原神IF -知っているようで、知らない世界- 作:白い花吹雪。
いよいよ風龍廃墟に到着した。
しかし、すぐに私は自分の目を疑った。
風龍廃墟の周りには、風のバリアのようなものが展開されていた……のだが、それがひどく汚れているというか、黒ずんだ紫色のような不気味な色をしていた。
まるでナタで見たアビス、あるいは夜神の国のようだ。
「うわ、なんか気持ち悪い色だな……」
パイモンの言葉に同意する。
「アビスの力が強まっているんだ。 ここからでも、相当強い力を感じる。トワリン、大丈夫かな……」
ウェンティがそんなことを言うと、不安になる。
何しろ私は、こんな感じの景色を見たことがある。
いつだったか、作られた世界のモンドに行った。
そこはいわば「もしも」の世界だったのだが、そこにいたトワリンはアビスの力に侵されきり、本来のテイワットのそれより遥かに凶暴で強大だった。
そしてそこにいたトワリンは、あちこちが紫っぽく変色しており、彼が滅ぼしたモンドには紫の瘴気が至る所にあった。
……今にして思えば、あれもまたナタを脅かしていたアビスのそれと似ていた。
とまあ、そんな経験をした記憶があるからこそ、このような景色を見ると身構える。
同時に、最悪のシナリオも想定できてしまう。
とはいえ、それはウェンティが天空のライアーを見て放った一言である程度立ち消えた。
「ライアーの風の力は、まだ消えてない……ってことは、トワリンはまだ無事だ。ただ、長くは持ちそうにない。急がなきゃ」
そうしてバリアへ駆け寄り、ウェンティがそれを解除すると言ってライアーを奏でようとしたその時、紫色の何かが横から飛んできた。
「……!」
その方向を見ると、独特な紫の衣服に身を包み、仮面を被った女……ファデュイの「雷蛍術師」がいた。
今飛んできたのは、こいつの雷蛍だったらしい。
「来たね、吟遊詩人様。さっそくだけど、その楽器を渡してもらえるかしら?」
ウェンティは、特別な作り笑いをした。
「これを持って、どうするつもりだい?」
「そんなの知る必要ないわ。これは“淑女”様の命。私たちはそれに従って、その楽器を奪い取りに来た。それだけよ」
「へえ……他人のものを欲しがるけど、それを何に使うのかも明かさない者の要求に応じる人はいないと思うけど?」
「その通りだな。こういう時は、せめて何をするつもりなのかくらいは教えてやるものだろう」
ディルックも便乗したように口を出す。
すると、雷蛍術師は舌打ちをした。
「ああもう、面倒くさい……!まあいいわ。どうせ、あんたたちがすんなりそれを渡してくれないってことは、聞いてたから」
「それで?1人で我々からライアーを力づくで奪い取ろうと言うのか?」
ジンが身構え、私も剣を抜く。
しかし、雷蛍術師は「あー、違う違う」と訂正するように言った。
「私だってバカじゃない……あんたたちに、1人で向かうような真似はしない。それに、せっかく戦力をいただいてきたんだしね」
彼女はそう言って手を動かし、雷蛍を3匹上に飛び上がらせてバチッと発光させた。
すると、周囲の崖や瓦礫の陰から先遣隊が姿を現した。
雷、岩、水、風……少なくとも10人はいる。
「なんだ、たったこれしきの数か?取るに足りないな。とっとと終わらせよう」
ディルックが剣を出し、ウェンティに振り向くことなく言う。
「君は演奏を続けろ。それが終われば、この壁に穴が空くんだろ?」
「うん……多少の時間はかかるけどね」
「なるべく手短に終わらせろよ。こっちもすぐ終わらせる」
すると、先遣隊の1人……水銃が鼻で笑った。
「なんだあ?おまえ、ずいぶん余裕があるな。俺たちを舐めてんのか?」
「どうだかな」
私とディルックとジンがウェンティの前に出て、リサはその後ろ、中間あたりに立った。
近距離戦があまり得意でないことを考えれば、妥当か。
「俺たちに囲まれても、怖気づかないとはな。まあいいさ、その方が燃やし甲斐があるってもんだ!」
炎銃が銃を構える。
そして、雷蛍術師が指示を出す。
「いい?私が5数えたら、一斉射撃。その後は、予定通りに動きなさいよ?」
「承知しました」
私の隣に立つジンが、囁くように言ってきた。
「このバリアを破るには、ウェンティの力が必要だ。彼の詠唱が終わるまで、奴らを近づけさせないようにしよう」
「堂々と言ったらどうだ。隠し事ができるような状況じゃないだろう」
ディルックにそう言われ、ジンは彼を見た。
なんだか、稲妻のたたら砂での一件を思い出す。
詳しいことは忘れたが、何かの装置だか何だかをいじっている一般人を守るために、次々に出てくる先遣隊を倒し続ける……という、なかなか大変な任務だった。
ターゲットを敵から防衛する、というシチュエーション自体はそれまでも度々あったが、あの時は妙に難易度が高かった。
あくまでも先遣隊ばかりが出てくるのが、せめてもの救いではあったが。
そうしているうちに雷蛍術師のカウントが終わり、彼らの攻撃が始まった。
彼らは均等な距離から私たちを囲み、狙ってきていたが、弾速には明らかな違いがある。
最も速く飛んできた炎銃のそれを剣で弾き、次に来た岩使いの攻撃はディルックが防いだ。
しかしその直後、私は視界の上端に落下してくるものを確認し、身を翻した。
氷銃と水銃が、ジャンプしてきたのだ。
さらに雷ハンマーと風拳も突っ込んできて、死角から殴りかかってきた。
どちらもギリギリ当たらなかったが、ジンが吹き飛ばされた。
「行儀の悪い子たちね」
リサが呆れるように言い、近くにいた先遣隊たちに雷を落とした。
すでに元素スキルを使っていたのか。
だが、それでも雷ハンマーはお構いなしに動き、リサを狙った。
そこでディルックがスキルを使いつつ切り込み、過負荷を起こして後退させた。
私も負けていられない。
まずはスキルを使い、距離を取っていた炎銃を吸い寄せてから吹き飛ばし、近くの水に落とした。
奔狼領の件といい、今回はやたらとファデュイが立ちはだかってくる。だが、それから逃げたりはしない。
目の前に立ちはだかる敵を倒し、冒険を続ける……それが、前の世界から変わりない私のスタイルだ。