ティエラの地より 〜転生少年、深淵に挑む〜   作:エアロダイナミクス

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3、ドニさん

 

 

 

 

 

 

「帰った」

 

「お帰り〜〜! どうだった!?」

 

「そこそこ、だ。飯はあるか?」

 

 

 

 

 

 ドニさんが仕事から帰ってきた。大体半日ぶりだ。彼は重そうな金属の鎧を取り外し、剣を壁の置き場にひとまず飾る。この鎧と剣もマジでかっこいい。オレの中の少年のハート(現在は見た目も少年なので何も問題ない)を鷲掴みにして離さない。オレもいずれ専用の装備が欲しいものだ。専用装備…いい響きだ。男の子ってみんなそうじゃん? で、彼が装備を外している間、オレはというと、彼の分の食事を用意して待っていた。

 

 食事は固いパンと塩味のスープだ。サラダは自家栽培で出来た謎野菜を収穫した物を茹でたやつ。これが基本だ。現代日本の知識を持ってる身からすれば全く物足りないものであるが、もう慣れた。要は栄養が摂れればいいのだ。

 

 濡れたタオルで身体を拭いて部屋着に着替えたドニさんは、テーブルの前に座る。

 

 

 

 

 

「主よ、日々の糧をいただきありがとうございます。御名が聖とされます様に。我等の罪をお許しください。我等も人を許します。我等を悪に陥らせず、悪からお救いください──」

 

 

 

 

 

 ドニさんが食前の祈りを行う。彼は敬虔な神の信仰者である様だ。オレもそれに習って唱和する。祈りが終わり、食べ始める。彼はこういう質素な料理を食べる時もスマートだ。まるでどこかの貴族の様な振る舞いである。

 

 

 

 一通り食事が済むと、報告の時間だ。

 

 

 

 

 

「どうだった?」

 

 

 

 

 

 これは本日何もなかったか? と言う質問だ。最初は何を指すのか分からなかったが、慣れると大分分かるようになった。

 

 

 

 

 

「今日はウチにアナベルさんが来た! ドニさんにって自分ちで採れた野菜を持ってきてくれてさ。いやぁ、いつもありがたいね! だからお礼に家のトマトをあげたよ」

 

「……そうか」

 

 

 

 

 

 これで会話が終わる。この人は本当に寡黙だ。ずっと会話を続けるのは中々難しいし、コツが必要だ。だからこそ、こちらで質問の意図を吟味して返す必要がある。

 

 アナベルさんは近所に住んでいる牧場の娘さんで、なかなかの器量よしだが、どうやらこのドニさんに気があるようだ。しょっちゅうこの家に来ては何くれと世話をしてくれている。まぁ分かるよ。ドニさんイケメンだからな。ただ、気付いているかいないか分からないが、本人にその気は無いようだ。哀れ、アナベルさん。

 

 

 

 

 

「今日はどこまで行ったのさ?」

 

「……中層だ」

 

 

 

 

 

 今日の「ダイブ」はかなり本格的だったらしい。道理で武具が損耗しているわけだ。ただ、瘴気は付いていないことから帰ったその足で浄化・洗浄をしてきたらしい。勿論本人も。瘴気はそのままにしておくと周囲を侵食し始めるので、必ず浄化する必要がある。この浄化とはダイバー組合が行っているもので、専用の職員が担当している。

 

 ダイバー組合は、この街の中心地にある。この街の生命線と言っても過言ではないし、領主もその意見を無碍には出来ない程の権勢を誇る。なぜなら、「ダイバー」がもたらすモノはこの街の生活を支えるモノが数多く、もはやこの組織が無ければ経済が成り立たないと言うレベルまで来ているからだ。

 

 

 

 

 

 「ダイバー」は、「暗黒領域」に潜って魔物素材やアーティファクトを拾ってくる。ソレを浄化すれば、時には凄まじい恩恵をもたらす。例えば、建材の強度が通常のモノより何段階もよくなったり、武具の性能が劇的に向上したりという、冶金や建築素材の革命がたびたび起きる。他にも燃料の代わりになる液体といった生活に欠かせないモノや、果ては街を維持するインフラの根幹など様々だ。そして、魔物の肉もかなりの需要がある。具体的には、養殖の家畜や野生の獣とは比べものにならないほどに美味だ。当然値段は高いのでおいそれとは食べられないが、ドニさんが時折持ち帰ってくるので、オレも何度か食べたことがある。それは本当に美味で、この世界に合わないようなレベルの物だった。霜降りでは無いが謎の旨味があり、1キロ以上あったものをあっという間に完食してしまった。

 

 話がそれたが、そういうわけで、ダイバー組合はそれらを一括して管理し、異世界におけるギルドのような役割を果たしているのだ。ダイバー側も、素材を流通させる手間が省け、浄化サービスも付くのでありがたい存在であるらしい。そして、その流通した物品は街へ行き渡り、生活を改善していく。

 

 そういう風に言えば中々素敵な世界だと思うだろうが、そううまくはいかない。「暗黒領域」は常に人類の生存圏を狙うかのように侵略を試みるし、その斥候となる魔物の襲撃も激しい。定期的に魔物襲撃イベントが発生し、ドニさんはダイバー組合の依頼の元、防衛にかり出されることもしばしばある。年に一度は洒落にならない被害が出るため、人類も苦戦を強いられていると言う現状だ。

 

 

 

 

 

 

 

「それで、今日はどんなのを拾った!?」

 

「……」

 

 

 

 

 

 ワクワクしながら尋ねるが、答えは沈黙である。無念。ドニさんはオレにダイバーの話をすることをあまり好まない。興味を持たれる事を恐れているようだ。先ほどの情報は自分で街の住民やアナベルさんに聞いた物と、ドニさんの話の断片から得た物だ。我ながら頑張ったと思う。とにかく、この街はドニさん含むダイバーの活躍によりどうにか安定しているような世界であると言うことだけは理解した。

 

 

 

 

 

「では、寝る。明日も潜る。お前も片付けたら早く寝ておけ」

 

「は〜い」

 

 

 

 ドニさんが食器を片付けながらオレに告げる。オレとしてはもっと話を聞きたいが、これ以上は何も言わないだろう。それが半年過ごして何となく分かった事だ。オレも深入りはせずに早く休もう。

 オレにとっては、日々の家事労働ですら重労働だからな。さて、明日も家事や手伝いなどをこなしながら情報収集に努めるとしよう。筋肉痛は辛いが、将来の投資と思えばなんて事も無いしな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ドミニク=シュトルバーンの手記──

 

 

 

 

 

 

 

 ○月○□日

 

 

 

 

 

 今日は中層まで進んだ。相変わらず気色の悪い場所だ。いつまで経っても慣れない。神経を削られるし、この辺まで来るとまあまあ魔物も強い。しかし、その分いい物が拾えると思えば我慢もできる。これで街の人々の生活も少しは良くなるだろう。私にはこれしか出来ない。人々の安寧を護り、平和を守る。それが騎士であった私の仕事だったから。

 

 姫の最期の言葉は、今でも私を奮い立たせる。それがなければとうの昔に瘴気の中で殉死して屍を晒しているだろう。姫の無念はいかほどだったか。自分の無力さを思うと今でも胸が張り裂けそうになる。それでも彼女は民のために尽くした。自らの命と引き替えに。

 

 だからやらねばならない。生きて、生き延びて無辜の民を守り続ける。そして、いつかグラナドを復興する。それが、主人を失い、故郷すら失ってしまった私の生きている理由だ。

 

 

 

 私が拾った子供、ナギだが、相変わらず何を考えているか分からない。彼をたまたま迷い込んだ深奥層で見つけた時は、どうしたことかと目を疑った。襤褸を纏った()()()子供が深奥級と渡り合い、あまつさえ殺していればそう思うだろう。私も初めて見たときは新種の魔物かと思ったほどだ。唯一奴等と違う点を上げれば、彼から瘴気を感じないということだけだ。だから、私は彼が深奥級と相打ちになった時にその場から速やかに去ろうと思った。階層的にもそもそも私がいて良い場所では無かったし、彼が目覚めれば次に狙うのは私だという恐怖に駆られたからだ。そう。恐怖だ。私は彼に恐怖を感じていた。

 

 しかし、私は結局白髪になっていた不思議な彼を拾った。なぜそうしたのか自分でも分からない。途中で人間ならば死ぬと言うレベルの怪我を修復し始めたのを見たときに、何度も今のうちに殺しておけば、と思うことがあったが、結局連れて帰ってきてしまった。寝てる姿を見れば普通の子供と変わりがないし、阿呆な所もあるが、子供らしいと言えばそれまでだ。それこそ擬態かもしれないという疑惑が今でもたびたび持ち上がるが、一方で私の勘とも言うべき物が連れて帰るべしと主張していたのだ。もしかしたら、私の目的に役立つかも知れないと。それで現在まで至っている。

 

 目覚めたときの大泣きも、その後の彼の言葉も、そしてその子供らしくない行動や分別の良さも。そして底抜けに明るい所も何もかもが疑わしい。しかし、組合に連れて帰って浄化したときに消えたりはしなかったし、苦しがっている様子も無かった。そもそも彼は汚染されてなかった。組合では殺すべしとの声が大きかったが、私が発見者特権を利用して止めた。自分でもよく分からない行動だ。だからこそ、私は彼を見続けなければならなくなった。正直面倒だが、自分で言ったことなので仕方が無い。しっかりと監視し、少しでも怪しいところがあれば叩き斬る。そのつもりで接してる。

 

 彼は物分かりが良すぎるぐらい良く、私に見せる力もほぼ通常の子供と一緒だ。だが、たまによく分からないことを言い、よく分からないことをする。そして、失敗したときなどはばつの悪そうな顔をする。何なんだろうコイツは、と思うが、それほど害が無いので様子見をしている段階だ。最近はダイバーやその技、霊力に興味があるようだ。しかし、彼にダイバーをやらせるほど危険なことは無いだろう。特に今は。こちらの準備が整って、彼が暴走したときに止められるような態勢が整ったとき、試しに教えてみようと思う。

 

 長々と書いた。こんな夜もあって良いだろう。もしかしたら、彼はこの状況を変える者になるかもしれない。それが彼を助けた理由の大きな一つだ。だからこそ、私はこれからも生き延びて、しっかりと面倒を見ていくつもりだ。それが「折れない男(アンブレイカブル)」と揶揄された私の使命でもあるのだから。

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