原神IF -知っているようで、知らない世界-   作:白い花吹雪。

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36.風神と眷属

 気がついた時には、私は空を見上げていた。

さっきまでの濁った空とは違う、快晴のような澄み渡った青空。

そして、どこか懐かしいような羽音と地面の揺れ方。

 

跳ね起きて辺りを見回すと、すぐ隣にウェンティがいた。

ここはトワリンの背中で──周囲にはリサたちも倒れていた。

 

「大丈夫だよ。彼女たちは、まやかしの奈落に落ちて、気絶しているだけ。ケガはないよ」

 

ウェンティは優しく言い、微笑んだ。

 

「ウェンティ……何があったの?」

 

「簡単なことだよ。対処が間に合って、トワリンが正気を取り戻した。すべてがうまくいったんだ」

 

そ こで、私の左隣にいたパイモンが目を覚ました。

唸りながら起き上がり、「あれ?ここはどこだ……?」と呟き、私が「トワリンの背中だよ」と言うと驚いた。

 

「ええ!?ああ、そうだ!オイラ、飛ばされたみんなを助けようとして、途中で意識がなくなって……いや、でも、トワリンの背中にいるってどういうことだよ!?」

 

「それについては、彼から聞いて」

 

 パイモンに視線を移され、ウェンティは頭を掻いた。

 

「話すと長いんだけどね……要は、トワリンを蝕んでいたアビスの力を、ボクがライアーを使って消したんだ。彼はまだ完全にはアビスの力に染まっていなかったから、助けることができた」

 

そこで私は、改めてトワリンを見た。

変色して腐敗したようになっていた肌や翼はすっかり元通りになっており、前の世界で見たトワリンそのままとなっていた。

 

「彼は、やっぱりアビスの力を受けていたの?」

 

「まあ、結論としてはそうだね。でも……」

 

 

 すると、トワリンから声が聞こえた。

 

「我が受けたのは、確かにアビスの力だ。だが、あの力は……おそらくお前が思っているものとは違う。アビスの中でもより強力で、純粋なアビスの力だ」

 

そう聞くと、ちょっとわからなくなる。

アビスの力に強弱があるのはわかる。でも、純粋なアビスの力、というのはどういうことだろうか。

 

「そしてあの力は……我が受けたのは初めてではない。昔、同じ力の侵蝕を受けたことがある……」

 

 ますますわからなくなった。

トワリンは、以前にもアビスの力を受けたことがある?前の世界では、そんな話聞いただろうか。

いや、この世界は前とはいろいろと違うから、おかしくはない話だが。

 

「そうなの?ウェンティ」

 

「うん……確か、250年くらい前だったかな。突然アビスの裂け目が開いて、たくさんの魔物が押し寄せてきたことがあったんだ。それでボクも戦った。風神としてね」

 

聞いたことのない歴史だが、ウェンティがそう語るということは、この世界ではそれが正史であるのだろう。

 

「トワリンの奮闘もあって、戦況はこっちが有利だった。でも……そんな中、アビスの指導者が現れてね。彼が直々にトワリンを捕らえ、アビスの力を流し込んだ。その結果トワリンは、体中が変色して……さながら生き返った死体のようになって、暴れ始めたんだ」

 

 それだけ聞くと、まさしく今回と同じだ。

でも、同時に1つ疑問が湧いてくる。

 

「ってことは、今度もその……アビスの指導者が、トワリンを捕らえたの?」

 

「いや、違う。今度は……」

 

トワリンは、「はっきりとは覚えていない」と断った上で続けた。

 

「眠っていた我のもとに、黒髪の怪しい女がやってきた。払い除けようとしたが、その目を見るとなぜか体が動かなくなった。そのまま女に何かを打たれ、アビスの力に……」

 

 なるほど、そういうわけだったのか。

しかし、その女とは一体何者だったのだろう?

何となく死の執政が思い浮かんだが、あちらは黒髪ではない。

そもそも、アビスともトワリンとも特に接点はなかったはず……。

 

「ただ……不思議だな。思い起こすと、あの女からはお前と似た何かを感じた。見た目は全く違ったがな」

 

「えっ?私?」

 

「そうだ。無論、同一人物だと言うつもりはない。我の記憶違いかもしれぬ。だが……今こうしてお前を見ると、あの女と似た何かを持っているように感じる」

 

それはまた、気になる話だ。

アビスの指導者の正体は見当がつくが、こちらの正体はまったくもって見当がつかない。

「黒髪」だったのであれば、死の執政や天理は違うだろうし……誰だろう?

 

「いずれにせよ、その女が我にアビスの力を注いだ。だが、それをお前たちが払ってくれた。故にこうして、懐かしい空を飛ぶことができている」

 

「そうだね。昔はよく2人で飛んだね……風の止まないこの空を」

 

 ウェンティはライアーを取り出す。

その弦は淡い緑の光を放つ……ちょうど、失われた風神の瞳のような光を。

 

「いつ見ても、きれいな空だ。風神とその眷属が飛ぶにふさわしい」

 

「飛んでいるのは我だ。お前は何もしていない。今も昔もそうだろう」

 

「それは……でも、そもそも君を作り出したのはボクだ。だから、ね?」

 

「……そうだな。我が主よ」

 

 

 

 

 そこで、ウェンティは詩を詠い始めた。

それは聞いたことがなく、歴史をそのまま詠んだものとも違う感じがしたけれど──何となく聞いていて心地よいものだった。

 

「空は夢。大地は幻。その境目を引き裂く真っ黒な爪は、すべての命を蹂躙し、すべての創造物を壊す。されど若人、恐れるなかれ。空と大地の境目、かつて引き裂かれた場所に、邪神の楔はある。勇気を以て、楔を壊せ。真実を掴み、異空の島を目指せ──」




『アビス』
闇に覆われた複数の平行世界の総称であり、あらゆる邪悪な魔物の故郷。
本来テイワットとは無縁の世界だが、新たな指導者が来て以降は時折空間に隙間を空けてテイワットに侵入し、征服しようとしている。
その指導者の名は……。
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