ありふれた凡人の少年は異世界で無敵となる 作:究極の闇に焼かれた男
咄嗟にハジメを抱きしめながら晋司が目を閉じてから暫く経つと、ざわざわと騒ぐ無数の気配を感じ取りゆっくりと目を開き周囲を見回すと、まず最初に映ったのは悪趣味極まりないと感じさせる巨大な壁画だった。
縦横10メートル近く有ると思われる巨大な壁画には、後光を背負い金髪を靡かせながらうっすらと微笑む中性的な顔付きをした人物が描かれており、背景には草原や湖といった自然が描かれ、それらを包み込むようにして、その人物が腕を広げていた。
(っ!? 何だ、この異様な寒気は!?)
壁画に描かれている人物の姿を捉えた晋司は言いようの無い寒気を感じ、思わず身構えそうになると腕の中で「んっ」と言う少女の悲鳴が聴こえ視線を向けると、若干息苦しそうな表情をするハジメがいた。
「っ!? わ、悪い」
「大丈夫だよ、晋司。 それよりも此処って何処なの?」
ハジメの言葉に釣られて周囲を見回すと、自分達が巨大な広間に居るらしい事が分かった晋司はハジメに顔を寄せながら耳打ちする。
「・・・ハジメ、気を付けろ。 何か嫌な予感がする」
「晋司がそう言うって事は間違いないね。 分かったよ」
そう言いながら2人は警戒しながら、自分達が立たされている台座の"周囲を取り囲む者達"へと視線を向ける。
白地に金の刺繍がなされた法衣に似た格好をした集団は傍らに錫杖のような物を置いていて、両手を胸の前で組みながら祈りを捧げる様な格好をして晋司とハジメを含むクラスメイト達を取り囲んでいた。
そんな集団の中から一際豪奢で煌びやかな法衣を纏い、軽く見積っても高さ30センチ近くある細かい意匠の凝らされた烏帽子の様なものを被る、70代近くと思われる老人が進み出て来た。
老人は手に持った錫杖を鳴らしながら、見た目通りの深みのある落ち着いた声音で晋司達に話し掛けた。
「ようこそ、"トータス"へ。"勇者様"、そしてご同胞の皆様。 歓迎致しますぞ。 私は、聖教会にて教皇の位置に就いております"イシュタル・ランゴバルト"と申す者。 以後、宜しくお願い致しますぞ」
「イシュタル・ランゴバルト」と名乗った老人がそう告げると、晋司は自分達が立たされている状況が非常に危険な状態で有ると、半ば無意識に感じ取っていたのだった。
あれから暫く経ち、晋司達は大広間へと通されると、そこでイシュタルの口から、どういう状況に立たされているのかを聞くこととなった。
要約すると、この「トータス」と呼ばれる世界には人間族・亜人族・魔人族の、計三つの種族が存在しており、その内の人間族と魔人族が何百年もの間も戦争をしていた。 魔人族は数では人間族に及ばないものの個人の強さが人間族より強大で、人間族は数で対抗していたお陰で戦力は拮抗し大規模な戦争は数十年起きていなかったのだが、その戦況を大きく揺るがす事態が発生した。
それは魔人族による「魔物」の使役である。
魔物とは通常の野生動物が魔力を取り入れ変質した異形の事で、それぞれ強力な「魔法」が使える凶悪な害獣とのことである。 そんな魔物を魔人族が使役した事により人間族の数というアドバンテージが崩れ、もはや人間族の滅びはまじかに迫っていると言っても差し支えない状態にあるらしい。
そんな危機に際した人間族を救うべく、トータスの神である「エヒト」により晋司達は召喚されたと言うのだ。 それはつまり、学生である晋司達に"戦争へ参加しろ"と遠回しに言っているようなものだった。
当然の事ながら教師である畑山先生が怒りを顕にしながら元の世界に帰すよう捲し立てるが、イシュタル曰く「現象では元の世界に帰す事は不可能」だと言う。
その言葉により傍観の姿勢だった多くの生徒達が悲鳴や怒声を上げ始め、パニック状態と化した。
殆どの生徒達がパニックに陥っている中、それを治めるようにして天之河がテーブルを叩く。 その音にパニック状態に陥っていた生徒達が口を閉ざし天之河の方に視線を向けると、全員の注目が集まった事を確認した天之河が口を開いた。
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。 彼にだってどうしようもないんだ。 ・・・・・・俺は、俺は戦おうと思う。 この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。 それを知って、放っておくなんて俺には出来ない。 それに、人間を救う為に召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。 ・・・・・・イシュタルさん、どうですか?」
「そうですな。 エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」
「俺達には大きな力が有るんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」
「ええ、そうです。 ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょう」
「うん、なら大丈夫。 俺は戦う。 人々を救い、皆が家に帰れるように、俺が世界も皆も救ってみせる!!」
握り拳を作りながら天之河がそう宣言すると、それに続く様にして天之河の言葉に賛同するように多くの生徒達が戦争に参加する事を選んだ・・・・・・否、選んでしまった。
天之河を筆頭に戦争に参加する生徒達の姿に、晋司は喧騒に紛れる様にそっと呟いたていた。
「・・・・・・あーぁ、これは間違いなく死人が出るな」
呆れとも失望とも取れる顔をしながら、晋司は底冷えする様な表情を浮かべるのだった。
to be continued‥
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