原神IF -知っているようで、知らない世界- 作:白い花吹雪。
翌日、モンド城の廊下で偶然にもアルベドに出会った。
当然の如く、彼も私とは初対面という感じだった。
「スクロースは?元気にしてる?」
そう聞くと、彼はにわかに驚いた。
「なぜ、スクロースのことを知っているんだい?」
ここで、私は今の発言を悔いた。
アルベドは、下手な嘘が通じるような相手ではない。だが、果たして本当のことを言っていいのだろうか。
数秒のうちにかなり悩んだ挙句、私は答えを出した。
「実はね、私はモンドに……いや、このテイワットに、一度来たことがあるの。違う世界線というべきかな、前とはいろいろ違うんだけどね」
彼はスクロース共々、気になったことはとことん追求するタイプの人間だ……いや、正確にはホムンクルスだけど。
そのことは、前の世界でもよく知っていた。
いつだったか、私が神の目を持たないのに元素力を使える理由が気になる、ということでわざわざドラゴンスパインまで連れて行かれ、いろいろな実験をされたことがあった。
あれは……まあ嫌ではなかったけど、やたら細かいししつこくて、正直面倒だった。
またあの時のようなことがないと良いが。
……まあそういうわけなので、私は彼に私自身の秘密を喋った。
下手に隠し事をすると後が面倒だし、何となくではあるが、彼には包み隠さず話してもよいような気がしたのだ。
「へえ……興味深い話だ。けど、同時にすごく厄介だね。記憶というのは、本人からすれば確かにあるものだ。けど、他人はもちろん本人もその証明ができない、となると、その記憶が正しいとも間違いだとも断言できなくなる……理論上はね」
相変わらず研究者気質……というか、理論的な思考だ。
個人的な思念をほとんど入れず、理論的に考えた上での事実だけを淡々と語る口ぶりは、研究者故のものか、それともホムンクルス特有のものか。
「ちなみにだけど、スクロースは変わらず元気だよ。今も研究室にこもってる。ちょうどこれから、食事と水を持っていくところなんだ」
「え、そうなのか?」
「うん。スクロースは……ボクなんかよりずっと研究熱心だからね。一度研究を始めれば、寝食を忘れて没頭してしまって、なかなかやめないんだ。だからこうして、ボクが彼女の生活面を支えているのさ」
これもまた、納得のいく話だ。
スクロースは、前の世界でもとにかく研究をすることが好き、それ以外はからっきし……という、いかにもな研究者気質の人だった。
もっとも、こちらはこちらで本当に「人間」なのかは疑わしいところだが。
その後もしばらくアルベドと話してみたが、彼の状況というか現状としては、まさしく私がモンドに来て間もないころとほぼ同じ状況なようだった。
つまり、ドラゴンスパインでの死体遺棄事件やドゥリンのことはまだ知らないというわけだ。
いや、ストレートに聞いたわけではないが。
「神の目を持たない人間が、元素力を使えるなんて……ボクの知る限り、前例のない話だ。気になるね、ぜひ調べさせてほしい」
やはりそうなったか。だが、正直勘弁してほしい……今日の15時には、ジンたちと町の入り口前に集合することになっているし。
「いや、それがな……今日は、こいつ予定が入ってるんだ。ほら、おまえの研究って、時間かかるだろ?それだと、約束の時間に間に合わなくなるかもしれないからさ……」
なんと、パイモンが事情を説明してくれた。
そして、アルベドもそれで納得してくれた。
曰く、「研究において最も優先すべきなのは、被験者の都合と安全だからね」とのことだ。
「とはいえ、キミのことは気になる。いつか都合がつく時、いろいろと調べさせてほしいね」
まあ、彼ならそう言うだろう。
ちょっとやそっとのことで、追求を諦めるような人……いやホムンクルスじゃないし。
「ごめんね。あ、そうだ。スクロースにもよろしく言っておいて」
「彼女は、キミを知らないと思うけど?」
「あ、そっか……まあでも、いつか顔を合わせるかもしれないし」
「理論上、あり得ないとは言えないね。キミがモンドにいる限りは。ただ、スクロースは滅多に研究室から出てこないし、キミの方から会いにでも来ない限り、そんなことはない気もするけどね」
それはまあ、仕方ない。
そもそも人付き合いとかは得意じゃなかったはずだし、それが初対面の人となればなおさらだ。
……最も、私からすれば初対面でも何でもないのだが。
「……おっと、そろそろ戻らなきゃ。それじゃあ、失礼するよ」
アルベドはそう言って、去っていった。
話してみた感じ、前の世界の彼とさほど変わらないように感じたが……これから彼に待つ運命も、そうなのかはわからない。
ドゥリンとの出会いはまだしも、ドラゴンスパインで起きる死体遺棄事件の容疑者として裁判にかけられる運命は、来てほしくないものだが。
パイモンには、前の世界で、彼にこの後どんなことが起きたか覚えているか?と聞かれた。
それに、私はこう答えた。
「それは、よく覚えてるよ。でも……なぞってほしい運命と、なぞってほしくない運命があるかな」
「まあ、それはそうだよな。オイラとしても、それを知ってるのがおまえだけなんだったら、なるべく変えてほしいけど……そううまくは行かないかもな」
それは致し方ないと思う。
いくら未来に起きること、運命を知っているからと言って、それを変える力がなければ。
ただ、ここしばらく見てみた限り、既にこの世界は前の世界と異なるものだ。
だとすれば、もしかしたら……。