ティエラの地より 〜転生少年、深淵に挑む〜 作:エアロダイナミクス
【SIDE:フロウ】
「ん……ここは…」
目を覚ます。そこは金属でできた床と謎のコード。そして破壊されたガラスケースが無造作に散らばっていた。朦朧とする頭を振り、何があったかを考える。自分たちは、なすすべ無く魔人にやられて瘴気に汚染されかかっていたはず。それが、どうしたことだろう。全て手遅れになってしまったのか。それにしてはおかしい。自分から瘴気を感じない。むしろこの部屋自体から一切の瘴気を感じないのだ。そんな事があるのだろうか。そうだ! 仲間達は……自分と同じように寝転がっている。しかし、その様子から死んでいるのでは無く、ただ単に気絶しているようだ。そばに行き、脈拍と呼吸を確認するも、正常で瘴気に侵された様子は無い……良かった。ホッとした。
いや、待って。そう言えば、ナギくんは! 瘴気の浸食を受けながらだったからよく見えなかったが、あの魔人に1人引き寄せられて酷い拷問を受けていたような……。ふと見ると、向こう側に倒れている。
「ナギくん!!」
駆け寄り、抱き寄せる。しかし、よく見ると上半身の衣服ははだけているが無傷だ。そして、生きている。うなされているようだが間違いなく生きている!
「ナギくん、大丈夫!? 起きて!」
揺さぶり起こすと、う~んと、声を上げながら彼が目を覚ます。
「フロウ……?」
「良かった! 無事だったのね!! 身体の様子はどう?」
すると彼はポロポロと涙を流し始める。いきなりのその様子にフロウは驚きを隠せない。一体彼に何があったのか。
「良かった……本当に良かった……」
さめざめと泣く彼のそばでフロウは途方に暮れた。普通逆ではないだろうか? あの状況ではむしろ彼の方がヤバそうだったが。本当に何が起きたというのだろうか。
「ナギくん、感激している所悪いけど、ちょっと聞きたいの。あの魔人はどうなったの?」
「アイツは……逃げたよ。どうも深層より先に棲む魔人みたい。ここが浄化されると同時に自分の巣に戻っていった」
「それだけど、ここ一体に瘴気を感じないのよ! 本当に何があったの!?」
「…………」
言葉に詰まるナギ。しかし、フロウは根気よく待つ。
「……アイツはオレを調べてた。でも、オレの性質がアイツの弱点だったらしい。それで逃げてった」
性質が弱点? どういうことだろう……。それにここが浄化された説明が無い。内容があまりにも簡潔すぎる。それを問いただそうとしたとき、仲間達が目覚め始める。
「う、う~ん……」
「ハッ! な、何だ、何が起きた!」
「どこだ……ここは……」
「みんな! 無事か!?」
……とりあえず、みんな無事に目が覚めたようだ。まずは全員の安否確認と現状把握してからでも遅くは無い。フロウはそう判断した。
◇
「で? アイツはナギのその不思議パワーとやらで撃退できたってか? この部屋、と言うか施設もそうだと?」
「端的に言うとそうなるね」
「じゃあ見せてくれ……っていっても難しいんだな?」
「うん……さっきから試してはいるんだけど……全然出てこないんだ。ただ、少し近いことならちょっとはできる」
霊力を操作し、先ほどの威力を再現する。すると霊力は光へと変換され始める。穏やかな光が周囲に満ちる。
「マジか……これって……」
「まさか本当にあるとはな……【光の属性】など」
「知ってたのか? マルセル」
「いや、知ってるったって伝説みたいなもんだ。闇を照らす光。それができれば瘴気には凄まじい特効を持つだろう。だが、できた者は記録上いない。だから伝説なのさ」
「伝説の霊力って奴か……すごいもんだな。確かに瘴気には強そうだ」
「おい、アイツすげぇな! フロウもそう思うだろ?」
「うん……確かにスゴい。ただ、何かが引っかかるんだ……」
「まぁ…思うところは色々あるだろうが、アイツのおかげで何とかなったんなら感謝だな。オレ達ゃ危うく仲良く魔人か魔物の仲間入りだったからな」
すると、ナギはその光を元の霊力に戻す。
「う~ん……だめだ。こんもんじゃ無かったんだけど……」
「はぁ!? これでも相当よ! これよかスゴいってどんだけよ」
「うん。あの時は無我夢中だったから分からないんだけど……相当強烈な〝力〟だったのは間違いないんだ」
「ふ~ん。まぁ考えても仕方ないわ。全ては帰ってからね。とりあえず猶予はありそうだし、この辺の一帯を調べてから帰還しましょ」
サラがそう言って会話を打ち切った。その後、彼らは総出でこの施設をくまなく探索する。消耗した霊力も回復していて、しかも以前よりも強力になっていた。周囲には瘴気も敵影も無くいたって平和だからできたことだ。めぼしい物を回収し、全員で警戒しながら帰路へとつく。長い一日が漸く終わりを迎えようとしていた。
◇
【SIDE:ナギ】
「この……大馬鹿野郎どもがぁーーーッ!!!」
ビリビリと組合長の怒声が部屋中に響き渡る。帰還した直後、捜索に向かおうとしていたダイバー一団に拉致同然に連行され、この組合長室に放り込まれてからのこの一言である。
「テメェ等はどんだけ危険なことをしていたか分かってんのか!! そんな怪しげな施設に準備も連絡も無く行きやがって!!! 帰ってきたのが2日後ってどういうことだ! 死んでるならまだしも魔人になっちまったかと捜索&討伐隊まで組んだじゃねぇか! このドアホ!!! 大体【一刀両断】まで付いときながらなんだこのていたらくは!!!」
「め、面目ねぇ……」
「……チッ。まぁ死んでねぇだけマシだ。そこだけはいい。しかしこの報告も頭おかしいからな!? 名前が間違いねぇならソイツは公爵級魔人だぞ! そこから無傷で帰還するなんざ虚偽報告を疑うレベルだからな!」
魔人には階級がある。基本はその強さ、瘴気の保有量、そして人類への実害によって変わる。階級は男爵級から始まり、子爵級、伯爵級、侯爵級、公爵級と続く。
大体以下の通りだ。
男爵級……浅層クラス。一般人が魔人になるとこのクラスになる。
子爵級……中層クラス。初心者ダイバーの末路と言われている。
伯爵級……深層クラス。中級ダイバーの末路。この辺から対処が厳しくなる。
侯爵級……深奥層クラス。上級ダイバーの末路。人類にとっては災害に等しい。
公爵級……侯爵級をしのぐと言われるクラス。出会っただけで死が確定している程の存在。
で、あの魔人、フェルナンド=コルテスは公爵級だったというわけだ。
「コルテスはなぁ……ダイバー時代は超有能な奴で、
「なんでそんなヤバい奴が秘匿扱いなんですか?」
「公表できるか! 奴の功績は凄まじい。人類圏を維持するためのアーティファクトを数多く発見した奴だぞ! もうかれこれ40年以上も前にもなるが、奴のおかげでこの街が維持できていると言っても過言じゃ無い。そんな奴が魔人になりましたーって言えるわけねぇ。これは高度な政治判断だ。そもそもそんな強い奴は基本的には浅いところには来ることができない筈なんだ。だからそれで良かった筈だったんだが……」
「筈だった、って言われても……」
「それこそが今回一番問題なんだ。オレも報告が虚偽だって信じたいところだ。最上級の魔人が浅層や中層にも来ることができるって事がな。街が滅びる程の【
そう。基本的には階層をまたぐというのは魔物にとっては苦痛な筈なのだ。魔人にとっても例外では無く、階級の高い者ほど浅層では力を発揮できないという。だからこそ今回はイレギュラーだった。その法則を恐らく奴は分身を送り込むことで解決していた。著しく弱体化はするが、本人の意志を持った分け身である。強力なことに変わりはないし、本体が苦しむデメリットもない。
しかし、だからこそあの時撃退できたのだ。あれが本体だったらと思うとぞっとする。厄介な奴に目を付けられたものだ。
「で、だ。お前等の報告によって捜索隊をその場所に調査に向かわせている。報告が確かならばもう何もねぇとは思うがな。とりあえずその報告を待ってこの件は終了だな……しかし、収穫もあった。そこは素直に感謝しよう」
「おぉ……じゃあ、報酬は期待していいのかい?」
マルセルが期待に満ちた声で尋ねるが、ビト組合長は一喝する。
「ドアホ!! 調子に乗るんじゃねぇ! 確かに功績分の報酬はあるが、捜索隊の給料をその分から少し引いとくからな!! ちったぁ反省しやがれ! あと、お前等今後2週間は活動休止な!!」
「そ、そんな~」
「そりゃ横暴だぜ!」
「うるせぇ!! その間お前等は検査とか調査とか受けてもらうからな! 拒否権はねぇ!」
そういうことになった。結局未知の探索箇所の発見と、魔人の撃退、そして各種素材の諸々を合わせて一人10000ペスタ(日本円にして約100万円)近くをもらえた。これによって「暁の剣」の借金生活は終わりを迎えた。その代わり、オレ達は様々な検査を綿密にやらされた。理由の一つとして、あの後メンバーや【一刀両断】の霊力が激増したからだ。具体的には1~2段階は上昇した。
結果から言うと、限界まで瘴気に浸食されかけ、そこから復帰した事による身体の反応によるものと断定された。
そしてオレ。オレについては特に念入りに調べられた。光の霊力などはこれまで存在していなかったため、その性質や効果、応用性など様々な角度から検証が成され、実験が行われた。
それによると、この光の霊力というものは、瘴気に対して非常に強い効果を発揮するらしい。浄化とは一線を画す程の浄化力で、展開するだけで暗黒領域の周囲の瘴気が薄れていくようだ。つまり、瘴気の減衰がない。
攻撃面で言えば、氷や土以外の属性のまねごとならできそうだった。動かすのが極端に難しいが。
様々な検証をした結果、レーザー光線のように使うのが今のところ一番いいようだ。ただ、この光への変換は非常に疲れる。具体的には何もしなくても30分も保たない。こんな調子だと全然使えないため、訓練が必要だ。
そして、コルテスを撃退したときの力。あれは全く分からない。確かに自分で引き出した。しかし、
だが、オレには予感がある。記憶を少しずつ取り戻しつつあるオレは、いずれたどり着けるだろう。その時にオレが感じていた、何があっても折れなかった強い意志を持つ事も可能になる筈だ。だが……そのためには封印していた記憶を更にこじ開ける必要がある。今でさえかなりきついのに、これ以上となればオレは耐えられないだろう。今回の〝力〟の覚醒が中途半端なのもそのせいだ。
だから鍛えなければならない。もっと強く。もっとしなやかに。何事にも折れない強い意志と肉体を持てるようになるまで。
◇
「あ、ナギくん。2日ぶり。調子は……悪そうね。顔色ヤバいけど大丈夫?」
2日の休養を挟んで、久しぶりに買い出しに街に出て見れば、フロウとバッタリ出くわした。フロウは今日はプライベートモードのようだ。青いワンピースと麦わら帽子という出立ちだ。帽子から覗く水色のショートボブが全体に非常にマッチしている。
フロウはあれから何かとオレを気にしてくれる。オレとしては素直に嬉しいし、過酷な記憶に晒される今、かなりの癒しになっている。ここ最近だとパーティー内ではエルよりも会話をする人物でもある。オレとしては、この緩いとも違う不思議な感じが喋っていて楽だと感じるからだ。
「ねぇ、聞いてる?」
そんな事をつらつら考えていたら怒られた。慌てて会話に乗る。
「あーうん。前も言ったけど最近不眠症でね。身体自体はピンピンしてるから大丈夫」
「ふ〜ん……まぁあんな事あったから仕方ないかもしれないけどね。何かあったら相談してよね」
「あぁ、分かった。頼りにさせてもらうよ。ところでフロウは何してんの?」
「私? 今日は丁度買い出しだよ。借金返し終わったし、余った分で装備とか更新しようかと思って。ナギくんも?」
「オレも同じさ。消耗品とか装備品をそろそろ切り替えようかなって。それにしてもエルとサラはいないのか?」
「あ”ーあの2人ね……エルは全員で行くって貴方も誘おうとしてたんだけど……サラがね」
なるほど。察した。エル……お前年上追ってる場合じゃないだろ。アイツはどんだけ鈍感なんだ。鈍感系主人公か。
「そーゆーわけで、1人寂しく買い出しに行く事になったフロウちゃんの図って事。でもこのままだと変なの寄ってくるし、折角だから一緒に行かない?」
「オレがその変なのじゃなくて光栄だね。ちなみにロベルトの事?」
「正解。興味ないって言ってんのにしつこいのよね」
なるほど、虫避けってわけか。哀れロベルト。すまんね。ではありがたくエスコートしよう。