原神IF -知っているようで、知らない世界- 作:白い花吹雪。
屋内に戻ると、バーバラに声をかけられた。
なんでも、「お姉ちゃんが呼んでたよ」とのことだ。
……ジンか。
いや、別に嫌いなわけではないが、昨晩のことがあるから、どうしても変な想像をしてしまう。
彼女とリサが、夜の図書館で愛し合っていた2人か……とか、まさか、昨晩私が図書館を覗いたことがバレたのではないか?とか、いろいろと考えてしまう。
だが、今は……まあ、忘れよう。
さて、ジンのいる部屋へ向かうと、すでにみんな揃っていた。
ウェンティとディルック……酒場のオーナーもいる。
何気に今回ディルックと会うのは始めてだが、彼は「面倒な自己紹介などは必要ない」と割り切った。
「僕は君たちを知っている。それに、この場には僕たちしかいないわけでもない。なら、名乗る必要はないだろう」
ディルックはそう言いつつ、ウェンティを横目で見た。
彼は、「へへ……面目ないや」と言って頭をかいた。
実は、ついさっきウェンティは天空のライアーがどこにあるのか、大聖堂のシスターに聞きに行ったらしいのだが、そこで自分が風神であることを堂々と明かしてしまったのだという。
まあ……予想通り信じてはもらえなかったようだが、たまたまいたディルックに頭を押さえつけられ、外に引きずり出されたらしい。
「一般人に、気安く正体を明かすな」と注意されたとか。
「あれ?ディルックは、彼の正体を知ってるの?」
「昨日、ジンから聞いた。彼には、僕も前々から奇妙な違和感を感じていたからな、すぐに信じたさ」
「あなたの店の常連だもんね」
「そうだな」
この時、私はさらっと言ってしまった、ディルックに怪しまれるかも……と思ったが、彼はスルーしてくれた。
とはいえ、彼は何気ない会話の中に潜む違和感を見落とすような人ではない。もしかしたら、空気を読んでスルーしてくれたのかもしれない。
「旅人、ディルックとウェンティから聞いたんだが……今暴れている風魔龍は、邪悪な力に蝕まれたせいでおかしくなってしまっているらしい。それで、天空のライアーの音を聴かせれば、浄化して元に戻せると……」
その話も知っている……が、ちょっとシチュエーションが違う。
前は、ウェンティが真実を語った時に私とディルックも同席していた。
ともかく、ここは初めて知ったようなふりをする。
私が、「一度この世界を旅して、すべてを知っている」ことは、なるべくこの世界の人に知られたくない。
信用していないわけではない。彼らに知られたら、未来にどんな影響を及ぼすかわからないからだ。
「天空のライアーは、私に心当たりがある。入手は、任せてほしい」
なんと、今回はジン自らが回収してくれるというのか。
これなら、わざわざ仮面をつけてファデュイに変装したり、泥棒扱いされたりしなくて済む。
前者はともかく、後者は完全な濡れ衣だった……よく覚えている。
「本当か?天空のライアーは、偽物があちこちにある。風神の至宝を守るため……とかいって、騎士団が偽物をいろんなところに隠したじゃないか」
その話は初耳だった。
この世界では、そんなことがあったのか。
本物を守るために偽物を作って、それっぽいところに隠す……ということ自体は、別におかしくはないが。
「大丈夫だ。私とて騎士団の代理団長だからな、本物の天空のライアーの場所は掴んでいる」
ディルックは、ため息をつきつつも納得した。
「まったく、騎士団というやつは……まあいい」
「ただ、ちょっと心配なことがあるな。何しろ、あれがボクの手を離れてからかなり時間が経ってるからね。物理的に壊れてはいないかもしれないけど……完璧な状態ではないような気がするんだよね」
ウェンティが言うのは、「風の元素力が足りないかもしれない」ということだろうか。
前の世界でも、そんなことがあった。
彼も私と同じく、前の世界を生きた記憶を持っているようだから、そこから来た発言だろうか。
「その時は、できることをするよ」
私がそう言うと、ウェンティはこちらを見て頷いた。
「風魔龍は……トワリンは、今も泣いてる。1人で、誰もいないところで……ね」
「よくわからないけど……かわいそうにな……」
パイモンが悲しげに言う。
「大丈夫だよ、パイモン。私が……いや、私たちみんなが、きっと彼を救って見せる」
そう言うと、パイモンは顔を上げて「そうだな……よし!オイラ、おまえたちを信じるぜ!」と勇ましく言った。
……この非常食は、こうでなくちゃ。