ティエラの地より 〜転生少年、深淵に挑む〜   作:エアロダイナミクス

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30、デート

 

 

 

 

 

 オレ達は街道をぶらぶらと歩く。まずは消耗品の買い出しだ。薬師組合直轄の薬屋で、怪我薬や軟膏、毒消しの薬を始めとする薬品を買う。最低価格が50ペスタとかなり割高だが、これをケチると生死に関わるため出し惜しみはしない。実はオレは金をほとんど使わないのでかなりの貯金があるのだ。

 ここ最近でもパーティーの借金返還を手伝ったとは言え、なかなかの報酬が入っていたから余裕はある。驚くなかれ、30000ペスタ(日本円にして300万円)ほどの貯金があるのだ。

 なので、ここは遠慮せずに買う。ついでに包帯やタオルなども買っておく。あると便利なグッズだ。

 

 一通り買ったら次は念願の装備だ。オレの革の胸当ては無惨にもボロボロになってしまった。修理しようとしたが、ここまで壊れてると使い物にならない。オレは泣く泣く処分し、いい機会だと言うことで買い換えようと思い立ったのだ。

 場所は鍛冶組合直営店。ここは初心者から中級者までの武器、防具などの装備を幅広く扱っている。また、街の兵士の装備もここで取り扱っているため、常に賑わっている。当然値段はリーズナブルなのだが、それでも装備という物は高い。だが、今のオレは無敵だ。30000ペスタのパワーを今ここで見せてやる!

 

 

 

「……う〜ん」

 

「なんか……アレだな……」

 

 

 

 オレ達が見ているのは防具だ。今まで身につけていた普通の素材を使った防具でも2000ペスタだ。これが魔物由来の素材だと2倍から10倍へと跳ね上がる。それにしてもイマイチ気にいるデザインが無い。そして、いいのは高い。驚くほど高い。ちょっといいなと思ったのが最低でも約50000ペスタって・・・・・・。

 参ったな……。仕方ない、少しでもいい物をと思ったんだが、妥協するか。

 

 そうなると、このジャバリ素材を使用した革鎧になるが……どうも見た目がBANZOKU感溢れるワイルドな感じだが。値段が約4000ペスタね……。悪いけど正直微妙だな……。

 

 

「おや? カップルで品定めかい? フロウちゃんももうそんな歳なんだねぇ」

 

 

 年配の女性の店員が話しかけてきた。いや、まぁそう見えるよね。

 

 

「パーティー仲間、マルタおばさん。それにしても、もうちょっとまからないもんですか?」

 

「おや、残念。そこの坊やならアンタに良さそうなんだけどねぇ」

 

「もぅ! ほっといて! それでどうなの?」

 

「ま、いいわ。値段はねぇ。これでも直営店だからまけてるほうなのよ。ここ最近物価もまた上がっちゃってねぇ」

 

「う~ん……じゃあ持ち込みで希望通り注文なんてできないの?」

 

「あぁ、それならウチよりアレハンドロの店に行った方がいいわよ。ウチは既製品ですぐに用意できるのがウリだからね」

 

「え~! あの偏屈爺さん?」

 

「腕は確かよ。わがまま言わないで行ってきな」

 

 

 シッシッと店を追い払われる。この塩対応。いいのか? しかし、去り際にマルタさんはをオレを強引に捕まえて

 

 

「フロウちゃんはガード堅いけど乙女なところもあるから頑張りな!」

 

 

 とアドバイス(?)してきた。この年代のおばちゃんはそれ系の話をするのが義務と思っているらしい。まぁ変に反発すると面倒臭そうなので頷いておいたらサムズアップされた。激励されているようだ。なんか恥ずかしい。

 

 

 

 

 

 

 そうして街を歩くことしばし。休み中のことや装備について、霊力の増加に戸惑っていることや、光の属性についてなど、とりとめも無い話をしながら目的地へ向かう。場所はフロウが知っているらしい。途中でフロウおすすめの屋台で休憩する。食べるのはネギのような奴を丸焼きにした奴をソースにつけて食べるという豪快料理だ。ネギの丸かじりと敬遠していたが、実際食べると甘くてジューシーでメチャクチャ美味かった。また、ソースがいい。食べるほどに腹が減ったので、更に茸の内側に肉などを詰めて鉄板で焼いた奴も食べたが、こちらも死ぬほど美味かった。美食に目覚めそうだ。

 これ、暗黒領域産の奴ならもっと美味いんだよな……。ちょっと検討してみようかな。

 

 

 小腹を満たした後は、いよいよアレハンドロさんの店に向かう。この店は町外れにあって遠い。なんでこんな中央から離れたトコにいるんだろ? 偏屈爺さんって言ってたから人付き合いが下手なのか?

 ようやく着いた、らしい。だが、ここにはそれらしい看板が無い。するとフロウがてくてくと一つの建物へと向かう。当然オレも着いていくが、ここで合ってるのか? 

 そうした疑問も中へ入ることで解消された。店内には夥しいほどの武器や防具が綺麗に陳列されている。そして、その質はあの直営店の物とは比べものにならない。しばし見取れていると

 

 

「客ですよー! だれかいないですかー!?」

 

 

 と店内でフロウが大声で呼びかける。しかし誰も出てこない。

 

 

「じゃあ商品勝手にもってっちゃうねー!」

 

 

 

「馬鹿野郎!! 勝手に持ってくんじゃねぇ!!!」

 

 

 

 野太い声を張り上げて筋骨隆々の爺さんが出てきた。手には小型のハンマーを持ってる。いるじゃん。それにしても強そうな爺さんだ。そして、この人にはうっすら霊力が見える。元ダイバーかな?

 

 

「もー。いるなら早く来てよね! こんなんじゃ泥棒にあうよ!?」

 

「ハッ! オレの店から取れるもんなら取ってみろっつーんだ! 捕まえてぶっ殺してやるからよ。だいたい今は店番のメルがいねぇからしょうがねぇんだ。で、何の用だチビガキ。たいした用じゃなかったら叩き出すぞ」

 

「私だって来たくて来たわけじゃ無いの! 装備の更新したいから直営店行ったけど、マルタさんにここ紹介されたから仕方なくよ」

 

「ほう。んじゃ、おめーは客か。客なら早くそう言えってんだ」

 

「客以外の何があるってのよホントに……で、相談があるんだけど」

 

 

 

 やたらと元気のいい爺さんとフロウがケンカ腰で商談をしているのを見ると、どうもこの爺さんとは顔見知りらしい。話がスムーズで助かる。オレはと言えばその会話を聞きながら店の中の装備を物色している。武具は心を擽る。様々な鎧や武器を見ていると心が洗われるようだ。

 値段は見ないことにするが。しばし見ていたら、見覚えのある装備を見つけた。これは……。

 

 

「これはドミニク=シュトルバーンの装備だ。小僧。レプリカだがな」

 

 

 会話を終えた爺さんがオレの背後にいつの間にか立っていた。不覚。集中しすぎたか。しかし、やはりそうか。やっぱりいつ見ても素晴らしい威容だ。値段は……桁が3つ程間違えてないか? 売る気なくない? しかし、手入れをしていたから分かる。この鎧は……

 

 

 

「気になるか? 小僧。ドニの野郎の鎧はオレが手がけたからな」

 

「そっか……あれは凄い鎧だった。今思うとそう感じるよ」

 

「フン。アレはオレの最高傑作と言っていいモンだったからな。稀少な鉱石、魔法金属、魔物素材をふんだんに使いまくった最高の鎧だ。そうそう簡単にはマネできまい。あまりにも稀少すぎて一品物にしかならねぇところが欠点だがな」

 

「じゃあこれは?」

 

「これはオレが試作で予備を兼ねてに作った奴だ。言うなればプロトタイプだな。しかし()()()()だ。ガワはできたが、肝心の素材が足りてねぇ。今ではそれを取りに行ける奴もいねぇからコイツは未完成のままよ。あるいはオメェが完成させるかい? ドニの倅よ」

 

 !? 

 

「オレの事を知ってる?」

 

「逆にオメェの事を知らねぇ奴はモグリだろ。いろんな意味で有名だからな。オメェは」

 

 

 そうか……知らなかった。当然悪評もあるんだろうな。

 

 

「……この装備を完成させるのはまだまだオレには難しい。でもいつかはできるようになりたい」

 

「だろうな。ま、それができたならお前にこれは売ってやろう。で、あのチビガキから聞いたが、オメェも装備更新するって?」

 

 

 爺さんの問いにこくりと頷く。そして、持っていた素材を一通り収納袋から取り出した。

 

 

「……ふ~ん。これも中々いい鋼じゃねぇか。チビガキの奴と出所は同じ、と。魔法金属一歩手前だな。で、予算は?」

 

「……10000」

 

「ケッ、はした金じゃねぇか。あのチビガキよかマシだがな。中級者装備が精々ってとこだぜ」

 

「いや、オレ達はまだ銅級だからそれでいいよ。あまり頼りすぎると良くないし」

 

「地に足着いてやがるなぁ。そんな奴は嫌いじゃ無いぜ。よし。じゃあ10000でやってやらぁ。10日後にまた来い。したら揃って完成させてやるよ」

 

 

 10日!? そんなんで鎧ってできるのか? いや、普通は無理だと思う。この爺さんはやはり凄腕なんだろう。

 爺さんと細部の注文を詰めて店を出る。節約も兼ねて来たのに予算の3分の1以上を持ってかれたが、いいものが出来ると思えば安い物だ。完成が楽しみでならない。ジャバリの防具買わなくてよくった。10日後が楽しみだ。フロウが「ボッタクリじゃないかしら…」とかぶつぶつ呟いていたが、気にしないでおこう。彼女はちゃっかりゴネていい値段の短剣をサービスで付けてもらってたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、じゃあ私はここで。ナギ君もちゃんと休んどいてね!」

 

 

 

 そう言って颯爽と宿舎に戻っていくフロウを見送り、オレも帰路につく。そういやデートみたいなモンだったな。お互い意識してその感じを出さなかったが。なんか恥ずかしいっつーか。

 

 そしてフロウは休めとは言うが、身体は何ともないのだ。身体は。問題は精神の方だ。

 だから鍛錬しよう。少しでもあの記憶の事を考えずに済むように。寝てしまえばまたあの無限地獄が始まる。記憶を取り戻してから分かった。明らかに寝ている時間以上の長さの時間を体験している。つまり、この記憶はまだまだ終わりそうにないという事だ。

 

 

 だが、オレは折れない。それが真実であるならば最後まで見てやる。そうでなければ、あんなに頑張ってきた過去のオレが報われないからだ。オレだけはこの記憶を見届けなければならないのだ。オレが生きて、生き抜いた意味を知るために──

 

 

 

 

 

 

 ザザザザザザザザ──

 

 

 

 

 無限とも思える大地をひたすら歩く。同胞達も同様に歩く。飢え、渇き、疲労した身体に鞭打ちながらも必死に歩く。少しでも距離を稼げば襲撃もそれだけ伸びる。絶望的な状況の中で何回も死んで分かったことだ。空は相変わらず気味の悪い紫色に染まり、渦を巻いている。以前はその空が割れて顔が覗いたこともあった。その時は当然のように全滅した。何をされたかすら分からなかったからむしろマシな方だった。

 

 一体ここは何なんだろう。昼も夜も無く、恐ろしげな曠野である事とそこには無限とも思える化け物どもが棲んでいると言うことだけは分かっている。

 そしてオレ達はそこに餌、または娯楽として放り込まれている。一回で終わるならまだ救いがあった。しかし、死ぬたび、全滅するたびに何度も何度も繰り返していく。せめて記憶がなくなればいいのにと幾度思ったことか。

 しかも、少しずつ、少しずつ風景は変化していく。物凄く緩慢な変化で分からなかった。しかし、何度も繰り返すうちに確実に変わっている。

 

 そう。ここに来た当初はこんな風景では無かった。曠野は曠野だが、もっと人の住めるような、人の住んでいた場所と変わらないような何の変哲も無い場所だった筈だ。まばらに草木もあった。しかし、今はどうだ。もはや地獄と言っても差し支えないような光景になっているではないか。オレ達の全滅回数は三桁を超えて四桁まで差し掛かろうとしている。その度にオレたちは、何らかの階層を進んでいる様な気がしてならない。というか、順調に地獄の底へ落ちていっているような、そんな感覚だ。

 

 

 やっぱりここは地獄なのだ。

 

 

 何故オレはこんな所に来てしまったのだろう。前世でよっぽど悪いことをしてしまったのだろうか。来たときの事をもっと思い出せればその謎も解ける気もするが、どうしても思い出せない。まだ今はその時ではないようだ。

 とにかくオレ達はこの場所に放り込まれ、飢え渇きながら化け物と闘い、そして喰われて死んでゆく。それを何らかの条件を満たすまで無限に繰り返さなければならないようだ。いつ終わりが来るかも分からない。そして、まだまだ奴等には勝てない。

 

 

「危ない!」

 

「え?」

 

 

 隣を歩いていた男に前の方から警告が飛ぶ。しかし、遅かったようだ。隣の男は疑問を発した直後に口から血を吐く。見ると腹部から巨大な鋭い爪が生えていた。

 

 

「ぐ…ぐぶっ……」

 

「シ、s△c◯u@62ッ!!」

 

 そのまま彼は持ち上げられ、真っ二つに裂かれた。臓物が飛び散る。敵だ。仲間が死ぬのを見るのはいつになっても慣れない。化け物の奇襲。あがる悲鳴。戦闘態勢に入る仲間達。今回は特にリーダーが真っ先にやられてしまったから、状況はすこぶる不利だ。中には恐怖で顔面を白くしたり、小便を漏らしている者もいるが、気にしない。どうせ仲良く肉片にされるのだ。()()が早く漏れただけのことだ。

 

 しかし、仲間達もこれだけ何度も死んでいるのにまだ恐怖の感情を保つことができるというのはある意味羨ましい。聞けば確かに記憶は多少保っているが、どうも死んだときの事はかなり忘れているらしい。だからいつまでもいつまでも初めての襲撃の時のような新鮮な恐怖をもって敵と相対しているようだ。

 

 

 オレ()()()()()

 

 

 全てを覚えていた。死ぬ間際の苦しみも、痛みも、身や心が千切れるほどの激情も。何度も何度も死に、それを全て覚えているという苦痛。

 理由は分からない。発狂しそうになったことなど数え切れない。

 しかし、発狂したらそこで終わりだ。だからこそ耐え抜いた。

 

 

 ──必ず   するために。

 

 

 幸いなことにしばらく死に続けると何も感じなくなってきた。死に対する恐怖も絶望も慣れて……擦り切れていくものだ。だが嫌な物は嫌だし、恐怖や絶望が無くなるわけではない。だからこそ、全てを殺意で塗りつぶしていく。状況を打破するため。理不尽な死に抗うため。

 

 そう、オレはただただこの理不尽な死に対する怒り、そして必ず   という意志の元にこの地獄で抗っていた。

 

 何故他の者と若干違うのかは分からない。だが、オレは決して折れない。そして、この回もオレはボロボロになりながら必死で抗い、溶解液の様な物で溶かされ、絶叫をあげながら消えていった。

 

 

 

 再び起き上がる。もう何度この光景を見たか分からない。どれほど続くのだろうか。これを何とかする為には、生き延びなければならない。いくら不思議な力が目覚めたとはいえ、今のところ焼石に水だ。最初はこの集団から離れようと動いた事もある。しかし、死ぬたびにここに戻される。だから諦めた。人々は徐々に減っていっている。いずれ1人になってしまうだろう。それもまたよいかもしれない。この集団でやられるというのは精神的に堪えるのだ。

 周りは泣いている者がいる。何も出ないのに嘔吐する者さえもいる。目覚めたてでまだ生々しい記憶がどこかに少し残っているか何かだろう。しばらくすれば落ち着く。

 

 

 彼らに特別な感情を抱いてはいけない。余計に辛くなるからだ。助けられるものなら助けたい。しかし無理なのだ。人のこと以前にオレ自身がどうにもならない。そこをクリアしない限り無理だろう。

 そもそもこの何も無く、ただ理不尽と暴虐とが渦巻く地獄で、ちっぽけな義憤はまるで役に立たない。むしろ足枷にしかならない。

 だからといって見捨てるわけにもいかない。だから闘う。仕方なく。勝てるようになるために。

 

 

 

 闘って、闘って、闘い抜いた先に光があると信じて──

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