ティエラの地より 〜転生少年、深淵に挑む〜   作:エアロダイナミクス

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14、帰還

 

 

 

 

「貴様の記憶を読めば、どうやら貴様は真のクソカスらしいな。ならば、お前はただでは死なさん。覚悟するがいい」

 

 

 絶望の表情を浮かべながら、その場から動けないマルコスに対し、ナギは無表情のまま迫る。それが余計にマルコスの恐怖を煽る。もう彼の身体は4分の1程度しか残っていない。いずれにせよ、彼は詰んでいた。

 

 

「ふん。消滅しかけか。彼も無茶をするものだ……しかし、それが人間の強さというものだ。わかったか、クソカス。そして、ここまで彼や人類に害を及ぼした貴様はそれなりの罰を受けてもらうぞ」

 

「な……何をするつもりだ……?」

 

 

 ナギはそれに答えず、謎の力を発してマルコスの霊力の浸食を止めた。そして、それが止まったおかげで彼は再び身体を再生していった。それが苦痛への入り口とも知らず。

 

 

「さーて、クソカス! お前は拷問が好きそうだったな。他人に対してあれほどのことをしたんだ。自分がやられることも勿論想定済みだよなぁ?」

 

「や、やめ……」

 

「ハハハハハ!! 化け物が命乞いするか! 愉快だ! 化け物にもなりきれんゴミめ!」

 

 

 そこから、マルコスにとっての地獄が開始された。断続的に悲鳴や命乞いの声を上げるが、彼は全くやめる気はなさそうだ。しかしそれは今までマルコスが散々やってきたことだ。自業自得だろう。

 ドミニクはそんな彼の事をぼんやりとした視界で眺めながら、消えゆく自分の生命を自覚し、最期に彼がやらねばならないことがあったと思い立った。そして、最後の力を振り絞ってそれを成した。ようやく彼は全ての事を終え、満足した。元からこのつもりだった。それを全て成し終えて晴れ晴れとした気分でいた。姫の元に逝けないのは残念だが、漸く開放される。この苦しみから。

 

 

 ──そう思っていた。

 

 どこからか、活力が分け与えられた。これは、どういうことだ…? ナギか? すると、マルコスを絶賛拷問中の彼が振り向きもせずにドニに伝えた。

 

 

「死ぬことは避けられない。しかし、延命することはできる。今分けた力でまだしばらくは保つだろう。お前には責任がある。ナギをお前の復讐に巻き込んだ責任が。だから、そこまでは責任を持て。それが誠意ってもんだろ?」

 

 

 ……なるほど、確かにそうだ。そして、もう呻き声も上げなくなったマルコスのなれ果てを襤褸ぞうきんのように投げ捨て、その核を貫いた。そして、彼は力尽きたかのようにその場に倒れた。あぁ、そうだ。私はナギを巻き込んだ。その責任は取らなければな。さあ、僅かに彼がくれた時間だ。大事にしなければ。自分の身体が少しでも動くうちに……

 

 ──そうそう、俺の存在は()()()()秘密にしとけよ。これは俺とお前の約束だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ!!」

 

 

 まただ……凄く嫌な夢を見ていた気がする…って、ここどこだ!? いや、この瘴気…そうだ、深奥層だ! 思い出した! オレは奴等に捕まって……どうなった? ドニさんは!? ……いた!! 胸の辺りがズタズタだ……これは…彼は恐らく生命と引き替えに奴等を滅ぼしたのか……いや、生きている! 微かだが、まだ息がある!! 

 

 

「ドニさん!」

 

「ナギ、か。もう目が見えん……近くに寄ってくれ……」

 

 

 急ぎ、彼の元へ近寄る。これは酷い。胸に大穴が空いている……血の量も膨大だ。もう、彼は……。しかし、彼は話し始める。オレに伝えなければならない事があるようだ。

 

 

「ナギ……私はお前に謝らねばならん事がある。お前を私の身勝手な復讐に巻き込んでしまった……済まなかったな」

 

「いや、でも俺無事だから! ドニさんが助けてくれたんでしょ!? 流石はドニさん!」

 

「それは違う……これはお前の力だ。お前のおかげで、私は救われたのだ」

 

「そんな馬鹿な。オレは寝てただけで……」

 

「今……お前の霊力は尽きているだろう? 普通はそこで侵食が起きるはずだ。瘴気のな……だが、それが無い」

 

 

 !? そ、そう言えば、確かに今俺は霊力が全く出せない。にも関わらず、まるで平気だ。精神の疲労も、瘴気の侵食も。ドニさんはかなり侵食されてるというのに……

 

 

「……それはギフトだ。お前だけの、な……。お前はもしかしたらこの世界を変えうる人間かもしれない……その力、大事にしてくれ……」

 

「オレの、ギフト……」

 

「厚かましいようだが、最期にお前にお願いをしたい……ビトに届けて欲しい物がある」

 

「いや、ドニさん、帰還石は砕かれて…」

 

「アレは見せ札だ……本命はここだ」

 

 

 ドニさんは震える手で懐から収納袋を取り出した。つまり、彼は2つ持っていたのだ。何という周到さ! 俺のはダミーだったか!

 

 

「その中に、帰還石がもう一つある……そして、手紙が入っている……手紙は、ビトに渡してくれ……後はお前に全て譲る……」

 

「ドニさん! しっかりしてくれ!! オレには貴方が必要だ!!!」

 

「いいのだ……私はお前の力を復讐に利用した卑怯な人間だ……その資格は無い……あぁ……もう、思い残す事は無い……さらばだ……ナギ……」

 

「ドニさん!!」

 

「姫……マルティナ様……今、お側に──」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ドニさんの馬鹿野郎……資格なんて、必要無いのに……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼は逝ってしまった。最期に言っていた姫の元へ。俺は彼の手記を見た。そして、彼に何があって、どのようにしてここまで来たかを知った。あまりにも壮絶な彼の人生。あまりにも報われない。せめて、彼が安らかに眠ることを祈ろう。オレは彼を葬った後、魔物共の素材を一頻り回収した。時間はいくらでもある。オレは霊力無しでもここにいる事ができるのだから。

 

 

 魔物は武器などを持つ個体も多くいた。また爪や牙、その他役に立ちそうな部分も何とか切り取った。これも持ち帰ったら街の助けになるだろう。本当はドニさんの遺体も持ち帰りたかった。しかしこの収納袋の口が狭く、入りそうに無いため泣く泣く諦めるしか無かった。形見として、彼の剣だけは回収し、詰め込んだ。彼の愛剣だけは必ずオレが持っていこう。これは、彼が生きた証だ。

 

 

 もぬけの殻となった宮殿を探索し、めぼしい物は全て回収した。余り時間をかけると街にいる奴等も来るかも知れない。まぁ、あの広場にいる大量の奴等を見れば、余り心配ないとは思うが。

 しかし、本当にオレがあの怪物どもを何とかしたんだろうか? ドニさんの手記にもあった。中層級の群れを素手で引きちぎったと。その前にも深奥級と互角以上に渡り合っていたと。今回もそうだったのだろうか。分からない。自分の事なのに、全く分からない。だが、少なくともオレは霊力無しでこの瘴気の中を活動できることが分かった。それだけでも収穫だ。

 

 

 さて、帰ろう。人間の住む世界へ。帰ったら、まずビト組合長に手紙を見せなければ。その後のことを考えると頭が痛いが、それは後で考えよう。……いずれ、またここへ来る。ドニさんの故郷をこのままにはしておけない。必ずや、この街を復活させ、正式にドニさんを葬ろう。それが、オレに出来る彼への餞だ。

 

 

 

 ドニさん、いやドミニク=シュトルバーン筆頭騎士。またここに来ます。それまで、少しだけ待っててください。オレは、もっと強くなって必ず貴方の願いを果たします。約束です。……さようなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【SIDE:???】

 

 

 

 誰もいなくなった宮殿の広場に、どこからともなく現れた暗黒の水滴が落ちる。水滴から暗黒の水たまりができ、そこにさざ波が広がる。その中から紳士然とした男性が現れた。男性とは言え、その姿と瘴気の量から間違いなく人間では無い。

 

 

「ふむ……面白い見世物だったが、やはり愚図はどこまで行っても愚図だな。あまりにも美しくない。目障りだ」

 

 

 ジュッ、と言う音を立て、彼の人間状態になっていた遺体がグジュグジュに腐り始める。そんなさなか、積み上がっている魔物の死体が盛り上がり、妖艶な女性の形が浮かび上がって、その形を取る。勿論こちらも人間では無い。

 

 

「まぁ、そう言っちゃダメよ? 所詮人間なんだから。そんなものよ」

 

「確かにそうか。しかし、あのナギという者、何者だ? あの『力』は一体何だと思う?」

 

「う~ん、分からないわねぇ。何だったのかしら、アレ」

 

「どうも我らの()()()()の力と関係があるような気がするんだがな……まぁ、そのうちあの者も再び潜るだろう。機会はいつでもある。じっくり調べてみよう」

 

「そうね。ところで、アタシはあのドミニクって子、結構好みだわ。今なら何とかなるかも知れないからちょっと頂戴」

 

「ふん。お前の人間好きにも困ったものだな……我らの使命は人間共を緩やかに痛めつけながら滅ぼすことだというのに」

 

「失礼ね。ちゃんとやるわよ。その上で愛でるなら問題ないでしょ? さあ、起きて。アタシの可愛いドミニク」

 

 

 その女が声を掛けると同時に、莫大な量の瘴気を地面に向かって浴びせる。それは、凄まじいまでの濃厚な瘴気であり、今までの瘴気が極薄く感じられるほどだ。最早物質化しそうなほどの瘴気が地面に染み込み、広間の土に埋められたドミニクの遺体が土の中から姿を現す。そして、不自然な動きをした後、彼はその女の足下に跪いた。

 

 

「ほう……たかが人間でもそこまで上質なのは確かにおらんな。闘いぶりも見事だったしな」

 

「でしょう? もう喋ることも出来るはずよ? ドミニク」

 

「……貴女の仰せのままに……リリス様」

 

「ふふっ……素晴らしいわ。あの屑とは見違えるほどの性能! これならもっと()()()わ!」

 

「ほどほどにしておけよ。しかし、よく出来ておるなぁ。我も欲しくなったぞ。もっと人間を追い詰めればこういうのが出てくるかな?」

 

「うっかりやり過ぎるとあっという間に死んじゃうから注意が必要ね、ガープ」

 

「まぁいい。どのみち我らはこれ以上()()場所には行けんし、ここでもギリギリだからな。待つとしよう。あのナギとやらが今のところ最有力か」

 

「早く行きましょ。ここは本当に息苦しくって敵わないわ。ドミニクちゃんも向こうで沢山愛でてあげるからね❤︎」

 

「好きにしろ。我は一仕事終わったからしばらく寝る。起こすなよ」

 

「は~い。アンタもアタシのことも邪魔しないでね」

 

 

 

 2柱はそう言いながら再び闇へと溶けていった。そして、グラナドの地には誰もいなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【SIDE:ビト組合長】

 

 

 

 

 帰還石が光る。彼らが帰ってくる! ビトは喜びを隠しきれなかった。

 

 ダイバーは通常、ダイバー組合に帰還石を置いている。その方が帰還したときに色々と便利だからだ。そして、ドニは今回の遠征で2つの帰還石を置いていった。彼曰く、予備だそうだ。ビトはそんな高価な物を二つも用意するなんてと不思議がったが、そのうち一つが砕け散った。その頃には、余りに遅い帰還にビトもやきもきしていたところだった。彼らが出かけてからもう4日は帰ってきていない。最悪な事態を想定するのも仕方が無い。そんな時に帰還石が砕けたのだ。ビトはよっぽど捜索隊を出そうかと迷ったが、ドニをよく知る彼はそんな事をせずとも必ず帰ってくるだろうと信じて、普段祈らない神にも祈っていた。

 

 そして今、残された1つが光った! あと僅かでもう一つの石を引き寄せるだろう。さぁ、今度という今度は奴に詰め寄らねば。無茶をしがちな男だったが、今度という今度は許せん。あのようなルーキーを連れて無茶をしやがって! と憤っていた彼の目の前に現れたのは、ドニの剣を抱えたナギの姿だった。

 

「おい……ナギ…ドニは?」

「ドニさんは……死んだ」

「は!? 馬鹿言え!! アイツは【折れない男(アンブレイカブル)】だぞ! そうそう簡単に死んでたまるか!!!」

 

 ナギの言葉に思わず動揺して、ナギに詰め寄るビト組合長。しかし、それも無理は無い。これまで、数多くの無茶をしてきたドニだったが、これまで必ず五体満足で生還してきた。そのあまりの無茶と、生還する彼の執念をからかってビトは【折れない男(アンブレイカブル)】とドニを呼ぶようになったのだ。そして、いつの間にかそれが彼の称号になってしまった。そんな彼が死んだなどとは思いたくなかった。

 

「……ビトさんに、ドニさんから頼まれていた手紙がある。オレは中は見ていない」

 

 そうして差し出された血まみれの手紙をひったくるようにして読む組合長。読み進めながら彼の顔は赤黒くなったり、泣きそうな顔になったりと忙しかった。ナギはその様子をぼうっと見ていた。しばらく動かずに読んでいたビトだったが、ぶるぶる震えだし、手紙を破り捨てようとした。しかし、思い直したらしく、震えながらもその手紙を地面にたたきつけた。

 

 

「ドニの馬鹿野郎!!! 何故……何故俺達に相談しなかったっ!!!!」

「…………」

 

 

 それはナギも同じ気持ちだ。しかし、事情を知っているナギは同時に相談できないことだろうとも思っていた。内容が何かは分からないが、恐らく彼の目的と、今回の件について書かれているのだろう。

 

 

「クソッ!! 俺達は……! ドニ……お前って奴は……!!!」

 

 

 それから彼は涙を流し始めた。もうこれ以上は見てはいけないだろう。ナギはそっと去ろうとした。しかし、それをビトが止める。

 

 

「どこに行く? アイテムの浄化も禄に終わってねぇだろ? こっちに来い。俺が特別にやってやる」

 

 

 涙を拭きながら彼が言う。大丈夫かなと思ったが、ナギは大人しく従った。ナギ自身は不思議なことに全く汚染されていなかったが、他の物品も放置するわけにはいかない。ビトの霊力が瘴気を浄化していく。しばらくお互いに無言の状態が続く。瘴気は濃厚で、中々浄化できない。しかし、一時間経って、終わりが見え始めた頃、ビトはぽつりと彼に言った。

 

 

「ドニがな……お前の世話を頼むと書いてあった。お前に謝りたい、とな」

 

「……もう本人から聞いたから、大丈夫」

 

「そうか……それにな、お前にドニは全てを託したいらしい」

 

「…………」

 

「正直に言うが、お前なんざドニに比べたら砂と月ぐれぇ違う。だから、俺はお前をドニの後継者なんざに認めたかねぇ」

 

「…………」

 

「だがな? ドニはお前に期待しているそうだ……俺は奴の意志を尊重したい」

 

「……」

 

 

 

「だからな? お前はこれからこう名乗れ。ナギ=シュトルバーン、とな。それが奴の遺言だ」

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