原神IF -知っているようで、知らない世界- 作:白い花吹雪。
廃墟の中は、相変わらず螺旋状に登っていくような構造となっていた。
あちこち崩落しており、簡単には進めないのも前と同じだ。
ただ、今度はヒルチャールなどの魔物が一切おらず、一部の場所には偶然か、橋のようになっている瓦礫があるなど、前の世界との違いもあった。
また、今回進むうえで最大の心配材料となったのは、リサたちの体調だ。
進めば進むほど彼女らは息を切らし、顔色が悪化し、いかにも具合が悪そうになる。
時には一旦立ち止まって休憩したいと申し出てくるほどで、大丈夫なの?無理はしないで、と言いたくなった。
一方、ディルックはそこまででもない様子だったが……彼のことだ、単に押し殺しているのだろう。
ましてや、今はウェンティがいるのだ。彼にあらぬ心配をかけるのは気に食わないのかもしれない。
ひとまず風龍廃墟の頂上に到着した。
ウェンティが天空のライアーを奏でると、数十秒の猶予を挟んでトワリンが現れた。
しかし、その姿を見て私もウェンティも悲鳴を上げた。
彼の体は、あちこちに青紫色のカビのようなものが生えており、その肌も暗い色に変色していた。
一部は鱗が剥がれ落ちているばかりか、その下の皮膚に穴が空いているようにも見える。
……まるで、龍のゾンビだ。
「トワリン……」
ウェンティが呟くと、トワリンはおぞましい咆哮を上げた。
前よりも遥かに低く、濁ったその声は、聞いていると頭が痛くなりそうだった。
「こ、こいつ……本当に生きてるのか!?まるでゾンビじゃないか!」
パイモンは、私と同じ感想を口にした。
だが、私は……わずかながら違うものを感じていた。
「トワリン……あなたは……」
何となくわかる。彼は、アビスの力に侵されている……前とは少し違っていて、それでいてより強力なアビスの力に。
そのことをウェンティも感じたのかはわからないが、とにかく彼はライアーを手早く奏でつつ、叫ぶように言い聞かせた。
「大丈夫!落ち着いて!ボクたちは、君の敵じゃない!」
そうは言っても、トワリンにはまったく聞こえていない様子だ。
彼は黒く変色し腐敗したようになった目で私たちを見、大きく羽ばたいた後に急降下して爪を振るってきた。
狙われたリサは何とか飛び退いたが、その衝撃でえづき、吐きそうになった。
一方のジンは辛うじて耐えてはいるものの、こちらもいつ吐いてもおかしくない様子だ。
「まったく……世話がかかるのは君もか!」
ディルックが飛び出し、リサを担いでトワリンから離れた。
しかしトワリンは、両方の前足で床を掴んで息を吸い込んでいる……ブレスの用意だ。
これは、風の種で風域を作って飛ばないと避けられない攻撃だったはず。
辺りを見回したら今回も風の種があったが、一箇所だけでは私しか飛び上がれないだろう。
と、ウェンティが風を起こしてディルックたちを自分と一緒に宙へと舞い上がらせた。
元素スキルのようにも見えるが、それよりも風力が強く範囲も広い。
というかジンは元より、リサを担いでいるディルックの体も容易く浮かべて空中で静止させているあたり、明らかに風域や元素スキルによるものではない。
もしかしたら、風神の力を使ったのだろうか。
ちなみに私は風の種を拾い、それで作り出した風域を使って飛び上がった。
しかし、前にもましてブレスの時間が長く、風域の効果が切れてしまい、地上に降りそうになった。
そこでまた、ウェンティが風を起こして私を浮かべ、助けてくれた。
その後しばらくしてトワリンはブレスを止め、前足を足場から離した。
と思いきや、そこから大きく爪を振るって2連続の攻撃を放ってきた。
これから降りようとしていたところだったので、避けることなどできず見事に食らった。
また、この攻撃によって蝕破かそれに近いデバフを付与されたのを感じた。
今は回復ができる人がジンしかいないが、元素爆発頼りだし、そもそも使える状況かどうか……。
その後もトワリンは噛みつきなどの攻撃を連続で繰り出してきて、反撃の隙を与えてくれなかった。
攻撃の威力もだが、この獰猛さ……やはり、あの作り物の世界にいたトワリンを思い出す。
「仕方ないね……乗ろう!」
ウェンティが一際強力な風を起こし、私たちをトワリンの頭上へと運ぶ。
そこには、例のごとく紫の大きなトゲがあった……のだが、これに一歩近づいた途端に気持ちが悪くなった。
ここに来るまでと来てからのリサたちも、こんな感覚を味わっていたのだろうか。
私だけでなくウェンティも同様の体調不良を感じたようだが、彼は小さく「うっ……」と唸ったのみで、大きく踏み込んでトゲを掴んだ。
「さあ……旅人!これを斬って!」
私は剣を抜き、トゲを何度も斬りつける。
あの時と同じなら、これを破壊すれば……。
ただ今度は、ダウンしたりしているわけではないからか、トワリンは空高く飛び上がり、しっかり暴れる。
なので、振り落とされないようしっかりとしがみつき、隙を見て剣を当てる。
リサたちはウェンティが風のシールドのようなもので包み込み、落下しないように守ってくれているから心配はない。
私は彼と共に、ひたすらこのトゲに掴まりつつ剣を振るう。
すべきことは、それだけだ。