ティエラの地より 〜転生少年、深淵に挑む〜   作:エアロダイナミクス

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19、訓練期間

 

 

 

 

 

 何とか無事に帰還出来た。良かった。ダイバー辞めずに済んでいくらかホッとした。

 街に帰還し依頼完了の手続きや武具や自身の浄化依頼などのやり方を学び、昼を大幅に過ぎていたので組合で軽めの昼食を摂った。今日はこれで解散かな。流石にちょっと疲れたな……。

 

 

 

 

 だが、残念な事に訓練はまだ終わっていなかった。

 組合で昼飯を食ってる間、ガブリエラさんから何事かの報告を受けた組合長が、昼飯後立ちあがろうとする目の前に笑顔で立ち塞がる。

 

 

 

 

「よぉ、ワンダーボーイ。まさかコレで終わりとか思ってるんじゃねぇよなぁ?」

 

 

 

 終わりだと思ってました! まずいな。もうヘトヘトなんだが。

 

 

 

「バカめ。肝心の戦闘訓練が出来てねぇだろ? じゃあ今からやるからな! 講師は俺! よろしく!」

 

 

 

 あまりのテンションの落差にクラクラする。このハゲわざとやってんだろ。しゃーない、やるか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘訓練はまずランニングから始まった。街の中心部を円状に張り巡らされる道を一周。たった一周と侮るなかれ。その距離何と約20キロだ。依頼後に行う訓練じゃないと思う。どう頑張っても2時間はかかる。

 ひーこら言いながら必死こいて走る横で、組合長はルートを教えながら平然と走っている。途中で街の住民と和やかな会話をしながらだ。こちらは喋る事も厳しいってのに。更に彼は「遅すぎてタルい」などと宣い、更にペースを上げていく。

 何だこれ。あのハゲ本当に人間か? 見た目は50過ぎぐらいのメタボなハゲなのに、何でこんなに速いんだ!?

 タチが悪い事にこちらの限界を的確に分かってる様で、ギリギリのラインより少し上で速さを調整してくる。少しでも遅れそうになれば容赦ない煽りが飛んでくる。

 

 

「あれ〜? まさかあんだけ大口叩いといてこんなロートルに追いつけねーのかなぁ? ワンダーボーイさんよぉぉお!」

 

「じゃかーしい! このハゲ!! ……うぷ。く、クッソはえぇ……」

 

 

 言われてる事は子供レベルだが、言い方が嫌らしくてメチャクチャ腹が立つ。よって、なけなしの体力を振り絞って追いつこうと必死になる。そして更に削られるの無限ループだ。

 

 

 

 2時間後、ゴールである闘技場に着いた時には息も完全に上がってしまい、動くのも困難な状態になった。そんなオレに、汗一つかかず組合長は告げる。

 

 

 

「さ〜て。()()()()()()()()()にしちゃ時間かけすぎだな。これじゃギリギリだぜ? さ、起きろや。始めるぜ」

 

 

 

 ……鬼か。

 

 

 

 

 

 次は剣技の訓練だ。正直剣を持ち上げるのも億劫だが、組合長曰くだからこそいいらしい。余計な力が抜けやすいとの事。

 内容としては基本の素振りを見せて、その後適宜組合長が指摘する形だ。

 だが、案の定まともに振れない。そりゃそうだ。もう体力は尽きかけだから。だが、そんなオレに組合長は容赦なく持っている木剣で小突いてくる。普通に痛い。悶絶するオレを眺めながら曰く、極限の疲労状態でも剣を振る時に身体の芯をしっかり保てば、どんな体勢からも鋭い振りが生み出せるらしい。

 

 

 言ってる事は理解できる。理解できるが。

 

 

 ……いつかこのハゲぶっ飛ばしてやる。

 

 

 そう思っても仕方のない事ではないだろうか。すかさず木剣が頭部を襲い再び悶絶する。ちゃんとやってんのに! と睨みつけると「ムカつく気配を感じた」との事。

 

 

 

 ……絶対いつかこのハゲぶっ飛ばしてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局素振りは500回ぐらいで漸く終わった。もう頭のそこかしこがコブだらけだ。おのれ。

 素振りが終われば、霊力の訓練だ。まだ終わらないらしい。ハード過ぎないか? だが、こちらはドニさんから既に習っていた事と同じ様な事をやらされた。ドニさんとの違いとしては、段階が割と優しい順から細かく設定されていた。

 どうやらオレはこちらに関してはある程度の基準はクリアしているらしい。組合長が出す課題を次々にクリアしていった。

 組合長はツッコミができずに不満そうな顔をしていたがこちらとしてはようやくハナを明かせた気分だ。渾身のドヤ顔をしたら小突かれた。理不尽だ。

 しかし、この訓練を受けてから思うに、ドニさんは段階を色々とすっ飛ばし過ぎなんじゃ無かろうか。苦労するわけだ。組合長もスパルタだが、ドニさんもスパルタ度合いでは負けてなかったという事だ。やっぱりこれぐらいスパルタじゃないと「上」へは行けないという事だろうか。ならば、やるしかない。いくら理不尽だろうが耐え抜き、やり遂げてみせる。

 

 

 

 そうして、漸く本日の訓練が終わった。今のオレは死にそうな顔をしているだろう。そんなオレに向かって、凄くいい笑顔でビト組合長は明日も待ってるぜ! と言い放って受付に戻って行った。

 明日からずっとコレか……早く帰って寝よう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【SIDE:ビト】

 

 

 

 

「で? 概要は聞いちゃいたが実際どうなんだ?」

 

「んーまぁ結論から言うと、適性は文句無しどころか今までで最優秀の部類ね。1ヶ月って見てたけどアレなら1週間で十分よ。で、そっちはどうだったの?」

 

「体力は並の奴らよかあらぁな。なんだかんだであの訓練でリタイアしなかったしよ。だが、戦闘に関しちゃイマイチ、今んとこ並以下だな。ただし、霊力の扱いについてはとんでもねぇ。そもそもあんな無色透明な霊力自体が珍しいんだがな。ドニの野郎に扱かれてたせいか、恐ろしいほどの進み具合だ。ま、総評としてはどうもチグハグな野郎だってトコか」

 

「戦闘……ね。()()()()()()と関係が無いとは言えないわよね」

 

「……一つ言い忘れてたが、奴が他の者と決定的に異なる部分がある。それは尋常じゃない()()()()だ」

 

「…………」

 

 その言葉にガブリエラは押し黙る。心当たりがあるからだ。組合長は続ける。

 

「確かに戦闘関連はど素人に近かったぜ? 素振りやった時にも最初はヘロヘロだった。だが、500近くも振るうちに一端の振り方になっていやがった」

 

「新たに習得するよりは()()()()()が効率がいい……か。暗黒領域でもそうだった。それに、魔物への対処は普通にプロ級だったわ」

 

「きっとそうなんだろうな。出来るだけ早急に奴を『完成』まで近づけねばならんな。というわけでガブリエラ、引き続き頼むぜ」

 

「分かった。と言ってもすぐに教える事は無くなりそうだけどね」

 

 

 そこで茶を一口飲みながら、ガブリエラはその打ち合わせの中で初めて笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝、日が登る前から起き出してギルドに向かう。早朝は組合長から直々の講義だ。疲労が抜けきらない中での講義は正直眠くてしょうが無いが、居眠りなんぞすれば容赦なく木剣が飛んでくるので必死で耐える。内容も濃くて付いてくのがやっとだ。

 何とか耐えきり、午前の部はガブリエラさんと採取を中心とした実地訓練だ。ここは曲がりなりにも命が掛かっているため手を抜くことなど考えられない。しかし、楽しみもある。

 採取や狩りなどで手に入れた素材はダイバー組合で高額の金額で取引される。そして、素材の種類ごとにそれぞれ他の組合に卸され、加工や研究が日夜行われている。植物素材は薬師組合、鉱物、金属、一部の魔物素材は鍛冶組合や冶金組合、大工組合など。そして、肉類は食肉組合などに分かれる。場合によっては組合同士の〝競り〟が行われるらしい。以前オレが戻ってきたときの素材の〝競り〟は凄まじい熱狂だったようだ。

 話を戻すと、浅層の素材もアーティファクトほどでは無いが十分に強力な効果を発揮することが多い。例えば薬でいうと、現在メインで採取している『エリダ草』は強力な薬効を持った傷薬になる。どれぐらい強いかというと、塗り薬として塗ったら即座に傷が塞がり始めるといった具合に。

 他にもあらゆる病気に一定の効果がある『フリオ茸』や、効果を強める薬効を持つ木の実『メフォーラの果実』など、非常に優れた効果が満載だ。当然ながら瘴気の深い所から採れた物程効果は強力になっていく。深層にもなると再生に近い効果が出るのでは、と言われている為、夢が広がる。いつか隻腕のガブリエラさんの腕すら再生できる素材を採取できるようになりたいものだ。先ほども述べたが、ダイバーからもたらされた植物素材は、ダイバー組合から薬師組合に卸されて薬として広く出回っている。そのおかげかは分からないが、この街では流行り病などは殆ど聞かない。それだけでも人口の維持に貢献してると言える。

 他にも魔物肉は貴重なタンパク質として重宝されるだけでなく、味も抜群に美味い。イノシシタイプのジャバリは勿論の事、狼タイプのコルミロも中々な味らしい。オレは見た事は無いがパガロ鳥とかいう魔物は絶品らしい。食べてみたいものだ。だが、魔物肉は文字通り桁が跳ね上がる為滅多に食べられない。いつかまた腹一杯食ってみたい。

 

 

 ともあれ、そうしたわけで我々の決死の活動は街の住民にとって非常に大きなリターンをもたらしていると言うことだ。この事実があるからこそ、我々ダイバーは危険な暗黒領域へ向かい、闘うことができるのだ。

 

 

 

 昼過ぎに帰還し、軽く休憩すると、午後の戦闘訓練だ。クソみたいに走ることも随分となれてきた。あのハゲ、オレが慣れてきたとみるや、少しずつ距離を増やしてきている為、かかる時間はあまり変わらないが。

 その後の剣修行では、最近は組合長の指導という名の死角からの攻撃を防御できるようになってきた。以前殴られるのがあまりにも痛いから一回ガードしたら、組合長が喜んでどんどん躱すなりガードするなりするようにしろと言ってきたためだ。最初は1割ぐらいしか対処できなかったが、最近は5割を超えるようになった。ただ、組合長もどんどん嫌らしい攻撃やフェイントを混ぜてくるようになったので、ここから倍率が余り上がらないのが悔しいところだ。

 霊力の方は、もうある程度の基本的な事は出来る様になっていた。ただし、どうもオレの霊力は特殊な部類に入るらしい。

 普通は人それぞれで霊力に「色」の様な物がある。それはその人の魂の色と言われており、例えば事象変化も得意不得意がある。そう言えばドニさんの場合は青白い霊力を纏っていたし、ガブリエラさんは茶色、組合長は緑色だ。そして、その色が成長の方向を決定づける。特化型とも言えるが、その分強力だ。色が濃い程その力も強くなる為、成長の方向も定まりやすい。

 そしてオレ。どうもオレは白、というか無色透明だ。誰も彼も何かしらの色があるらしく、オレの様に色が無い奴は殆どいないらしい。恐らく無属性という事もかなり影響しているだろう。

 ある程度の霊力操作も今のところ対応出来るが、ショボい。少なくとも戦闘に使えるレベルでは今のところ無さそうだ。器用貧乏という単語が頭をよぎる。霊力自体は高めらしいので、素直に身体強化をする方向で考えた方が良さそうだ。

 ちなみに、浄化は凄く得意だ。ガブリエラさんに「やっぱり浄化担当でいいんじゃない?」と言われたが、丁重に断った。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、毎日こってり絞られる日々を過ごしていたが、人間はどんな過酷な環境にも慣れる生き物である。最初は自分でも一週間持つかと心配だったが、気付けば講習開始から一ヶ月が過ぎようとしていた。

 

 

 

 そして、それはダイバーとして独り立ちの時期が近づいている事の証でもあった。

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