とある日の無限書庫録(凍結)   作:ノウレッジ@元にじファン勢遊戯王書き民

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お待たせ致しました!

今回は、前々からあったご要望のあったユースバです。
ただ少し長くなってしまったので、前後篇に分けました。ご寛恕願います。

それと、これが終わってもう暫くしたらもう1つ、リリなの作品をアップします。
題名はスクライア一家の日常。
無限書庫録の後日譚的に考えていたんですが、私の趣味を詰め込んだものなので、今は別物と考えてます。
その辺の解釈はお任せします。

さて、犬っ子スバル編、スタートです!


翡翠と空【前篇】

 無限書庫。それはカオスとも表現される数多の本の集まった大図書館。

 円筒状の空間には毎秒何十という数の本が集積されているとされており、その実態は管理局中枢部ですら知らないという。

 本の状態を保つために薄暗く、適温を保てるように空調が効いている。

 そんな図書館で働くのが司書だ。毎日様々な方面から請求される資料を作成し、未整理の本を決められた場所に収めるように読書魔法を展開する。一見すると楽そうに見えるが、一度体験すればそんな戯言は口が裂けても言えない。何とも奇妙奇天烈な所である。

 そしてそこにいる司書は、様々な方面から司書のリーダー司書長が掻き集めた愉快で優秀な、そしてアットホームな集団である。

 ある者は瞑想をしながら本を探し、またある者は動物に変身しながら本を読み。

 

「吾輩は司書である。名前はまだ―――」

「せーんせぇー!(ドォンッ!)」

「ないぃいぃいっ!?」

「バスカさぁああああああああん!?」

 

 そしてある者は部外者に跳ね飛ばされたりする。

 青いショートカットの女性に体当たりをしかけられ、大男が本棚にパチンコよろしく弾かれながらどこかへ吹き飛ぶ。

 ちなみに書庫の中は無重力なので、一度強い衝撃を外部から受けると中々止まらない。

 そのため、司書の多くは命綱や発信機の装備が義務付けられている。

 

「ぬん! “アンカー・シェル”!」

 

 中には自力でどうにかできる者もいるのだが、それでもそういった装備は欠かせないとの事。

 跳ね飛ばされた大男の司書、バスカは背負っていた大筒を構え、銃口から錨状の魔法弾を撃ち出して本棚に引っ掛けると、それを手繰り寄せる形で戻って来た。

 

「スバル・ナカジマ殿、書庫の中で走行してはなりませんと何度も注意したはずですが」

「あ、すみませーん。せんせー!」

 

 バスカからの注意も聞き流し、愛用のローラーブレードで爆走するのは防災士長のスバル・ナカジマ。

 普段は明朗快活であり、ムードメイカー的な存在なのだが、今回は何か違う。

 表情に焦りが浮かんでいる。息もやや切れているし、何か尋常では無いかのようにも見える。

 

「宿題できましたっ! 採点お願いしまーす!」

「ああ、うん、良いよ。見せてごらん」

「わーい! 問6、難しかったですけど、自信あります!」

 

 ……どうやらユーノと会えるのが楽しみだっただけのようだ。

 

 

 

 

 

 

「はい、全問正解。もう僕が君に教えられる事も少なくなってきたね」

「えー……、私もっとせんせーから色々教わりたいですよぅ」

 

 司書長室でユーノが出されたレポートの設問全てに赤ペンで丸をつける。元々出来の良い彼女相手に、彼が教えられる事は余り無かったのだが、それでもとスバルがねだるため、持てる知識を片端から彼女に教え込んでいたのだ。

 

「そんな事言われても、防御魔法もバインドも歴史も科学も魔法学も教えたし……。後は特に役立たなさそうな物しか無いんだけど……」

「じゃあ、それをお願いします!」

「良いのかい?」

「はい! そういうのに限って、意外な所で役立ったりするものですから!」

 

 わくわく気分を顔に出して、スバルがユーノに迫る。きっと彼女に犬の尻尾があったらぶんぶん振っていたに違いない、なんて事を思うユーノだった。

 

「それなら変身魔法を教えてあげる。僕のはフェレットがデフォルトで設定されているから、後で自分に合う動物に変えてね?」

「はい!」

 

 犬が似合うよ、とは言わないでおこう。

 

「それじゃあまずは構築式を教えるよ」

「はいっ!」

 

 元気良くスバルは答え、ユーノの組み立てる術の構築式を観察して行く。

 そして、ふと思った。

 

(せんせーとは、六課の時から付き合いになるんだよね)

 

 

 

 思い出すのは六課解散の数ヶ月前。

 JS事件も解決した後の、ある日のギンガを交えた訓練だった。

 

『はい、それじゃあ今日はいつもとは違う訓練をします』

 

 命の恩人であり、今でも尊敬している師、高町なのはが言った。

 スバルは首を傾げた。何となく、普段と比べてイキイキしていると言うか、キレイと言うか。普段ならしないであろう化粧も薄くしている。

 否、彼女だけでは無い。部隊長を含めた他の隊長陣もだ。

 非常に気になるのだが、それはさておき。

 

 何でも自分達で教えられる事はそろそろ無くなって来たので、別の人から別の事を習おう、というのが今回の趣旨らしい。

 そこで紹介されたのがユーノだった。

 ハニーブロンドの髪にエメラルドグリーンの瞳。首の後ろでくくった長い髪。初見では女性と見間違えた事を今でもよく覚えている。

 しかし、それよりも更にインパクトが強い事があった。

 

(うわ、すっごいクマの痕が……。顔もやつれてる……)

 

 明らかに寝不足。それも一日二日では無い。何十日も睡眠時間を相当削らなければああはならない。戦闘機人である自分でもああなる事は難しいだろう。

 それでもユーノの美貌は失われていなかったのだが。

 

『どう、少しは眠れた?』

『……何とか』

 

 会話の内容からしても、どうやらさっきまで睡眠不足を解消するために寝ていたらしい。

 と、ここで六課のチビッ子タッグが相手の正体に気付いた。

 

『……あれ、ユーノさん?』

『言われてみれば、確かに……』

 

 アグスタの時に一度遠目に見た事あるらしい。一度しか見た事が無かったとは言え、二人曰く『まるで別人』との事。果たして彼は何をやってああもやつれた顔付きになったというのか。

 

『えーと、この人は無限書庫の司書長、そしてミッドの考古学者を勤めてらっしゃるユーノ・スクライア先生。総合Aの結界魔導師でもあって、私の最初の魔法のお師匠さん』

『えーと、文官さんなんですよね?』

 

 疑問を呈したのはスバルの相棒のティアナだ。

 彼女が首を傾げるのもごもっとも。文官というだけで無く、かなり痩せた体型であり、しかも寝不足。自慢じゃないが、フォアード4人纏めてかかれば、今や隊長1人くらいならそこそこ良い勝負に持ち込めるだけの自信はある。しかも今は姉であるギンガも一緒なのだ。

 そんな自分達を相手に、今更彼女達よりも実力の劣る人を回してどうしようというのだろうか。隊長の考えたメニューに間違いがあった試しは無いので、何か考えがあっての事だとは思うが……。

 

『あ、バカにしてるね? 私が訓練相手にもならない人をここまで引っ張って来るとでも思う?』

『あ、いえ、そういうワケじゃあ……』

『ふふ、まあ戦ってみれば分かるよ』

 

 自分の師の含む所のありそうな笑いに、スバルは思う。この人には何かある、と。

 そうで無ければ、訓練の講師に呼ばれる事は無いだろうから。

 

『ふぁ……、眠い……』

 

 ……無いだろうから!

 

『模擬戦の形式は30分間の一本勝負。ユーノ君は攻撃魔法が苦手だから、5人をバインドで捕縛したら勝ち』

『ん……、ふぁ……』

『……あの、呼んでおいて何だけど、大丈夫?』

『大丈夫、さっきまでで2時間寝られたから……』

 

 ……ダメだ、いくら師匠の師匠、大師匠と言えど、不安になって来た。

 

『えーと、それでユーノ君。君が提示してくれた、フォアードの皆が勝つ条件って何だっけ?』

『あぁ……』

 

 スバルは思う。もうこの人一回ちゃんと寝かせて、後日またちゃんと訓練をやり直した方が良いのではないか。

 そんな事を思う傍らで、ユーノは自分達の勝利条件を提示した。

 

 

 

 

 

『誰か一人が僕の体に強攻撃をクリーンヒットしたらお終い。君達の勝ちだよ』

 

 

 

 

 

 流石にこれはナメられてるとこの時は思った。あんな案山子みたいな細い体で、あの大事件を解決したメンバーの主戦力の半分を相手にそんな条件を提示するとは。

 とは言え、油断してはいけない。きっとこの自信には何か根拠があるに違いないのだから。

 それからトントン拍子で進み、模擬戦が開始される事になった。

 

『それでは、開始!』

 

 後にスバルは語る。「油断してはいけない程度じゃあ足りなかった」と。

 

 

 

 開始直後にキャロがバインドによって捕縛されてしまったのだ。

 

『え!?』

『きゃ、キャロ!』

 

 更にそのバインドを解除しようとしたティアナが次の瞬間に別のバインドで捕縛されてしまった。

 

『きゃあ!?』

『ギン姉! ティアをお願い!』

『了解!』

 

 咄嗟の判断で姉と捕縛され、地面に転がされた二人を回収しようとして……、固まった。

 

『ギン姉、前!』

『え? きゃっ!?』

 

 自分は反射的に避けられたが、姉は設置型バインド、『ディレイドバインド』によって捕まってしまったのだ。

 

『はい、残り2人』

 

 マズい。マズいマズいマズい!

 スバルの脳内の警鐘がガンガン音を立てて鳴っていた。

 この人は明らかに隊長陣とは違うタイプの戦い方をする人だ。今までの戦法を取っていたら、確実に何もできずに終わる!

 それに、バインドの破壊も無理そうだ。ティアナが術式に干渉して解除しようと、ギンガが力づくで破壊しようとしているが、軋む様子すら無い。見た事の無い強度のバインドだ。あれに捕まったら一瞬で終わる。

 頭の中の警鐘は止まるどころか次第に大きくなっていく。焦る思考の中でスバルは一つの答えを出した。

 

『エリオ、掴まって! 逃げるよ!』

『え、あ、はい!?』

 

 そう、逃走だ。

 スバルはエリオを小脇に抱えながらウィングロードを作り出し、空へと全速力で疾走する事を選択した。

 

『ありゃ、そんな事ができたのか』

 

 カリカリ、と頭を掻くユーノ。まだ頭が半分寝惚けているのかも知れない。

 もし彼が全開の力を出せた時だったなら、こうして空高く走る自分達ですら捕まったのでは無いかと思うとゾッとする。

 

『ス、スバルさん、どうしましょう……! もう僕達だけしか残ってないです!』

『うーん……、ブレインのティアがやられちゃったしなぁ……』

 

 念話を阻害するのか、掴まった3人との連絡は全く取れない。

 陸士官学校の座学を主席で卒業したとは言え、こういった作戦に向いているかと言えばそれは別の話。

 そもそも、あの人相手に自分達が練った小細工が通じるとも思えない。

 ならば手はただ一つ。

 

『裏をかいているように見せて、正面から突破するよ』

『だ、大丈夫なんですか、その戦法……』

『どうせ裏かかれるんだったら、正面から殴り合おう。二人の突進力で正面二方向から攻撃すれば、何とかなるかも!』

 

 そうと決まれば話は早かった。

 『ディバイン・バスター』を地面に撃って土煙を上げさせると、地上に向けて二人は最大スピードで加速。一気にユーノにまで斜め二方向からそれぞれ突進を仕掛けた。

 対し、ユーノは視界が悪いにも関わらず2枚の盾を的確に張ってそれぞれ斜めに拳と槍を受け流す。しかし、これを想定していたスバルとエリオはその流された勢いを利用し回転蹴りをお見舞いする算段だった。

 機械によって威力が補強された左の踵、雷によってパワーが倍増した右の踵がそれぞれ炸裂しようとし―――

 

 

 

 

 

 

 設置型バインドに二人とも捕縛された。

 ユーノの勝利が決定した瞬間だった。

 

 

 

(何もかも、せんせーの手の上だったんだよね……)

 

 最後の捨身の突進も、彼の計算の範囲内だったのだ。

 だからそこから追撃の蹴りも予測できたし、『ディレイドバインド』の設置するべき場所も分かっていた。

 本当にJS事件において、彼と同じタイプの敵がいなくて助かったとスバルはしみじみ思った。

 

 あの一戦の後、自分達は数日間ユーノに指南してもらった。

 効果的なバインド、強力なシールド、より効率の良い魔力の運用方法。傍らで隊長達も見ていて、時折納得したように頷いたり、メモを取っていたりした所を考えると、この人は戦う事よりもこうした理論の方が畑なのだろうと思った。

 

(そう言えばあの辺りからだったなぁ。エリキャロコンビがせんせーの事をお父さんって認識して、ティアが師事し始めて、ギン姉が尊敬し出したの)

 

 勿論、自分も『せんせー』という愛称を用いだしたのも。

 

「スバル、聞いてる?」

「はい、こうですよね?」

 

 ちなみにこれまでの回想は全てマルチタスクの一部を割いただけなので、何ら問題は無い。のこりのタスクを使って魔法を組むと、すぐに起動した。

 ポン、というコミカルな音と共にそこにはフェレットが一匹。そしてすぐに構築式を組み替えたのか、仔犬が一匹になった。

 思い出す傍らでちゃっかり変身魔法を習得したスバわんこである。

 

「わん!」

 

 めっちゃ馴染んでる、とユーノが思ったのは秘密だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――数日後

 

 

 クラナガンのショッピングモールで、スバルは夕飯の食材を買いに出かけていた。今晩は自分の好きなメニューにするか、それとも家族の誰かの好きなものにするか。何にせよ健啖家であり家族の和気藹々とした雰囲気が好きなスバルにとっては、ワクワクを抑えられない時間だった。

 すると。

 

「あれ、せんせー?」

「スバルさん?」

 

 偶然にもスバルはユーノと遭遇した。本来ワーカーホリックや引きこもりのレッテルを何枚でも貼られて地肌が見えないような彼が外にいるなんて珍しい事である。

 

「どうしたんです、こんな所で?」

「さっき、本に封印されていたモンスターとの戦いでミスっちゃってね。眼鏡がやられちゃったんだ」

 

 これは別のヤツ、とユーノは眼鏡を指先で軽く押し上げた。言われてみれば確かに、数日前にしていた眼鏡とはデザインや色が違う。

 にしても、予備にしては随分と古そうに見えた。

 その事をユーノに言うと、彼は首を振った。

 

「ああ、違うよ。これは予備じゃなくて、一番最初にかけた眼鏡。思い出の一品なんで、壊さないようにガタが来る前に新しいのと交換したんだよ」

 

 ああ、とスバルは納得した。

 恩師なのはから、そのエピソードは聞いている。何でも、幼馴染メンバーでメガネとリボンを見繕ったとか。

 優しい彼の事だ、壊す前に保存を選んだのだろう。

 

 折角なのでスバルは、彼と同行する事にした。彼が行く眼鏡屋も、自分の行きつけの店も同じデパートの建物の中にあるからだ。

 

「なのは達に話したら笑われたよ。『壊れたら新しいの買ってあげるのに』って」

「あー」

「僕個人としては、備品的な意味だけじゃ無くて、大切な思い出の品って意味もあるんだ。だから壊したくなくってね」

 

 女々しいかな? とユーノは苦笑いした。が、その笑顔を見たスバルとしては笑えなかった。

 冗談でも何でも無く、ユーノは女性らしさが溢れているのだ。女々しいなんてものじゃない。多分、女性と名乗れば銭湯でもランジェリーショップでも通じる。

 何せ腰や指は細いし、恐らく体重も軽い。肌だってきれいだし、髪も艶がある。一体どれだけの女性が、自分のプロポーションを磨くために日夜頑張っているのか、筋違いではありながらもお説教したくなるレベルである。

 

「スバルさん?」

 

 前に一度、なのはにこの事を話した時、彼女が凄まじく落ち込んだのを覚えている。何でも昔、女装したユーノに知人全員が敗北したとか。生まれついての女が、女装しただけの男に負けたのだ。

 そりゃあ誰だって落ち込む。

 例えスバルだって落ち込む。

 多分ギン姉だって落ち込む。

 

「スバルさーん?」

「……羨ましさ余って憎さ百倍」

「え?」

「……何でも無いです」

 

 戦闘機人とは言え、自分だって女だ。と言うか、自分は機械ではなく人間だ。機械ベースの人間だ。

 これ以上、女としてのプライドを傷つけられる前に、この話題は終わりにしよう。

 下手したら、必殺の振動破砕を叩き込みかねない。

 

 ……きっと対処されるんだろうけど。逆位相の振動をするシールドとかで。

 

 

To be continued




後篇に続きます。
……このままほのぼの路線にするのと、レスキュー系にチェンジするの、どっちがお好みですかね?
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