ティエラの地より 〜転生少年、深淵に挑む〜   作:エアロダイナミクス

13 / 77
13、豹変

 

 

 

 

【SIDE:ドミニク】

 

 

 

 

 大きな車輪が足に向かって振り下ろされる。あんなのを受ければ人間の足などひとたまりも無い。やはり、ダメだったか……ナギ、すまない。かくなる上は、最後の手段を……そう思っていたドミニクだったが、車輪が振り下ろされ、凄まじい衝撃が伝わった時、彼は一瞬目をそらした。

 

 

 彼はその瞬間に何が起きたかを見ていなかった。しかし──

 

 

「ん? ……なんだ? お前、どういう事だ?」

 

 

 そのマルコスの困惑する声に反応し、慌ててナギの方を見ると……車輪は確かに振り下ろされていた。だが、彼の足は()()()()()()()()

 そして、次の瞬間、彼の手を押さえていた魔物が彼の手を慌てて離す。その手は火傷をしたかのように煙が上がっていた。

 

 彼は立ち上がる。別にそれ以外の変化があったわけでは無い。だが、彼は明らかに変化していた。魔人ではない、何か別のものに。その証拠に、白髪だった髪の毛が黒髪に変化している。そして、高速で手の怪我が修復し始める。数瞬であれほどバキバキに折れていたように見えた手は完治してしまった。

 

 

「おい!! 何をやっている! 早く殺せ!!!」

 

 

 マルコスが何かを感じ取ったようだ。手下の魔物に指示を出す。それを受けて、周囲の深層級がこぞって襲いかかった。しかし……一斉に襲いかかった手や口や牙や触手は、ことごとく躱された。特別なことをしたわけでは無い。ただ、流れるように動き、その全てを躱していた。そうだ。この動きだ。速いわけではないが、その全ての攻撃を見切って行動に移す、その技法!! 昔見たときは理解は出来ても、遂に実践することは出来なかった。

 それが今、目の前で再現されている。彼は全ての攻撃を躱しきった。そうしたら次に行うのは──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【SIDE:マルコス】

 

 

 

 

 マルコスは驚いていた。まさかあのガキがドミニクの秘密兵器だったとは。なるほど、やってくれる。今までのは演技で、自分はどうやら奴にハメられたらしい。しかし、奴はどこからどう見ても人間だ。たかが人間にこの僕が敗れるはずが無い。今もただ攻撃を避けただけだ。そう長くは続くまい……何!? 深層級が、一撃で……!! 何をした!?

 

 いや、分からなくはない。核を貫いただけだ。しかし、深層級の魔物に対して素手でそう簡単に核を貫ける物か!?

 なんだアレは、霊力か? いや……違う。何かは分からないが、自分たちにとって恐ろしい物だ……!!

 

 

 ……!! そうだ!! ドミニクだ! ドミニクがいた。コイツを使えば奴も止まらざるを得まい。

 

 

「おい!! ナギとかいったな!! 止まれ!!! ドミニクを殺すぞ!!!!」

 

 

 その反応に、彼はその動きを止め、こちらとドミニクを見た。そして、状況を観察しているかのように見渡している。マルコスはすぐさま魔物に命令して彼を拘束させた。

 

 

「話は聞けるようだな。驚かせやがって。ドミニク! お前の秘密兵器もここまでだったようだな!! 所詮下賎の物の考えなんてそんなものだ!!!」

 

 

 しかし、次の瞬間には、ドミニクを取り押さえていた魔物が核を破壊されて崩れ落ちた。ナギから()()が発射されたのだ。それがドミニクを抑えていた魔物の核を正確に貫いた。ドミニクはすぐさま転がり、剣を握る。

 

 

「形勢逆転だな、マルコスよ。お前の言った言葉をそのまま返そう。所詮下賎な魔物なぞそんなものだ」

 

「くっ……! 僕を、舐めるなよ!!! まだ弾は沢山ある!! お前等!! コイツらを殺せ!!!」

 

 

 その号令の元、待機させていた魔物の群れが殺到してきた。しかし、その集まった端からナギに殺されていく。どうやら彼は、霊力とは違ったエネルギーを操り、正確に精密に敵を殺している。その適確さは熟練のそれだ。いとも簡単に蹴散らされる深層級や果ては深奥級を前に、マルコスは焦り始めた。これは、自分よりも強いのでは、と。

 

 そして、集まった魔物が半分以下に減らされた時、彼は不味い状況であると悟り始めた。本来であれば、この数で掛かれば大きな街一つは落とせるはずだ。しかし、それがほぼ1人によって壊滅させられそうになっている。ここは態勢を立て直さなければ。そうして、彼は影を作りだし、その中に逃げ込もうとした。彼の異能だ。しかし、その影に冷気が突き刺さる。

 

 

「どこに行こうというのだ? マルコス」

 

「ドミニク!! 僕は貴様のようなカスを相手している場合じゃ無いんだよ!!」

 

「ほう? 怖じ気づいたのか。お前ともあろう者が。人間を超越して悦に浸っていたとは言え、所詮人間性がゴミならば、変わらずゴミだな。結局人間にすら怖じ気づいて逃げるのだから」

 

「こ、このクソカスが!! お前なぞ、すぐにでも殺せるんだぞ!! いいだろう、そんなに見たければ見せてやる! 人間を超越した王たる僕の力をな!!!」

 

 

 マルコスの身体が波打ち、背中からはコウモリのような翼が、そして額から角が生え、棘のある細長い尻尾が臀部から生えてきた。目はつり上がり、口は裂け、額にはもう一つの瞳が浮き出てくる。身体はそのまま膨れあがり、筋骨隆々、というよりは最早筋肉の塊のような姿になった。その体表は鱗を持ち、醜く変化する。

 その姿は古より伝わる悪魔そのものであった。しかし、その瘴気は、これまでドミニクが相対してきた魔物達とは一線を画していた。

 

 

「ハアァァア……これが、僕だ。瘴気を取り込んで神になった姿だ。こうなれば、お前のようなゴミは瞬殺だぞ。この姿を見せるのは特別サービスだ」

 

「ふん。何が神だ。どう見ても悪魔だろうが。周りに人がいないと客観性を失うらしいな。ようやくこの状況になれた……覚悟しろ、マルコス!!!」

 

「馬鹿め。あそこにいる化け物ならともかく、お前ごときに何が出来る!! 格の違いを思い知らせてやる!!!」

 

 

 そして、2人は遂に相対した。にらみ合う2人。しかし、ぼやぼやしていれば化け物が部下の魔物を駆逐してこちらに来てしまう。それは不味い。マルコスはそう判断した。勿体ないが、素早くドミニクを殺して、一旦ここを去る。それが今できることだ。

 そして、先に動いたのはマルコスだった。凄まじいスピードで彼に詰め寄ると、その鋭く変化した爪で彼の心臓を貫く。これは昔、御前試合でドミニクが彼に対してやったことだ。当然彼は寸止めしたが。マルコスは以前一撃のもとに下された苦い経験から、それをそのままお返ししようと目論んだ。

 

 

 その恐ろしいスピードにドミニクは反応できない。そして、彼は心臓を貫かれた。

 

 

「ククク……あの時とは逆になったなぁ。あぁ愉快だ。お前は最高のおもちゃだったよ」

 

 

 だらんと垂れ下がる剣。しかし、ドミニクの目はまだマルコスを捉えていた。

 

 

「ゴフッ……そう来るとは思っていたぞ……やはり、お前の負けだ」

 

「なっ!」

 

 

 嫌な予感がして、その手を引き抜こうとするマルコスだったが、そこに巨大なエネルギーが発生し、自分の腕を伝っていく。

 

 

「ガアアァアァアアアアッ!!!!」

 

「霊力を際限なく溜めることが出来るアーティファクトがあってな……それを爆弾のように扱うことが出来るのだ…お前は知らなかっただろうがな……苦労したぞ……10年以上にわたって溜めたからな……これだけ喰らえば無事ではあるまい」

 

「貴様……胸に仕込んでやがったな……! ぐううううぅ……こんなところで…こんなところで!!」

 

「お前は暴虐を働き過ぎた……地獄で皆に詫び続けるがいい。私も同じ場所に逝くからな」

 

「嫌だ、嫌だ!! まだ遊び足りない! マダ殺し足りナい!!」

 

 

 マルコスはほぼ溶けてしまった右腕を振り回して喚く。その腕がドニから抜け、ドニはその場に崩れ落ちる。恐ろしい程の濃厚な霊力はマルコスの右腕からじわじわと浸食し、その勢いは止まらない。

 

 

「何故僕ガこんなメに合うんダ!! いつもソうだ!!! 僕ハ……僕ハ偉いんダぞ!!!!」

 

 

 彼にとって、ドミニクの霊力の浸食は恐ろしい物と言うほか無かった。どうあっても実力も魅力も勝てないドニにコンプレックスを抱き、嫉妬し、遂に最悪の外法に身を落とした。そして、ようやく自らのコンプレックスが解消できたと思っていた。しかし、再び現れたドミニクの策略によって自らは滅びかけている。結局彼は一度もドミニクに勝てなかった。それは彼の人間性に依るものであった。そして、今も見苦しく喚き散らす。ドミニクの言ったとおり、品性の欠片も無い姿だ。

 しかし、マルコスは最後の力を振り絞って、彼の産まれた場所へ行こうとしていた。そこに行きさえすれば、この霊力の浸食も消えるかも知れない。あの、()()()の濃厚な瘴気であれば。

 彼は霊力の進行の速さとその激痛に思考能力の大半を奪われながらも何とか深奥層の扉を開くことが出来た。もうその身体は半分以下になっている。急がなければ。急がなければ! 消滅してしまう。この至高の存在たる自分が!

 そして、ようやく自らの身体を沈めようとした時、深奥層へのポータルが粉々に砕け散った。

 

 

 

「クソカスが……どこに行くんだ? 化け物は等しく殺す。貴様も例外じゃ無いし、貴様こそはこの場で絶対に滅ぼす」

 

 

 

 そこにいたのは、鬼神のごとき強さで山のような数の魔物を全て殺し、魔物の類は絶対に滅ぼさんするナギの姿であった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。