とある日の無限書庫録(凍結)   作:ノウレッジ@元にじファン勢遊戯王書き民

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僅かだけ明らかになるユーノの隠し事。
一体、何が彼を蝕んでいるのだろうか?


幕間 蝕み

 

 

 

―――男子寮・ユーノの自室 PM 23:52

 

 

 無限書庫乗っ取りから数日振りに再び手にした自らの部屋の中央で、ユーノは蹲っていた。

 その横で彼のパートナー、アイことアインスが懸命に介護している。

 

「ぐ、がぁ…………っ!」

「ファータ、しっかりして下さい!」

 

 胸を掻き毟り、呼吸も荒く、瞳孔が開いている。明らかに危険な状態だ。

 

「ぎ、ゲホッ、ガハ……ッ!」

 

 ビジャッ、ベシャッ! ポタ、パタタ……ッ!

 激しい咳き込みと同時に、口から大量の血を吐き出すユーノ。医者に診断するべき状況なのは明々白々。だが―――

 

「ファータ! 薬を……っ!」

「ぐ……っ」

 

 アイはそれをしない。手持ちの薬の入った注射器を打ち、ユーノの背中を摩る。

 彼女の介護もあってか、ユーノは次第に落ち着いていった。

 

「はぁ……、はぁ……」

「大丈夫ですか?」

「何とか、ね……。ごめん、ね……、何度も何度も……」

「私なら大丈夫です。それよりファータの方が……」

 

 ユーノはアイの心配を手で止めさせる。

 

「僕は大丈夫だから……。僕が苦しむって事はつまり、それだけ彼女達(・・・)が頑張っているって事だから……」

 

 ユーノは目を細めて笑う。弱々しく、でもしっかりと。それこそが喜びだと言わんばかりに。

 

「ごめん、もう、寝よう……」

 

 明日から仕事だから。それだけ言い残すと、彼はバタリと眠りについた。まるで命の灯火が消えたかのように。

 アイはユーノをベッドへと運ぶと、静かにどこかへと回線を繋いだ。

 

 

 

―――ナカジマ家 PM 23:59

 

 

「もしもし?」

『チンクさんですか? 私です』

「アイさんか。こんな時間にどうしたんだ?」

 

 ミッドチルダの首都、クラナガンに位置する家の内の1つ、第97管理外世界『地球』から先祖が移住して来たというナカジマ家。その内の一室にて、1人の女性がアイからの回線を受けた。

 銀色の髪に右目を覆う眼帯。この家の引き取られたチンクだ。

 

「と言っても、要件は察しがつく。薬か?」

『ええ。ファータ用の薬がそろそろ尽きそうです。新しい薬を手配したいのですが、協力をお願いできませんか?』

「解った、セインに手配を頼む事にする」

 

 ユーノに打っている薬は普通の薬局では手に入らない。特別な配合をした薬品であり、聖王教会にいるセイン、更に言えばその上司であるシスターシャッハや騎士カリムのツテを上手く利用した物品。アイやユーノでもおいそれと購入できる物では無いのだ。

 

「……前よりも短くなってないか?」

『はい。前は同じ量で3ヶ月は保ってました。しかし、今は1ヶ月も保ちません』

「流石に、もう危険なんじゃないか? 好い加減止めさせるべきだと私は思うのだが、アイさんはどう思う?」

『私もそう思います。しかし、ファータはこういう事には意固地ですから……。塵よりも軽い責任を負って、鋼のように固い意志で貫き通す。我々が何を言おうとも、ファータ自身がそう考え、思わない限り、効果は無いでしょう』

「厄介な性分だ……」

 

 尤も、それが無ければ今の私も貴女も、妹達も無かったワケだが。そうチンクが零す。

 

「兎に角、何とかして“あれ”を止めさせないと、絶対に司書長の命は長くないぞ」

『解ってます。保って1年が精々。最悪、もっと早く命を落とす可能性もあります』

「私も、妹達も司書長のお陰でこうしていられる」

『彼は私達の命の恩人です』

 

 いや、私達だけでは無いか、とチンクとアイは首を横に振った。

 高町なのは。フェイト・テスタロッサ・ハラオウン。八神はやて。アリサ・バニングス。月村すずか。高町ヴィヴィオ。彼女達6人の命を支えるユーノ・スクライア。それを知るのは自分達だけ。

 そして彼が救っているのはその6人だけじゃ無い。

 チンク。セイン。オットー。ノーヴェ。ディエチ。ウェンディ。ディード。彼女達の未来を照らした。

 ヴィータ。シグナム。シャマル。ザフィーラ。そしてアインス。闇の書に縛られた彼女達を解放した。

 スバル。ティアナ。ギンガ。エリオ。キャロ。未来へと走る彼女達を正しい方向へと導いた。

 アルフ。フリード。ヴォルテール。主と共に闘う者達ですら、彼がいなければ主と共に尽き果てただろう。

 

 彼は結果的にいくつの命を救ったのだろうか?

 数えきれないくらいの人生を守り、救い、導き、それでも彼は足りない。否、それが当たり前の様に生きる。自分の命を蔑ろにし、他を救い、それで自らが潰えても心残りなのは、もう生きられないから「やりたい事ができない」では無く、「もう誰かを支える事ができない」。

 

「司書長は、バカだ」

『ええ、本当にバカです』

 

 薬の手配をお願いします。そう言ってアイは通信を切った。

 チンクは教会に在住しているセインに通信を繋ぐ作業をする傍らに考える。

 

 彼はどうしてこんなにも自己犠牲的なのか。

 生来の性分だと言えばそれまでだが、もう彼も23歳、好い加減この考え方が間違いだという事に気が付いてもいい筈だ。

 いや、気付いている可能性も高い。何しろ無限の知の王だ。気付かない方が逆におかしいかも知れない。

 ならば何故?

 

 チンクの脳裏に思い浮かぶのは今から12年前のとある日、高町なのはの撃墜された雪の降るあの日。当時彼女はまだ起動していなかったが、それでもデータとしては知っている。

 当時まだ試験段階だったガジェットドローンⅣ型の実験起動。姿を消す機能と、実践投入された時には無くなっていた飛行機能を搭載したガジェットは、高町なのはを見事に撃墜。半年間のリハビリを要する重傷を負わせた。

 

 彼女自身の過信や体調管理の不届きもあったとは言え、大元を辿ればユーノが魔法を彼女に教えた事こそが原因。と、彼は考えるだろう。

 責任感が必要以上に高過ぎる彼ならばそう考えても不思議では無い。寧ろ彼の事をよく知る者からすればこっちの方がしっくり来る。

 

「司書長、貴方の所為では、無いのだ……」

 

 チンクは眼帯に覆われた左目を抑える。これは今は亡き騎士ゼストとの戦いの時に負った怪我。治す事もできたのだが、彼女は拒否した。人の命の重さを知っている彼女が、自らを戒めるためにだ。

 規模は違えど、これだって同じ事が言える。傷をつけたのはゼストだが、自分を生んだドクターや、自分をあの場所に配置したナンバーズ1、ウーノに責任を追及する事と同じだ。

 

「どうして、我々を責めないのだ、ユーノ司書長……」

 

 ガジェットを生み出した組織の一員として、自分達が非常勤の司書にされた時、彼に責められる事を姉妹全員で覚悟したものだ。だが、彼は1度たりとて責めの言葉を吐かない。

 

「寧ろ残酷だ……。責めてもらった方が余程楽だったぞ……」

 

 残酷な、凶悪な毒の様に彼は優しい。全身を蝕むアレ(・・)の存在を考えても、彼は元からそうだった。

 理解できない。何故そこまで……。

 と、その時、通信が繋がった。

 

『こんばんは、チンク姉。また薬?』

「ああ。いつもの量で頼む」

『あいよー』

 

 セインに要件だけ伝え、彼女はベッドに倒れる。このまま考えながら眠るつもりだ。

 

(司書長、貴方は自分の命や存在を軽視し過ぎている……。貴方が死んだら、一体何人が悲しむと思っているのだ……)

 

 静かにチンクは眠りの境界線へと足を踏み込む。

 でも、彼女は知らない。いや、誰も知らない。

 

 彼が抱える、あの日の、残酷な現実を。

 

 

 

―――ユーノの部屋 AM 00:07

 

 

 ユーノは泥の様な眠りの世界へと浸っていた。

 虚ろな意識の中、様々な事を思い出す。

 

 

 最初は、集中治療室へと向かう廊下だった。

 

 

―――もしもあいつが死んだら、あたしがアンタを殺してやる!

 

―――どうしてユーノ君は無事なのかな? 不公平だよねぇ……!?

 

―――どう責任を取ってくれるんだ!

 

 

 次に、自分がまだスクライアの一族にいた時の事。

 

 

―――気味悪ぃよ、あいつ。大人に混ざってやがる。

 

―――発掘班に加わったんだ、大人なりの責任を持ってくれなければ困るのだよ!

 

―――多少魔法が上手いからって、図に乗るんじゃねぇぞ、ゴラ!

 

 

 そして、管理局での上層部との軋轢。

 

 

―――何であんな管理外世界のサル連中を守るんだよ?

 

―――逆らえば君の大切な幼馴染がどうなるか、解るかね?

 

―――ズバリ、我々と手を組んで欲しい。そうすれば高町教導官達の安全を保障しよう。

 

 

 でも、どれも彼にとっては過去の事だ。

 最後に思い出したアレに比べれば、まだ軽い。

 そう、数年前のあの日の、食堂での会話を。

 

 そこにいたのは、なのはとフェイト。

 彼は偶然、彼女達の会話を聞いてしまった。

 

 

―――             ?

 

―――   、       !

 

 

 それは、何よりも残酷に、彼の心を抉った。

 自分のやって来た事は、彼女達に認めてもらえて無いのだ。

 

 

―――ああ、僕は今まで彼女達のために、何一つしてあげられて無かったんだ。

 

 

 そして、ポツリと漏らした。

 

「役立たずで、ごめんなさい……」

 

 その寝言は、一筋の涙と共に、夜の闇へと消えていった。

 

 

To be continued

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