ありふれた凡人の少年は異世界で無敵となる 作:究極の闇に焼かれた男
第10話:奈落での目覚め
水の流れる音と、冷たい微風が頬を撫でる感覚に晋司は目を覚ました。 晋司は自身が置かれている状況を確かめようと上体を起こそうとするも、途端に凄まじい激痛が全身に走るのを感じて思わず苦悶の表情を浮かべる。
「ぐっ!? 此処は・・・・・・・・・確か、俺は・・・・・・」
痛みを堪えながら上体を起こした晋司が周囲を見回すと辺り一帯は薄暗くも緑光石の発する光により何とか視認する事が可能となっており、そして自分が今幅5メートル程の川に下半身を浸かりなが上半身を突き出た川辺の岩に引っ掛かる形で乗り上げている事が分かると、何故こうなったのかを自身の記憶を辿り始めた。
「そうだ! 確かベヒモスに襲われたのを、俺とハジメの2人で食い止めて、そして・・・・・・っ、ハジメ!?」
ここに来るまでの経緯を思い出した晋司は慌てた様子で周囲を見回しながら、自身と共に奈落の底へ落ちた幼馴染の姿を急いで探し始める。
周囲を必死に見回し続けていると、向こう岸に自分と同じ様に下半身を川に浸かりながら岩に引っ掛かる形で乗り上げているハジメの姿があった。
「ハジメ!?」
晋司は痛む体に鞭を打つようにして立ち上がると額から流れ落ちる血を尻目に、ハジメのいる対岸側まで足を引き摺りながら駆けて行く。
「ハジメ、しっかりしろ!」
ハジメに駆け寄った晋司は直ぐさま岸に引き上げると、上体を抱き抱えながら必死にハジメの名を呼び掛ける。
「えほっ・・・えほっ・・・・・・晋司?」
「ハジメ! 良かった、気が付いたんだな」
咳き込みながらも目を覚ましたハジメに晋司は思わず安堵の息を漏らした。
「わたし・・・確か、晋司を助けようとして・・・・・・っ、晋司、その傷っ!?」
徐々に何が起きたのかを思い出したハジメは、晋司の額から流れ落ちる赤い血を見て目を見開きながら声をあげた。
「ああ、これか? 恐らく落ちた時に付いたんだろう。 まぁ、ただの擦り傷の様だし特に問題ない。 それよりも今は此処が何処で、この状況を脱するにはどうすれば良いかを考えた方が良い。 ハジメ、目が覚めて早々に悪いが動けるか?」
「うん。 少し体が痛むけど、歩くくらいなら問題ないかな」
「そうか、それなら良かった。 とりあえず移動しながら今後の事を決めていこう」
「わかった」
そう言って2人は立ち上がると、緑光石の僅かな灯りを頼りに薄暗い洞窟内を歩き出すのだった。
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「それにしても、ここは本当に何処何だろう?」
薄暗い洞窟内を歩いていると不意にハジメが呟いた。
「あの橋上から落下した事を考えるに、恐らくは奈落の底と言うべき場所なのは間違いなさそうだな。 念の為に警戒するに越したことはなさそうだ・・・・・・っ、ハジメ、隠れろ」
「え? わっ!?」
ハジメの呟きに答える晋司だったが、ふと視界の端で何かが動いたのが見えハジメの手を取りながら咄嗟に近くの岩陰に身を潜める。
「・・・やはり魔物か」
ハジメを抱き寄せながら岩陰に身を潜める晋司は、そっと顔だけを出しながら様子を伺っていると、視線の先の進路上に一匹のウサギに似た姿をした魔物がいた。
ウサギの魔物は中型犬くらいの大きさで、後ろ足がやたらと大きく発達していた。 何より赤黒い線が血管の如く何本も体を走っており、まるで心臓のように脈打っていた。
「ハジメ、直進するのは危険度が高い。 だから、俺が合図を出したら右に行くぞ」
「う、うん、わかった」
「よし・・・・・・今だ」
息を潜めてタイミングを見計らい、そしてウサギの魔物が後ろを向き地面に鼻を付けて匂いを嗅ぎ出した瞬間、晋司たちは飛び出そうとした。
その瞬間、ウサギの魔物がビクッと反応して背筋を伸ばしながら立ち上がると、警戒するようにして耳を忙しなく動かし始める。
((っ、バレた!?))
直ぐさま岩陰に張り付くように身を潜める2人は思わず冷や汗が流れるのを感じる。 あの魔物に見つかればタダでは済まないと本能的に理解する2人は岩陰に張り付きながら再び顔を出しながら様子を伺う。
「グルゥア!!」
岩陰から顔を出す2人の視線の先ではウサギの魔物と、獣の唸り声を上げながら白い毛並みの狼のような姿をした魔物が視界に入った。
大型トラックくらいの大きさを誇る狼の魔物は二本の尻尾を生やしており、ウサギの魔物と同じく赤黒い線が体に走って脈打っていた。
狼の魔物──〈二尾狼〉はウサギの魔物目掛けて飛び掛かると、別の岩陰から更に2体の二尾狼が飛び出す。
狼の魔物達はウサギの魔物を捕食しようと、牙を剥きながら襲い掛かる。
「キュウ!」
しかし、ウサギの魔物は可愛らしい鳴き声を洩らした直後、その場で飛び上がると空中で一回転すると、大きさ発達した足で襲い掛かってきた二尾狼に回し蹴りを炸裂させた。
回し蹴りが1匹の二尾狼に炸裂すると、空気が振動する音が響いた。 その音は蹴りが出せるとは到底思わせない音を発生させると二尾狼の頭部にクリーンヒットし、そして二尾狼の首はあらぬ方向へと捻じ曲がっていた。
ウサギの魔物は回し蹴りの遠心力を利用しながら更に空中で回転すると、逆さまの状態で空中を踏みしめ地上に落下する隕石の如く落ちると、着地する寸前に縦に回転しながら着地地点にいた別の二尾狼の強烈な踵落としを炸裂させる。
2匹目の二尾狼は断末魔の叫びを上げる暇すらなく頭部を粉砕される。
そして最後の1匹も瞬く間に蹴り殺されるのだった。
(おいおい、マジかよ・・・!?)
(何なのあれ!?)
視線の先に繰り広げられたウサギの魔物による殺戮ショーに2人は思わず表情を引き攣らせる。
それもその筈、ウサギの魔物の力は上層で戦ったロックマウントが赤子レベルだと言える程に圧倒的で、仮に天之河達が居たとしても勝てる保証が無いと感じさせるものだった。
(どうする? このままと言う訳には行かないだろうが、流石に俺達2人でアレを相手にするのはデメリットが高過ぎる。 どうやってアレと戦わずに先へ進むべきか・・・・・・)
進路上を徘徊するウサギの魔物──〈蹴りウサギ〉に晋司は顔を顰めつつも、先に進む方法を必死に模索し続ける。
すると、進路上を徘徊していた蹴りウサギが突如として帯び始めた。
(何だ? 急に怯えだしただと?)
「っ、晋司、あそこ・・・」
「ハジメ? どうし・・・・・・っ!?」
ハジメがある一点を指差すと、それに釣られて晋司が視線を向けた先に"ソレ"は姿を現していた。
2メートルはあると思われる巨躯と白い毛皮と、例に漏れず赤黒い線が幾本も走っている熊に似た魔物がいた。 足元まで伸びた太く長い腕に、30センチはある鋭い爪を三本も生やした熊の魔物の姿に晋司とハジメの鼓動は自然と早鐘を打ち始めていた。
こいつはヤバい───熊の魔物に対して、2人は蹴りウサギ以上に危険だと本能的に理解させられた。
熊の魔物──〈爪熊〉は、蹴りウサギに接近すると睥睨してくる。
辺りを静寂が包み込み、爪熊に睥睨された蹴りウサギは怯えながら爪熊を凝視したまま凍り付いているた。
「・・・・・・グルルル」
「ッ!?」
この状況に飽きたかのように爪熊は低く唸り出すと、蹴りウサギは夢から覚めるかのようにビクッと震えると、踵を返しながら脱兎の如く逃走を始めた。 二尾狼を殲滅するのに使用していた踏み込みは、今や爪熊から逃れる為の手段として用いられていた。
しかし、その試みは失敗だと言わんばかりに爪熊が動いた。
その巨体に見合わない素早さで蹴りウサギに迫った爪熊は、その長い腕を使い鋭い爪を振るう。 蹴りウサギは俊敏さを活かした動きで体を捻りながら躱す。
だが、驚く事に地面へと着地した蹴りウサギの体はズルりと斜めにズレると、そのまま噴水のように赤い鮮血を噴き出しながら絶命した。
(なっ!?)
(嘘っ!?)
晋司たちは何が起きたのか理解出来ずに困惑していると、そんな2人が張り付く様に身を潜めている岩陰に爪熊がギロリと視線を向けてきた。
「っ!? ハジメ、逃げるぞ!!」
「う、うん!」
爪熊に見つかったと気付いた2人は岩陰から飛び出すと、一目散に逃げ出した。
逃げ出した2人を、爪熊は捕食者特有の獲物を狙う目を向けながら、その長腕と鋭い爪を振るった。
爪熊が長腕と鋭い爪を振るうと、風が唸る音と共にハジメに向かって"何か"が飛ばされる。
「っ、危ない!!」
「え? きゃっ!?」
晋司が叫びながらハジメを突き飛ばすと、突然の事にハジメは短い悲鳴を上げながら近くの石壁にぶつかった。
「うっ……晋司……っ!?」
石壁にぶつかった痛みに呻きつつもハジメが晋司の方に視線を向けると視界に信じ難い光景が映った。
「う、があぁあああああああああーーーーーッ!!」
そこには肩口から先を綺麗さっぱりに右腕を無くした晋司が赤い血を流しながら苦痛の叫びを上げている姿があった。
「晋司・・・っ!?」
ハジメは自分の目に映る晋司の姿を信じられずにいた。 先程まで健在だった右腕を無くし、苦痛の叫びを上げながら地面に膝を着く姿にハジメは震えていた。
「そんな、まさか・・・っ・・・わ、わたしを庇って・・・・・・!?」
「ぐぅうううう・・・・・・この野郎ッ!!」
右腕を完全に無くした晋司は苦痛に顔を歪ませながら爪熊に視線を向けると、爪熊は切断された晋司の右腕を咀嚼しながら愉悦に浸っている様な表情を浮かべていた。
「ッ!! これでも喰らいやがれッ!!」
その表情に晋司は怒りを顕にすると剣を左手で逆手に持つと素早く爪熊へと肉薄し、そして渾身の力を込めて振るった。
振るわれた剣は爪熊の首元に直撃し、そのまま首を跳ね飛ばすと同時に砕け散る。
「はぁ・・・はぁ・・・・・・片腕の・・・借り、は・・・返し、たぞ・・・」
「っ、晋司ーーーーーーーーっ!!」
息を絶え絶えにしながらそう呟いた晋司は、やがて限界を迎えたのか地面へと崩れ落ちる様にして倒れ込む。 その姿にハジメは慟哭の悲鳴を上げるかの様に叫ぶのだった。
to be continued‥
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