とある日の無限書庫録(凍結) 作:ノウレッジ@元にじファン勢遊戯王書き民
クラナガンの朝方、高町家。寝室のベッドには、3人が眠っていた。
家主の高町なのは。
その娘、高町ヴィヴィオ。
そしてもう1人、長い金髪。
最後の1人は本来ならば、家主の親友であり、ヴィヴィオがもう1人の母として慕う人物、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンなのだが、今回は違う。彼女は今日の昼まで執務官の仕事で出張中である。
(煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散……っ!)
必死になって本能を押し殺しているのは男性、ユーノ・スクライアだ。
朝方のなのはのあどけない寝顔、しかもヴィヴィオを間に挟みつつ腕に抱きついて柔らかな彼女の胸部の感触がある。それ故に理性の留め金が吹っ飛びそうになっているのを必死になって堪えている。
(うう、こうなる事が見え見えだったから一緒のベッドは断ったのにぃ!)
どれだけ女顔と称されようとも中身は男性。まあ、つまる話、そういう事だ。
(こういう時に限って誰も乱入して来ないし!)
いっその事、誰でも良いからこの部屋にやって来て、淫獣だなんだとコメディな展開になってくれれば、まだ助かるのだが……。朝方の5時では、それも望めないだろう。
明け方にうっかり目を覚ましたのが失敗だったと、ユーノは自分を呪う。
クラナガンの朝は、長かった。
「ご馳走様」
「ご馳走様でした」
「ごちそーさまでした!」
「はい、お粗末様です」
必死の理性の攻防(なのはに謝られた。無論、彼女は悪くない)を終え、朝御飯を食べ終えたユーノ達。やや眠たげな目を擦りつつ、ユーノはこれからどうするかを思案する。
このまま彼女の家にいつまでもいるワケにもいかないだろう。かと言って、どこかへ行こうにもアテは無い。さてどうした物かと思っていた時だった。
「ただいま! ユーノ、いるんでしょ!」
「お邪魔するで! ユーノ君、おるんか!?」
「主はやて、落ち着いて下さい。ユノユ……、スクライアの靴があります」
「邪魔するぞー。ユーノがここにいるのは間違い無いみてぇだな」
「御邪魔しまーす。ユーノ君、ここにいるのー?」
「邪魔するわよ! 連絡の1つくらい寄越しなさいよ、ユーノ!」
玄関が些か乱暴に開かれ、6人の女性が乱入(?)して来た。
もう1人のこの家の住人、金髪紅眼のフェイト。
独特のイントネーションの持ち主、茶髪に髪留めをしたはやて。
ピンクのポニーテールの騎士、シグナム。
赤い三つ編みのハンマー使い、ヴィータ。
ヘアバンドをした紺色の長髪を持つ吸血鬼、すずか。
短い金髪の炎熱系ツンデレ、アリサ。
皆が皆、一斉に殴り込んで(?)来た。
「あ、お帰り、フェイトちゃん。そしていらっしゃい、皆」
もっとも、これで動揺するエースでも無いが。
ちなみに扉の外では他にも何人か居るが、何となく入れないでいる。
何故か? 悟れ!
軽い一悶着はあったものの、ユーノに関わりの有る人が、クラナガン高町家に集結していた。
家主なのは、娘ヴィヴィオ、親友フェイト、渦中の人物ユーノ、その相方アインス。その他はやて、アリサ、すずか、ヴィータ、シグナム、ティアナ、スバル、ギンガ、エリオ、キャロ、リイン、ナンバーズ、更には特務司書(屋外待機)の皆までいる。狭くは無いものの、流石にリビングがちょっと窮屈だ。
「で、説明してもらうわよ、ユーノ」
先陣を切ったのは、男勝りなアリサ。胸元の彼から貰った、金環の交差した黒い宝石のペンダントを弄りながら、軽く睨む。ペンダントを弄るのが、最近の彼女のクセらしい。
何だかんだで彼女も特務司書。つまりユーノは自分の上司であり、同時に仲間(そして自分の好きな人)なのだ。いきなりメール1通寄越しただけでいなくなるのは許し難いのだろう。
「あー、無限書庫の? オーケー」
ユーノは昨晩なのはとヴィヴィオにした説明をする。
黙って皆聞いていたが、終盤になるにつれて次第にその表情は一様に不機嫌になっていった。
「……せんせー」
話が終わって、最初に口を開いたのは、陸士防災部隊で戦う、なのはの1番弟子の青髪少女、スバル・ナカジマ。機動六課時代に彼と出会い、彼に教えを乞うようになってから、この呼び方が定着している。
彼女の眼は普段は緑色なのだが、さっきから金色にチカチカと点滅している。戦闘機人である彼女が本気で怒っている証拠だ。同じような変化は同色の瞳を持つ彼女の姉、ギンガにも現れている。完全に金色にならない所を見ると、まだ大丈夫のようだが。
「せんせーは、どうしてそんなに平然としてられるんですか?」
「どうしてって……、だって、結果は目に見えてるじゃないか」
「え?」
フッ、と目の色が戻る。怒りをスルーされたかのような、肩透かしを喰らった気分だ。
「まあ、見てなよ。僕の予想じゃ1週間もすれば結果は出るから」
「私の計算では5日ですね。何にせよ、来週には全て解決しているという事です」
クスリ、と笑うユーノ。アインスもまた笑う。
そしてすぐにその表情は変わる。普段の優しそうな笑みから一変、まるでブリザードの様に冷たい笑顔だ。
「まあでも、皆をここまで心配させちゃったし、あいつらには、ちょっと痛い目見てもらおうかな……!」
皆が皆、見た事の無い彼に、底知れぬ恐怖を味わったという。
「アンタ、何するつもりなワケ?」
「さあ、何をするつもりでしょう? 取り敢えず、人を勝手に小物呼ばわりした揚句、フェイトとはやて、ヴォルケンリッターの皆を犯罪者、アリサとすずか達を猿なんて呼んだ事を償わせようと思ってるよ」
「ど、どうやって……?」
「一生あの減らず口を叩けないようにはするよ。無限書庫に、そして僕の友人に不快な思いをさせた事を後悔させてやるさ……!」
アリサとすずかは、否、その場にいた全員は、心の中での自分のユーノの像を書き換える必要性を感じた。
「ふふふふふふ…………」
やがて各々が都合や用事、仕事で帰宅し、高町家にはユーノ、なのは、ヴィヴィオ、フェイトが残った。そしてそのフェイトも、朝方に帰って来たため、今は眠っている。ヴィヴィオも学校だ。
よって、家に残っていて起きているのはなのはとユーノだけである。
「でも、久しぶりだね、こうして2人きりっていうのは」
「そうだね」
ユーノは基本的に職場である無限書庫から動かない。たまに質素、というより必要最低限の家具以外何も無い寮に寝に帰って来るだけだ。そして当然寮は男性用。女人禁制であるため、女性であるなのはは立ち寄れない。
故に彼と会えるのは基本的に無限書庫。しかし、互いの立場や仕事もあり、なかなか会えず、会えても司書がいたりヴィヴィオのお迎えだったり。
そんな訳で、2人きりの状況というのは実に久しぶりなのであった。
「最後に2人きりだったのは……、ヴィヴィオの看病の時だったかな? フェイトが君と交代した後」
「うん……」
会話は、長く続かない。だが、それでも良かった。何となく、この空気は心地良かった。彼の笑みにはまだ偽りがあるけれども。作り笑いだけれども。そういうのは、慌てて無理に治せば逆効果だ。
今は、ゆっくりと待てば良い。いつかきっと機会は来る。彼との間にある、氷の垣根を溶かせる時が。
「そうだ、ユーノ君。これから出かけない? 2人きりで」
「フェイトとアイを置いて?」
「置手紙をしておくから大丈夫だよ。それに何時も書庫の中だったでしょ? たまには外に出ないと、体に悪いよ!」
そう言うと、なのははユーノの手を取って立ち上がり、
「っ! ~~~~~~っ///!」
「なのは?」
手を繋いでいるという事実に顔を赤くした。
―――クラナガン・ショッピングモール
自宅にフェイト宛ての置手紙をしておいたなのはは、ユーノと一緒にショッピングモールにまでやって来ていた。
別に何を買うわけでも無い。ただの散歩気分である。
「えへへ~」
ユーノ自身、今日は本を読むか、新しい寝床を探すかと考えていた所だった。が、隣でなのはが幸せそうな顔をしているので良しとする。
「嬉しそうだね、なのは」
「うん? そうかな?」
首を傾げるなのは。とは言え、エヘヘと笑い声を漏らしながらでは説得力は欠片も無い。
「でも、もしそう見えるんだったら、きっとユーノ君と一緒だからだと思うよ」
「僕と一緒だから?」
「うん」
赤くなった頬でにっこり笑うエース・オブ・エース。
照れ臭くなったのか、視線を向けられたユーノは頬を掻く。触発されるように、なのはも。
「あ、あっちでジュース買って来るよっ!」
「あ、うん、お願い!」
初心な2人は初心なりに、散歩を楽しむ。周囲で砂糖が吐かれ始めているのには気付かない。
ユーノが買って来たジュースを飲みながら、2人は更にショッピングモールを歩く。時折ウィンドウ・ショッピングを混ぜながら、お昼を済ませて、また歩いて。
「あ、これ美味しい。ユーノ君、食べてみない? はい、あーん」
「あの、なのは? 衆人環視の中でそれするの? 僕達、いい大人なんだけど?」
「え、あ! ~~~~~~~っ!」
彼と過ごす時間は、ドキドキしつつも心地良い。何をするよりも、ずっとずっと楽しくって。
「このウィンディング・ドレス、良いと思わない? 私も着てみたいなぁ(チラリ)」
「そうだね、なのはにはきっと似合うと思うよ。綺麗ななのはに着てもらえるんだから、きっと服も喜ぶよ」
「う、うぅ~~~~~~~(欲しかった言葉とは違うのにぃ……)」
でも、楽しい時間はあっという間に過ぎて行く。それが世の常で。
「もう夕方なんだね……」
「そうだね。そろそろヴィヴィオが帰って来る頃なんじゃないかな?」
「うん、きっとお腹空かして帰って来るだろうから、あっちのスーパーで夕飯の食材を買って行こうと思うんだけど、良いかな? 冷蔵庫の中身だけじゃ足りなくなって来ちゃってね」
「良いよ。居候してる身だし、そのくらいは手伝うよ」
「うーん、気にしないでも良いのになぁ」
それでも楽しい事は巡り、巡る。ちょっと前とは、違う形で、新しい喜びを運んで。
だって、同じ楽しい事が、いつまでも続いたら飽きちゃうから。
「でも親しき仲にも礼儀あり、なんでしょ?」
「あんまり気負うと、こっちが大変なんだよ」
「じゃあ、今回は恩返しって事で」
「もう……っ」
だから、月日は巡る。
明日はもっと、幸せな時が来る事を願いながら。日はまた沈み、月はまた昇る。
―――夜・風呂場
今、ユーノは嘗て無い程の危機に襲われていた。
状況を客観的な視点で説明しよう。
狭くは無いバスルームの中で、ユーノは腰にタオルを巻いて椅子に座っている。その後ろにいるのは同じくタオルを体に巻いているなのは。風呂桶に浸かっているのはヴィヴィオ。入浴剤を入れているのか、お湯は乳白色に濁っている。
「(何なの、コレ……)」
なのはは手にボディタオルを持って、ユーノの背中を洗っている。
飛んだりした泡が彼女の体に付着し、濡れた下ろした髪と相まって、彼女の姿を幻想的に見せる。
「痛いかな?」
「あ、ううん。丁度好いよ」
良かった、と顔を綻ばせるなのは。
反対にユーノは心の中で苦悶の表情を浮かべる。
「(何コレ、何、コレ……、何コレェ!)」
事の起こりは簡単な事だ。ユーノが高町家の風呂場を借りて入浴している最中に、なのはがヴィヴィオを連れて風呂場にやって来たというだけである。
きっと「パパと一緒に入りたい」→「じゃあ行っておいで」→「ママも一緒に入ろうよ」→「え、でもそれは流石に」→「一緒に入るの、嫌?」→「しょうがないなぁ、ヴィヴィオは」(←今ここ)な流れだったのだろう。
だが、彼にとってこの状況はある意味拷問にも等しい。
ユーノにだって人並みに性欲はある。草食(僧職?)系とは言え、その辺は当然だ。
だからこそ今ユーノは、必死に自分の精神にバインドをかけて抑え込んでいる。
「(落ち着け、ユーノ・スクライアは冷静だ。別になのはが全裸でいる訳でも無いんだ、キチンとタオルを巻いているじゃないか。そうだ、別にこれから人に言えないような事をする訳じゃ無いだろう! そうだ、なのはだって何か下心があって来た訳じゃ無いはずなんだ! 仮にそうだとしても、ヴィヴィオを連れて来る理由が無い! そう、これはきっと何かのドッキリなんだ! きっとフェイトの辺りが窓か戸の外で看板を持って待っているはず! 騙されるな、好き好んで僕なんかと一緒に入浴するはずが無い! だって、だってなのはには……)」
必死に自分に言い聞かせるユーノ。だが、ある事実を思い出して、フッと頭が冷えた。
―――フェイトが、いるじゃないか。
「(そう、僕が入り込める余地なんて、どこにも無いんだよ……)」
機動6課の始動より前から、なのはとフェイトは仲が良かった。一緒に遊びに行ったし、修行だってマンツーマンだった。6課の時には一緒のベッドだったし、解散後も同じ家に住んでいる。ヴィヴィオという娘だっている。
ミッドチルダは種々様々な結婚の形式がある。異性婚は勿論、一夫多妻や同性婚だって。なのはとフェイトが結ばれるのに障害となる物は何も無いのだ。
「それに……」
「え?」
「あ、ううん。何でもないよ。ちょっと考え事」
脳裏に浮かぶのは、偶然にも数年前の食堂で聞いた、なのはとフェイトの会話。
思い出せば、彼女へのあらゆる思いを消してくれる。それはユーノにとって、都合が良かった。
―――そう、僕は一生このままで良いんだ。
―――僕の死を悲しむ人がいても、きっとそれを埋められるような幸せがあるから。
―――だから穴倉の中のモグラで良い。
―――大空を飛ぶ彼女達を見れずに、独り寂しく土の下で過ごす。
―――同じ空を飛ぶ資格なんて、僕には無い。
―――解っているはずだ、ユーノ・スクライア。
―――そんな権利、無いって事ぐらい。
或いは被害妄想なのかも知れないけれど。
過小評価なのかも知れないけれど。
ユーノ・スクライアはそれを正当だと考える。
幼い頃から大人に囲まれて育ち。齢8歳で大人だらけの魔法学院を首席卒業。たった9歳で責任ある立場に立たされた。そんな人間がどんな大人になるか、想像できるだろうか?
勿論、人間の成長とは遺伝子的な素質以外にも、育った周囲の環境が起因する。だが、もしも子供らしい一面を見せる時間が極端に少なかったら、どういった大人になるだろうか?
子供の我儘というのは我を通す事の大切さという子供らしさを知ると同時に、我を通せない事という大人らしさを知る事である。更に人に甘える事を知り、助け合う事を知るといる事でもある。
子供の時に我を通し。
大人になったら通さない。
これが、人間の成長のワンプロセスだ。
しかし、ユーノはこのプロセスがごっそりと抜けている。
大人の中で大人同様に育てられたら、その結果は目に見えている。今のユーノがそれだ。他人最優先、自分後回し。そして何より、我を通して他人に嫌われる事を恐怖する。
そう、彼は怖いのだ。自分の意見を出して親密になる事で、誰かに嫌われる事が。
それなら、親密にならずとも、ずっと仲の良いで終わる関係でいる方が良い。それがユーノの持論だった。
誰が彼を責められようか?
スクライアの天才として謳われ、大人として幼少の頃から育った彼を。甘え方を知らない彼を。本当の、心からの好意を知らない彼を。
誰も、責められないだろう。
彼自身すら、その資格があるのかどうか。
故に彼は身を退く。それが彼の中の正解だから。
冷えた頭は、彼女に対して邪な感情を抱く事を許さず。
「ねぇ、どうかな?(ポヨン)」
「どうって、何が?」
胸を背中に押し当てられた感触があっても、特に感慨も湧かず。
「あ、ううん。何でも無いよ(お、女として色々ショック……ッ!)」
「そう……」
結果として、ユーノは風呂に入っている間中、特に大きなアクションを起こす事は無かった。
―――深夜
「よう、司書長」
「こんばんはッス、ししょちょー」
夜風に当たるために外出したユーノは、公園で2人の赤髪の少女と出会った。
ナカジマ気に引き取られたナンバーズの9番と11番、ノーヴェとウェンディだ。2人とも非常勤の特務司書でもあった。
「こんばんは。もう司書長じゃないよ」
「何言ってるんスか。アタシらにとっちゃ、ししょちょーだけがししょちょーッス」
肩を竦めるユーノに、ウェンディが微妙に分かりにくい言い方をする。
それに同意するように、ノーヴェも深々と頷いた。
「そうだな。あたしに、いや、あたし達特務司書全員、そして司書の連中だって、あんなブタと枯れ木を上司になんざしたかねぇよ。だったら司書をクビになる方がマシだ」
「そんな事言って……」
「いいじゃねぇか。あたしとかは元々掛け持ちだったし、そうじゃないヤツも、アンタが次の就職先斡旋したんだろ?」
「う……」
「もう3年も一緒の部署にいるんだ、それくれぇ分かるっての」
参ったな、と頬を掻くユーノ。
それよりも、とノーヴェは話を切り替えて来た。
「
「そうそう、アタシも
今思い出したのか、ウェンディも話に乗る
「うん、今の所は大丈夫だよ」
「本当か? お前は平気で無理すっからよぉ、あんまお前の大丈夫はアテにならねぇんだよな」
「ごもっともッス。ただでさえ無茶する性分なんスから、
「ははは……」
空笑いするユーノ。あの日、偶然にも“それ”を見てしまったノーヴェとウェンディ達ナンバーズ。それを知るのはこの場にいる3人と、残ったナンバーズ5人、そして彼のパートナーであるアインスのみ……。
その後、2人と別れた直後、誰かがやって来た。荒い息遣いをしており、腰まで届きそうな程に髪が長い。青色の瞳に、首からかけた赤い小さな宝玉。
「ハァ……、ハァ……、ユーノ君……、こんなトコに、いたんだ……」
「なのは」
普段はサイドポニーにしている茶髪を下しているが、今ユーノが居候になっている家主、なのはだ。
高町家から近いとは言え、部屋着で公園にやって来た所を見れば、彼女がどれだけ焦ったのかが分かるだろう。
「し、心配したよ……、横で寝てた人が、目覚めたらいなくなってたんだから……」
「……ゴメン」
ユーノは頭を下げる。自分の非を認める事もまた処世術だが、彼の場合は嫌われるのを恐れてなのかも知れない。
しかし、そんな中でもユーノは考える。
彼女は何故自分を探しに来たのか。
ひょっとしたら、何か不安になったのだろうか。
或いは、自分がいない事で寂しさを覚えたのだろうか?
(いや、無いな)
ユーノは心の中で首を振った。
これまで彼女はフェイトとヴィヴィオを一緒に暮らして来たのだ。今更増えた1人が減った所で、何ら変わりないだろう。きっと、本当に何かあったのかどうかという心配の上でに違いない。そう結論付けた。
「あ、そうそう、ユーノ君。ここに来る途中でクロノ君から通信があったよ? 『どうせあのフェレットもどきの事だ、まだ起きているだろうから通信を寄越すように伝えてくれないか』って」
「あいつが?」
「うん。何か無限書庫関連で話があるんだって」
ユーノは首を傾げた。適当に手を出せば、内蔵しているデータに噛みつかれる。それが無限書庫だ。“ペンは剣より強し”を体現しているのがあの部署なのだ。
一体何があったと言うのだろうか? まだ乗っ取られてから2日程度しか経っていないのだが。
「何だろうね?」
「さあ?」
ま、通信を繋げれば分かるだろう。
ユーノは電子画面を呼び出し、無限書庫時代には散々扱き使われた黒色のあの男に、連絡を取る事にした。
―――翌日・無限書庫 AM 10:00
「「ユーノ君(パパ)、無限書庫司書長再就任、おめでとう!」」
「ありがとう、なのは、ヴィヴィオ」
翌日、ユーノは再び無限書庫の司書長となった。
昨晩、クロノから入った連絡はこうだった。
『明日から無限書庫に戻れるぞ』
「どうして?」
『お前もまあ、予見していたとは思うが、無限書庫で死者が出た』
クロノのその言葉に、その場にいた2人は正反対のリアクションを取った。
なのはは驚愕に顔を染めて。
ユーノはやっぱりかと呆れた。
詳しい話は明日の新聞に出るという事なので、ユーノとなのはが翌日まで待って見た新聞では、堂々と一面の見出しに大々的にこう書いてあった。
『無限書庫 無茶な稼働で過労死!』
『無理矢理奪った長の座! 無限の本の下した天罰!』
そして終わりの方に、不当に解雇された前司書長を再雇用するとの記事があった。
ユーノとアインス、そして去って行った司書達はこの事をどうやら予測していたらしい(流石にここまで早いのは想定外だったらしいが)。ユーノとアインスが書庫復活のメッセージを送ると、あっという間に戻って来た。
新たな書庫長Aと司書長Bは無能では無かったが、ユーノ以上に腕があるワケでも無かったのだ。そして彼らのかき集めた司書も同類である。
リーダーであるユーノは、最大で百以上の本を同時に検索・速読できる。これに必要なマルチタスクの数は10や20ではきかない。はっきり言えば、ユーノ専用の固有スキルに近いだろう。厳密に言えば足が速い、1キロ先の物が見えるといったタイプであり、なのはの集束やはやての蒐集、フェイトの電気変換の様な物を固有スキルと言うので、また少し違うのだが。
そして司書達もまた然り。一点特化ではあるものの、普通の武装局員より強く、検索・速読魔法に秀でている。その代わりを、一切その手の魔法の経験の無い新参司書にやらせればどうなるか。それが今回の結果だ。
「死者2名、重症者8名。内5名はベッドの上で要介護者、残る3名は意識不明の昏睡状態。これを予測できない時点で、彼らには無限書庫のトップは勤まらないよ」
無限書庫の絶対のルール、それは「頭痛を感じたら完治するまで仕事を中断する事」である。これは何があっても曲げてはならない、鋼の掟だ。
しかし、書庫長Aと司書長Bはこれを無視した。
理由は簡単、仕事が山積みだったからだ。元々、ユーノ達が解雇された時点でも依頼が溜まっていたのに、それを横取りしたからさあ大変。おまけに下手な公約でリーダーになった物だから、様々な人が信頼して仕事を連続で依頼。結果、定時で帰れないどころか、脳神経を焼き切るまでの魔法行使を強制され、この有様である。
結果、AとBは責任を負わされて懲戒免職。地位も権利も剥奪された。
「ま、無限書庫を敵に回したんだし、当然の結果だね」
しかもこれだけでは終わらない。無限書庫司書長に再就任した事を確認したユーノは、朝一でAとBの裏取引その他を大々的に暴露。失職した上にしょっ引かれたという泣きっ面に蜂なコンボだ。現在、2人は裁判待ちだが、実刑判決は確実である。ユーノの予測ではかなり長い期間の懲役刑になるらしい。
「ヴィヴィオ、そろそろスパーリングの時間じゃないのかい?」
「あ、本当だ。行ってきます!」
タッタッタ、と軽快な音を出してヴィヴィオが走り去る。
それを見届けるユーノ表情は、優しい父親そのものだった事を知らないのは、きっと本人だけだろう。
「ねぇ、ユーノ君?」
「何かな、なのは?」
「もう、どこかに行ったりしない?」
そう尋ねるなのはの表情は、とても寂しそうで、今までに見た事の無い、辛そうな物だった。
それに対し、ユーノは肩を竦めた。
「……どうだろうね。僕は放浪の一族スクライア。無限書庫に長く居過ぎている身としては、何時までもここにいるワケにもいかないのかも知れない」
「そんな!?」
「でも、君がそんなに悲しむのなら、まだ暫くここに居ても、良いかも知れないね」
「ユーノ君……」
「まあ、安心して良いよ。まだここを離れてどこかへ行く予定は無いから」
ニコッ、とユーノは笑った。
なのはもそれにつられて笑った。
「ねぇ、ユーノ君。今日の夜、空いてる?」
「今夜? 取り敢えずクロノは次の任務まで時間あるし、事務処理の関係でまだ無限書庫には依頼を出せないらしいから、今からでも時間はあるよ?」
「それじゃあ夕方の6時、私の家に来てくれる?」
「夕方の6時だね? 分かったよ」
この日の夕方、ユーノはなのは、ヴィヴィオと共に楽しい一時を過ごすのだが、それはまた別のお話。
ただ1つ、彼は彼女達と共に思い出に残るような時間を過ごしたという事だけ、ここに記させてもらおう。
To be continued