とある日の無限書庫録(凍結)   作:ノウレッジ@元にじファン勢遊戯王書き民

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I love youの最初の和訳、知ってますか?

有名なのは夏目漱石の「月が綺麗ですね」
 当時は愛よりも情だった。無粋を嫌った漱石らしい表現です。

一方で二葉亭四迷は「死んでもいい」
 相手に対する掛け替えの無さの女性的表現です。

今回は月繋がりですずかの登場回。お楽しみに!
スタート!


月夜に踊る美しき漆黒

 パチッ、と目が覚めた。

 時計を見ると、現在時刻は朝の6時。仮眠室でそのまま寝てしまったようだ。

 

「ん、ん~……」

 

 眠い頭を起こして部屋を出る。

 すると、そこにいたコーヒーを入れていた短い金髪の女性がこちらに気が付いた。

 アリサ・バニングス。自分の親友である。

 

「あ、起きた、すずか?」

「んー、おはよーアリサちゃん……」

 

 グシグシと目を擦りながら仮眠室から出て来た女性、月村すずかは答えた。

 

 

 

 2人が今いるのは無限書庫、では無くて会社だ。

 株式会社ミッドアース。親や色々な人の力を借りてアリサとすずかの2人で起ち上げた会社。

 主な仕事は地球とミッドチルダの間の交易。とは言え、大々的に管理外世界と交易する事は不可能だ。しかし、協力してくれた元提督のギル・グレアムと無限書庫司書長ユーノ・スクライアがツテを利用し、色々と誤魔化したようだ。

 その辺りの事は社長のアリサと取締役のすずかの2人もよく知らない。

 1度気になって聞いてみた所、

 

グレアム『何、気にする必要は無い。軋轢や後腐れの無いようにやっておいた。後顧の憂い無く経営してくれ』

ユーノ『大丈夫。頭の固い連中を黙らせる事くらい楽にできるよ。ダテに司書長やってないさ、手出しはさせやしないよ』

 

 ニッコリと笑って答えてくれた。異様に怖い笑顔で。

 

(絶対に何かしたよね……)

 

 この会社では社長と同権限を持つ取締役としては、その辺を詳しく聞きたいのだが、聞いたら何か戻れなくなりそうで怖い。

 

「すずか、ゴメン。あたしもう出ないと、取引先の会議に間に合わないのよ。後お願い」

「んー……」

「頼むわよ!?」

 

 バタバタと出て行くアリサを見送り、すずかは廊下のベンチでコーヒーをすする。

 

「(ズズ……)あー……」

 

 さて、そろそろあの時期かな? 何て考えながら、寝ていた頭を起こす。朦朧としていた意識がクリアになるにつれて、今日の仕事を思い出す。

 

「無限書庫と、書類と、会議と……」

【マスター、大丈夫ですか? それは昨日の予定です。勿論消化済みですが】

 

 まだ寝惚けている頭で思い出した今日の予定に駄目だししたのは、彼女のデバイス。

 ダークヴァイオレットの宝石のついた髪飾り。ユーノがこれまた彼のツテで作ったインテリジェントデバイスの『カーミラ』だ。

 

【本日の予定は当社での会議とマスコミ会見、そしてスラムへの寄付会談になります】

「ん、ありがとう、カーミラ……。まだ眠いよぉ……」

 

 ボサボサの頭をお気に入りのカチューシャで留めながらすずかは言う。

 そんな主の姿に、カーミラは心の中でやれやれと嘆息した。

 

 

 

―――これで本当に世界をも支配し得る種族なのだろうか(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 勿論、誰にも知られる事は無かったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――すずか宅 PM 20:22

 

 

「ふ~ん、重婚法改正案の可決、かぁ……」

 

 パサリ、と新聞を広げてすずかが呟く。

 元々様々な種族の入り乱れるミッドチルダである。パッ見は人間、ミッドチルダの人と同じ人しかいないように見えるが、よく見ると耳が尖っていたり、額にもう1つ目があったり、尻尾があったりと細かい差異がある。

 もっと大きな違いを持った種族は変身魔法を使って変化しているか、首都から離れた場所で生活している。

 さて、それだけの種族が入り乱れているとなると、当然風習やら何やらも混ざって来る。ミッドをベースに全てを取り入れるのは無理があるが、結婚の方法はほぼ問題無く取り入れられている。

 

 重婚は勿論、同性も異性も年齢差も近親も全くタブーが無い。多夫多妻なんてものもあるくらいだ。

 

「もう何でもアリだね~」

「そりゃあね。管理世界の1番を名乗るくらいだし、それくらいの妥協はしないと、敵対世界作りまくりになっちゃうからね」

「そっか」

 

 と返事をして、はて? とすずかは首を傾げた。

 この家は別にアリサとシェアしているワケでは無い。小さいが自分だけの家だ。家事も一通りできるので、週一で来るハウスキーパー以外はこの家にいない。

 なら、今返事をしたのは誰だ?

 声がした方を向くと、そこにいたのは―――

 

「こんばんは、すずか。お邪魔してます」

「こんばんは、ユーノ君」

 

 無限書庫の司書長にて、彼女の恋する相手、ユーノだった。

 

「ユーノ君、どうしてウチに?」

「どうしても何も、君が呼んだんじゃないか」

「え? そうだっけ?」

「カーミラからのメールに呼び出されて来たんだよ」

【ええ、私は確かにマスターに頼まれてミスターユーノにメールを送りました。今日の夜に来てほしいという旨です。一昨日の事なのですが、覚えていませんか?】

 

 言われてみればそんなメールを出した覚えが有ったような、無かったような?

 しかし、彼頼みの要件が思い出せない。多忙な彼を呼び出すくらいなのだから、余程の事でなくてはならないのだが……。

 

(ま、いっか)

 

 重要な要件なら、どうせその内思い出すだろう。

 そう思ったすずかは、ユーノを歓迎すべく茶菓子を取り出した。

 

 

 

 

 

 

 夜の一族。それが月村すずかの属する一族の名前だ。

 基本的には人間と変わりない見た目だが、二十歳を過ぎた頃から成長・老化が遅くなり、常人の数倍の寿命を持つ。身体能力は人間とは比較にならないレベルであり、すずか自身も小学生の段階で武人と同じだけの身体能力を持っていた。

 反面、栄養の消費効率が著しく悪く、特に鉄分が不足しやすい。これを補うために八重歯が発達し、人の血を吸ってそれを補給する。

 また、発情期というものが存在する。溢れ出る情欲を抑えない限り、道行く人に襲い掛かりかねない危険な症状だ。

 

 すずかとその姉、忍は純血種と呼ばれる、先祖と同じ混じり気の無いタイプ。

 それ故に強力な力を持ち、コントロールを失えば何が起こるかは分からない。月村家に残されていた文献によれば、かつて暴走した夜の一族のせいで黒死病と同じくらいの数の人間が死んだとされている。

 

 数年前、すずかと忍はこの力に翻弄されて能力が暴走した。

 その時は帰省していたなのは達によって辛うじて拮抗状態が保たれ、その隙にユーノが対処方法を探し当てて事無きを得たのだが、それはまた別の話である。

 

 昔話の吸血鬼やドラキュラ、ヴァンパイアの何割かがこの夜の一族であったとされている。とは言え、別に吸血鬼でも無いので大蒜や十字架も平気だし、満月でパワーアップするワケでも無い。

 

「今日は満月だね。しかも2つ」

 

 だから彼女は、密かに思いを寄せる彼と月光の下にいても問題無いのだ。

 

「ミッドの月は2つあるからね。地球は1つしか無いんだっけ?」

「私からしてみればこっちの月の方が変わっているんだけど、ユーノ君からしてみたら地球の方が変なんだよね?」

「まあ、生まれも育ちもミッドだからね。放浪の一族だけど、その辺はクラナガンの人と同じだよ」

 

 月、か。

 自分の苗字にも入っているそれは、運命や不安を意味する。

 ならば、あれも運命だったのだろうか?

 

 

『どうしてユーノ君は無事なのかな? 不公平だよねぇ……!?』

 

 

 親友が死にかけたあの日。

 自分が彼にかけてしまったあの言葉。初めて人生の中で殺意というものを抱いた瞬間だった。

 

 11歳のとある日、親友なのはの重傷との事でミッドチルダの病院に連れて来られた。手術中の彼女の無事を祈る中で、遅れて到着した彼に向けて放ってしまった言葉だ。

 

 手術室の角で頬を腫らして茫然と立つ彼に向かって吐いた暴言。圧倒的な膂力で彼を高く吊るし上げ、有りっ丈の憎しみと殺意を込めて放った、たった1つだけの言葉だ。

 

 分かっていたのだ。彼のせいでは無い。彼が直接悪いのでは無い。彼に責任を求めるのは間違いだ。

 でも、理解してはいても、納得なんてできなかった。

 引っ叩いてしまった。

 もう1人の最初の親友の後に。

 

 親友が自分とは違う世界へと連れて行かれて、剰え死にかけた。その現実は、まだ11歳の少女には重すぎたのだ。

 なのはを危険な任務に追い出しておいて、自分は屋内の安全な場所でデスクワーク。半ば殺しに追いやったようなものではないか。そう考えたら、後は自然と感情のままに行動できた。

 一発引っ叩くだけで終わったのは、自分にも辛うじて理性が残っていたからだろうか。それでも、彼を傷つけた事に相違は無い。

 

(確かにあの後謝ったし、ユーノ君も気にしてないって言ってくれたよ。でも……)

 

 気にしていないのは本当なのだろう。

 すずかの事を許しているのも事実だろう。或いは最初から怒っていなかったのかも知れない。

 

(それなら何で、君はいつもいつも悲しい顔をしているの?)

 

 海鳴での幼馴染5人と彼で温泉旅行に行った事もあった。

 楽しい思い出を沢山作った。

 彼のお陰で色々な人が助かった。

 自分だって、彼のお陰で自害せずに済んだ。

 

 彼には一生かかっても返しきれないくらいの恩がある。彼がそう思っていなくてもだ。

 でも、彼は今も何かに押し潰されそうになっている。表情が笑っていても、目の奥は笑っていない。怒りも憎しみも無く、虚無的で、そして極めて悲しい色を映し出していた。

 その原因がもしもあの時の事件と自分達ならば、きっと彼の中の時は、もう12年も前に止まってしまっているのだ。もう1度彼の中の時間を動かさなくては、今や未来にどれだけ楽しい思い出を作っても、それは蝋燭の炎の様に儚い明りにしかならないだろう。

 

 ふと思う。

 自分と彼はどんな関係なのだろうか?

 

 幼馴染? 在り来りだ。他にも何人もいる。

 上司と部下? 確かに非常勤の特務司書だが、そういった関係は書庫では薄い。

 恩人? 彼がそう思わない限り、押し付けがましいだけだろう。

 

 じゃあ、何だ?

 きっと他の幼馴染メンバーもそう思っているだろう。

 

 自分は、彼にどうしたい? 恋愛云々以前に。

 彼とどういう関係が良いのだろうか? 恋人がどうこうでは無く。

 何が自分にできる?

 どうしたら、彼を過去の呪縛から解き放てるだろうか?

 

 そんな考えが顔に出てしまったのだろうか?

 

「すずか? 暗い顔してどうしたの?」

「え?」

 

 彼がこちらの顔を覗き込むようにして心配していた。

 

(わ、わわわ、顔が近いぃ~!)

 

 彼は自分がどれだけ美形か自覚していないのだろうか?

 整った顔立ちに優しい性格で、一体どれだけの人気があるのか把握していないのだろうか?

 

(……ユーノ君の事だし、把握してないかも)

 

 仕事人間だし。

 

「すずか?」

「う、ううん、大丈夫。何でも無いよ?」

「でも顔赤いよ?」

「気のせいじゃない?」

 

 そうかな? と更に覗き込んで来るユーノ。

 このままだと発情期でも無いのに彼に襲い掛かりそうなので、すずかは無理矢理距離を取った。

 更に疑問を挟ませないように続ける。

 

「お、踊ろうよユーノ君! こんな綺麗な月夜なんだし、何だかもったいないよ!」

 

 何故ダンスの誘いなのかは自分でもよく分からなかった。多分テンパっていて正常な思考が出来なかったのだろう。

 だが心優しい彼はその誘いに乗ってくれた。

 

「僕で良ければ、麗しき月光の姫君?」

 

 

 

 

 

 

 クルクルと回り足並みが揃う。腰に回っている彼の腕が温かい。

 チークダンスの様に優雅な足取りは、1人のギャラリーもいないコテージのバルコニーというダンスホールで織り成されていた。

 

「ねぇ、ユーノ君?」

「何かな、すずか?」

 

 クルリクルリ、回る。

 軽やかなステップが刻まれる。

 

「月が綺麗だね」

「それ、さっきも言ったよ」

 

 あはは、そっか、とすずかが笑う。

 つられてユーノもクスリと笑う。

 

 きっと彼は知らないだろう。

 英語の「I love you」の最初期の訳の一つが「月が綺麗ですね」という事を。

 だからこそあの返答なのだろうし、ここで彼がそう返すという事も予想できたからこそ、彼女も言ったのだが。

 それでも、何だか悔しい。

 

「ん~……、てい!」

 

 カプッ!

 

「イダァ!?」

 

 だから首筋に噛みついて、吸血してやる事にした。

 鈍感への罰だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぷはぁ、ご馳走様でした」

「お、お粗末様でした……」

 

 ダンスの最中に血を吸われたユーノは、かなりゲッソリとしていた。

 一方ですずかはたっぷりと自分好みの血を貰い、ツヤツヤした肌で笑っていた。

 

「アタタ……」

 

 ズキズキと痛む首筋をユーノが押さえる。夜の一族の吸血は相手に痛みを感じさせず、寧ろそれを快感に変える事すら可能なのだが、すずかは今回意図的にそうしなかったようだ。

 

「ちょっとやり過ぎた?」

「いや、僕が多分悪いんだろうし、大丈夫だよ」

「…………………………………………」

 

 うわちゃー、またやっちゃったか。すずかは頭を抱えた。

 ユーノはいらない苦労を自分から大量に背負い込む。いつか主人公が闇堕ちする小説を読んだ事があるが、彼とそっくりだった。

 主人公は心優しい少年だった。しかし周囲からの悪意に翻弄され、天才の姉というプレッシャーもあり、次第にその心は少しずつ歪んでいった。そして最後の悪意に当てられた時、彼は完全にヒロインの敵となって世界に敵対したのだ。

 他人からの悪意やからかいで尋常なダメージを受け、最悪の場合、2度と彼と触れ合う事叶わない状況になる。あの物語の主人公は最後には恋人であるヒロインを庇って命を落とし、世界中から忌み嫌われるという悲惨な最期を迎えた。彼もそうならない様に、彼を思う皆で少しずつ負担を削っていたのだが……。

 

(発案者の私がこれじゃ、世話無いよね……)

 

 そう思った彼女は、もう1度ユーノに牙を立てた。

 

「てい」

「あぅ!? え、あ……!?」

 

 ジュルジュルと血を吸う。ただし、今度は痛みは無くして。快楽感情を吸血行為に与えて。

 

「あ…………」

 

 トロン、と赤く変色したすずかの目も、エメラルドグリーンに輝くユーノの目も蕩ける。吸血の快楽は双方に影響を齎すのだ。

 リットル単位では無いとは言え、今日は2度目の吸血。死なないよう加減した、適度な量でそれを済ますと、すずかはユーノに至近距離から向かい合った。

 

「ユーノ君、勘違いしちゃダメだよ?」

「?」

「君は色々と悩んでいると思うけど、もしも少しでも行き詰ったのなら、私達を頼って。私、なのはちゃん、アリサちゃん、フェイトちゃん、はやてちゃん、クロノさん、スバルちゃんにティアナちゃん、エリオ君にキャロちゃん。司書の人達にナンバーズの子達。その他大勢、君の味方はいる。

 あの時引っ叩いた私の言える事じゃ無いかもだけど、もっと私達を頼って良いんだよ。私達は友達で、仲間でしょ……?」

「すずか……」

「夜の一族の力が暴走したあの時、ユーノ君は全てを救ってくれた。私も、お姉ちゃんも、アリサちゃんも、何もかも。君がいなかったら私は多分、今頃この能力に翻弄されて自殺していたと思う」

「…………………………………………………」

「だから君に、私は沢山の恩がある。ユーノ君は私の、私達の命の恩人だからね。恩返しさせてよ。頼ってよ。私達は友達で、仲間でしょ?」

 

 すずかはそこでユーノから離れた。

 月光を浴びながら、漆黒の吸血姫は振り返る。

 

「頼ってくれないと、不安で血を全部吸っちゃうよ?」

 

 いつの間にか赤から黒に戻っていた彼女の瞳が、ユーノを射止めた。

 彼もまた常識人。他人に迷惑をかけているとなれば、(改善されるかは別としてだが)反省しなくてはと思う。

 だからユーノも笑う。

 

「善処するよ」

 

 叶えられない願いと知りつつも。

 月夜に笑う麗しき姫君の機嫌を、損ねないように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユーノの帰宅後、自宅の近くの林の中で、すずかは倒れ伏した男達の中で立っていた。

 10人あまりの男達の服装はバラバラで統一性が無い。スーツを着ている者もいれば、バリアジャケットを纏った者もいる。どこかの民族衣装のような服装の者もいれば、管理局の武装隊員の正装を羽織っている者だっている。

 ただ1つだけ言えるのは、全員が敵意や殺意を抱いて攻撃して来たという事。無論、返り討ちにしたが。

 

「ふふふ、空気を読んでダンス中に出て来なかったのは褒めてあげる。だから命は取らないよ」

 

 微笑むその姿は先刻とは打って変わって妖艶、或いは破滅的な印象を与えた。

 赤色に輝く瞳と爪に鋭く伸びた犬歯、煽情的なナイトドレス。紺色のマントに黒色の魔力光。

 彼女の戦闘形態とバリアジャケットだ。

 

「貴方達が何のためにここに来て私達を監視していたのかは知らないし、何が目的でユーノ君の顔写真を持っていたのかも聞かない」

 

 でも、と言葉をそこで遮った。

 

「ただで帰すわけにはいかないなぁ」

 

 そのまま足元にいた男を掴み上げると、首筋に噛み付いて牙を立てた。

 ジュルジュルと致死量ギリギリまで血を吸い出しては飲み込む。

 

 夜の一族の中でも純血種にとっては、吸血はただの栄養補給や食事ではない。

 これは特に色濃くその血を受け継いだすずかだからこそ出来る芸当。姉の忍にはできない、嘗てアリサを救う事ができたのもこの能力の一種のお陰だ。

 

(“ドレイン・メッセージ”)

 

 血を吸われると吸血鬼やその眷属になる。そんな言い伝えの元になった能力が、これだ。すずかは血を吸った相手を自分の意のままに操ったり、その脳内の情報を読み取ったりする事ができる。もちろん新たに命を授けるが如く、劇的な回復力と共に下僕にする事も可能である。

 今も血を片端から吸い出す事によって彼らが何者なのかを読み取っている。

 

(…………………………………………!?)

 

 ところがおかしな点に気付いた。

 

(記憶が、無い!?)

 

 読み取れないのだ。以前ユーノに“エクリプスドライバー”という種類の人間にのみ自分の能力は効かないだろうという診断を受けていたが、彼らはそうでは無い。『読み取れない』では無く、『読み取れるデータが無い』のだ。

 

(何故!? 記憶消去の魔法を受けても消される前の記憶は読めるのに!)

 

 コンピュータに例えるのならば、エクリプス感染者は強固なファイアウォールに身を守っている。対し記憶消去魔法は飽くまで表面上のデータを隠しただけ。しかし、今回はどこを探してもデータが『無い』状態。

 データがフォーマットされたなんてものじゃ無い。隠しているわけでも守っているわけでも無い。まるで人形の様に何も無いのだ。

 

(全員、同じか……)

 

 誰からも情報を奪えない事が分かり、すずかは男を地面に放り出す。ギリリ、と歯を軋ませて、懐から携帯電話を取り出した。

 

(こいつら、一体何者……?)

 

 取り敢えず匿名で人が倒れている事を通報し、写真を回収したすずかはその場を後にする。

 ユーノや自分の周りで何かが起きている。何か嫌な予感がした。

 

「ユーノ君、気をつけてね……」

 

 さっきは優しく感じていたはずの月光が、今は冷たく思えた。

 

 

To be continued




如何でしたか?
最後の方で、この物語の根っこにある部分を少しだけ出しました。
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