原神IF -知っているようで、知らない世界- 作:白い花吹雪。
夜、どうにも寝付けなかった。
パイモンはいつものごとく、隣で寝息を立てているが……私は、なぜか眠れずにいた。
窓の外を見ると、外はきれいに晴れていて、柔らかな月光が差し込んでくる。
このままいてもどうにもならないし、散歩でもしてこようかと思い立ってベッドを抜け出し、そのまま城の客室を出た。
そのまましばらく進み、ふと人の気配を感じた。
しかしそれは、この時間にはとうに閉まっているはずの図書館からだった。
まさか、盗人でも忍び込んだのだろうか。
もっとも、私も前回の冒険で、このモンドで風神と共に盗みを働こうとしたわけだから、非難する資格はないが。
とはいえ、やはりそうだとすれば放ってはおけない。
そう思って、扉に手をかけてそっと押した。
部屋の中は暗闇に包まれていた……のだが、その奥に何やらぽっと明るい光があった。
やはり誰かいるのか、と思った私は、絶対に音を立てないよう注意を払いながら中へ入り、足を進めた。
奥に進むほど、何かの音が聞こえてくる。
じゅっ……はうっ……と言うような、奇妙とも艶めかしいとも言える音。
やがては、人の声のような音も聞こえてきた。
光に近づくほど、そこにいるものの影がはっきりしてくる。
2つの人影……どうやら、2人の人間がいるようだ。
しかし、あの方向は図書館内のベッドだったはず。
初めて見たときは、なぜここにベッドがあるのかと疑問に感じたが、盗み目的の者は近づかなそうな場所だ。
とすると、一体誰が何のために?
恐る恐る近づいていくと、影と音はよりはっきりしてきて、そこにいる存在の正体を浮き彫りにした。
音は、はむっ……ぢゅっ……という感じの音になり、何やら別の意味でヤバいものを感じる。
そして、いよいよ人の姿がはっきりと見えた。
そこにいたのは……リサとジン。
2人はベッドの上で向かい合い、抱き合って……胸を密着させ、舌を絡め合っている。
それも、上着を脱いで。
「んちゅっ……はあ、素敵……」
「はうっ……暖かいな、あなたの舌……」
この数秒で、私はすべてを理解した。
この2人は……百合、つまり同性愛の関係にあったのだ。
しかし、なぜ深夜の図書館で?と思ったが、これもすぐに合点がいった。
個室でやれば、隣の部屋にも音が聞こえるだろうし、部屋に出入りするところを誰かに見られるかもしれない。
その点図書館なら、夜はみんな見向きもしないから、気づかれる心配もない。
もしかしたら、図書館にやけに大きなベッドがあったのは、そういうことだったのかもしれない。
だとしたら、この2人はどのくらい前から関係を続けていたのだろう。
前の世界では、こんなことは絶対になかったが……やはりこの世界は、私の知るテイワットとは違うようだ。
いや、確かに2人は職業柄近い距離にはあったが……まさか2人して同性愛者だったとは。
見てはいけないものを見てしまった、という衝撃と同時に、体の芯から湧き上がるような嫌悪感を覚えた。
本人たちにとってはいいのだろうが、私からすれば……正直言って気持ち悪い。
片手を耳に当て、音を聞かないようにしながら、回れ右をして出口へ向かう。
心臓がバクバクする……もちろん、まったく違う意味でだが。
そのまま、愛し合う2人に絶対気づかれないように扉を閉めた。
しかしその後も、恐ろしいまでの心臓の鼓動を感じ取りながら、ぎこちない動きで部屋に戻ることになった。
私は……いや、何も見ていない。何も知らない。
バーバラが見たら……いや、何も考えなくていい。
私はただ、夜に寝付けなくて、部屋を出て……そのまま適当に歩いていただけだ。
図書館なんか、覗いてもいない。
彼女たちは、私の知る団長と司書さんだ。
まあ、厳密にはちょっと違うが……いやいや、やっぱり私の知るジンとリサだ。
そんな、不純だったり卑猥だったりする関係など持っていないし、そんな趣味もない。
いや、趣味はあるのかもしれないが……とにかく、私は触れない。
人の趣味嗜好、性癖は千差万別だ。
私はそういう概念はないが、世の中にはそういう人もいるのだ。彼ら彼女らに、私が干渉する権利はない。
明日あの2人に会ったら、なんてことは考えなくていい。
寝て起きて、今夜のことは忘れよう……きれいさっぱり。