とある日の無限書庫録(凍結) 作:ノウレッジ@元にじファン勢遊戯王書き民
……色んな意味で怒られたりしないかな。
今回はユーノとフェイトのお話。
「ユーノ……」
「ゴメンは聞き飽きたよ」
「本当にすみません……」
「そうじゃなくて、もう謝罪はいらないって意味だったんだけど……」
昼過ぎの時空管理局の廊下で、2人の金髪が歩いていた(片方は蜂蜜色の方が近いが)。
片方は黒い執務官制服に身を包んだ、紅い瞳の見目麗しき女性。
片方は簡素な私服に身を包んだ、碧眼の中性的な外見の眼鏡の人物。
フェイト・テスタロッサ・ハラオウンとユーノ・スクライアだ。
この幼馴染2人が揃って歩いているだけならば、特に疑問視する事も無い。遅めの昼食に向かうのかとか、仲が良いなとか、付き合っているのかとか、おのれ淫獣とか、そういったほぼテンプレな感想しか生まれないだろう。
しかし……。
「シグナムかティアナに相談、してみる……?」
「何て?」
ジャラリ。
「それは……」
「君がうっかりドジで整備していた手錠を僕と君の手に掛けてしまい、鍵は壊しちゃいましたって?」
「あうぅ……、言わないでぇ……」
2人の手が手錠によって繋がっていたならば、話は別だろう。
手錠を使う執務官と、そうじゃない私服の人物(司書に決まった制服は無い。私服でもスーツでも勤務できる)。この組み合わせでは「私服の人が何かやって、執務官に連行されている」としか映らないだろう。
―――30分前・備品倉庫
執務官は次元を超えた犯罪者を逮捕したり、それを未然に防いだりと、兎に角仕事は厳しい上に多い。
しかも執務官試験の合格率は10%にも及ばないのだから、その門が如何に狭いかはよく分かるだろう。
さて、そんな執務官だが、使う備品も結構多い。自分の使うデバイスの他、逮捕した相手を拘束するための手錠もまた然りだ。そしてその備品管理もまた、執務官の仕事の一環なのである。
悲劇(喜劇かも知れない)はここで起きた。無限書庫で取り扱う情報の中ではデータで送れない、機密性の高い情報も多い。そういった情報を送る場合は、紙の書類で手渡しになる。データで転送すると盗まれる可能性がある上に、盗まれても分かり辛いからだ。
そしてその書類を手渡しできるのは、現在ほんの一握りの書庫の上層部だけ。今回は顔馴染みという事もあって、ユーノがフェイトに手渡しする事になった。
「おーい、フェイトー。書類持って来たよー!」
書庫のメンバーは、司書長が幸せならば(ココ重要)誰が結婚相手であっても構わないと思っている。そのため、1秒でも多く、彼には他の女性(特に彼に好意を抱いている人物が望ましい)と触れ合っていてほしい。ユーノに行ってもらったのは、そういった意味もあるのだ。
しかし、タイミングが不味かった。彼女は丁度備品チェックに熱中していて、周囲の音なんて聞いていなかったのだ。
返事が無い事に首を捻ったユーノは、倉庫の中を捜す。すぐに彼女は見つかった。
(ああ、集中してるのか)
努力家な彼女らしい。そう思って彼は微笑んだ。しかし書類を受け取ってもらい、受領のサインを貰わなくては彼も仕事場である無限書庫に帰れない。彼女には悪いが、少しこっちを向いてもらおう。
そう思ったユーノは、何の気無しに金髪執務官の肩を叩いた。
「フェイト」
「ひゃぁあああああああああああっ!?」
途端にフェイトは大声を上げて驚いた。勿論急に大声を出されたユーノも驚いた。
そして彼女の手にあった手錠が放り投げられ、重力に従って落下し―――
ガチャッ!
「え?」
「あ」
無機質な金属音を立ててユーノの右手とフェイトの左手が繋がってしまった。
「ご、ゴメンねユーノ!」
慌ててフェイトは鍵を鍵穴に入れて手錠を外そうとして―――
バギッ!
「げ!」
「う」
鍵が古かったのか、それとも変な力を入れたのか、鍵穴を境界に鍵は真っ二つに折れてしまった。
当然、実際の犯罪で使うための物なのでピッキング防止の措置が施されているし、解錠の魔法も効かないようにしてある。力技で鎖も引き千切れないし、何をトチ狂ったのかフェイトがバルディッシュ(しかもザンバー)を使って切断しようとしてもビクともしない。加えて、鍵穴に折れた鍵の先端が嵌り込んでしまった為に、予備の鍵も入らない。
ちなみその後、フェイトが電熱で溶かそうとしてユーノが感電し、手錠は焦げ跡一つ無かったのだが、それは余談だろう。
更にユーノがフェレットモードに変身して脱出を図ったが、首輪になって拘束されたままだった事も余談だろう。
「はぁ……、はぁ……、この手錠は、何でできてるんだか……」
「ぜぇ……、ぜぇ……、確か、魔力を通さない、天然のAMF内蔵鉱石を原料に含んでるとか、なんとか……」
20分後、一通りの手段が全く効果が無く、息が上がった2人がそこにいた。
取り敢えずこの手錠がとんでもなく頑丈で犯罪者に対して有効である事は実証できたのだが、今はどうでも良かった。
ユーノは通信を開いた。
『ファータ、どうかしましたか? 確かフェイト執務官に資料を届けに行ったハズでは?』
「うん、そうなんだけど……」
通信に出たアイに事の顛末を話す。
『そうですか。では本日の業務はお終いで良いでしょう』
「はい!?」
『大丈夫ですよ。精々半休ですし、仕事はもう片付いて、午後は書庫整備の予定だったでしょう? 第一、元々ファータは有給が溜まっていたじゃないですか』
「そう、だっけ?」
『ファータ、最後の有給は何時だったか覚えてます? 勿論考古学者としての学会出席や病気の時等を除いてです。勿論、日曜日のような休日も含みません』
「…………………………………………何時だっけ?」
『資料によれば、7年前の私の復活の際の海鳴市への転移以降、取られた記録はありませんね』
「……ユーノ」
「う」
フェイトの半眼が背中に刺さった。
思い返してみれば確かに、学会や発表会出席、病気のために有給を使用した事はそれなりにあったが、休みのために有給を取った記憶は全く無い。週末の休みだって論文のために費やしているくらいだ。
よくもまあ倒れないものである。
『はっきり言いましょう。ファータの有給は有り得ない程溜まってます。これ以上蓄積できないくらいに』
「そ、そっか……」
ちなみに管理局、有給の消費がし辛い役職がある事も考慮されてか、有給はある程度溜められる。
それでもユーノのように溜められる限界値まで溜める人は創設してから約80年間、いなかったのだが。
『申請は受理させますので、ごゆっくり』
「はぁ、ありがとう?」
『では』
プツ。
通信が切られた。
しかし受理「させます」とは、アイもユーノが心配なのだろう。
一方のフェイトも備品チェックは手錠で最後だったらしく、用件は無くなったらしい。
2人は手を繋がれたまま、備品室を後にした。
―――現在
「シグナム、あれは無いよ……」
「冗談であってほしいね……」
フェイトとユーノは繋がった鎖をどうにかすべく、たまたま本局にいた親しい仲間であるシグナムとティアナに相談した。
しかし、ティアナは解決策を思い浮かべる事ができず、シグナムに至ってはこんな事までのたまう始末。
『ならば片方の腕を斬り落とせば良い。シャマルは腕が良いからな、持って行けばすぐにくっつくだろう。ふむ、男だ。ユノユ……、ユーノの腕を斬り落とすか』
勿論彼女なりの冗談なのだが、当事者でありあまり冗談を言わないと思っている彼女の知り合いである2人は全力で否定したのは言うまでもない。
ちなみにそれを受けて、烈火の騎士は少し凹んだのだが、まあ余談だろう。
たまたまシグナムと通信が繋がっていたシャーリーことシャリオ・フィニーノのツテで夜にはどうこうするアテができたが……。
「さ、災難でしたね、お二人とも……」
「大丈夫ですか?」
ちなみにユーノ&フェイトは今4人組だ。
彼女が保護し、我が子のように育てている赤髪の少年と桃髪の少女。エリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエだ。ちなみにキャロの相棒、白色の龍、フリードことフリードリッヒは現在、健康診断中なので不在。
「ところで、大丈夫ですか? フェイトさん?」
「うん、左手が使い辛いってだけで、後は何も問題無い。大丈夫だ」
エリオの心配に胸を張るフェイト。豊満(幼馴染5人組の中では2番目)な胸も強調され、周囲の男性職員(ユーノ含む)の視線を釘付けにするが、これを本人は無意識(天然とも言う)でやっているのだから恐ろしい。
ちなみにエリオの隣でキャロが殆ど成長しない胸を抑え「まだ成長するもん……、私まだ14歳だもん……」と呟いているのだが、優しい3人は聞こえないふりをした。人間の半分は優しさでできています。
「あ、いえそうじゃなくて……」
「?」
言い辛そうにしているエリオだったが、ポツリと場所と時間を告げた。
「今日の午後3時、第8訓練室……」
その瞬間、フェイトの顔が青ざめる。
慌てて手帳を取り出して予定を確かめ……。
「ユーノ、どうしよう……」
「ふぇ、フェイト……?」
へなへなとその場に崩れた。
「えーと、実はお母さん、今日は模擬戦があるんです、大規模な」
「どれくらい?」
「えー、10対1だったはずです。10人合わせればSランクにも引けをとらないくらいの」
キャロの説明にあちゃー、とユーノは頭を抱えた。
フェイト単独ならそのくらいどうにかなるかも知れない。しかし、今彼女はユーノという重しをつけている。両手についているのならばまだしも、左腕のみにだ。
どう考えても彼女の持ち味である“スピード”を阻害しかねない。
(やば……、バッドタイミングだ……)
手錠は壊せない。
模擬戦の約束を破棄するワケにもいかないだろう。
なら、出せる結論は一つだけ。
通信をユーノは開く。
「フェイト、ついて来て!」
「え? ふえぇええ?」
ユーノはフェイトの手を取って、通信をしながら何処かへと走り出した。
「お父さん、何をするつもりなのかな?」
「ついて行ってみよう!」
父親(予定)が母親(確定)に何をするのか興味を惹かれたエリキャロコンビは、楽しそうな顔を浮かべて2人の後を追いかけた。
―――第8訓練室 PM 15:00
予定通りの時間、フェイトとユーノは手錠で拘束されたまま訓練室にいた。正面には屈強そうな武装局員10名。いずれもAランク相応の実力者であり、個々の戦闘力は将来的に有望という、なのはが聞いたら是非とも教導に招待したがるメンツである。
もっとも、全員とも彼女が過去に教導で鍛えたメンバーなのだが。
更には観客として何人かの武装局員、エリオ、キャロ、健康診断から戻ったフリード、丁度戻って来たなのは、無限書庫に行ってもユーノがいないため彼を探していたヴィヴィオ、職務を早めに終えたはやて、そのパートナーのリイン、書庫から様子を見に来たアイにヴォルケンリッターの面々がいた。
しかし例え訓練された武装局員と雖も、それで血も涙も無いのかと聞かれれば、それは別問題だろう。何せ今模擬戦相手は、手錠で私服の人と繋がっているのだから。いくら何でも躊躇の1つや2つくらいする。
恐る恐るといった感じで、相手の内の1人が話しかけて来る。
「えーと、ハラオウン執務官?」
「何でしょう?」
「あの、犯人連行の途中でしたか? それともトラブルか何かで一般人と手錠が繋がってしまいましたか?」
「両方違いますよ。彼は無限書庫に勤務している局員ですし、罪を犯した訳でもありません。トラブルというのは合ってますが」
どうぞ存分にかかって来て下さい、とフェイトはバリアジャケットに着替える。その横でユーノも私服から民族衣装をかねたバリアジャケットに。
「いや、いくら何でも一介の司書相手に本気なんて……」
「ふふ、知らないのですか? 彼の名はユーノ・スクライア。無限書庫の司書長であり、かの高町なのは教導官の最初の師匠ですよ? その実力は総合A」
『『『な、ナンダッテェーッ!?』』』
驚きの声が一斉にあがる。
それもそうだろう。ユーノの見た目はどう贔屓目に見ても屈強そうとは言い難い。寧ろ痩せているとか、モヤシとか、そういった表現の方がピッタリ来る。
そんな彼があの有名なエース・オブ・エースの師でもあったとなれば、認識を改めねばなるまい。
即ち、戦いに向かない文官から、全力を出さねば負ける猛者へと。
『上手い具合にひっかかってくれたね』
『まさかここまでとは、僕も思わなかったけれどね』
驚愕する武官の前で、念話で密かに2人は会話する。
ユーノがなのはの師匠であった事は確かだが、それはフェイトの言う通りに「最初の」師匠でしかない。彼が教えたのは魔力の基礎的な活用方法の他、シールドはバインド系。砲撃は一切できないので教えていない。
(今じゃ僕は最弱だよ。なのはにもフェイトにも、はやてやアリサ、すずかにも勝てるワケが無い。ただ単に堅いだけの盾使い)
心の中で嘆息するユーノ。
その横でフェイトは何となく、ユーノの考えている事に見当をつけていた。
(どうせユーノの事だし、自分の弱さに呆れているんだとは思うけど……。それはいくら何でも過小評価ってものだよ、ユーノ)
確かにユーノの盾は「堅い」だけだ。
だが、ただ頑丈なだけの「堅い」では無い。
堅い、それは物質の硬度だけでは無い。守りの事も指す。単純に高い防御力を求めるのならば、鋼の盾でも購入すれば良いし、彼よりも硬度のあるシールドを張れる人物だって管理局の中に何人もいる。
そう、ただ「硬度のある」盾ならば。
ユーノの守りの堅さは硬度じゃ無い。その攻撃を後逸させない鉄壁さだ。盾の堅さ、相手の守備の貫通、戦況に応じた戦術の組み換え、邪魔な相手の拘束。彼の本当の持ち味は決して防御力では無いのだ。
(はぁ……、本人が自分の領域を勘違いしているんだからタチが悪いよ……)
そんな彼女を別に、模擬戦相手の10人は士気を高めていた。
「つまり、油断すれば負けるのはオレらって事か」
「かのエース・オブ・エースの師匠じゃ、全力でいかねば負けるぞい!」
「ぬ」
「……ヒッ! ピンク色の本流が、砲撃が、ぁぁぁ、あぁ、あ、あぁああああああっ!」
「くぁwせdrftgyふじこlp!?」
数名トラウマを思い出しているようだが。
((なのは、一体何をしたんだ……))
聞かぬが花です。
そして、いよいよ戦いが始まる。
「それじゃ、行くぞぉ!」
『『オォオオオオオオッ!』』
「来るよ、ユーノ!」
「援護するよ、フェイト!」
閧を上げる10人と、真剣な表情で立ち向かうユーノ&フェイトの戦いが、始まる。
「はぁっ! “サンダー・レイジ”ィー!」
「うわ! ら、“ラウンド・シールド”!」
フェイトが放った雷が、相手の内の1人を捉える。
対し、咄嗟にその男はシールドを張る。遠目からでも防御力があると分かるそれで防御して耐え、反撃に転じるつもりなのだろうが……。
「(良いシールドだ。なのはが鍛えただけはある。でも、こっちにだってユーノがいる!)ユーノ!」
「任せて!」
極力フェイトの邪魔にならない形で印を組み、ユーノが生み出すのは1本の鎖。
「“ブレイク・チェーン”!」
ユーノは利き手では無い左手で鎖をフレイルのように振り回してシールドに叩きつける。鎖がシールドを叩いた瞬間、モスグリーンの盾は木端微塵に砕け散った。
当然、盾が無くなったため雷は直撃。断末魔の悲鳴すら無しにその男は崩れた。
「ナイスフォロー、ユーノ」
「君の功績だよ、フェイト」
死角から飛んで来た砲撃を片手のシールドでガードし、素早く回り込もうとした別の相手をバインドで拘束する。
更に多方向からの攻撃は転移で回避し、接近して来た相手は部分防御魔法の“スフィアプロテクション”を
「後3人!」
「このまま押すよ!」
―――戦いやすい
フェイトは素直にそう感じた。
なのはやシグナムと組んで戦う事が多かった彼女は、最初のパートナー、アルフの事を思い出していた。
そして義兄のクロノが言っていた事を思い出す。
『同じ前衛同士が組むよりも、前衛と後衛で組んだ方が遥かに戦いやすい。悔しい事に、あのフェレットもどきと僕が組んで模擬戦で戦うと、今の所敵無しな状態なんだ』
あれと同じだ。
ユーノの本当の実力は、薄情な話、全く知らなかった。精々が総合Aだという事程度。
だが違う。これは総合Aという能力で判断すれば痛い目に合う。総合評価の魔力レベルにおける罠だ。
総合、即ちそれは平均。
裏を返せば突出した能力があっても、逆に極端に低い能力があれば、それが相殺されるという事。攻撃能力の低さが、彼の後衛系の能力の高さを隠しているのだ。
「まだ、まだよぉ! “ソニック・ムーヴ”!」
相手の中での紅一点が加速をしかけて来た。
今のフェイトならスピードで勝てると踏んだのだろうが、甘い。
「ユーノ! “フォトンランサー”!」
「フェイト! “スクエア・ウォール”!」
背後からの強襲をシールドで防ぎ、光の槍で迎撃する。
スピードが乗った時、急ブレーキをかけるのは至難の業だ。フェイトですらも数回に1度は失敗する。しかも急ブレーキは体に大きく負担をかける。故に素直にぶつかった方がダメージが少ないケースもあるのだ。
「そ、そんな……、ばか、な……、こ、とが……」
攻撃を受けて薄れ始めた意識の中で、女性武装局員は驚きに目を見開く。
防がれた事をじゃない。
迎撃された事でもない。
彼女が驚いたのは、
あのスピードなら全方位からの攻撃を警戒してドーム型のバリアを張るのが定石。だがユーノが使った“スクエア・ウォール”は文字通り四角い盾。一方向からの攻撃にしか対応できない。
(まさか、アタシがどこから攻撃来るのか、分かっていた!?)
ここに来て漸く彼我の本当の実力差を悟った彼女は、そのまま倒れた。
「後2人!」
「フェイト!」
素早くユーノが手で指示を出す。
左手の先を上に向けてそのまま下へ。
(上からの振り下ろし!)
瞬時に彼のサインを理解した彼女は、高速移動でユーノごとそれを回避。
「だぁ、畜生! また外した!」
「ユーノ!」
「オッケー!」
そして体勢を立て直すよりも早く、ユーノのバインドが相手を拘束。ガチガチに固まった相手は動きを完全に封じられ、デバイスも封印される。
「後1人!」
「もう一息だ!」
「くっ!」
残った1人は理解できなかった。速度が持ち味である彼女の足枷となっているあの男。いくら凄腕とは言え、メリットを潰している以上、勝利する事は可能だと考えていた。
だが、現実は厳しかった。フェイトの速度はほぼ潰れていたが、代わりに男がそれをカバーして有り余っている。
シールド、バインド、転移、封印。どれをとっても一級品。攻撃して来ないのがせめてもの救いだが、それでも厳しい。
(それに……!)
「フェイト!」
「了解!」
ユーノが指先で鋭角三角形を描いてに指示を出す。それに合わせてフェイトが相手の後ろに2本の雷の柱を落とす。
更に連携してユーノがチェーンを取り出し、男めがけて射出した。
(何で指先の簡単な指示で、ここまで阿吽の呼吸で合わせられるんだよぉ!)
横と後ろを雷で塞がれ、正面から攻撃を受けざるを得ない状況で、男は嘆く。
実際、ユーノの出す指示は指先の動きや図形。お世辞にも分かりやすい物では無い。
では何故か。
簡単だ。事前に彼らは動きを合わせていたのだ。
模擬戦が始まる前、訓練室の一角を借り、ユーノとフェイトは動きの訓練をしていた。動き、攻撃、防御。簡単なものだったが、その途中、立体映像による仮想的をシミュレートしていた中でフェイトは気が付いた事があった。
―――自分よりもユーノの判断の方が優れている!
長年の戦いの経験がそう言っていた。
間違い無い。ユーノの指示に従った方が勝てる。
そう考えた彼女はすぐさま作戦をユーノ主体に変更。彼の出す指先の指示を細かく読み取り、彼の意図を汲んで戦うスタイルとなった。
ユーノの考えている事こそ、今の戦いにおいて最善の一手。そう考え、素直に従っていると、自然、彼の思考が何となく伝わって来た。
ふと、フェイトは昔、親友のなのはが言っていた事を思い出す。
『ユーノ君がいるとね、背中が温かいんだよ』
(そっか、これが“背中が温かい”の意味か。成程ね……)
心のなかで頷きながら、ユーノの放った翡翠色の鎖が放つ、温かな光を感じる。
或いは彼への恋心を再び自覚したのかも知れないと、フェイトはこっそり苦笑した。
そして―――
「く、っそぉおおっ!」
「“チェーン・バインド”!」
最後の鎖を攻撃と勘違いした男は、バインドで捕縛されてしまった。
10人中6人がダメージにより戦闘不能、4人がバインドで拘束。
ユーノとフェイトの、勝ちだ。
―――観客サイド
「流石だね、お母さんとお父さん」
「うん。一発も当たらなかった」
「きゅくるー」
エリオとキャロ、フリードが感心した声を上げる。実際、2人は開始時から紙一重の時もあれど、一撃たりとて攻撃を受けていない。全て回避と防御に成功している。
「うーん、これはフェイトちゃんがアド取ったなぁ……」
「です」
違う事に興味を示しているのははやてとリインだ。背中を任せて戦うという大きなアドバンテージはこれまでなのはのみだった。しかし、今はフェイトも仲間入りした。
「流石だな、テスタロッサ」
「ユーノのヤツ、また盾が堅くなってねぇか?」
「これは明日倒れるパターンかしらね」
「何故だ?」
「ファータがどんな形であっても模擬戦に参加すると、翌日あたりに倒れるんだ。疲れが残っている内に仕事をするからが原因だろうな」
一方でヴォルケンズの反応は様々。2人の成長具合に不敵に笑うシグナムとヴィータ。シャマルの明日の予測に疑問を持つザフィーラ。フランクな話し方で理由を説明するアイ。
そしてフェイトとユーノが戻って来た。
最初に話しかけたのはなのはとヴィヴィオの親子だ。
「2人とも、大丈夫だった?」
「パパもフェイトママも無茶しちゃダメだよ。手錠で繋がれたままなんて」
「ははは、ゴメンゴメン」
笑って謝るユーノに対し、フェイトはなのはに言う。
「なのは」
「何、フェイトちゃん?」
「なのはが昔言っていた事が、漸く理解できた。確かにユーノがいると“背中が温かい”よ」
その言葉に深い意味は無いのかも知れない。だが、なのはにしてみれば、自分だけのアドバンテージを奪われたようにも思えた。
その日、彼女が不機嫌だった事は言うまでも無いだろう。
後日、フェイトが再びドジを踏んで今度はユーノと自分の足に手錠をかけてしまったのだが、それはまた別の話である。
To be continued
ユーノのオリジナル技紹介
ブレイク・チェーン
鎖を鞭のように振り回す技。攻撃では無くバインドやシールドを破壊する能力を持つ。
スクエア・シールド
魔法陣を中心に正方形のシールドを出す。厚みがあるため貫通攻撃に強い分、横からの攻撃で簡単に粉砕されてしまう。