とある日の無限書庫録(凍結) 作:ノウレッジ@元にじファン勢遊戯王書き民
今回はおかんな属性のついているはやてです。
付け合わせのヴォルケンズもどうぞ。
―――ユーノの自宅・キッチン・PM 19:00
「というワケで、今日のゲストはユーノ・スクライア無限書庫司書長さんでした!」
「はやて、何言ってるの?」
『パチパチパチパチパチ~』
「そして君達も乗るんだね……」
まずは状況説明。キッチンに立つのは無限書庫司書長ユーノ・スクライア。その隣には海上捜査官司令長官に来年任命される八神はやて。海鳴市出身の身であり、闇の書、旧名夜天の書の最後の持ち主だ。
その対面、座席にいるのははやての私設部隊ヴォルケンリッター、新旧デバイス管制人格リインフォース・アインスとツヴァイ。通称はアイとリイン。そして一番新しい家族のアギト。
テーブルの上には、多少不格好ながらも、出来立ての美味しそうな料理が沢山並んでいた。
さて、何故このような事になったのかと言えば、話は今から数時間前に遡る。
―――数時間前・ユーノ宅
以前は寮に住んでいたユーノであったが、一度追い出しを食らった後、悪友のクロノからこう提言されていた。
『仮にも一部門のリーダーなんだから、もう少しまともな場所に住め』
そうでないと色々な人に示しがつかないだろう、と。
成程、言われてみればごもっとも。今まで特に気にした事も無かったが、確かに体裁は取り繕う必要がある。自分がアマく見られてしまえば、部下、ひいては無限書庫も見下される事となる。
そこでユーノは都市から離れた静かな郊外に一軒家を構えたのだった。貯えには殆ど手をつけてなかったので、何時の間にやら膨大な量の金が預金通帳に貯まっていたのだが、建てたのは小さな家。彼曰く「僕と、誰かが遊びや泊りに来た時に不便にならないスペースがあれば十分」との事。
さて、そんなこんなで彼専用の一軒家が建ち、その祝いとして色んな人が祝杯を上げたり泊まりに来たり。そんなこんなで数週間が過ぎた頃だった。はやてが再びユーノの自宅へと訪れたのだ。
で、そんな折に彼女達が見たのは……。
「な、何やこれ……!?」
「これは、流石に……」
「野宿の方がマシなんじゃねぇか?」
驚愕の表情に染まるはやて、眉根を寄せるシグナム、失礼なようで的を射ているアギト。
「いや、いくら何でもありえねーだろ、これは」
「ある意味ユーノ君らしいけどね……」
半眼で呆れ返るヴィータに溜息を吐くシャマル。
「……わふん」
「ザフィーラ……」
「現実逃避したい気持ちは分かるが、止めろ」
人型なのに思わず犬の鳴き声を出すザフィーラに嘆くリインと突っ込むアイ。
「えー、そこまで言う程?」
それ程までに自分の家は酷いのか、と首を傾げるユーノ。
「ユーノ君、これはあかん、誰がどう見てもあかんよ……」
「え? どの辺が?」
はやてはそのユーノの呑気なセリフを聞いて、思わず彼の頭をハリセンで引っ叩いた。
パシーン!
「あ痛っ!?」
「自覚無いんかい! こんな家があってたまるかっちゅーねん!」
ビシッ! と効果音がつきそうな感じではやてが部屋を指差す。
「こ ん な 何 も 無 い 家 が あ る か ぁ!」
そう、無い。何も無いのだ、ユーノの家には。必要最低限の家具のみで、それ以外は皆無。風呂やキッチンといった備え付けの物を除くと、ベッド、ソファ、冷蔵庫、後はデスクとノートパソコンぐらいか。ボロアパートでも人が住んでいるのならば、もう少し設備の種類は整っているだろう。
「ゴミ屋敷よりかはマシでしょ?(ユーノ)」
「そら建ったばっかやからな!(はやて)」
「テレビも無いな(シグナム)」
「見ないですから(ユーノ)」
「おい、食器も無ぇぞ?(アギト)」
「そもそも使わないからね(ユーノ)」
「エアコンも無ぇな。夏とかどうすんだよ(ヴィータ)」
「無限書庫は常に一定の温度に保たれているから、そこで避暑って事になるかな(ユーノ)」
「冬の暖房も同じようにするつもりかしら?(シャマル)」
「はい。寝る時はフェレットになれば暖かいですし(ユーノ)」
「……冷蔵庫の中身が空だな。コンセントも差していない(ザフィーラ)」
「料理しないですから(ユーノ)」
「ファータ、ここで生活するつもりは本当にあるのですか?(リイン)」
「あるよ?(ユーノ)」
「とてもでは有りませんが、人が生活できる住宅には見えません(アイ)」
「ははは、必要最低限の家具や道具があれば生活なんてどこでもできるよ(ユーノ)」
八神ファミリー、揃って頭を抱える。
何なんだ、この頭の悪いやり取りは。いや、ユーノの反応が原因なんだろうけど。
(八神家、全員! 家長からの命令や!)
見てられん、と言わんばかりにはやてが念話で号令をかける。
(このままやとあかん! 絶対にユーノ君は社会不適合者コース、この家は物置コースへ直行になってまう!)
(ああ、そりゃヤベェな。でもどうすんだよ、はやて?)
(ふっふっふ、今こそオカン属性を持っているあたしの出番や!)
念話なのに、何故か親指を立ててペコちゃんスマイルなはやてがイメージできた。現実ではまだ頭を片手で抱えているままなのに。
(名付けて、「第一回ユーノ君の家大改装by八神家スペシャル」や!)
取り敢えずどの辺がスペシャルか聞きたい一同だった。
で。
「さて、衣食住の内の“衣”と“住”はある。つまり今必要なんは“食”や。家具はその後でも構わへん。せやけど食べる事は生きる事、とっても大切な事や。これは分かるな?」
「そりゃ、ね」
「……抜き打ちテスト。昨日は何食で何を食べた?」
「えー……」
「答えないんやったら、特別捜査官の尋問を経験してもらうで?」
「2回です……。全部カ○リーメイト……」
「赤点や!」
具体的には10点! とはやては追い打ちをかける。ボーダーラインはどこかは突っ込まない。
「兎に角! ユーノ君はこのままやったら社会不適合者への路線まっしぐらや! 具体的には将来的に孤独死する! 友人達全員に綺麗サッパリ忘れ去られて!」
「そ、そんなに!? 仕事もこなしてるし家だって持ってるのに!?」
「ユノユ……、ユーノ、それならば私にだってできる。給料をはたけば中古の家のローンくらいは組めるぞ」
「そうだぞ。要するに生活がちゃんとできるかどうかってのをはやては重要視してるんだから、今は仕事云々は関係ねぇっつーの」
「料理ができんでも、お店でお惣菜買ったり冷凍食品を解凍したり、最悪カップ麺やお弁当みたいなインスタントな方法まである。それすらせんっちゅうんは、流石に見過ごせんで?」
「そう、なの?」
「そうや。料理できないどころか、する暇が無いなんてのは深刻な問題やで? 書庫の仕事が死ぬ程忙しいんは体験した事あるから分かるけど、それでも人としての尊厳を保つぐらいは保障されてもええハズなんや」
はやて達の脳裏に浮かぶのは、リインことリインフォースⅡを作るために無限書庫で資料を探した時の事。なのはが撃墜されたのと同じ年だったので、既に12年は昔の事になるだろう(なのでこの時はリインは勿論、アイとアギトはいなかった)。
はやてが口を酸っぱくしてユーノに食の大切さを説いている傍らで、ヴォルケンズは当時の事を思い出し、密かに念話で話し合っていた。
(あの時になってやっとスクライアの腕を認識したと言っても過言では無いな)
(ああ。正直言ってあの時まで線の細い女みてーな奴、程度の認識だったぜ)
(ザフィーラのように盾が抜きん出て固いワケでもなければ、シャマルのように回復に秀でているワケでも無い。戦闘の中ではその才能を見る事はできなかったが……)
(当然よね、戦いの才能じゃないんだから。守護騎士として長く生きて来たけど、あそこまで無力さを感じた事は殆ど無かったんじゃないと思うわ)
無限書庫に初めて入った時は、その広大さに圧倒されたものだ。ユーノが範囲を絞ってくれていなかったら、恐らく自分達だけで資料達(複数形)を探し出す事は不可能だったに違いない。
(しかもアタシら、殆ど見つけられなかったしな)
(うむ)
丸々一日検索・速読の徹夜作業でヴォルケンズは完全にノックダウン。偶然シャマルが引っ掛ける事に成功したのが1冊、シグナムが粘って発見したのが1冊。4人が24時間かけてたった2冊だ。無限書庫が図書館の形をした化物というのも頷ける話である。
(私達の見つけた2冊も、あんまり役に立たなかったみたいだし……)
(アイの事と言い、末の妹の事と言い、ユノユノには感謝してもし足りないな)
結局必要な資料は全てユーノが見つけた(勿論それを鼻にかけるユーノでは無い。ヴォルケンズに心から感謝の意を示した)。開発の際も技術部の人と共同で作業し、ただでさえその時から忙しかったというのに、貴重な自由時間を割いてくれたのだ。
夜天の魔道書が闇の書と呼ばれるようになった事だって、彼が見つけたという。アイの防衛プログラムの制御方法だって時間があれば見つけていただろうし、現にそれを応用して7年前にリインフォース・アインスを復活させている(尤も彼によれば厳密には同一人物では無いらしいが、かなり専門的な話なのでアイ自身を含め誰も気に留めてない)。
(ところでよー、ロード・シグナム?)
(どうした、アギト?)
(何時からあの眼鏡の事をあだ名で呼ぶようになったんだ? アタシが八神家の一員になった4年前はまだ苗字だったよな、呼び方)
(ギックゥ!?)
(いや、擬音をわざわざ表現しても無駄だからな?)
(そう言えばそうだな……、何時からだったか?)
(烈火の将、答えてもらいたいのだが)
(シグナム、一体いつからファータをあだ名で呼ぶなんてキャラになったのです?)
シグナムが必死になって隠していた(あまり隠せてなかったが)事がとうとう露見。冷や汗を大量に流しながら、さあどう言い訳したものかと必死に思案していた剣の騎士だが、そこに救いの声が。
「ちゅー事や。皆、出かけるでー」
「は、えーと、どちらまで?」
「何や、聞いとらんかったんか? 近所のスーパーまでや。今夜と明日の分のご飯の食材、調達に行くんよ」
―――10分後 近場のスーパー
「これと、これと、これと……、これも安いな」
「はやてちゃーん、持って来たですー」
「ありがとなー」
食生活の改善を目指し、早速料理を実演しようという流れになったはやて&ユーノ。勿論食材の代金はユーノ持ち。
バラバラに分かれて各自買う物をカゴへと入れていく。リインもまた少女の形態で品物を探しにトコトコと行ってしまった。
さて後必要なんは、とメモを見るはやてに、ユーノが話しかける。
「ごめんね、はやて」
「? 何がや?」
首を捻るはやて。特に謝罪をしてもらうような事は思い当たら無い。
「折角休日を利用して遊びに来てくれたのに、わざわざ潰すような真似しちゃって」
「何や、そんな事気にしとったん?」
彼らしいなぁ、と内心苦笑しながらはやては肩を竦めた。
「あんなぁユーノ君。あたしは、ううん、あたし達はユーノ君にめっちゃ感謝してんねんで? リインの事、アイの事、書庫の資料の事、色々や。このくらいじゃ恩返しにもならへんよ」
「でも……」
「それに、こういう時は謝罪するんや無くて感謝するんや」
きょとんとするユーノに対し、はやてが言葉を続ける。
「何かしてもらっとるのにそれに謝ったらあかんよ? 恩を受けたら感謝して、後でちゃんと返す。それが人間関係っちゅーもんや」
「はやて……。そうだね、ありがとう」
最初は理解できなかったが、ユーノはやがて朗らかな笑みを浮かべた。
その魅惑のマスクに、思わずはやては赤面する。
「それに、な……。あ、あたしとしてはこういうんは寧ろウェルカムっちゅーか、その、えーと……」
「?」
打って変わって狼狽する彼女の様子にユーノは首を傾げる。
その時だった。
「テメェ、今何つった! もっぺん言ってみやがれぇ!」
八神家の赤髪ゲートボール・ガール、ヴィータが大声で叫んだのだ。
「な、何や!? 何であの子は叫んでるんや!?」
「行ってみよう、はやて!」
声の主はすぐに見つかった。
そこには八重歯を剥き出しにしてガルルルル、と猛犬のように怒りの感情を露わにするヴィータの姿があった。近くには共に行動していた、人型となったザフィーラ。こちらもかなり露骨に憤怒の感情を浮かべている。
更に先に合流したのか、残りの八神ファミリーも一緒にいる。全員が全員、かなり激しく怒っているようだ。
その7人と相対する数名の男達は、ある者は嘲りの表情を、ある者は困惑の表情を、またある者は同じく怒りの表情を浮かべていた。どうやらかなり一触即発に近い状況のようだ。
「いい度胸だコラァ! アイゼンの頑固なシミにしてやろうかぁ、アァン!?」
「我が友を侮辱するとは、覚悟はできているだろうな……っ!」
「レヴァンティンの錆にしてやろうか……」
「『旅の鏡』でリンカーコアを直接抜き取るって手もあるわよ?」
「永久凍土の肥料にしてあげるのです!」
「貴様ら……」
「燃やす! 骨まで灰にしてやる!」
順にヴィータ、ザフィーラ、シグナム、シャマル、リイン、アイ、アギト。
敵味方問わず、全員、魔力がかなり膨れ上がっている。
「ちょっと、皆! 何があったんや!」
「こんな所で魔法合戦なんてしちゃダメだよ!」
このままでは警察沙汰(この世界では局員沙汰)になってしまう。慌てて二人が間に入って止めた。
「ですが主はやて!」
「ですがファータ!」
「落ち着いて! 何があったか話して! そうじゃなきゃ何も解らないよ!」
「せや! 事情があるにしても、まずは経緯を聞かしてな!」
二人の説得に応じ、怒りの表情を浮かべていた一同は、渋々と事情を聴き始めた。
それは数分前、ヴィータとザフィーラが買物リストに載っていた物を探していて、丁度アギト&シグナム組と合流した時だった。
「シグナム、見つかったか?」
「いや。空になった棚がいくつかある、売り切れてしまったのかも知れん」
そりゃ参ったな、とヴィータが頭を搔く。お気に入りの呪いうさぎは、本日は髪留めである。
「あん?」
とその時、アギトは話し声を聞いた。隣の通路からだ。
「どうした?」
「シッ!」
『でよぉ、無限図書の連中なんかにやられてやんのアイツ!』
『アッハハハハハ! 情けねぇ! 文官なんかに負けるなんざ、ヤキが回っちまったんじゃねぇの!』
ああ、と一同は不快な感情になった。
未だ無限書庫の事を認めていない輩は多い。この手の話が無くなるのは一体何時になる事やら。
話題はどうやら無限書庫の特務司書に武官である知人が敗北した事の様子。話の内容からして、特務司書の実力を相当侮っている。
八神家に入って最も日の浅い(それでも4年になるが)アギトだって彼の人の良さと強さ、そして書庫の戦力は知っている。恐らくシグナムとユニゾンした状態で全力を出さなければ、最強の特務司書に勝つ事はできないだろう。
裏からこっそり手を回し、本来もっと重い罪だったルーテシアやナンバーズの皆を保護観察処分程度に済まし、前の主ゼスト・グランガイツに着せられていた汚名を晴らしたのも彼だと言う。もし真実ならば自分もまた彼に感謝しなければならない、と考えている。
『ってかよぉ、アルピーノだっけか? あいつも調子乗ってるよなぁ』
『聞いた聞いた。何でもトバされたクセにそこに宿作ったってよ。噂じゃあその内、管理局員に抜擢される可能性があるらしいぜ?』
(ルールーの事か)
『ああ、聞いたぜオレも。レアスキル持ちで人質にされた母ちゃんのために洗脳されてたってよ。どーせ嘘ッパチだろ、そんなん』
『十やそこいらで快楽殺人者ってか? ひゃーコエー』
ビギィッ!
それを聞いた瞬間、アギトの眉間に醜いヒビが入った。
「あいつら……」
「落ち着けアギト、言わせておけ。悔しいのは分かるが、この場で争っても主に迷惑なだけだ」
歯を軋ませるアギトを、冷静にシグナムが諭す。
怒りの感情を抑えようとアギトが四苦八苦していた所に……。
『チョーシこいてるっつたら、無限書庫のリーダーもそうだぜ? なんつったっけ』
『さぁな、顔は覚えてるが名前なんざ憶えてねぇよ。聞いたぜ? エース・オブ・エースとかと幼馴染なんだって?』
『らしい。そんで頼りにされてるってさ。おまけに高給取り』
『うわー、羨ましいぜ。ただ本漁ってるだけで体張ってるオレらよりもカネ貰えんのかよ。楽で好いねぇ、無限書庫』
カチンカチン!
この言葉が情報系能力に秀でているシャマルと、彼を慕い、秘書を勤めるアイの怒りに火を着けた。
この無能共は無限書庫がどれ程激務な場所なのか理解していないらしい。ユーノの苦労を、書庫で資料を調べる苦労を知っている身としては、この暴言を放置するのは我慢ならない。
「(プルプルプルプルプルプル……)」
「あいつら……っ!」
それでも、まだ自力で抑え込めるだけの理性は残っていたようだ。
しかし、こちらのそんな事情を知らない彼らは、更に油を注ぎ込む。
『特にリーダーの司書長とかいうのがいけ好かねぇなぁ。ナンバーズみてぇな犯罪者を庇うし、提督権限貰うし、人事統括官とかと親しいらしいし、エース・オブ・エース達が惚れてるし』
『うわー、何だその胸糞悪くなる勝ち組の善人。しかもあれだろ? ミッドアースの社長と取締役の2人もそいつ追っかけて来たんだろ、管理外世界から。よくやるよなぁ、あんな女顔のヤツのために』
ギリギリギギリ……。
今度はザフィーラとヴィータが歯軋りを始めた。
ヴィータにとってすずかははやての最初の親友だし、ザフィーラはアリサがたまにくれるドッグフードの試作品(とは名ばかりの彼へのお土産。勿論ザフィーラも気付いている)を気に入っている。あの二人はこの二人にとって懇意にしてもらっている大切な友人なのだ。
加えて、何よりこいつらはユーノが色んな人々に慕われている事まで貶した。それはつまり、彼を快く思う者まで貶したのと同義だ。
「去るぞ。ここにいても不愉快なだけだ」
「です」
まだ理性を保っていたシグナムとリインが怒りの爆発を抑える為に、その場を立ち去る事を促すが……。
運命の女神とやらは、それを許可しなかった。
「あれ、シグナムのアネさんじゃねぇっすか」
「ぬ」
通路を挟んでいた両者が相見えたのだ。
「何でこんなトコに? 八神家の皆さんも一緒じゃないですか。はやてさんは一緒じゃないんですか?」
「ああ、ユーノの為にな、食材を買いに来た。主も一緒だ。今は別行動だが」
「へぇ、あの管理局の穀潰しのために?」
「(穀潰し……っ!)」
「大変ですねぇ。もしかして騙されてたりしません?」
「ああ、有り得そうだな」
「大人しそうに見えて実は悪人? ギャハハハ、どこの映画だよ!」
「自分の仕事の座ァ奪ったヤツを始末したっていう黒い噂もあるしなぁ」
ビキビキビキキィ!
口汚く友人が罵られる様を見て、まだ冷静だったシグナムとリインもそろそろ我慢の限界だった。
これまでは通路越しだったからまだ我慢できた。だが、こいつらは自分達の眼前でもそれを続けている。そろそろ耐え切れなくなって来た。
そして止めの一言が発せられた。
「あんな淫獣モグラ、早ェとこ縁切った方が良いですぜ。皆さんに悪人は似合わねェ」
シグナムの魔力が爆発したのと同時に、口論が始まった。
「というワケです」
「成程なぁ」
うんうんとはやては頷いているが、付き合いの長い者なら彼女が怒っているのが分かるだろう。目元がピクピクと引き攣り、憤怒の形相を必死に抑え込んでいるのだ。
「…………………………………………」
一方のユーノは無言でコンソールを操作している。その瞳は冷たく、感情が込められていない。ある意味、普通に怒るよりも黒い感情を蓄えこんでいるのかも知れない。
「はやて、こいつら訓練場に連れ出してシメて良いよな!?」
「私も我慢がなりません、主はやて! 寧ろ今すぐここでやりたいくらいです!」
元々気がそこまで長いワケでは無いヴィータと、気が長いものの親密な者を貶される事を嫌うシグナムは既に顔を真っ赤にして憤慨している。はやての静止が効かなくなるのも時間の問題だったろうし、はやて自身、もう静止をかけるつもりは無かった。
だから主は騎士に彼らへの攻撃を許可しようとし―――
「ええよ、二人と「待った。それは僕が許可しない」ユーノ君!?」
何とそれを貶された本人が止めた。
「な、何でや! 何で止めるん!? こんな奴ら叩きのめしたって―――」
「叩きのめしたって誰も困らない? それは傲慢って物だよ、八神はやて特務捜査官」
「―――っ」
確かにユーノの言う通りだ。ここで暴れれば店には確実に迷惑がかかるし、場所を移動した所で、自分達のそして彼らの所属している部署にも被害が出る。最悪部署同士での争いになりかねない。そうなれば、最早自分達だけの責任で事を済ませる事はできないのは確実だ。
「せやけど!」
「それとも、はやては僕にこう言ってほしいのかい? 『上官の命令の逆らうのか』って」
「っ!?」
ユーノが浮かべた感情は、これまで見た事がある中でも特に暗く、怒りを秘めたものだった。
実際ユーノが持っている権限は提督、大将と同等以上の物だ。八神一家の中で一番位の高いはやてでも佐官。極端な話、ユーノは彼女達の上官になる。
「くっ……」
官位を盾に取られては、軍属であるはやて達には成す術が無い。歯噛みしてでも引き下がるしか無いのだ。本当に悔しいが、ここは行動を起こしてはならない場面だった。
しかし理解できない。こうまで貶されているのに、何故彼はここで自分達を抑えるのか。
そんな複雑な感情を読み取ったのか、ユーノは気迫を消して笑いかけた。
「大丈夫、もう手は打ってあるから」
『『?』』
その場にいた全員が首を傾げた。瞬間、通信が入った。ただし、口汚く貶していた連中に。
『ちょっと、アナタ達、何してくれたのかしら?』
「げっ、部隊長!?」
「何で!?」
通信画面に出たのは壮年の女性。かつては歴戦の女傑、現在は連中の部隊を取り纏める女性高官。シルヴィア・ノート准将だ。
亜麻色の髪を神経質そうに弄りながら、シルヴィアは話す、その口の端はピクピクと痙攣している。どうやら腹に据えかねている様子。
『さっき無限書庫の方から連絡があったわ。何て連絡があったと思う?』
「え、えーと……」
『そちらの部署の方々は無限書庫での勤務を苦としないようなので、今後資料が必要な場合はご自分でご都合下さい、よ。そこにはハッキリとアナタ達の名前があったわ。まさかアナタ達、無限書庫での勤務がどういう物なのか知らないの!? アンタら全員回しても満足な資料一つ作れやしないわよ! それすら分からないなんて何年管理局に勤めているワケ!?』
「ヒィッ!」
『罰としてこれから必要な資料があるから、それに関しての資料作成をアナタ達だけでやる事! 終わるまで別の任務は与えないからそのつもりでね!』
ブツッ、と通信は一方的に切れた。
「ユーノ、おめー、何したんだ?」
ややあ、とヴィータが頬を引きつらせて聞いた。
「ん、別に? ただシルヴィア一佐にそういった旨の連絡を入れただけだよ。司書長の容認のサイン入りで」
「鬼だ、鬼がいる!」
司書長、つまりリーダーのサイン入りという事はつまり、それは無限書庫の意向であり、最終決定でもある。おまけに自分よりも高位の者からの通達。即ち、覆す事は不可能という事だ。
「言ったでしょ、手は打ったって」
冷やかな表情でユーノは笑う。
そう言えば笑みの表情というのは、元々牙を向く攻撃の意思を示す物だったなぁ、なんて事を、はやては思い出したのだった。
「何や、頼りっぱなしやなぁ、あたしら……」
夕食後、キッチンで皿洗いをしながらはやてが呟いた。
ふと、記憶を洗いなおす。彼と出会った9歳の時から今まで。記憶のどこを掘り返しても、沢山彼にはお世話になった。でも、彼にそれ相応の恩を返せただろうか?
自分、否、自分達は彼から貰いっぱなしなのではなかろうか?
闇の書から救われた。
末の妹の誕生を手伝ってもらった。
六課立ち上げにも裏で頑張ってくれた。
ゆりかごの見取り図を見つけてくれた。
失ったはずの大切な家族を取り戻してくれた。
じゃあ、自分は彼に何をしてあげただろうか?
何度思い返しても、何も無い。精々、こうやって小さくお世話を焼くぐらいだ。
彼ならきっと、恩返しなんていらないと言うだろう。でも、それでは駄目だ。そんな関係は依存でしかない。否、最早それは従属だ。成立してはならない物だ。
「うん、決めた」
なら、今からでも返して行くべきだ。
例えこの恋の戦いに敗れようとも、八神はやてという人間そのものに懸けて。
その時、彼女はふと思った。
(そう言えばあたし、何時からユーノ君の事、ちゃんと意識し始めたんやっけ?)
カリカリ、と頭を掻く。最初にボンヤリと恋心を自覚したのはリイン誕生の時辺りだったが、その時はまだ自覚していなかった。
じゃあ何時か、と聞かれると、いつの間にか、としか答えようが無い。
ただ、その時そうならなかった時の事を考えると末恐ろしかった。
(独身の男、少ないからなぁ……)
捜査官の中で独身の男というのは意外と少ない。既婚者が殆どであり、独身であっても中年・壮年だったり、自分の好みに合わなさそうなヤツだったりと、極端だ。
もっとも、同じような事は執務官や教導官の親友にも言えるのだが。
後は身近にいる男性と言えばゲンヤ、ロッサ、ヴァイス、グリフィス……。どれも身持ちが固かったり、狙っている人が多かったり、好みじゃなかったり。
レズでもオッサン趣味でも無い、普通の性癖なのが、困った事に逆に足を引っ張ってしまっている様だ。
(いや、真面目にユーノ君と知り合って助かったわ)
下手したら好きでも無い男の所へ嫁ぐ所だった!
レズでもないから余計に!
(……あかん! 好きでも無い男に嫁ぐくらいならレズの方がマシとか考えたらあかん!)
ぶんぶんと頭を振る。
そんな事をしたらあの親友の金髪執務官の二の舞だ。
以前そんな事を言ったばっかりに百合疑惑というデタラメを週刊誌に透破抜かれて、現在もその印象を打ち消せずに苦労しているとの事らしい。
そんな状況になれば、ただでさえライバルが多いこの状況、打開するのは相当厳しい。
家主兼女の目から見ると、ヴィータやシャマル、シグナムにアイも彼を思っている節があるように感じる。一手でも下手を打てば敗北は確実だ。
「はやて、手伝おうか?」
と、タイミング良くユーノがやって来た。
「ううん、ええんよ。ユーノ君は座っててな? ここははやてちゃんの家事スキルを披露するステージや。メインキャストの座は譲らへん」
「あはは、心配しなくても僕がメインになるなんて事はどんなステージでも有り得ないよ」
「無限書庫は?」
「あれは暫定。その内僕以上の人が現れるさ」
「……本気でそう思っとるからタチ悪いんよなぁ(ボソリ)」
「?」
この男の美貌、そこらの女性どころか、自分達にも劣らないから始末が悪い。自覚してないので猶更。そして技術方面は言わずもがな。
良し、今後の目標は決まった。
「ユーノ君!」
「何、はやて?」
「負けへんからな!」
ビシィッ! と指差すはやて。
何についてか分からず、ユーノは首を傾げた。
(ふっふっふ、ユーノ君。そうやって余裕かましてられるのも今の内だけやで)
必ずそのハートを掴んでみせる!
はやては心の中で気合いを入れた。
何か違うような気がしたが、気に留めない事にした。
To be continued
連投はこれにて終了です。
次回はスバルを計画しているのですが、いつうpできる事やら……。
気長にお待ち下さいませ(土下座)。