ティエラの地より 〜転生少年、深淵に挑む〜   作:エアロダイナミクス

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18、採取訓練

 

 

 

 

「──で、あるからして暗黒領域がいつから発生したのか、それは定かではない。だが、少なくとも100年前には存在していたという事は確かだ。この瘴気とは一体何なのか。コレすら良く分かってねぇ。今現在でも知識階級の奴等が必死こいて解明してるところだが現状進捗は思わしくねぇ。とりあえず人体や環境に優しくねぇって事を覚えておけばいい。まぁ、そんなこんなで瘴気は徐々に我々を取り込み、浸食しようとしてくる。魔物の襲撃や暗黒嘯(ダークネスタイド)とかがその筆頭だな。そして基本的にはそれに我々は対抗する手段がほとんど無い。よって、人類はジワジワとその生存圏を削られながらも辛うじて何とかやってきているのが現状だ。浸食された土地を取り戻そうとするなんて夢のまた夢だ。そして瘴気の浸食は容赦がねぇ。過去の文献を辿れば悲惨な顛末の末に滅びた場所など山程ある。多くが魔物に喰われるか、瘴気に侵されるか、そういった所だ……未だに人類が存続しているのが奇跡的とも言えるな」

 

 

 組合長はオレに向かって詰め込みぎみの講義を行ってくれた。内容は算術や文字、文法、科学、歴史、経済に加えて暗黒領域やダイバーの基礎知識など、多岐に渡る。オレには前世の知識があるのと、ある程度はドニさんに習っていたから、組合長もかなり端折って説明してくれている。

 今はこの世界の歴史からの暗黒領域についての講義中だ。オレもその辺はドニさんから概要だけは聞いていたが、改めて詳しく説明を聞けば聞くほどこの世界のどうしようもなさが浮き彫りになってくる。思うに、この絶望的な状況をドニさんはあまり語りたくなかったのでは無いだろうか。

 

 

「……組合長」

 

「何だ。まだ講義は終わってねぇぞ」

 

「いや、純粋に質問なんですが……はっきり言って人類ってもう正直詰んでるのでは?」

 

「まぁそう思うよな。正直ここから100年後に人類が生存してるなんて楽観的な予想はまるで無いからな。はっきり言って我々は既に絶滅危惧種だろ」

 

 

 ある程度はわかってはいたが……あまりにも酷い。夢も希望も無い。人類はただ黄昏の刻を生き、吹けば飛ぶような僅かな土地にしがみついて生きているに過ぎない状態だ。

 

 

「だが、希望が無いわけじゃねぇ」

 

 

 こちらの表情を読んだのか、慰めるように組合長が宣う。

 

 

「こんな状況で?」

 

「あぁ。まずは霊力の存在だ。偉い学者さんが言うには人類に残された対抗手段なんじゃねぇかって話だ」

 

「対抗、手段」

 

「教会の連中は神の慈悲だとぬかしてるが、偉い学者さん曰く、病気が治った後にその病気には掛かりにくくなるだろ? それが霊力を使える奴に起きていることらしい。いわば瘴気への抗体みてぇなもんだ」

 

「抗体」

 

「あぁ。それに、瘴気が侵しにくい土地ってのもまた存在するらしい。例えばこの街、マドリーだが、瘴気はこの街には容易に入ってくることは出来ん。なぜならば、ここはある種のエネルギーが流れているらしいのさ。曰く、東方の言葉で言えば《龍脈》とかいうらしいな」

 

「なるほど……でも、襲撃はありますよね?」

 

「そうだ。仮に《龍脈》があっても油断できねぇのがこの世界のクソッタレなところなんだがな。結局それによって人類が滅びちゃ仕方ねぇ。だが、とにかくそのおかげで何とか人類はその血脈をいまだに保ってるって訳だ」

 

「そうですか…」

 

「まぁ、そんな悲観的になるこたねぇ。オレたちゃまだ生きてるんだからよ。その理由もこれから聞いていきゃ分かる。話を続けるぞ。とりあえず、瘴気の事はあまりよく分かってねぇが、その濃度によって段階が存在する」

 

「ある程度は知ってますが」

 

「そうだな。まぁおさらい程度に聞いておけ。まず浅い順から浅層、中層、そして深層と続く。だが、お前さんもこれより〝先〟があるのは知ってるな?」

 

「えぇ。確か……ドニさんは【深奥層】と」

 

「その通り。もうそこまでなったら人類のいていいところじゃねぇ。景観はともかく、時間や空間まで狂うらしいからな。昔酔狂なダイバーがそこまで潜ったらしいが、そこまでの手記を残して結局死んだらしい。恐ろしいことに更に〝先〟がある可能性も示唆していたらしいがな」

 

 

 マジで? まだあの〝先〟があるの? ヤバくない?

 

 

「あぁ、そう言えばお前さんもドニと一緒に潜ったんだったな……よく生きてたな。とりあえず、奥のことはあまり気にしなくていい。何せそこが人類到達限界点だからな。普通はソロで潜るなんざ中層が限界だ。パーティーでも深層までがせいぜいだ。それで、だ。我々は対抗手段がほとんど無いが、それでも備えなければならん。そして、瘴気は我々に害をもたらすだけでは無い」

 

「と、いうと?」

 

「【遺物を含むお宝(アーティファクト)】だ」

 

「あぁ、まぁ確かに」

 

「いや、お前はこの重要さを分かってねぇ。大体この街でまかなわれている水や食料、エネルギーはどうやって供給されてると思う?」

 

 

 そう言えばそうだ。こんな状況なのに、普通に水などを供給できていること自体がおかしいのだ。

 

 

「……まさか」

 

「そうだ。この瘴気に囲まれた土地で、普通の水があるわけねぇ。大部分が発見されたアーティファクトや魔物素材などで賄われているってことだ。例えば水なんかは深層で採れた遺物から賄われているしな。オレ達は危険な仕事だが欠かせない仕事でもあるのさ。だからこそ給料はたけーぞ。ちなみにお前さんが以前持ち込んだ素材はこの街に一時的なアーティファクトバブルをもたらしてる最中だからな」

 

「マジすか……」

 

「あぁ。とにかく、瘴気の奥から拾ってきた物は何でもお宝になる。浄化すれば、の話だがな。瘴気にたっぷり侵されて、それを祓われた物は人間と同じく不可思議な力を持つようになる。コレもそうだ」

 

 

 組合長は収納袋を取り出して見せてくる。オレも持っているが確かに常識では理解できない効果があるものだ。そう言う意味では、ダイバーとはハイリスク・ハイリターンといえよう。そして、その成果が人類の衰退を押しとどめていると言える。そうこうしていると、受付開始のベルが鳴り響いてきた。

 

 

「ん、もう時間か。さて……まだまだ伝えたいことは山ほどあるが、楽しい講義の時間も終わりだ。また明日だな。これからはまた別の訓練だ。オレはこれから仕事に向かうからよ、あとは次の講師に頼んである。ソイツからたっぷりしごいてもらえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて……言われた通りに来てみたが。講師って誰だろうか。まさかとは思うが、ガブリエラさんじゃないだろうな。正直トラウマなんだが。

 ──と思っていたら、特徴的なシルエットが現れた。隻腕の。あぁ、やっぱり。

 

 

 

「やぁ、少年! 久しぶり…でもないか。組合長に言われて来たよ。とりあえずキミにはアタシが付く。ま、大船に乗ったつもりで任せてね」

 

 

 

 やたら元気な人だ。相変わらずだな。だが、纏った雰囲気からはただでは済まなそうな剣呑な気配が見え隠れしてる。果たしてオレは無事に生き残れるだろうか。

 

 

 

「んじゃ、早速だけど用意して。場所移動するよ」

 

「えっ…何処に?」

 

 

 

 

「勿論、【暗黒領域】よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて……最低限の用意はして来たようだね。じゃ、早速行く前に確認。ダイバー3種の神器と言えば?」

 

 

 いきなり知識テストが始まった。油断も隙もない。まさかこれ、この場所で活動しながらずっとこれなのか……? まぁこの辺はドニさんからも習ってたから余裕だけど。

 

 

「えっと……まずは羅針盤、次にナイフ類、最後に収納袋、かな」

 

「ん。まぁ正解。収納袋の中身まで言い当てられたらグッドだったけどね。ここから分かる様に、ダイバーは生存する事こそが大事。と、いうわけで今日はキミには浅層での採取活動に勤しんでもらおうかな。じゃ、行くよ」

 

 

 

 そう言ってスタスタと歩き去って行くガブリエラさんを慌てて追いかける。さて、何をやらされるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 端的に言えば、それから行われたのは、依頼を兼ねたサバイバル訓練だった。ただし暗黒領域の中でだが。あれから組合内の商店で携帯食料やら拠点用の設備、救難信号の用具などを買い込み、組合の初心者向けの採取依頼を受けてから街を出発した。

 今現在、我々はマドリーから半レグア(2.2キロほど)離れた暗黒領域内にいる。この場所は小高い丘と森と、廃墟で構成されている。ここはアビラの森と呼ばれ、比較的初心者ダイバーの狩り場に適している場所らしい。ここでオレはガブリエラさんの監視のもと、簡易的な拠点の設営を習ってやってみたり、採取する森のキノコ類や薬草類を実際に見せて貰いながらやってみたりするという活動を行っていた。

 

 

 やってみて思ったが、これがまた酷く疲れる。以前行っていたドニさんとのスパルタ式訓練も中々のものだったが、この採取というのも非常にきつい。

 まず瘴気の中での採取であるからして、非常に薄暗い中での活動になるために見分けが付きにくい。その上、間違えて雑草を取ろうものなら容赦なく蹴りが入る。間違えて持って帰ってしまったら人体に極めて有害な毒持ちだったということがよくあるらしいから仕方が無いが。

 次に、採取方法だ。当然だがどれもこれも瘴気を纏っている。だからこそ採取はかなり繊細な作業を強いられる。一歩間違えば自分が瘴気に侵されかねない。これはこれで命の危険がある作業だ。採取後はすぐ浄化したらいいんじゃないかと以前は思っていたが、とてもじゃないが無理だ。自分が浸食されないようにするので精一杯だ。

 まぁ、オレは何故か霊力が尽きても浸食されない体質なんだが、これは今は余り関係ない。せいぜい安全が多少は担保された程度だろう。そもそも暗黒領域内で霊力が無くなると言うことがどれだけ恐ろしいことかは、体験してみないと分からない。例えるなら、真の暗闇の中に裸で放り出されるような物だ。次の瞬間には喰われているという恐怖がひっきりなしに浮かんでは消える。よほど精神の強い者でなければ、あっという間に発狂してしまうだろう。だからこそ、ここで霊力が尽きるなんてことは極力避けたい。あの時は色々なショックで分かっていなかったが、今思うと本当によく生きていたと思う。

 さて、ガブリエラさんに蹴られながらも何とかノルマをこなし終えたのは2時間後だった。

 

 

「ん~。まぁ、筋は悪くないわね。一回で採取する内容も覚えてくるし。コレに関して言えば、経験を積めばそこそこにはなりそうね」

 

 

 と、ありがたいお言葉をいただいたが、そのガブリエラさんの傍らにはジャバリ(イノシシ型の魔物)やコルミロ(オオカミ型の魔物)が数頭積み上げられていた。彼女が襲撃してくる魔物を討伐してくれていたようだ。器用にも核の部分だけ貫かれて穴が開いている。彼女にとったら片手間のようなものだろう。

 しかし、やってみて分かったが、はっきり言ってソロでの採取活動は厳しい。理由はこの襲撃に尽きる。ただでさえ削られる霊力の中、慎重を期さねばならない採取を襲撃を乗り越えながら行うなど、厳しいにも程がある。やはり自分1人ではできることには限りがある。将来的には誰かとパーティーを組んで活動しなければならないだろう。

 そんな事をあれこれ考えていると、ガブリエラさんが帰り支度を始めていた。

 

 

 

「うん。ま、及第点かな。じゃあ、今日の所はここまでね。帰りはアタシを案内してごらん。お手並み拝見と行くわ」

 

 

 ……仕方ない。訓練生用の羅針盤を取り出し、慎重に歩き始める(ドニさんの特別製の羅針盤は訓練にならないからと使用禁止にされた)。しかし、後ろから容赦なく蹴りが入る。

 

 

「モタモタしてんじゃ無いよ! ダイバーは依頼を完了したら速やかに帰還する! コレが基本中の基本! 今の様子じゃ日が暮れちゃうね。暗黒嘯(ダークネスタイド)もいつ来るか分からないんだ。はっきり言って、そんなんじゃ死ぬよ!」

 

 

 言ってることは分かるが、スパルタすぎん? 少し焦りながらも羅針盤を頼りに歩みを早める。魔物の気配を探りながら、できるだけ避けるようにし、それでも素早く街へ向かう。

 

 

 だが、道程の半分ぐらい進んだところで後ろから特大の衝撃を受け、地面に転がった。

 

 

 ガブリエラさんだ。蹴りを入れられた? 表情も怒っている。オレが何かやらかしたか……?

 

 

「このお馬鹿!! よく見てみな! 周りの風景をね!」

 

 

 改めて景色をよく見ると……来たときとは若干景観が異なる!! 馬鹿な! 羅針盤は間違っていない筈なのに……!!

 

 

「フン。羅針盤に頼りすぎだね。やっぱり特製のは使わせないで良かったわ。羅針盤も万能じゃ無い。そしてここは浅いとは言え暗黒領域。全てを疑え。常に全ての感覚を鋭く保ち、全神経を集中させながらルートを探す事が肝要! 大体アンタは来たときの道そこまで覚えてないでしょ? それがまず間違いだと理解しなさい。良かったわね。アタシがいて。コレがルーキーだけのパーティーなら仲良く全滅ね」

 

 

 マジかよ……認識が甘かったか。たしかにここは暗黒領域。「死」はすぐそばにいて、常に見張られている! 

 

 

「すみませんでした! ガブリエラさん……でも、オレにもう一度チャンスをください!」

 

「ふ~ん? チャンスねぇ……厳しいこと言うけど、我々はミス一回が命取りなのよ。君は一度やらかした。後はアタシが案内するからついてくるのが君のとる最善の方法なんじゃ無いの?」

 

「もう一度……もう一度オレが先頭に立ちます。次こそは必ず街に辿り着きます!」

 

「……」

 

「お願いです!!」

 

「……よし。そこまで言うならチャンスをやろうじゃないの。そのかわり! 次に失敗したらダイバー免許を返上しなさい。次にミスったらアタシでもリカバリーは難しい。ここは君が帰り道だと思ってるけどほぼ帰り道とは真逆に来てるからね。アタシは君とは共倒れしたくない。これが最後の条件で、最後の譲歩よ」

 

「わかりました。その条件を呑みます。では行きます!」

 

 

 

 

 正直、まんまと乗せられた感があるが、自分で言ったことだ。今更後戻りはできない。全神経を集中させる。その状態で羅針盤をよく見れば、場所によって僅かに針の向きが変わったりしている。……そういうことか。そしてオレは、そんな事にすら気付いていないマヌケだったと言うことだ。命の掛かった場面で何という怠惰! ダイバー辞めろっていうガブリエラさんの言うことは何も間違っていない。

 では、どうするか。頼れるのは全ての感覚、五感だけでは無く、六感まで働かせるつもりで集中する……! いや、集中はするが1つのことに囚われてはいけない。全てを「見る」のだ。瘴気の濃度、そして、風や匂い、肌の感覚、視覚に映る全ての物を統合して考えろ……!! よし、「見え」てきた。こっちだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【SIDE:ガブリエラ】

 

 

 

 

(ふぅん。なるほど。ちょっとハッパ掛けてみたけど、こりゃ優秀だわ)

 

 

 ガブリエラはナギの監視兼訓練役である。引退した身としてはこの暗黒領域には極力来たくないが、仕事だから仕方が無い。

 教導役となった経験も豊富にある彼女にとっては、ルーキーの世話などは容易い仕事の部類に入る。むしろ浄化担当よりはマシな仕事とも言える。

 しかし、今回教導する相手が相手である。よってガブリエラは組合長からも報酬に色を付けて貰って今回の教導役も引き受けた。というか、「あの」会話を聞いていた彼女にしか出来ない事でもある。自分すらも破って見せた、ドミニク=シュトルバーンの後継者。今はまだルーキーというのもおこがましい力量しか無いが、だからこそ教え甲斐もある。そして、彼は優秀な生徒だった。

 

 本来はこの訓練はルーキーの最終訓練の一歩手前のものだ。ダイバー試験前も訓練生として半年間の講習や訓練を課せられるが、ダイバー試験に合格した後もすぐに依頼をこなせるわけではない。

 

 合格後、ベテランや引退直後のダイバーが付き、半年間の訓練を実地で行う。それをやらないければ新人の死亡率が跳ね上がる為だ。人材をいたずらに消費させる余裕は今の人類には無い。貴重な新戦力は常に求められている。

 そんな中、それらをすっ飛ばしてナギはここにいる。白金級(プラチナクラス)のダイバーであったドミニクが面倒を見ていたと言うことと、その彼が死亡した中で自分だけは帰還してのけたと言う実績、そしてあの土壇場に見せた力量故に、こうして飛び級的な訓練をさせているのだ。そして、そんな無茶な内容を見事にこなしている。普通はこんなに上手くはいかない。それだけでもナギのダイバー適性が高いのが見て取れる。

 

 

(いずれにしても飲み込みが早い。こりゃ、一週間もありゃモノにしちゃうかもね)

 

 

 ガブリエラの想定では一ヶ月。その予想を遙か大幅に上回った成果を出している。普通は座学も禄に受けていないのに採取依頼を初回で及第点など出せるはずが無いのだ。それを実際に見て、聞いただけで成功させる力量は素直に天才的であると言えよう。それだけに彼の育成には慎重にならざるを得ない。

 

 今、彼は確かにミスをした。しかし、それは新人にはよくあることであり、指摘されても治すことができないのが普通である。むしろ、暗黒領域での振る舞い方こそがダイバーにとっての生命線であり、奥義でもある。

 即ち、今彼が行っているように、全ての感覚を駆使して状況を探る力! 葉を見て木を見ず、では話にならない。常に全体に気を配り、身の回りのモノ全てにおいての僅かな変化をも捉えると言う事。これをいかなる状況でも行えることこそがダイバーの資質であると言えよう。

 

 

(煽ってプレッシャーを掛けてみたけど……この様子じゃ無駄だったみたいね)

 

 

 それができると言うことは、もう帰還に関してはよっぽどのことが無い限り問題ないと言うことだ。事実、確実に街の方角に向かっている。もう半分は過ぎた。このまま無事に帰りおおせるか、と思われたが、そこはやはり暗黒領域。

 複数の魔物の気配が接近していることをガブリエラは感知していた。さて、どうするか、と考えていると、ナギから小声で会話が飛んできた。

 

 

 

「ガブリエラさん。魔物が接近中。おそらくジャバリ一体とコルミロ複数。どうします?」

 

「そうだね。じゃあ君ならどうする? 少年」

 

「極力避けますが、接触は不可避。接触を最低限に留めて最速で始末するしかないかと」

 

「なるほど。じゃあ君に任せる。対処してみな。これぐらいできなければダイバーなんて無理だからね」

 

 

 

 

 

 嘘である。

 

 

 

 

 

 採取訓練の中で魔物への対処はそれこそ最終試験にも等しい。しかし、ガブリエラはあえてそれをナギに課した。

 彼がどう対処するのかを見てみたかった。

 するとナギは了解の意を示し、一旦ルートを外れ、魔物を誘導し始めた。当然だがこれは接敵していない状態であり、彼には魔物の姿は見えていない。

 彼はガブリエラにジャバリの解体した死体の一部をわけて欲しいとねだると、その場で浄化し始めた。

 そして……その肉を移動しながら2~3カ所に置き、その場を離れる。コルミロの群れは、その肉に見事引きつけられ、足止めをされた。

 その隙に本来のルートに戻り、彼はジャバリを待ち受ける。ただ待ち受けるだけでは無く、買い物していた細いワイヤーを木に結びつけ、簡易トラップとし、自身はナイフを取り出して息を潜める。ナイフでどうするつもりだろうか。まぁ見ていよう。

 やがて、森の奥からジャバリが姿を現した。4メートルほどの体躯を持つ個体。成獣だ。だが、そんなジャバリを前にしてもナギは落ち着いている。ジャバリが突進してきた。しかし、簡易トラップに前足が引っかかり、前進を回転させて仰向けに転がって暴れる。そこに間髪入れず飛び込み、核めがけてナイフを振り下ろした。

 ……恐ろしい精度だ。少しでもミスると大けがじゃ済まないだろうに。ジャバリは適確に核を破壊されて沈黙した。彼は事が終わってから何でも無いように告げた。

 

 

「これで良し、と。申し訳ないですが、解体はこの状況じゃ無理なので置いていきます。コルミロに追いつかれちゃうし」

 

「いい。任せると言ったのはアタシだ。ただ、1つ聞かせて欲しい。ジャバリの核の位置は分かってたの?」

 

「? えぇ。ドニさんと何度も狩りましたからね。核の位置もひっくり返せばナイフで事足りるんで楽な方です」

 

「そう……さぁ、急ごう。早くしないとさっきのコルミロどもがこちらを捕捉するからね」

 

「そうでしたね。急ぎます!」

 

 

 そう言って、彼は再びルートを進み始める。先ほどよりも速いペースだ。もう既にルーキーとは言えない速度になっている。その姿を見て、ガブリエラはこっそり溜め息をつく。

 

 

(全く……嫌になるぐらいに優秀だね。コレにあの力が加わったら……確かに〝救い主〟にふさわしい人材になるかも知れない。だからこそ、アタシと組合長でしっかりと見極めないとね)

 

 

 

 

 

 彼らはその後、無事にマドリーの街へと帰還した。

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