原神IF -知っているようで、知らない世界- 作:白い花吹雪。
モンド城に入ると、すぐにジンに会ったので事情を説明してクレーを引き渡した。
既に話は回っていたようで、クレーはすぐに反省室送りになることが決まった。
クレーは……まあ相変わらずと言うべきか、「反省室、嫌だなあ……」とぼやいていて、自分が悪いことをしたとは思っていない様子だった。
とはいえ、少なくとも冒険者協会の人たちの手を煩わせたことは事実だし、そもそもこの子は普段から悪気なく問題を起こす。
いつだったか、この子とお母さんが仲良く反省室送りになったこともあった気がする……母娘そろってお騒がせなものだ。
ちなみに、ジンはどうやら図書室から出てきたようだった。
確か、あそこにはリサがいたはず……。
まあ、あまり深くは考えないでおこう。
「そう言えば、風魔龍の件はどうなったんだろうな?」
パイモンに言われて、思い出した。
しかし、それを誰かに聞きに行く必要はなかった……ちょうど通りかかった人物が、その話題をふっかけてきたからだ。
「やあ、旅人。パイモン」
聞き慣れた優しい声。
それは、ウェンティのものだった。
「……ウェンティ」
「ん?どうかしたの?変に驚いたような顔をしてるよ?」
「もう、動いて大丈夫なの?」
ウェンティは、先日“淑女”に襲われてひどい怪我を負った。なのに、もう立って歩けるのだろうか。
「大丈夫だよ。風神がいつまでも寝込んでいちゃ、信者に申し訳ないしね」
彼はそう言って笑うが、そもそも彼が七神であることを知っているのはごく一部の人間だけだ。
何気に、自国の民にも正体を公表していないのは彼と鍾離くらいだったりした……少なくとも前の世界では。
「お、おい!こういうところでそんなこと言っていいのか!?」
パイモンが焦ったように言うが、ウェンティは気にも留めない様子で「心配ないさ」と答えた。
「正直、ボクは正体がモンドの人たちにバレてもいいと思ってるんだ。ただ、自分からバラそうとは思わないけどね。神の心も取られてしまったし」
それで、私は思い出したように尋ねる。
「そうだ、風魔龍のことなんだけど……」
「ああ、それなら心配はいらないよ」
彼が言うには、天空のライアーはすでにジンが確保してくれているし、風魔龍の居場所……つまり風龍廃墟とその周辺の状況も確認済みらしい。
ただ、ライアーが今どんな状態なのかはウェンティにもわからないという。
「そこは、ジンに現物を見せてもらわないと何とも言えないね。……っと、そうだ。もう誰かから聞いてるかもしれないけど、今日の15時にモンドの町の入り口前に来てほしい。そこで、作戦を開始するから」
「作戦……そうか、いよいよ風魔龍に会うんだね」
風魔龍、すなわちトワリン。
風龍廃墟で、アビスの力に侵食された彼と戦った時のことは、今もよく覚えている。
後に作り物の世界で、完全にアビスの力に染まりきった彼とも戦った。
あちらは元のトワリンより遥かに凶暴で手強かったが、それでもやはり記憶に強く残っているのは、現実のモンドで戦ったトワリンだ。
彼は、私がこのテイワットに来て出会った初めての七神の眷属であり、初めての強敵だった。
ウェンティの力を借りて彼を静め、アビスの力を浄化した時のことは、ついこの前のことのように思い出せる。
いや、何も彼だけじゃない。アビス関連のことは、今でも明確に覚えている。
だってアビスは、私にとっては単なる敵勢力というだけではなく、兄の……。
「時間になったら、君にも来てほしいな。ディルックやジンも来る」
「わかった。……あれ?ジンはこのこと、知ってるの?」
「もちろんだよ。もしかして、ジンに会ったの?」
「うん、さっきね。でも、そんなこと一言も言ってなかったけど……」
「忘れてたんじゃないのかな?さっきまで、図書室でリサと話してたみたいだし」
そう言われると、ついあの夜のことを思い出す。
まさかあの2人、昼間から……いや、さすがにそんなことはないか。
「彼女たちは……まあ、ボクには直接関係ないし、人間の関係に首を突っ込むのはあまりよくないからね。見て見ぬふりをしておくよ」
それを聞いて、私は目を見開いた。
「ウェンティ、もしかして2人の関係を知ってるの?」
「もちろん。まあ、たまたま見ちゃったんだけどね。……好みは人それぞれだし、迂闊に口を挟むことはできない。神を信仰する者と、そうでない者がいるようにね」
なんと、ウェンティもジンとリサの関係を知っていたのか。
しかも、私と同じく現場をたまたま見てしまっていたとは。
ただ、これはある意味では2人にとって幸運かもしれない。
私もウェンティも、彼女たちの趣味は理解できなくもないから、まだ受け入れられるが……これがバーバラやクレー、ガイアあたりだったらと思うと目も当てられない。
「え?何の話だ?」
パイモンが首をかしげるが、私は「パイモンは知らない方がいい」とだけ言った。
「何だよそれ!余計気になるじゃんか!」とごねていたが、きっとこの非常食には理解出来ないだろうし、話すべきことでもない。
しかし、最初の国でこんな現実があるとは……ミカが性転換していた事実といい、この先が心配になる。
そのうち、性転換した神様なんてのも出てきたりして……なんて思って、それをすぐにかき消した。