ティエラの地より 〜転生少年、深淵に挑む〜 作:エアロダイナミクス
何かと物議を醸す復讐の話。
作者的にはやっちゃった方がスッキリするからいいよね派。その善悪は置いておくものとしても。
──それから数えて5年の月日が経った。ドミニクは最初は復讐に燃え、暗黒領域を手当たり次第に進み、魔物を蹴散らしながら故郷のグラナダを探していた。しかし、暗黒領域は中層までならともかく、深層以降になるとその場所や地図などがほぼ頼りにならなくなる。瘴気のせいで空間や時間が歪むからだ。ボロボロに傷つきながら、彼は一心不乱に探索を行った。時には深層に入り、深層級を相手に大立ち回りしたり、暗黒領域に入って3日も帰ってこなかったりと、無茶に無茶を重ねていた。
見かねた組合長やダイバー仲間が彼を必死で思いとどまらせるぐらいには彼は無茶をしていた。しかし、彼を唯一この世につなぎ止めていたのは、姫の言葉だった。生きて、生き延びて必ずやグラナドを再興する。それだけが彼の生きる理由だった。そして、そうした無茶を繰り返し、仲間に説得されながら漸く彼は落ち着いた。忘れたわけではない。ただ、冷静になったのだ。
彼は力を蓄えることにした。今のままでは勝てない。辿り着く事すらできない。だからできる限り力を溜めて、万全の状態で奴を殺す、と。それから、ひたすら彼は鍛錬にいそしんだ。元から才能はあった。孤児からエリート中のエリートである筆頭騎士に上り詰めるぐらいには。そして、ダイバーの技も磨いた。深層級でも問題なく勝てるように、と。全てはあの男をこの世から消し去るために。当時のドニは中層級で何とか撃破できるぐらいであり、深層級相手になると分が悪くなる。彼がやけになっていた時は運が良かったとしか言えない。相手をした深層級は単体で行動する個体であり、中層に近かった故に周りから他の深層級が集まってこなかったからだ。それでも、撃破には至らず、かろうじて逃げ出せたような状態だった。
しかし、それからの鍛錬とダイブの経験によって、彼の力量は更に劇的に向上した。深層級単体なら彼でも余力を残して葬れるぐらいにはなったのだ。そんな彼でも、深層の探索は厳しい物があった。なぜなら、そこに行くまでに霊力を相当消耗するし、帰りの道の事もあったからだ。よって彼は中層の探索がメインとなった。彼が復讐のため、復興のために探索をし、帰ってくれば、莫大なリターンを伴ってくる。彼にとってはついでの事だったが、組合にとってはそうでは無い。そして、彼ほど潜れる者は、街の他にはほぼいなかった。よって、彼はいつの間にか最高位の白金級ダイバーとして認定されることとなったのだ。そんな称号は彼にとってはどうでも良かったが。
中々進まない調査と、中々向上しない自らの力量に、ドミニクは表面には出さないが苛ついていた。皮肉なことに、彼のそんな態度は街の住民達にとってはクールに見えていたようだ。元から顔形は整った男だ。元筆頭騎士だっただけに、上流階級の所作や、最低限の相手への気遣いも持っている。そして、何よりも強い。
そんな彼に惹かれて、街の娘達は熱を上げ、彼への結婚の申し出やお付き合いの申し出などは数えるのも面倒なぐらいあった。しかし、彼の心には姫しか存在していなかった為に、断り続けた。それもまた、彼にとっては負担のある事だった。自分だけ助かってしまった事への後悔と、そんな自分がそのような扱いを受けることへの困惑で。
しかし、ある日のダイブでその状況が一変させる。彼が探索しているときに【
辿り着いた深奥層。そこで彼は、ナギを見つけた。
深淵級すら徘徊する深奥層の深い場所、そこで彼は、機械仕立ての様な深奥級と互角に渡り合う彼を見た。最初は深奥級同士の潰し合いかと思った。しかし、よく見ると、片方は瘴気を発していない。だが、何らかの力を発し、強大な怪物と渡りあっている。霊力とも若干違う。何なのだ、これは。そしてそれは霊力よりも強烈に魔物に響いている様に見える。
また、その動きも極限まで最適化されたモノだった。正に魔物を殺す為に生まれたかの様な……そんな印象を受けた。僅か6歳前後に見える子供が、だ。彼は逃げるのも忘れてその闘いに魅入っていた。互角に、と言ったが、よく見たら違う。その子供が一方的に攻撃を加えている。そしてついに……彼は撃破した。深奥級を。
それと同時に彼もその場に倒れた。ドミニクは悩んだ。彼をどうするか。だが、彼は子供の闘いに希望も見た。彼ならば、この現状を何とかしてくれるのではないか、と。そうして彼はナギを拾った。ついでに深奥級の死体も目ぼしい物は剥ぎ取った。そこから出てきたのが例の羅針盤である。それらを得る事でドミニクの時間は漸く動きだした。
そこからは、ナギも知る通りだ。
──そして今、長い回廊をひたすら歩く。静かなものだ。膨大な瘴気の気配があるにもかかわらず、魔物は相変わらず息を潜めて手を出してこない。しかし、それでいい。その方が自分にとっては好都合だ。奴は恐らく自分を嬲りものにするつもりだろう。そんな思考が透けて見える。そうだ。それでいい。それこそが何通りにもトレースした想定通りだ。あの時、自分の心は凍てついてしまった。それは元々水属性だったにも関わらず、氷属性に転じてしまったことがそれを証明している。
姫との邂逅によってほんの少しだけ持ち直したが、それでも奴への復讐心が上回る。彼女をあんな目に遭わせ、騎士団や街の住民を自分勝手な欲望で皆殺しにしたマルコスへの復讐心が。
そう。彼の魂は、凍てついた心と、復讐のための煮えたぎるマグマのごとき炎が同居していた。そして、そのあまりの熱量は霊力へと変換され、彼の力を増大させた。
それでも、敵は強大だ。あまりにも。それこそ、放置していたらそこら中の人類圏が奴の遊びによって崩壊するだろう。だからこそ、今なのだ。ここで見つける事ができて本当に良かった。おそらく奴は2年前の大規模襲撃にも関わっているのだろう。一時たりとも奴をこの世に存在させておくわけにはいかない。奴を滅ぼすこと。それこそが遠からずグラナドの復興にも繋がるのだ。
そして、
回廊を越え、長い階段が姿を現す。こんな場所は無かったはずだ。王様気取りか。本当に趣味の悪い奴だ。ドミニクはその階段をゆっくりと昇っていく。すると、そこには広い豪華な部屋が現れた。深層級が何体でも入れるような広大な部屋だ。深奥層は、空間が捻れてしまったり、不可思議な構造の変化をする事が多々ある。あまりの瘴気の濃さに、人類の常識を超えた事象が起きる為だ。
その部屋には深層級がひしめいていた。そして、一様に整列し、中央の玉座に頭を垂れている。その玉座に、偉そうに王冠とマントを着け、肩肘を付いて座っている人物がいた。
「マルコス……!」
「久しぶりだなぁ……ドミニクぅ」
「貴様は……貴様だけは許さんぞ。この場でこの世から消し去ってくれる」
「おやおやぁ? 久しぶりの再会だというのに、とんだご挨拶だなぁ……どうだった? お前の愛しの姫は」
「……」
「今度はだんまりか。アレにも無礼千万と言われていただろう? アレは僕のお古で、あんなになっちまったがかつてはいい女だったんだぜ? 僕がさんざん嬲っても結局声一つあげやしなかったからな。最後には飽きて魔物どもにも嬲らせたが、つまらんもんだったな」
「貴様……!!」
「おっと、怒ったか。だが、お前は肝心な愛する女すら守れぬ屑だったって事だ。アレは最後までお前の名を呼んでいたんだがなぁ……所詮下賎の者などそんなものよ。だが、殺さずに魔物に変えたのは我ながら名案だったな。おかげでお前の楽しいショーを堪能できた……さて、僕の最後の楽しみであるお前は、一体僕にどんな楽しみを提供してくれるんだぁ?」
ドミニクは湧き上がるマグマのような憤怒を堪え、敵を煽る。ここで怒りにまかせて突撃するほど彼の怒りは浅くない。
「……下賎とは、お前のことを言うのだ。マルコス=ベルナルド。品性とは、生まれや階級では無い。その在り方こそがその者の品性を形作る。それから考えると、お前はゴミ以下だ。やっていることが下劣極まりない。魔物の方がまだマシだぞ」
「おい…おいおいおいおいおい…!!! 黙って聞いてやれば調子に乗りやがって……! この上流階級の僕に対して頭が高いぞ!!」
マルコスの激高に反応し、周囲に控えていた深層級が次々に手を出し、ドニは剣を振り抵抗するも数には勝てず、地面に押さえつけられてしまう。それでも彼は口激をやめない。やはり煽り耐性は低い。昔からそうだ。
「何が上流階級だ。魔物になってしまったお前は、その時点で上流もクソもないだろうに。人間から見れば唾棄すべき存在だよ。そんなお前が上流を自称するとはとんだお笑い草だな。魔物になって頭まで悪くなったか。瘴気の漂う先の無い、誰もいない世界でふんぞり返って楽しいか? 楽しいんだろうな。お前の品性では。だが、傍から見たら、誰からも認められず、誰からも嫌われ、唯一従うのは魔物だけ。そんな哀れな裸の王、それがお前だ」
煽りに煽る。すると相手は面白いように反応する。演技で煽ってはいるが笑ってしまいそうだ。こんなくだらない奴に姫は、故郷は永遠に失われてしまったのかとなんとも言えない感情がわき上がる。そうしているうちに奴はどんどん嵌まっていく。
「言わせておけば……! このゴミめ…お前さえ、お前さえいなければ僕はこうはならずに済んだんだぞ!!」
「ほら、ボロが出たな。裸の王よ。今だけは王と認めてやろう。嬉しいか? 喜べよ、マルコス。お前が憎む私から全てを奪い、何もかも奪って更に最後には私も奪うか。ふふっ。それで、魔物どもを率いて人類を滅ぼし尽くして、お前は何をする? 哀れな道化師め。私を殺したらお前の存在意義が無くなって消えてしまうんじゃないか?」
そこまで煽ったところで、奴が一旦冷静になる。これは何かあるなとドミニクは直感で理解する。
「……ふぅー。お前の戯れ言に付き合うのもこれまでだ。僕はお前を徹底的に嬲る事を目的にこれまでやってきた。存分に甚振られろ。お前の悲鳴や絶望こそが僕にとっての何よりの喜びだからな。まだまだ演目はある。まずはこれだ」
マルコスは自分の影の中からあるものを取り出した。それは気絶した白髪の少年だった。
ナギだ……やはりそう来たか。
「足手纏いを連れて来て、どうするつもりだったのかな〜? ドミニクよ。こいつも哀れだなぁ。今からドミニクの目の前でこいつの解体ショーだ!」
「くっ……! ナギ……!!!」
「おやおや、ナギ君って言うのかい? そうそう、この子が後生大事に持っていたコレ、目障りだから今のうちに砕いとくよ」
そう言ってドニの目の前でワザとらしく、帰還石を砕くマルコス。
「さぁ、始めようか。おい、起きろ!」
「ううっ……ここは……!? ドニさん!?」
「そうだ、ナギ君。彼は君の師かな? 可哀想に。こんな屑のせいで君はこれから解体されるんだよ」
「えっ? マジでどういう状況!? ちょっ、ドニさん!! ああっ、帰還石が!?」
「ククッ、これは面白い奴だ。楽しみだなぁ、どんな断末魔を見せるのかな?」
マルコスは魔物に命じて、ナギの両腕を掴ませる。掴んでいるのは、深層級の仮面の上半身巨人だ。
「さ〜て、どうしようかな〜? とりあえず、両手から潰しておこうか。やれ」
「えっ、ちょっ、待て、待てってば! ぐっ、あぎゃああああぁぁ!!!」
「ナギ!!」
「おっと、逃すなよ〜? じゃ、次は足逝っちゃおうか! アレ持って来い」
上半身巨人が巨大な車輪を持ってくる。それで足を轢き潰す様だ。
「ナギ! このままでは死ぬぞ!! 眼を覚ませ!!! お前なら出来る筈だ!!!」
「こんなルーキーに声をかけるとはお前も優しいなぁ、ドミニク。せめて苦しむ様にしてあげるよ」
醜悪な笑みを浮かべながらマルコスが言う。もう彼の中ではナギを通じてドミニクを甚振る事しか頭に無い。クソッ。こうなればナギのあの姿に賭けるしかない! ナギに必死に呼びかける。
「ナギ!! 眼を!! 覚ませ!!! あの時の様に!!!!」
◇
【SIDE:ナギ】
何を言ってるんだ、この人は…俺は無様に捕まってこのザマだ。帰還石ももう無い。手はバッキバキに折れてるだろう。余りの痛みに声も出せない。これから拷問を受ける様な状況。あの車輪を足に落とすのか、ヤベェな。
痛そうだなぁ……あー
──クソ化け物どもめ、いい加減にしろよ。ニヤニヤ笑いながらこっち見てるクソ野郎、絶対にぶち殺してやる。いや、アイツはムカツクから嬲り殺しにしてやる。まずは俺を抑えてるカスだ。図体だけでかいスッカスカの木偶め。よくも俺の手をこんなにしてくれやがったな。痛ぇだろうが! 弱い分際で。もう決めた。コイツ等全部滅ぼす。振り上げてるな。あの車輪で足を潰すか。やれるもんならやってみろ。そして驚いた顔を見せてから、絶望の中で滅びるがいい。