ティエラの地より 〜転生少年、深淵に挑む〜 作:エアロダイナミクス
「グラナド?」
「こんな所にあったのか……見つからない筈だ。ここは……私の…故郷だ」
オレの問いに、ドニさんは絞り出すように答えた。どうやらここでドニさんは生まれ育った街らしい。
「行くぞ」
「えっ?」
「ようやく見つけたのだ。私はずっとここを探していた」
「いや、今の状況でそれは……」
「いるのだ……私の
ダメだ。全く話が通じない状態になっている。恐らくここはドニさんにとって特別な場所なのだろう。故郷であれば当然の事だが、それ以上の強い意志を感じる。恐らくその宿敵とやらに関係しているのだろう。復讐…だろうか。分からないが、そうで有ればオレに止める術が無い。
だが、オレのような足手まといを連れて、その宿敵とやらに相対して大丈夫なのだろうか。もう彼の目にはオレはあまり映ってないらしい。どんどん街の中へ向かって進んでいく。……仕方ない。いざという時は決死の覚悟で止めなければならないか。
壁の内部に入ると前方の小高い丘に荘厳な宮殿が姿を現した。これはどこかで見たことがあるな……。たしか世界遺産特集、だったか。テレビでちらっと見たのを覚えている。名前までは出てこないが、確かそうだ。もしかして、ここは地球と関係のある場所か? それとも偶然そうなったのか? ……分からない。無事に生きて帰ったらその考察もしてみよう。
そして、その宮殿を中心として広く石造りの街が広がっている。この街は相当栄えていたのだろう。しかし、滅びて今はこの現状だ。謎植物や菌類に浸食され、グロテスクな景観になっているし、何より濃厚な瘴気が漂う。そして、極めつけがあちらこちらに強大な魔物の気配が息づいている。こんな所を行くのか……大丈夫か? 彼はどんどん先に進んでいく。目に付く魔物は避け、ただ中心に向かってひたすらに進む。まいったな。本当にオレは足手まといだ。どうあがいても戦闘の役には立たないし、付いていくのがやっとだ。しかし、ドニさんもそれは分かっているはずだ。どういう事だろうか。だが、オレは彼なしでは何も出来ない。大人しく従うしか無い。
そうして、2レグア(約11キロ)ぐらい進んだだろうか。その宮殿が目の前に姿を現した。ここまでにドニさんは戦闘を余儀なくされた場面もあったが、鬼神のような強さでそれらを退けていた。貴重なドニさんの全力戦闘だ。氷を纏った剣での攻撃の他、氷結した虎のような生物を操り攻撃させたり、氷結したフィールドを作り出し、その中では敵の動きがスローモーションになったりとやりたい放題だ。
いや、敵も強いのだ。サイズがまず違う。大体30メートル級がデフォルトだし、単純なパワーは石造りの街を簡単に破壊する。オレはこんなのは一撃食らったら終わりだ。だが、それをものともせずになぎ倒していく。さっきも、襲ってきた上半身のみの仮面をかぶった巨人を氷結させてバラバラにしたところだ。
ただ、消耗はどうなんだろう。どうもここで霊力を使い切りそうな勢いだ。本当に彼は帰る気があるのか……?
そして、この宮殿は明らかに瘴気の量が濃い。美しい宮殿で、他の街の建物と違って珍しくその形を保っているにもかかわらず、まるで魔王のいる城のような雰囲気が漂う。
「チッ……ここだけ
「えっ……今も相当だけど? ていうか、ここ深層でしょ? その上って……」
「
「いや、ドニさん、行くの!? オレは明らかに足手まといだよ!?」
「……お前ならここで待っているぐらいなら出来るだろう。お前にはコレを渡しておく」
そう言って、ドニさんはオレに綺麗な七色に光る石を渡してくれた。
「コレは帰還石。わずかな霊力をそれに送りさえすればお前をマドリーまで連れて行ってくれるだろう」
「は!? なんで……いや、それよりも、ドニさんは持ってるの!?」
「いや。それは貴重品だ。一つしかない。だから一時間だ。もし一時間経って私が戻ってこなければそれを使え。また、お前が命の危機に陥ったときも同様だ。オレの収納袋も持っておけ。何かの役に立つだろう」
「待って! 待ってってば!! ドニさん、死ぬ気!? ダメだよ!!! まだあの街にはドニさんが必要なんだから!!! ここでこの石を使って帰ろうよ!!」
「……すまんな。私にはどうしてもやらなければならんことがあるのだ。それが出来なければ私は死んだも同然なのだ。分かってくれ」
ドニさんは真剣な、それでいて懇願するような眼でオレに頼んできた。彼にとってはそれ程のことなのだ。だからこそ、オレも無理に引き留めることはできなかった。
「……分かった。でも、ここで約束して! 必ず戻ってくるって!!」
「……良いだろう。約束だ。私は必ず生きて戻ってくる。ではな」
そうして、ドニさんはその宮殿の内部へと姿を消した。クソッ! オレにもっと〝力〟があれば!! だが、ドニさんは必ず戻ると約束した。オレはそれを信じて待とう。……万が一戻ってこない時は、オレもここに入って迎えに行ってやる。オレは密かにその決意を固めた。
◇
【SIDE:ドミニク】
「変わらないな……この宮殿も。そして、悪趣味だ。やはり、いるな。マルコスよ」
ドニは、宮殿内部を探索していた。昔仕えていた頃と内部構造は変わらない。しかし、その内装は全く違う様相を呈していた。長い豪華な廊下は赤い血で染められた絨毯が敷かれ、豪華絢爛な装飾は血で染まっている。豪華な出窓一つ一つに人骨が磔にされており、豪華な庭園には様々な拷問器具が至る所に設置されていた。そして、それらは全て血に染まって赤黒く変色しており、側には人骨が山積みになっていた。
ドニは変わり果てたその宮殿内部を見て、自身の怒りをどうにかコントロールしながら進む。
奴も自分が突入したことに気付いたのだろう。魔物は一切その姿を現さず、影に潜んで自分の行く先を見守っている。
そうか。そんなに私と決着をつけたいか。そういう所も昔と変わらないな、とドニは憎しみと共に昔を懐かしむ。そうすると、一段と広い庭園が姿を現した。そして、そこに誰かが座っている。昔と一つも変わらないその庭園と、その人物の姿を前に、決意を固めていたドニも思わずその歩みを止めた。
「ドミニク……久しぶりですね」
「姫!! ご無事で!!!」
ドニは、懐かしの姫を目の前に冷静さを失った。自分が取りこぼしてしまったはずの後悔が、今現実となって現れたからだ。ドニはそばに駆け寄る。そして、その手を取ろうとした寸前で、どうにか思いとどまった。当然だ。こんな所で
「どうしたの? また、昔のように手を取ってくださらないのかしら?」
姫がそのように懇願する。ドニは漸く冷静さを取り戻していた。そして、何とか言葉を紡ぐ。
「姫……私は決着を付けに参りました。長らくお待たせして申し訳ありません。どうか安らかにお眠りください」
「……拾ってやった恩も忘れ、そのような無礼千万な言葉を吐く。卑怯者め。
「姫。私は貴方のことを一瞬たりとも忘れたことはございませんでした。貴方の誇り高い様を糧に今まで生き恥を晒してきました。どうか、どうか安らかに」
ドニは剣を構える。その様子を見て、美しい姫はその表情を一変させる。目がつり上がり、複眼へと変わり、口元は頬まで避ける。その中から口吻のような物が現れる。パキパキと骨格が変化し、着ていたドレスが千切れ、背中からは蟲のような羽と複数の昆虫のような脚が飛び出す。もう美しい姫の姿は見る影も無い。まるで、巨大な蠅のような姿へと変化してしまった。その姿を見て、ドニは心を痛める。
「どいつもこいつも……
「おいたわしや……マルティナ様。今、私が引導を渡します」
そうして、激突が始まった。
◇
【SIDE:ナギ】
宮殿内部から凄まじい衝突音が響く。恐らくドニさんが敵と闘っているのだろう。もうあの時点でドニさんはかなり消耗していた。そして、敵は強大だろう。宮殿の入り口の壁に身を隠しながらオレはどうしたものかと思案を続ける。だが、オレが行った所で彼の邪魔をするばかりだろう。どうしようも無い。ひたすら彼を信じて待つしか無い。もう45分は経過している。あと15分だ。待とう。そして……いざというときは……。
そう、考えていたオレの背後に、黒い影が発生していたことに気付かなかった。
そしてオレはそこから伸びた手に脚を掴まれ、その黒い影の中に引きずり込まれてしまった。