原神IF -知っているようで、知らない世界- 作:白い花吹雪。
トゲを斬り始めてしばらくすると、風魔龍は体を上下に大きく動かして私たちを振り払った。
幸いにもその方向は足場のほうだったので、ウェンティに守ってもらう必要はなかった。
そしてまた、空中にいるトワリンとの対決となったわけだが……相変わらず向こうは高速で攻撃を放ってくる。
しかも、今度は距離を取ったまま風の弾やブレスを放つ攻撃が多くなり、そもそも近づいてくる頻度が大きく減った。
「……っ!これじゃ近づけないぞ!なあ吟遊野郎、またおまえの力でなんとかならないか!?」
パイモンが喚いている間にも、5発続けて風の弾が飛んでくる。
それぞれが異なる場所を狙ってくるので、避けるのも一苦労だ。
しかも、当たると結構痛い。
ただ、この攻撃にはデバフがなく、食らっても痛いだけで済むのがせめてもの救い……だろうか。
「そうしたいところだけど……今行っても危険だ。もう少し様子を見よう」
「ええ!?いやいや……ただでさえジンたちが具合悪いって言ってるんだ、早くなんとかしなくちゃだろ!」
その通りだ……と思った直後、目の前にジンが立ちはだかった。
彼女は飛んでくる風の弾を剣でかき消し、自分と私たちを守った。
「えっ……!?おまえ、もう大丈夫なのか!?」
「いや……だが、黙っているわけにはいかない。旅人や風神様に任せきりというわけには……」
「はは、それはボクのセリフだね。彼を鎮めるのは、元々はボクの仕事。それを君たちにも手伝わせるってのは、情けない話さ」
言い方と表情からして、全然そう思っているように見えない。まあ、いつものことではある。
ちなみにジンの後ろを見ると、リサもなんとか立ち上がってきていた。
ディルックは元より普通に立って戦っているし。
「本当だな。酒代を踏み倒し続けた挙げ句、こんなことをさせるとは……」
そうは言うが、正直彼からすれば、そんなのはあまり大したことではなく、皮肉を言うための口実として使っているだけだろう。
「へへ……そうだね。こういうところで、ツケを清算しなきゃ」
トワリンが近づいてきたのを見計らって、ウェンティはライアーを奏でる。
するとライアーから円形の光が漏れ出し、それを浴びたトワリンは途端に失速する。
そのままバランスを崩したところで、ウェンティがまた私たちを飛び上がらせる。
今度は私だけでなくウェンティ自身もトゲに飛び乗った。
「トワリン……!」
彼は一瞬だけとても悲しげな顔をして、でもその後すぐに真剣な顔になった。
トワリンはウェンティの声など耳に入っていないかのように咆哮し、自らの体に乗ったものを振り落とさんと暴れ続ける。
私たちはなんとか掴まっていたが、リサたちは……。
「あ!やばい!」
パイモンが飛び出していったが、せいぜい1人を捕まえて足場に運ぶのがやっとだろう。
3人をまとめて回収するなど、とても──。
「えっ!?消えた……!?」
そんなまさか、と思ったが、私も見た。
足場の下、白い霧に包まれた空間……そこに落ちていったリサは、突然ふっと姿を消した。
続けて落ちていったディルックも、同様に……。
驚いたが、そんな暇はない。
何しろ今は、暴れるトワリンの頭のトゲにウェンティ共々なんとかしがみついているのだ。
「旅人……!もう少しだけ、こらえて!」
「な……何する気!?」
ウェンティは両手ではトゲを掴みつつ、ライアーを空中に浮かべて手を触れずに奏で始めた。
とても優しく、ゆったりとした音色だ……が、今はのんびりと聞いている暇はない。
一体何をするつもりだ。このままでは……と思っていた矢先、変化が起きた。
ライアーがさっきよりも強く光り輝き、トワリンの体全体を照らした。
するとトワリンは悲鳴のような叫びを上げ、同時に体のあちこちの腐敗したような傷跡が塞がっていく。
さらには、私たちが掴まっていたトゲも色が変わり始め、見慣れた紫色になっていった。
その瞬間、私は直感的に剣を振るった。
トゲが破壊され、私たちは振り落とされ──ジンたちが消えていった真っ白な闇に吸い込まれていった。