでないならこんな夜中にここで何をやってたんだよ」

 

漠夜「…そう、だよな。…お前にとっちゃ、俺達モノノケは大切な家族を奪った“敵”だよな…。ここにいたのは、信じてくれないかもしれないけど…俺なりにお前を助けたかったんだ。家族を失って以来、お前はずっと悪夢に苛まれていた。どんどん元気を無くしていって、いつか死んじまうんじゃないかと不安になった。だから…そんなお前を助けたくてお前の悪夢を食べてたんだ」

 

真黒「悪夢を食べる?」

 

漠夜「…俺達バクは人間の悪夢を喰らうことが出来るんだ」

 

真黒「そんなの──」

 

清那「ちょっと白石君、何の騒ぎ…って灰山君!?」

 

漠夜「!朱井さん…」

 

 親友の漠夜の正体が憎くて仕方がないモノノケであることを知った真黒は怒り心頭といった様子で漠夜に詰め寄るが、その騒ぎを聞きつけて来た清那が部屋に乱入する。

 

清那「…成る程ね。大体状況は理解出来た。取り敢えず白石君、一旦灰山君から離れよっか」

 

真黒「けど…」

 

清那「一度頭を冷やした方が良いと思うよ。…いくら憎いモノノケが相手でも、感情的になりすぎだと思う」

 

真黒「……分かった」

 

漠夜「俺の正体、気付いてたんだな」

 

清那「まあ、薄々ってところかな。結構上手に妖力を隠してたから確証はなかったけど。…けど、最近白石君が悪夢にうなされることがなくなったから、少なくとも“バク”が白石君の周りにいるんだろうとは思ってたよ」

 

漠夜「…その、真黒。…今まで騙してたりして、ごめんな。朱井さんもこんな時間に家に勝手に入ったりしたのは悪かった。…じゃあ」

 

真黒「……」

 

 清那に諫められて矛を収めた真黒。

 一方で漠夜は自身の正体を看破されていたことに驚き、その後申し訳なさそうな態度で姿を消す。

 

清那「…白石君」

 

真黒「……」

 

清那「…白石君にこんなことを言うのは凄く酷なことなんだとは思うんだけど…こうなった以上伝えないわけにはいかないから、伝えるね。…モノノケというのは人間と一緒なんだよ。それぞれに感情があって、個性がある。人と共存を望む穏当なモノノケもいる…というか大多数は人間に好意的か、そもそもそこまで興味がないかってところなんだ」

 

真黒「……うん。…本当はそんなこと、分かってる。あいつ…漠夜と過ごしてきた時間はきっと、嘘なんかじゃいって頭じゃ分かってるけど…どうしても心の中で納得がいかない。認められないんだ」

 

清那「…そうだね。…それなら、明日…もう今日か。明日の放課後、時間ある?」

 

真黒「え?…あるけど」

 

清那「それなら紹介したい人がいるんだ。…ちょっとした荒療治になるかもだけど…それでも、きっと今の白石君には必要だろうから」

 

真黒「…?」

 

次回へ続く…

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