原神IF -知っているようで、知らない世界-   作:白い花吹雪。

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4.風が導くもの

 リィルと別れ、教会を後にした私は、改めて決意を胸に刻んだ。

──この世界に、確かに私がいた証を残すために。

 

 結局、運命がどのように動いたとしても、風魔龍との戦いは避けられないだろう。

ジンたちによれば、暴風は日増しに激しくなり、モンドの人々にも疲れが見え始めている。

 

このまま放っておけば、被害はさらに広がる。

私にできることがあるのなら、やるしかない。

 

 

 

「…あれ?あれって、ジン団長だよな?」

 

パイモンが、何かに反応した。

それは、バタフライマスクのような仮面を被った怪しげな女…"ファデュイ"の参事官と、話しているジンの姿だった。

 

「あれは…ファデュイの使節団だね。スネージナヤの…氷神を祀る国家の、外交官だ」

 

「そうだな。って、え?なんでおまえ、ファデュイを知ってるんだ!?」

 

「しっ…話を聞こう」

 

 

 

 そうして聞いた会話は、概ね私が知っているものと同じだった。

ジンと、仮面の女…「アナスタシア」が、風魔龍について話している。

 

「アナスタシア」は、風魔龍を殺したがっている。

そして、それを自分たち「ファデュイ」に委任するよう、ジンに迫る。

しかし、彼女は毅然とした態度でそれを突っぱねる。

 

その際、「アナスタシア」は風魔龍を「ケダモノ」と呼んでおり、これがジンを不快にさせた。

だが、彼女はそんなこと全く気にかけていない。

 

 まあ、当然ではある。

「ファデュイ」は独裁国家の組織。支配者のためになら、どんなことでもする…それがたとえ、他国を侮り、蔑み、侵略し、滅ぼすようなことでも。

 

彼らの性質は、この世界でも変わっていないようだ。

そしておそらくは、その先にあるものも…。

 

「彼らには渡さない。・・・『神の心』は」

 

 思わず、言葉にしてしまった。

当然の如く、「え?なんだって?」と、パイモンに突っ込まれた。

 

「なんでもないよ」

 

 

 

 

 その後は、ジンと一緒に騎士団本部に戻った。

そして、例の石を…「涙」を、みんなに見せた。

 

ジンにそれの構造分析を頼まれたリサは、結晶の中に不純物があるということ、それが「神の目」と反応を起こし、元素を操る者に痛みを与えることを突き止めた。

同時に、私が石に触れてもなんともないことに疑問を呈してもいた。

 

「とにかく、この結晶はこの子に持っていてもらいましょう。わたくしたちが持っていても、痛みが増すだけですもの」

 

 なぜ、元素力を操れる私に影響がないのか。

それはジンにも聞かれたが、わからないと答えた。

 

ふと思い出したが、いつだったかアルベドにも同じことを聞かれ、あれこれと実験をされたことがあった。

彼にも悪意があったわけではないにしても、あの時は…まあ、なんだかひどく疲れた。

 

今となっては、慣れたことではある。

というか改めて思うが、私はなぜ、またしてもこの世界に来たのだろうか。

 

「では、無理な願いではあるが…西風騎士団の『栄誉騎士』の爵位と、この代理団長の感謝の気持ちを受け取ってくれ」

 

パイモンが驚く。

さらっと言われたが、私はこの瞬間、すごいものを受け取ったのだ…その事は、後になってよくわかったが。

 

「それと、今回の一連の謎を解き明かすのに…もう少し力を貸してほしい…」

 

 もちろん、その頼みを引き受けた。

 

 

 

 

「…さっき、言わなかったことがあるよな。あの時オイラたちが見たのは…」

 

 騎士団本部の外で、私はパイモンと話していた。

 

「…やっぱり、おまえも覚えてたんだな!あの緑のやつ!…ちょうど、下にいるあの人と同じくらい…」

 

下の広場を、緑の服を着た青年が駆けていく。

…いつ見ても、威厳のない神様だ。ちょっとは鍾離先生を見習ってもらってもいいくらい。

もっとも本当に彼のようになられたら、それはそれで困るが。

 

「…たぶん、本人だね」

 

「えっ…!?と、とりあえず追いかけよう!」

 

 

 下に降りると、すぐに見失ってしまった。

だが、大丈夫だ…私には、元素視覚がある。

辺りに残された元素の痕跡を追って…彼の足跡を、確かに追うことができる。

 

そうして、彼の後を追う。

すると…。

 

 

…予想通り、彼は風神の像の前の広場にいた。

そしてハープを奏で、詩を詠っていた──。

 

 

「ボクが話すは、いにしえの始まり。神々がまだ、大地を歩く時代の物語…」

 

聞き慣れた声で、いにしえの物語が詠われた。

…いや、正確には「物語」ではないか。

何しろ、彼が詠うのは「史実」…かつて、風神の周りで起きたことそのままなのだから。

 

 

 

 詩は、風に乗って流れていった。 かつて、この地を治めた風の王と、彼を支えた騎士たちの栄光と終焉。

しかし──彼の言葉には、私が知っている「歴史」とは少し違う内容が含まれていた。

 

「…風神は、人々に力を与えたが、その代わりに記憶を奪った」

 

それは、私の記憶の断片と奇妙に響き合った。

だから、詩が終わった後、私は彼と話した。

 

「…記憶を奪った、って言ってたね。どういうこと?」

 

「神は、争いを望まなかった。だから、かつてこの地に住んでいた者たちが、神を争って戦った記憶を…まるごと消させたのさ」

 

まるで、自分のことを語られているようだった。

記憶を失い、彷徨う旅人──私。

でも、それは自分で選んだことではない。

 

その違いが、胸の奥に苦く沈む。

 

「…なら、どうしてあなたは覚えているの?」

 

 私は思わず尋ねた。すると、彼は静かに微笑んだ。

 

「それはボクが、風そのものだからだよ」

 

いや、確かにそうなのだが…というか、観衆がいる前で言ってしまっていいのだろうか。

 

「でも、ボクはすべてを知っているわけじゃない。ただ、思い出そうとしてる人がいるなら…その手助けはしたいと思ってる」

 

 彼の瞳には、どこか哀しみが宿っていた。

それは、「神」としての罪を背負う者の瞳だった。

 

私は、ほんの少しだけ自分の胸に手を当てる。

今は思い出せない、大切な人との約束。 星を巡る旅の中で、いつか取り戻せると信じているけれど──。

 

 

そうしていると、彼がハープを静かに置いた。

 

「もうすぐだよ、風魔龍との対話の時が。…でもその前に、君に見せたいものがある」

 

「見せたいもの?」

 

 彼は頷くと、立ち上がった。

 

「西風の信仰が捨てた、古い神殿さ。そこには、このテイワットの“真実”が…少しだけ、残されている」

 

 真実。その言葉に、心がわずかに震えた。

 

「行く気はあるかい?」

 

「もちろん。私は…知りたい。この世界のことを。そして、私自身のことを」

 

 彼は小さく笑った。

 

「…なら、ついておいで。風が道を拓いてくれる」

 

そして私たちは、夕暮れの風の中へと歩き出した。

神が記憶を奪ったというなら──私は、その神に、もう一度問いかける。

 

 ──私たちは、どうしてここにいるのかを。

 

 

 

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