ティエラの地より 〜転生少年、深淵に挑む〜 作:エアロダイナミクス
ちょっと遅くなってごめんなさい。書き溜めの直しが中々捗らず…!
もしかしたら今日は2話かも…でも一万字あるから許して(震え声)
謹慎明けなのに待機とはこれいかに。実質謹慎延長じゃないか。
「エル、それってどういう事だ?」
「もうすぐ〝朔〟が来るらしいって天文組合が予測したらしい。んで、正確な日程が出たからダイバーパーティーのリーダーには先日通達があったんだ」
「! そうか、もうそんな時期か……」
基本的にはというのは、それ以外にも起こりうるからであり、未だにそのメカニズムは詳しく分かってはいない。
例外もいくつかあるが、特に皆既月食の〝朔〟、皆既日食の〝触〟には、その規模と危険度が格段に上がる。何年か前の大規模襲撃は〝触〟だった。普段街周辺どころか低層にも現れない中層級が大量に現れた事などから、どのぐらいヤバいかが伝わるだろうか。
今回は〝朔〟である。3年に一回程起きるこの現象の時は、〝触〟程ではないが大規模な襲撃が予想されるのである。
「……って事は、初の防衛戦か」
「そうなるな。ま、ペーペーのオレらはそんなにヤバい所には配置されねーから心配ないぜ」
「でも、規模によっては当然戦闘もあるでしょ?」
サラが口を挟むが、エルは鼻を鳴らして答える。
「ふん。奴等はまずは門を突破しなけりゃ話にならねーからな。マドリーの門はそんなヤワじゃねぇ。心配するな」
「3年前の『バラスの悲劇』の事忘れたの? 何が起きるか分からないのが〝朔〟じゃない」
「うるせーなあ! 大丈夫だっての! 全く心配症が過ぎるぜ」
「あによ! 当然の事言ってるだけじゃない!」
ケンカが始まった。こりゃしばらく続くな。とりあえず防衛戦が始まるのは理解した。あの時は何も出来なかったが、今度こそはオレも街を守ってみせる。
それがダイバーとしての務めだから。
◇
「……【黄金の翼】、【疾風怒濤】、【獅子の牙】、【竜頭】は東門の防衛に回れ。以上だ」
ダイバー組合の闘技場にほぼ全てのダイバーが集められ、ビト組合長が配置を指示している。何故闘技場かと言えば、そこしか入らないからだ。現役ダイバーの数は約400。人口比で言えば1%未満だ。しかし、それ以上ダイバーを増やすのは難しい。街の状況を考えてもギリギリの数なのだ。
ダイバー達は階級ごとにそれぞれの門を割り振られて、防衛に当たる。後は、それぞれの門担当の階級が上のダイバーが上級組合員から指示を受けて、現地で下の者達に指示を出す。簡単に言えばそういう流れだそうだ。
問題は、オレ達を含む幾つかのパーティーが割り振られていない事だ。
「おい! 組合長! オレたちはどこになるんだ!?」
エルが代表して聞いてくれた。それに対し、組合長は何か含んだ様な表情を見せてしばらく沈黙したが、意を決したように答えた。
「……あー。【暁月の剣】、お前等は北門の後詰めだ。ただし、お前等は【天上天下】と合同パーティーだ。いいな?」
!?
「な……!? 後詰め!? しかも【天上天下】って……最上級パーティーじゃないか!! なんで……」
エル達が驚きの声を上げる。オレもそうだし、周りも驚きの声をあげている。北門は毎回激戦になる場所ではあるが、その分等級が高めのパーティーが割り当てられるらしい。その証拠に今回も
無論彼だけではなく、そのメンバーも軒並み
彼らはその強さから、組合の最終兵器のような扱いであり、このような襲撃の際は防衛の要となる人材であるはずだ。それが、何故オレ達と合同パーティーで、しかも後詰めなんだ……?
「疑問に思うかも知れねぇが、これはこの街の方針を決める会議で、領主も承認済みだ。当然、【天上天下】にもな」
「そういうことだ。坊主ども」
「「「「!?」」」」
背後から声がしたため振り返れば、2メートル近い身長の大男が声を掛けてきていた。黒い意匠の胴着風の鎧を身につけ、なんとも言えない異彩を放っている。こんな存在感のある人物が真後ろにいたのに全然気がつかなかった。このことからも実力が相当隔絶していることは理解できた。エルなんかは呆然としすぎて硬直している。
「まったく……仕事とは言えお守りとはねー。ま、楽できそうだからいいけどー」
「余計なことは言うな、ルチア」
「…………」
その背後から、これまた強烈な存在感を放つ3人が現れた。恐らくこの人達もメンバーだ。3人いるが、2人が女性、1人が男性である。奇しくもオレ達と同じパーティー構成だ。しかし、その様子から余り歓迎されていないらしい。
「あの……」
「後ろにいるのがエレーナ、アイヴァン、ルチアだ。いいか? お前等は余計なことをせずに黙って従え」
「あ、オレ達は…」
「お前等の名前に興味は無い。今言ったことを守れ。いいな? 以上だ」
そう告げると、彼らは振り返り、闘技場から去る動きを見せた。何だあれ。一方的すぎないか? その思いが通じたのか、マリウスが振り返る。
「……1人だけいたな。シュトルバーン。貴様は特に余計なことをするな。いいな」
その言葉を最後に、彼らは闘技場を後にした。なんか、よく分からないがオレに対して思うところがあるらしい。正直言って迷惑なんだが、この組み合わせにしたのはどういうことだろう? 組合長を見ると、補足を入れてきた。
「【暁の剣】には悪いが、これは決定事項だ。なに、万が一の措置だし、仮にあったとしても奴等の動きは参考になるだろう。できればいろいろ学んでこい。とりあえずアイツらの言うことに従っとけ」
「いや、別に良いんですけど……なんかあの人達、棘ないですか?」
「まぁ…そうだな。マリウスは特にな。アイツはドニと肩を並べることのできる、唯一の男だった。いわゆるライバルって奴だ。ドニは全然関心無かったから余計にな。ただ、感情で仕事に手を抜いたり妨害したりするような奴じゃねぇから安心しろ」
肝心の配置に関する説明が無い。そして、これ以上説明する気は無いらしい。仕方ない、そして、あのトゲトゲしさは、なるほど。そういうことか。後でパーティーメンバーにも謝っとこう。
その後、組合長から全体説明がされた。作戦開始は明日の夜、暗黒嘯はおよそ午後8時をすぎた頃から始まるらしい。暗黒嘯が終わるまで防衛できればオレ達の勝ちだ。負ければこの街の全てが瘴気に呑まれる。絶対に負けられない闘いだ。組合長が最後に檄をとばす。
「いいか! この街を守れるのはお前等だけだ! だからといって死ぬんじゃねぇ!! な~に、門が破られてもケツは何とかしてやる! 家族にダセぇ姿を見せたくないなら気張ってけ!! いいな!!!」
◇
「いくらトップパーティーだからって失礼しちゃうよね! やっぱりガブリエラお姉様が至高だわ!」
「…………」
「どうしたんだ? エルの奴」
「……エルは【天上天下】のパーティーには憧れてたのよ。昔っからね。マリウス、ドミニク、エヴァ……神に近いとも言われる
「ははぁ……まぁ、そうだな。エル、すまない。多分オレのせいだ」
「……自惚れるなよ。ナギ。そして見損なうな。お前のせいじゃねぇ。オレにあの人達を注目させるほどの力がねぇだけだ……そうだな。これからちょっとツラ貸せ」
エルはそう言うや否や、外へと歩き出す。ま、確かにそういう時は身体を動かすのが一番だ。サラもフロウと顔を見合わせて肩を竦めて着いてきた。オレも連日の悪夢と先程のでストレスが溜まりまくっていたから丁度いい。
明日が本番だけど知った事か。グジグジ悩むより動く。今はそれが一番だ。
◇
【SIDE:エル】
激しい剣戟の音が誰もいない丘に響く。抜き身の刃での模擬戦だが、お互い殺す前に寸止めは出来る技量はある為問題無い。
だが、ナギはここ最近で急激に強くなっている。まるで達人の様な太刀捌き。体捌きを始めとする理想的な身体の使い方。力の入れどころ、抜きどころなど、どれを取っても正に怪物級だ。
そして、つい最近、光の属性という他の誰にもない特別な力を発現させた。ナギはそもそもドミニク=シュトルバーンという稀代の英雄の唯一の弟子だ。彼の功績は計り知れない。そんな彼の弟子となれば、いわばエリートと言えるだろう。
元々ドミニクは他者とは馴れ合わず、トップダイバーにも関わらず非常に質素な暮らしをしていたらしい。そんな彼が子供を育てているとなれば話題にもなる。一時期は街の住人の間でかなり話題になった。孤児院暮らしのオレが知ってたぐらいだからな。しかし、彼はそんなナギをダイバーにする気は無かったようだ。そのおかげかしばらくしたら噂は沈静化した。
しかし、流れが変わった。ある時ナギが霊力に目覚めたという。そこからドミニクは彼を本格的にダイバーとして育て始めた。オレはその話を訓練所で聞いていたが、どうでも良かった。オレはオレだ。オレなりに過酷な霊力訓練や、厳しい体力向上訓練を行っていたから自信もあった。やがて、幼なじみのコイツ等とパーティーを組み、いっぱしのダイバーとしてのデビューを果たした。同期の中では一番早いことも自慢の一つだった。
そして、ドミニクが死んだ。あの【
そして、ダイバー試験。ナギはここでも観客の度肝を抜いたらしい。何があったかは知らないが、恐らくとんでもない才能を見せたのだろう。箝口令が敷かれてオレには情報が回らなかったが、その時はやはり、と思ったものだ。その頃のオレ達は中々ダイバーとしての活動が上手くいかず、四苦八苦していたからあまり興味を示さなかったが。その頃はとにかく苦しかった。同期にも先を越され始め、焦りもあった。
それが変わったのが、組合長から打診があった時だ。他ならぬナギをオレ等のパーティーに入れてくれるらしい。渡りに船だと思った。オレ達は一も二も無くその提案に飛びついた。
組合長からは奇妙な条件を元にその話をされた。曰く、「ナギに食らいつけ」と、「ナギを追い詰めろ」だ。前者は分かる。トップダイバーに育てられたホープだからな。叩き上げのオレ達より才能が凄まじいんだろう。だが、後者は納得できなかった。オレはイジメみたいなのはキライだ。そう告げると、組合長は笑いながら否定した。「そうじゃねぇ。過酷なミッションにできるだけ連れ出して、奴の力を引き出せ」と。訳が分からないが、よほど期待されているらしい。しかし、そんな彼をオレ達の所に入れるということはオレ達も期待されているということだろう。そう解釈して、ナギを受け入れた。
始めは傲慢な奴だったらどうしようかと不安だったが、それは杞憂だった。物腰柔らかく、愉快で、気も使える。だけど初対面での印象は不思議な奴、だ。年齢はあまり変わらないはずなのに、大人の余裕すら感じる不思議な奴。そんな印象だ。
そして、顔合わせを済ませてからの初任務。オレはこれまでとの違いに驚愕した。あまりにもやりやすい。やりやすすぎた。ナギ1人が入るだけでこれだけ違うのかと。総合的な戦闘力は余り変わらないが、瘴気の中での動き、サバイバル能力、視野の広さ、そして索敵能力。これらが桁違いに優れている。まさに、ダイバーとしての適性をもって産まれてきたような人間だ。この事から、オレはナギに絶対に食らいつこうと意識しだした。少しでも奴の秘密を探ろうと、普段の様子を観察したりもした。その結果、ナギは自主的に凄まじい訓練を行っていた。しかもそれが探索任務を終わらせた後も平然と行っていることに驚きを隠せなかった。
だから、一緒にやろうと提案した。提案して一緒にやってみたが、その後後悔した。死ぬかと思うほどの訓練をやってやがる。トップ層とはこれほどの訓練を行う物か、と。訓練所の訓練が生温く思えるほどの過酷さだ。教官もいないのにな。恐ろしくストイックな奴だと感じた。オレは何とか食らいつき、息も絶え絶えで、終わった後に宿舎でシャワーも浴びず爆睡してしまった。正直、付き合ってられないとさえ思った。
だが、そんなオレを動かしたのは、最後の模擬戦だ。その時は何とか勝てた。そのおかげで頑張ろうと思えた。その時のナギはまだ大剣の扱いに慣れていなかったからだろう。動きもぎこちなく、隙があった。だが、そんなアドバンテージはすぐに抜かれるだろう。この訓練を平然と行うような怪物。仮にもパーティーのリーダーとして負けるわけにはいかない。そういった圧倒的な危機感があった。だからこそ次からも参加しようと決意を固めることができた。なにもオレだけじゃ無い、オレに触発されてか、サラもフロウも参加しだした。フロウは面倒臭そうな顔をしていたが、サラが無理矢理引っ張ってきていた。フロウもそのうち積極的にやり出したけどな。どんな心境の変化があったのやら。
そして、3ヶ月。順調に依頼をこなす。まさに好調。一転してオレ達のパーティーは黒字を叩き出し始める。それを支えるのは、ナギの献身と地道な訓練だ。最初は訓練がキツすぎて死にそうだったが、1ヶ月後には慣れ始め、負荷をより強く行う様になっていた。
着実に力は付いてきている。霊力も強くなってきている実感もあり、動きも以前とは比べものにならないとさえ感じる。最近では索敵も練習しているが、コレばかりは難しい。どうやらセンスの問題かもしれない。
そして、
そして、連続での暗黒領域探索。正直、ナギを追い詰める為にガブリエラ教官はワザとそうやっていたように感じる。同期や先輩に聞いても、講習ではそんな事はしないらしいからな。それを特に感じたのは最後の模擬戦だ。
あれは酷かった。ひたすら全員ボコられた。喜んでたのはガブリエラフリークのサラだけだ。肉体も精神も極限まで追い詰められて、立ち上がれなくなった。サラとナギは特に念入りにボコられたが、ナギは立ち上がった。
そして、
だからオレも立ち上がった。サラはよく分からんが、恐らくフロウも同じだろう。負けたくなかったんだ。ガブリエラ教官じゃなく、アイツに。
そして、それからナギは劇的に変わった。単純な戦闘力の伸びが凄まじい。だが、その代わり、ナギは常に青白い顔をするようになった。まるで半病人のようだ。そして、常に何かを思い詰めるような、そんな表情をするようになった。まるで、力を得る代わりに代償を支払うかのように。しかし、その力は圧倒的だ。動きの桁が違う。もうオレでは敵わないだろう。それを確かめるのが怖くて模擬戦をやらなくなった。
そして、例の謹慎の件。正直オレは死んだと思った。いや、むしろそれよりも悪い。あの瘴気の侵食の中、魔人化という最悪の結末がよぎった。
あの魔人は恐ろしかった。格が違う。あの時オレは、これまでの人生が走馬燈として現れていた。それほどの絶望。
そんな絶望をナギは撥ね除けた。光の霊力によって。
あれを生き残り、一気にナギは、街の重要な戦力として計算されるようになった。やはり英雄の弟子は英雄なのだろう。今回の件もきっとそうだ。あの配置はナギの為だ。組合長は領主の了承とも言っていた。それ程ナギは重要視されているのだ。それは【天上天下】のパーティーの対応からも分かる。オレが憧れた彼らの眼中に、オレ達はいない。唯一、ナギだけが。彼らに注目されている。
つまり、オレ達は添え物だ。ナギという若き英雄の。
正直な所、オレは嫉妬していた。
だが、オレはそんな感情を認めたくなかった。だってクソダセェじゃんか。そんなの。何もかもがオレが弱いのが悪い。ナギを責めるのはお門違いだ。そんなオレを、オレ自身をブッ飛ばす為にナギに頼る。弱いオレをぶっ飛ばしてくれるのは、お前だけだ。なぁ、ナギ。
「だから……手を抜いてんじゃねぇ!!! 何だその剣圧は! バカにしてんのか!? それともオレに気を遣ってんのか!? ふざけんな!! そんな事されるのが一番ムカつくんだよ!!!」
「!! エル……」
困った顔をしてるな。まぁ分からなくもない。だが、付き合ってくれ。これはオレのワガママだ。しかし、ナギもこれじゃ本気を出しにくいだろう。だから、少し卑怯な手を使う。恨むなよ。
「どうした!? まさかお前はそんな甘ちゃんなのか? だとしたら、やっぱり噂は本当だったか」
「……? 噂?」
「お前が、あのドミニクを見殺しにしたって噂さ」
ビキッ、と音がする様な錯覚を覚える程、ナギからの空気感が変わる。やはりこれは奴の地雷か。組合長からは言及するなと言われていたが、別にいいだろう。英雄は、その程度じゃ揺らがない。
「エル! 流石に言い過ぎだよ! 謝んなさい!!」
サラが横から口を出す。だがもう遅い。見ろ。目の前の男を。まるで陽炎の様に闘気が揺らめく。そして、この圧! まるで
オレはお前に喰らいつく!
次の瞬間、2人で同時に動く。しかし、圧倒的にナギが速い。刹那、ナギはオレの撃ち込もうとした双剣をすり抜けて大剣をオレに滑り込ませようとしているのが見えた。これは…死ぬコースだ。だが、意地でも負けねぇ! 片手の剣の軌道を無理矢理変え、大剣をガードする構えを取る。腕から嫌な音がする。でも構わない。これぐらいしないと届かない! 当然片手剣では大剣を防ぎようが無い。でもいい。一瞬だけだ。当たった! だが瞬時に押し切られる。その力を利用し、身体を沈み込ませる。そして霊力を全て火に変換する。以前、一度だけ聞いた事がある。属性同調。聞いてはいたが、一回も成功していない。それをこの土壇場で挑戦する。無謀なのは承知だ。だが行ける! いや、今しかできない。燃やせ、霊力だけではない! オレの存在、全てを!
◇
【SIDE:ナギ】
挑発なのは理解していた。だが、オレはその言葉だけは許すことができない。まんまと乗せられてしまったが、それをエルは望んでいたのだろう。ならば上等だ。お望み通り叩き潰す!
オレの力は地獄で得た力だ。そんじょそこらの小手先の技術に後れを取ると思うな。まっすぐ行ってぶっ飛ばす。当然本身では当てない。当てないが剣の腹をぶち込む。それだけでも多大なダメージがあるだろう。それで彼が満足するのであればそれでいい。
双方同時に動き出す。だが遅い。エルはこれからまだまだ強くなるだろう。しかし、それは今じゃない。速さを信条とする双剣もオレのスピードには及ばない。このレベルになれば属性変換での攻撃も間に合わない。向こうの狙いは双剣での受け流し。だが、それを上回るスピードで大剣をすり抜けさせる。殺った。そう確信したが、刹那、エルが双剣の片方の軌道を変える。馬鹿な。無茶苦茶だ。腕の筋を壊すぞ! しかも、無駄だ。片手だけで止められると思うな。このまま無理矢理押し通す。
その次の瞬間、エルが霊力を属性に変化させ始める。なぜ、今? この瞬間に使うには意味が無い。だが、燃え始めているのは
……ええい、上等だ。やれるもんならやってみろ!! オレの剣が当たるのが早いか、それともその企みが成功するのが先か、試してみろ!
剣が接触する。しかし、その時奇妙な感覚を覚えた。あまりにも柔らかい。まるで豆腐を斬るような、そんな手応え。しかし、このまま押し通す。剣の腹を片手の剣ごと…
なっ! そんな!! すり抜けた!!? 成功したというのか!? この土壇場で!
そのままエルは実体を取り戻し、残った片手剣をオレに向かって振るう。
……舐めるな。オレは、オレは地獄を見てきた男だ!! この程度では負けない! 大剣を放棄し、手甲で片手の剣を滑らせる。剣を持っていると言うことは全部同調したわけじゃない。しかも一瞬しかできまい。よってこのままぶん殴る! エルももう片方の剣を放棄し、クロスカウンターの構えを取る。
やれるもんなら…やってみろ!!!
◇
【SIDE:暁の剣男子組】
2人が草原で寝転ぶ。2人とも何も語らない。ただ、空を眺めていた。やがて、どちらかが呟く。
「きれいな空だな」
「……ああ。美しい空だ」
もう1人が答える。
「この周りが暗黒世界だなんて思えねぇよな」
「あぁ」
「……オレはさ」
「うん?」
「嫉妬、してたんだ」
「……」
「みっともねぇだろ? オレもそう思う」
「……」
「だから、お前と闘いたくなかった」
「だけど」
「吹っ切れたのさ。お前はお前。オレはオレ、ってな」
「…………お前は、強いな」
「全然強くねぇからこうなったんだ」
「いや……強いさ。オレなんかよりずっと」
「そりゃ嬉しいな。お前が認めてくれるとはな」
「オレは……1人で何でもしようと思ってた」
「……」
「傲慢だったのさ。どうしようもなく。そして、勝手に潰れそうになっていた」
「そうか……」
「この〝力〟は、本当は訓練とか才能とかじゃない。もっとおぞましいモノだ。その証拠に、オレはあれからずっと悪夢を見させられている」
「! それは……代償、か?」
「そのようなものだと思う。まだ完全には理解出来てないんだ。そして、それはこれからも多分酷くなっていく」
「水臭ぇな。言ってくれよ」
「この話をしたのはエル。お前が初めてだ」
「そうか……そりゃ光栄だな」
「そうさ。やっぱりお前はオレ達のリーダーだ」
「ありがとよ。オレももう迷わねぇ。これからもよろしくな、ナギ」
「あぁ。ずっとよろしくな。エル」
2人は手を差し出し、拳を合わせる。そして、お互いに殴られて腫れた顔を見合わせ、笑い合った。
◇
【SIDE:暁の剣女子組】
「あ~あ。まったく。男って馬鹿ね~」
「うん……」
「あ、何? もしかしてナギのこと心配してた?」
「もう! そんなんじゃないわよ! でも……」
「ふん。置いてかれるとでも思った? それともエルに愛しのナギを取られるのがヤだった?」
「な…! そんなんじゃないわよ!」
「そんなに慌てるって事は図星かしら〜?」
「もう! 違うってば!! そうね……なんて言えばいいか…」
「ま、分かるわよ。その気持ちはね。でもね。フロウはフロウ。貴女には貴女の良さがある。それは覚えておきなさいね」
「サラ……」
「こんなご時世、何があるか分からないわ。でも、結局は自分を信じる事、これに尽きるわ。だからね、サッサと告っちゃいなよ」
「途中までいい話だったのに何でそうなるのよ!」
「うっさいわねー。あんだけイチャイチャしてんだからもういいでしょ? 早いとこ決めないと何があるか分かんないわよ」
「イチャイチャしてない!」
「自覚無いんかい。ま、貴女の問題だからこれ以上は言わないけどね」
「……でも、そうするとパーティーが……」
「何年の付き合いだと思ってんのよ。それに3人だったらまだあれだけど、エルもいるし、アタシは気にしないわよ?」
「そう言えばアンタはどうなのよ。その…エルとは」
「ん? アタシ? アタシは昔からエルとは腐れ縁だったからね〜。ま、そのうち結婚するのかな? 今のところはパーティーメンバーとしては貴重な存在だと思うわ」
「……ホント昔っから分かんないわ。貴女の事」
「褒め言葉をありがとう。アタシはアタシで欲望に忠実なだけよ。さ、あの馬鹿2人を回収してご飯にしましょ」
そうして、姦しい2人は寝転がって青春をしている2人を回収しに立ち上がった。
いよいよ明日、初めての大規模防衛戦が始まろうとしていた。