ティエラの地より 〜転生少年、深淵に挑む〜 作:エアロダイナミクス
やはりガチガチのダクファンは無理があったかなと不安になるこの頃。
──でもそんなの関係ねぇ!
あれから3日経つ。その間オレは特殊依頼という名の強制依頼をこなしていた。3日前は教会で奉仕活動。教会トップは妙齢の女性、マリア=エローラさんだ。慈愛に溢れた眼をした美人だが、神の伴侶という事で独身。本人曰く、神に全てを捧げているという。
かなり大きな組織である教会は、この街の孤児院や炊き出しなどの福祉も担当している。元々「教会」はそこまで大きい組織では無かったが、マリアさんの手腕によってあれよあれよと活動が広がり現在に至るらしい。そう考えるとバリバリの人に思えるが、実際はその狂信的とも言える慈愛によってそうなったらしい。
今回オレはその手伝いかと思ったが、違った。どうやらオレも保護対象という事で、信者やシスターの方々から上も下も置かない歓待を受けた。……こんなので依頼料を貰っていいのだろうか、と不安になったが、ちゃんと仕事はあった。最後にいきなり主祭壇の前に立たされて、〝光〟の霊力を出して欲しいという事だったのでやってみると、祈りを行っている信者の方々が一層熱心に跪き、祈りを捧げ始めたのだ。そこにマリアさんの語りが加わる。
「皆さん、今まで我々は苦しい世を耐え抜いてきました。しかし、神は我々を見捨てませんでした! ご覧ください! この神々しさを! 神は我々衆生をお救いになる為に彼を遣わしました。闇に溢れる世界で、これは希望でもあります。希望の光、正に太陽の様に! 今! 我々は奇跡の立ち会い人となるのです!」
人々は感激して歓声を上げ、老人などの中には涙を流して拝む者もいた。これってプロパガンダだよな……。正直これには参った。参ったが依頼なので仕方がない。しかし、こんな事をやってしまってオレはまた【暗黒領域】に潜れるのだろうか?
などと、そこはかとなく不安になりながらも依頼を無事に終えた。帰り際に割と逝っちゃってる目でマリアさん含むシスターズから「恩寵を」と意味深な言葉で迫られたが、丁重に断って振り切って逃げてきた。だって怖かったんだもん。あれは獲物を狙う目だった。
勿体ない、と後から話を聞いたエルが言ってたが、実際にその場にいてみろってんだ。そういう事に興味がないとは言わないが、あんなゾンビみたいな目をして来られると怖すぎて無理だ。というか、神の伴侶じゃ無かったんかい。
あれは確実にオレを取り込もうとしてた。乗ってしまったら見えない鎖で雁字搦めにされてしまうこと間違いない。とりあえず次があったらあのハゲ組合長に報告して釘を刺して貰おう。
ちなみにそれを横で聞いていたサラはゴミを見るような目でエルの頬をつねりあげていた。フロウは何を考えているか分からない顔をしていたが、若干怖かった。
そして2日前は薬師組合で、薬品の精製における〝光〟の霊力の実験、昨日は鍛治組合で同じような実験を行った。いずれも普通の霊力よりは若干早く出来る利点があったが、特に特殊な効果が見つかったわけではないので、少しホッとした。
これ以上この街に拘束されるのもどうかと思うからだ。オレにはやらなければならない事がある。その為にはダイバーに専念したい。
そして、遂に新装備完成の日。オレとフロウはアレハンドロさんの店に連れ立って向かった。ちなみにエルとサラは鍛冶組合から直接新装備を購入していた。結局何にしたんだろう? 少し気になるが、オレ達の装備ができあがるのを待ってお披露目したいそうだ。
「よぉ。来たか。もう出来てるぜ」
アレハンドロさんの店に入るやいなや、彼が店の中でキセルを吸いながらオレ達に話しかけていた。そしてその傍らには、鈍色に輝く鎧や装備一式が置かれていた。
……これがそうか!
「小僧もチビガキも中々いい鋼を持ってきやがったからな。久しぶりに気合いが入ったぜ。小僧のやつは予算的に全身鎧とまではいかねぇが、それに近い感じで作ってある。チビガキの方はコレまで来てた防具を改良した形だな。ついでにその鋼で作った短剣と小盾も持ってきな」
「チビガキってのをいい加減止めてよね……。でもまぁ、いい感じね。さすがだわ」
「ふん。オメェはいつまで経ってもチビガキだろがい。悔しかったらもちっと精進しな」
「いつまでたっても偏屈ジジイに言われたくないわね! そんな事言うならもっと潜れるようになったときの素材を卸さないからね!」
「馬鹿め。仮に高級な素材を持って帰ったとして、オレ以外の誰が加工できるってんだ。馬鹿も休み休み言え」
「ムキーッ! 馬鹿って言う奴はたいてい馬鹿なのよ!」
2人してまたギャーギャーとケンカ腰で騒いでいるが、これはじゃれあいの一種だろう。どうも古くからの付き合いらしいし。羨ましい事だ。
そんな事よりも、この新装備……素晴らしい。一見変哲の無い金属鎧に見えるが、恐ろしく精巧に、そして頑丈に作ってあるのが見て取れる。なだらかな鈍色の中に、きめ細かい、美しい木目調の模様が入っている。それがこの装備の格調を上げている。
「コイツはダマスカス鋼ってんだ。前も言ったがこれは魔法金属一歩手前のものでな。しなやかで折れにくい。防具にすりゃ薄くても恐ろしい強度を発揮する。つまりお前の新装備は、ダマスカスの鎧って訳だ。じゃあ試しに着てみるか。前に計ったが、ズレがあるといけねぇからな」
いつの間にかケンカを終了したアレハンドロさんが解説してくれた。そして、着付け方も教えてもらい、実際に装備してみた。
……軽い。見た目からは想像できないほどの軽さ! そして間接部を邪魔しないで不自由なく動かせる可動域の広さ! コレなら全力戦闘でも装備無しとほぼ変わらないパフォーマンスができそうだ。内側には何かの革が貼られていて、鎧と言うよりはまるで服を着ているかのようだ。それぐらい金属を着ているという感じがしない。今までの胸当て含む装備も悪くは無かったが、着心地があまり良くなかった。すぐ蒸れるし、金属部分がこすれて痛いのだ。後から見ると酷いときは肌が擦り切れたり、皮が剥けてたりする。それからすると大満足と言える。
これでオレの方も安心だ。何だか一段階強くなったような気さえする。とりあえずオレの現在の装備状況を見てみよう。
ナギ=シュトルバーン♂(15)
武器:ドミニクの大剣
防具:ダマスカスの胸当て(NEW!)
ダマスカスの小手(NEW!)
ダマスカスのすね当て(NEW!)
ダマスカスの額当て(NEW!)
ライトブリンガー(NEW!)
道具:収納袋(中)
・ランプ
・ドニさんの羅針盤(封印)
・ドニさんの特製周辺地図(封印)
・羅針盤
・地図
・ナイフ各種(解体・採取用)
・救難信号
・拠点用設備
・携帯食料
中々のものになっている。例のライトブリンガーはそこまで邪魔にならないので、収納袋ではなく腰のベルトに差している。これですぐにでも取り出す事ができる。いい感じだ。無論メインウェポンはドニさんの大剣である。この剣もただの大剣に見えるが、実はかなりの業物であり、貴重な素材をふんだんに使っている。また、相当な修羅場をこれまで潜っている為に、魔物に特化した性能になっている節すらある。装備が変わろうと、この武器だけは変わらず使っていくつもりだ。
ふとフロウを見ると、フロウもいつの間にか着替えていた。フロウの方はこれまでの装備とはうって変わって洗練された装備になっていた。全ての装備にダマスカス鋼を要所要所で組み込み、防御力を格段に上げている。それに伴い、ファッション的にもスマートな装備であるため、初心者には見えない感じに仕上がっている。
フロウ=アマネセール♀(15)
武器:ダマスカスの短剣(NEW!)
防具:防刃のダマスカスの服(NEW!)
ダマスカスの小手(NEW!)
防刃のダマスカスズボン(NEW!)
ダマスカスの小盾(NEW!)
道具:収納袋(極小)
・ランプ
・羅針盤
・地図
・ナイフ各種(解体・採取用)
・救難信号
・拠点用設備
・携帯食料
月並みだが、非常に防御力が強そうだ。要所要所のダマスカス鋼がいい感じで装備にマッチしている。
ゴツいから強いというわけでは無く、ダマスカス鋼の特性として、薄くても凄まじい強度を持つということから、スマートな外見を維持できるのだ。よって、美しくすらある。
しかしこれは何も格好良さのためでは無く、動くのに負担を掛けないという設計思想もあるからだ。無論、予算の関係でふんだんに使用できないという事情もあるが。
フロウも満足げな表情で新装備の使い心地を確認している。気になったところがあればその都度指摘して微調整を賭けている。ダマスカスの小盾も加わり、アレハンドロさんには隠しているつもりだろうが、ご満悦な表情が隠し切れていない。恐らく帰ってからも装備を愛でるだろう。そんな雰囲気を感じる。オレもそうするつもりだから間違っていないと思う。
さて、新しい装備も揃った。エル達はどうなっているかな?
◇
「うおっ! すげーなお前ら! かっけぇ……!!」
新装備を微調整して貰って、アレハンドロさんの店を出る。そして、待ち合わせていたエル達と合流する。場所はウチだ。そして、出会い頭の一言がコレである。
エル達はエル達で新装備を着ていた。その概要はこうである。
エルネスト=ガルシア♂(15)
武器:猪牙の双剣(NEW!)
防具:ジャバリの胸当て(NEW!)
ジャバリのマント(NEW!)
ジャバリの小手(NEW!)
ジャバリのすね当て(NEW!)
ジャバリの兜(NEW!)
道具:ランプ
ナイフ(解体・採取用)
携帯食料
煙玉
ロープ
見事にまとめてきたエル。オレが避けたジャバリ装備一式を身に纏い、BANZOKU風のワイルドな出で立ちとなっている。だが、着ているのを見るとコレはコレで中々いい感じだ。値段の割には性能も良さそうだ。
彼らは武器もあるから、あまり高価な物は買えない。そこで店売りの中からチョイスしてきたようだ。
そんな彼が武器として選んだのは、ジャバリの牙を加工して双剣にしたものである。鉄より耐久性は若干落ちるが、その代わり霊力の通りが良いらしい。
そしてサラ。
サラ=マルティン♀(15)
武器:ルナールの槍(NEW!)
防具:コルミロの防刃服(NEW!)
コルミロのマント(NEW!)
鋼の小手(NEW!)
鋼のすね当て(NEW!)
パガロ鳥の羽帽子(NEW!)
蓄電のバレッタ
道具:ランプ
ナイフ(解体・採取用)
携帯食料
煙玉
簡易罠
基本的に魔物素材を使った装備と金属装備というのがコンセプトのようだ。素早さをウリにしているからだろう。それでも要所要所は硬い金属装備で守っているようだ。こうしてみると鍛冶組合の方も良い仕事をしている。
武器の方は角付き魔物であるルナール(モグラ型魔物)の角をそのまま流用した槍である。これを採用した理由はエルと同じだ。少しでも霊力の通りが良くなるようにということらしい。また、おしゃれポイントとしてマントと羽根帽子があげられる。羽根帽子の方は防御には少し貢献できるかな? と言ったところだ。
「う〜ん、2人とも結構いい感じね。いくらした?」
「1万」
「え?」
「1万」
「……マジで? ウチらは全部で5000程度なのに……奮発したわね……てか、フロウ! アンタカツカツじゃなかったっけ!? どうすんのよ!」
「フッフッフ……また野菜の切れ端生活が始まるわ……!」
「後先考えなさいよね! 全く……差し入れするからしばらくそれで凌ぎなさい」
「それにしてもすげぇ装備だなぁ。あの爺さんの店だろ? 次買う時はオレもそっちにしようかな?」
エルはひたすら感心しているが、サラはその値段についてフロウに詰め寄っている。とはいえ、これで全員の装備が更新された。もうすぐ謹慎も明ける。楽しみだ。
「あ、そろそろ謹慎明けだけど、オレらはそのまま依頼受けずに街で待機な」
……マジ?
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