ティエラの地より 〜転生少年、深淵に挑む〜   作:エアロダイナミクス

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38、最後の白金級

 

 

 

 

 

【SIDE:サラ&フロウ】

 

 

 

 

「おはよう! 諸君!!」

 

 

その、あまりにも元気いっぱいで嗄れた声に、一気にフロウの意識が覚醒する。起き上がってみると、隣にはサラがグースカ寝ている。そうだ。このまま2人して寝てしまったのだ。

 

 

「ちょっと。エンリケ所長。こちとら年頃の女の子なのよ?」

 

「ふむ……そうは言うがね? もう良い時間だ。いつまでも寝てる子供を起こすのは大人の役目じゃろう?」

 

 

 そう言われてふと辺りを見ると、太陽はもう中天近くまで差し掛かっていた。慌てて寝ぼけているサラを起こし、身支度を始めようとしたところで、未だに室内で待っているエンリケが目に入る。

 

 

「支度するからちょっと離れてて!」

 

「はいはい……お子様の癖に繊細じゃのう」

 

 

 

 

 そして、支度が済んだ二人がエンリケを呼ぶ。

 

 

 

「──で? 何の用? まさかここを出て行けって?」

 

「んにゃ。前も言ったじゃろ。光の霊力に晒され続けたらどうなるか、と言う実験に同意したのはお主じゃからな」

 

 

 その契約にサラは内心驚く。いつの間にこんな変態ジジイと契約していたのか。フロウの貞操の心配が頭をよぎり、サラは何か不穏なそぶりを見たらこのジジイを殺そう、と密かにそう決意した。

 

 

「じゃあ何なのよ」

 

「進捗状況をこの目で確かめておきたくてな。こればかりは職員には任せられん」

 

「……そ。じゃあ早速測定しましょうか」

 

「ちょ、ちょい待ち!! アンタ、このジジイに変なことされてないでしょうね!?」

 

「失敬な。ワシを誰だと思っとる」

 

「変態ジジイ」

 

「ロリコンジジイ」

 

「……近頃の若いもんは困ったもんじゃ。興味ないと言ってるじゃろうに。フロウ、遊んでないでええからはよ済ませるぞ」

 

「は~い」

 

 

 素直に従うフロウ。やはり遊んでいたらしい。フロウはワンピースの袖をまくり、腕や足に所長の持参した器具を装着していく。その様子を警戒しながらサラは観察していた。どうやらマジの測定らしい。彼女は少し警戒を解いた。

 

 

 …………

 

 

 

 無言の時間が続く。フロウは霊力を放出した状態でその姿勢を維持する。地味に辛い測定だ。やがて、10分もしないうちに所長が溜め息をつきながら終了を宣言する。

 

「……ま、前回より出力は安定したな。ようやく気持ちの整理が付いたか」

 

「……おかげさまでね。で、どう?」

 

「……相変わらず光の要素は見当たらん。まぁ、直ぐに結果が出るわけでも無し。地道にいこうかの」

 

「あのさ……ちょっといい?」

 

 

 そこにサラが声を掛ける。

 

 

「何じゃ?」

 

「フロウは契約してるんでしょ?」

 

「そうじゃが?」

 

「ここ、住環境として最低だと思うんだけど」

 

「…………」

 

「風呂もトイレも無し。報酬がいくらか知らないけどね、もしこれ以上やらせるんなら最低限の環境ぐらい整えなさいよ! つーかフロウもそれぐらい言え! 大体こんな環境だから上手くいかないんじゃないの!?」

 

「!!」 

 

 

 ガビーン、とした顔で所長は固まる。

 

 

「ワ、ワシとした事が……そこは盲点じゃった。良かろう。直ぐに手配する! じゃあフロウ、また次の測定でな!」

 

 

 そう言うや否や、嵐の様に飛び出して行ったエンリケ所長を呆然と見送る2人であった。

 

 

 

「なんて言うか……変なジジイね。あんなのが一組合のトップなんてね」

 

「気にしちゃ負けよ」

 

「……そんな事より、フロウ! アンタ流石に女子としてどうかと思うわよ!」

 

「えっ」

 

「アンタ何日シャワー浴びてない? 言いたか無いけどちょっと臭うわよ!!」

 

「な、なんて事言うのよ!! 大体3日に1回はシャワー浴びてるから!! それを言ったら戦争でしょ!?」

 

「はいダウトー! 3日に1回とか女子としてヤバすぎ! 今日は仕事入れてるの!?」

 

「いやまぁ……入れてるけど」

 

「キャンセルして。これからアタシと大衆浴場ね!」

 

「えぇ……でも」

 

「えぇい、問答無用!! ほら、アタシが一緒に行くから! ついでに溜まった洗濯やるからね!!」

 

 

 グイグイとフロウを引っ張り、現場にキャンセルを伝える。現場としてもフロウは役に立っているが、それ以上に心配していたので快く見送ってくれた。

 そして、久しぶりのマドリーの街。そこの大衆浴場で2人はこの後滅茶苦茶キレイに洗った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【SIDE:フロウ】

 

 

 

 

 

 

 それから3日もしないうちに、〝アーク〟周辺は徹底的に整備された。具体的には、掘立て小屋同然の祠が神殿の様な造りの建物になり、アーティファクトをふんだんに使い、上水、下水の整備。トイレ、風呂完備の最大20名は泊まれる環境へと生まれ変わった。何という事でしょう、だ。この件には所長が全力で絡み、更にはこれを機に光の霊力を保護するという「教会」の思惑と一致して成された結果である。

 ついでに言えば、フロウの件で心配していた壁作り職人達も一斉に手伝ったためである。

 そして、無駄に荘厳な住居、というかどう見ても教会が完成した。

 引っ越しが終わり、完成記念のテープを切った教会の長マリアは、流れる様に中に入り、そして当然の様に居座った。仕事はいいのか、仕事は。

 

 これには流石のフロウも抗議したが、珍しく疲れた顔のエンリケ所長から彼女が多大なスポンサーである事を聞き、全てを察した。

 

 

 結局その後、マドリーの宿舎より環境が整っている事から、フロウを始め、サラとエルも所長と契約し、住み着く事となった。

 エルとしては女性しかいない場所に入り込む事に抵抗があったようだが、いつものようにサラに押し切られた。

 エルはチャランポランに見えて意外にもストイックで真面目な為、間違いは起こらないだろう。

 約一名余計な人物がいるが、久しぶりに幼馴染達との共同生活が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フロウはあれよあれよと変わる環境に目を回しながらも、以前より格段に向上した環境を享受していた。やはり持つべきものは得難い友人だ。腐れ縁とも言える幼馴染に、言葉にはしないが深く感謝していた。今の自分に必要なのは、共に前を向ける仲間達だったのだと、ようやく実感できた。フロウは、正しく前を向く事が出来たのだ。

 

 

 

 そんなフロウでも教会の長のオバさんが共同生活に割り込んできた事はムカついていたが、最近では彼女が言ってる事も一理ある、と受け止めはじめていた。

 彼女曰く、〝光〟の加護を得る為にここに居るならば、何としても得られる様に努力なさい、と。

 最初はただ心地よいから此処に勝手に住み着いていただけだったが、確かに自分が〝光〟を得られれば、より強力な戦力になる事を今更ながらに思い出した。それにより、自分が如何に視野が狭くなっていたかを改めて悟った。

 だから、今ではフロウはこの妙に迫力のある教会の長にも感謝していた。後程、別の理由でも彼女の存在に深く感謝する事になったが、その時点では知る由も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 心身共に完全に元気になったフロウは、目標を改めて設定した。

 

 

 

 ガブリエラ(亡き師)が、その生命を賭してまで守ろうとしたナギ君を必ず助け出す。その為にも、最短で強くなる、という目標を。

 普通に考えれば、彼はもう死ぬか魔人化しているだろう。だがフロウは、どうしても彼の()()()()姿()を考えられなかった。淡い希望というのも烏滸がましい。極大の奇跡の様な推測である。しかし、フロウはそれがどれだけ僅かな可能性であろうとも信じる事にしたのだ。

 あの公爵級魔人に成す術なく捕らえられた時も、彼だけは霊力が枯渇しているのにも関わらず侵食されなかった。それどころか、強力な光の霊力を発現して退けたのである。フロウは、瘴気に侵食されながらも、一部始終を目撃していた。あの時生命を助けられたからこそ、今度は自分が助ける番だと、そう彼女は心に誓ったのだ。

 

 

 では、どうやって最短で強くなるか。今までは悲しみや整理できない激情に任せてガムシャラにやってきた。しかし、それは強くなるどころか逆効果だった。ならば、今必要なのは戦略だ。最短で強くなる。その為の道筋をたてる必要がある。1番いいのは、最強である白金級(プラチナクラス)ダイバーの称号をもつ人物に師事する事だ。ダイバーでの唯一の師だった尊敬できる人物は逝ってしまった。まだまだ教えて欲しい事は沢山あった。だが、もうその機会は完全に失われてしまった。

 だからこそ、(最強)を目指す為にも、新たな師が必要だった。最初はマリウスに土下座して下働き扱いからででも弟子入りを頼もうと思っていたが、肝心の彼自身が前の闘いで再起不能に近い傷を負ったらしく、弟子どころじゃないという事で門前払いされた。第一、そもそもの戦闘スタイルがフロウとは違いすぎた。また、彼のパーティーメンバーで言えばエレーナが同じ水属性だが、彼女の技は何となく見て理解してしまっていた事と、彼女含むパーティーメンバーは一切弟子を取らないという事で有名だったので諦めた。

 

 

 そんなこんなで、師匠探しは振り出しに戻る。

 

 

 しかし、フロウは諦めなかった。白金級(プラチナクラス)はもう1人いるからだ。ドミニク、マリウスに比肩する最後の白金級(プラチナクラス)ダイバー。殆ど情報が上がらないが、マドリー最強議論で名が上がるドミニク、マリウスと比較して尚、最強候補に名を連ねる伝説の人物。引退して久しいらしいが、その圧倒的な強さは今だ健在という。

 

 

 問題は、その人物の情報が完全に秘匿されている事にあった。ダイバー組合に問い合わせても、資料を漁ってもまるで何も出てこない。年配の職員に聞いても、その話題になった瞬間震え始め、死んでも教えられないと固く口を閉ざしてしまう(唯一組合長だけは苦笑いしながら自分で探してみな、という反応を返した)。

 

 

 仕方なく、エルとサラに協力してもらいながら街で情報収集に数日費やした。得られた結果はその正体に迫るほどでは無かったが、それでも幾つかは有益な情報が集まった。曰く、

 

 

・女性である。

・かなり昔に引退している。

・今は全く関係ない職に就いている。

・それでもその力は健在である。

・2年前の時の秘密兵器とは、古代兵器などではなく彼女だった。

・水属性である。

・普段は穏やかだが、怒らせると怖い。

・ダイバーである事を完全に秘匿している。

 

 

 

 など。共通して言えるのが、かなりの強さを持っているにも関わらず、それを隠しているという事だ。名前すら殆ど出てこない。いや、その人物にはエヴァという名があるにはあるが、その名が該当する人物が街にはいないのだ。知ってそうな人々は絶対に口を割らない事から、彼女(エヴァ)の強さが相当なモノだと察する事が出来るのみである。しかし、フロウはこの時点で自分の師は彼女以外にはいないと断定した。何故なら自分と同じ水属性だからである。

 

 

 

 そして、ここまで情報を集めた結果、フロウはある推察に辿り着く。

 

 

 

 ここまで隠し通せるという事は、単純な力だけでは不可能だ。相手は権力もかなり持ち合わせているに違いない。市井の人間が組合の記録を消して、その上で知っている者達に口止めまで出来るだろうか。いや、出来るかもしれないが、逆に言うとそれがバレたら良くない事が起きる可能性がある為に()()()()()()のかもしれない。

 

 

 例えば──ダイバー組合とはまた別の組合のトップ……とは考えられないだろうか。元ダイバーが別の組合に入る事は珍しく無い。というか、それが典型的なダイバーの二次就職先でもある。しかし、利益誘導や癒着防止の為に、それぞれの組合は独立して活動しなければならない。つまり、別の組合に入るには引退しなければならないのだ。少なくともこの街ではそうなっている。では、あまりの強さにダイバー活動を行わざるを得ない人物が居たとする。その人物はとっくに引退してダイバー活動は行えないものとする。ならばどうするか。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 である。もしかすると、領主も公認の特別の事例かもしれない。それ程の力を持つのが白金級という存在なのだ。だからこそ、公式にも私的にも徹底的に秘匿する必要があった──

 

 

 

 

 

 

 さて、そこまで考察すると、考えれば考える程怪しい人物がいる。

 

 

 それが「教会」の長。マリア=エローラである。

 

 

 

 彼女の経歴は一切謎だ。若く見えるが年齢不詳。突然現れて、いつの間にか「教会」を設立し、そこのトップに座った女傑。

 慈愛に溢れ、人々を救済する事を目標に掲げて無償の孤児院経営や炊き出し、慰問など、今や街にとっては欠かせない人物である。人々の支持も絶大だ。彼女達「教会」の街への功績と貢献により、今では街の方針を決める領主主催の御前会議にも呼ばれる程の権力者でもある。孤児院含む「教会」の経営は、一説によれば彼女の私財から出されているという噂がある。これだけ聞けば、彼女の奉仕精神を讃える感想しか出てこない。しかし、現実問題、その莫大な予算はどこから出ているのか。

 

 彼女は、人々から【聖母】と呼ばれている。それはひとえに彼女の献身的な活動によるものであり、如何に人々から慕われているかの証明でもあろう。彼女は滅多に怒らない慈愛の人という評価があるが、しかしその一方でひとたび怒らせれば苛烈な報復を行うという噂もある。それが噂話からの情報収集の際、偶然出てきた【処刑者】という二つ名である。これだけでも怪しいにも程がある。

 

 

 ここまで情報を並べた時、フロウはまず間違いなくマリアが最後の白金級(プラチナクラス)だと断定した。

 奇遇にも、マリアが自分達の共同生活に乗り込んできたからこそこの結論に至れたのだ。彼女を実際に見て、情報を集めたからこそ分かった。表面上は信仰狂いの献身的な慈愛の人にしか見えないが、人間的な迫力というか、存在感が桁違いなのだ。

 

 

 だから、エルとサラに協力してもらって彼女にカマをかけてみようということになった。

 

 

 もし、本当に彼女が白金級(プラチナクラス)のダイバーであれば、何らかの反応が返ってくるはずだ。もし違っても何らかの重要な情報は握っているに違いない。というか、フロウの中ではほぼマリアがクロである。だからこそ成功させなければならない。他ならぬ自分の目標の為に。

 

 

 後は、そんな彼女とどのように交渉するかである。フロウは、最後の詰めを慎重に検討し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教会の長、マリア=エローラは目から鱗が落ちる思いであった。

 

 

 始まりは、御前会議終了後の雑談中に、霊開研の所長が口走った発言である。彼の何気ない一言に、マリアは電撃を撃ち込まれたかの様な衝撃を覚えた。

 曰く、めぼしい相手を見付けて契約し、〝アーク〟の真上で生活してもらっていた。目的は〝光〟の覚醒。だが、つい先程被験者に住環境について指摘されたために、急いでそれを整える必要がでてきた、と。

 本人にとってはただの愚痴であった。しかし、マリアにとっては到底聞き逃せるものではない。彼女にとって、その発想が無かったからこそ。

 

 

「──その話、詳しく聞かせて貰えるかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マリアは幸福であった。あの事件で喪った物ばかりでは無かった。彼が残してくれた希望。それが人類の発展を支えている。それを直に感じ取ることができるとは、なんと素晴らしいことだろう。朝、起きて〝光〟を感じ、礼拝の時も、食事の時も、ありとあらゆる場面で濃厚な〝光〟を感じ取れる。これほどの幸福があろうか。部下達には申し訳ないが、慰霊祭を終えた今、自分はそこまで必要ではない。精々報告を聞き、御前会議に出席するぐらいだ。そのうち本部との連絡は出張所を作るつもりだ。それで我慢してもらおう。

 

 そういった経緯から、マリアとしてはここ以外に住まう選択肢は存在しなくなった。

 もしこれで、〝光〟の属性が発現しでもしたら、その時彼女は絶頂するだろう。

 

 その瞬間を夢見て、彼女はより一層日々の祈りに精を出すのだ。いつものように礼拝所で祈りを捧げる。光の加護がありますように、と。視界の端に共に祈りを捧げている(強制)ガキどもの姿が映る。全く集中していない。嘆かわしい。それどころかお喋りに興じている。これはオハナシ案件だな、とマリアは祈りを捧げながら心の中でメモを取った。

 

 

 

 

「なぁ、そう言えばあのヒト何歳なんだ?」

 

「バカ! ホントデリカシー無いんだから!!」

 

「はぁ? そこまで言う必要ねぇだろ!? 大体あのヒト俺等がガキの頃から容姿変わってねぇぞ? 疑問に思わないのか?」

 

「アンタねぇ……以前ソレをしつこく追求した奴がいたらしいわ」

 

「ほ~ん。やっぱり気になるよなぁ」

 

「でもね……ソイツ、次の日には街から姿を消したの」

 

「は? マジ? で、どうなったんだ?」

 

「みんなで探したところ……教会の屋根の十字架に素っ裸で括り付けられてたらしいわ!」

 

「ひぇ~っ、ホラーじゃねぇか!」

 

「あくまで噂話よ! 証拠は結局見つからなかったし、本人も何があったか黙秘しちゃったみたいだしね。結論から言えば……うかつに触れるべきじゃ無いって事よ!!」

 

 

 

 どーん! と言う効果音が聞こえそうなポーズを決めるサラ(ガキ2号)。丸聞こえである。思わずこめかみにビキビキと血管が浮かぶが、理性で押さえ込む。しかし、彼女らは自分よりも先達である。強引に追い出すなど大人げないにも程があるだろう。

 

 

「他にもあの人謎が多くて、【処刑者】のマリアとかいう物騒な二つ名もあるらしいわよ。本人には否定してるらしいけど」

 

「処刑者!? なんでそんな……」

 

「全くの謎。マドリー七不思議の一つね! でも、さっきの話からすればあながち間違いじゃ無いかもね」

 

「……私はあんなオバさんの事なんてどうでも良い。邪魔しなければね。ソレより私は白金級(プラチナクラス)ダイバーの最後の一人に会ってみたいわ」

 

 

 !!?

 

 

 フロウ(ガキ一号)め……。この私を言うに事欠いてオバさんだと……? お前…死んだぞ。

 

 

「あぁ、全然表に出てこないヒトな。ホントに実在するのか?」

 

「えぇ。引退したって言われてるけど、2年前のバラスの悲劇の時は大活躍だったらしいわ。ダイバー組合の最終兵器みたいな扱いらしいし」

 

「公式にあれを鎮圧したのはドミニクさんじゃ?」

 

「非公式にはそのヒトも、ね。秘匿主義らしくて滅多に姿を見せないみたい。でも属性は水、と言うことは分かってるの」

 

「ほ~ん……マリウスさんもあの様子だし、その人に師事できりゃいいんだけどなぁ」

 

 

 チッ……市井の噂とやらは存外バカにできないらしい。徹底的に隠し続けてきたが、こんな狭い世間で完全な口止めはできない。何を隠そう、確かにこの私こそが()白金級(プラチナクラス)ダイバーである。だが、それも30年前に引退した。そして神の僕として生を捧げる覚悟を決めたのだ。当時を知る奴等には固く口止めした。もう現役で私の事を知る者はほぼいない。

 

 だが、街の危機的な状況の時に稀に駆り出される事もある。近くで言えば2年前か。流石にあの時は四の五の言っている状況じゃ無かった。だからこそ秘匿効果も薄かったのだろう。私にも立場がある。あまりダイバー組合に肩入れしてしまえば、癒着だ何だと騒がしくなるだろうから。闘いはストレス解消には丁度良いが、バレるリスクを抱えてしまえばそれが余計にストレスになる。だからダイバーとしての活動は極力自重しているのだ。

 

 

 ──それにしても、ナギ君の消失は痛かった。私が本気で守護ってあげられれば……いや、あの【天上天下】すら鎧袖一触にしてしまう程の化け物に対して、引退した私に何ができたか。マリウスは人が変わったように悄然としているらしい。彼も貴重な白金級(プラチナクラス)で、実質最後の一人なのだけど……まぁあの単細胞の事だ。そのうち復活するでしょう。ともかく、私が出たところで結果は変わらなかっただろう事は間違いない。結局そこに結論が行き着いてしまい、忸怩たる思いをずっと抱き続けてきた。

 

 それがあの後の会議でビトを激しく非難したことにも繋がっている。自分の弱さに久しぶりに激怒していたのだ。

 

 どうしようも無かったことなど分かっている。だからこそ、彼が「教会」に来てくれたときに彼から種を貰っておけばと、心底後悔しているのだ。

 

 

 ガキどもはまだピーチクパーチク騒いでいる。最早遠慮など遠い空の彼方だ。そろそろ雷を落とすか。ガキどもの制御など容易い。

 

 

 

「貴方達……祈りの時間ですよ?」

 

 

 

 少し威圧を乗せる。霊力までは必要ない。すると、効果は覿面だ。全員が背筋を伸ばし、黙り込む。それに少し満足感を覚え、再び真摯な祈りに入る。

 

 

「な、なんだアレ……」

 

「喰われるかと思ったわ」

 

「もしかして噂は本当だった…?」

 

 

 前言撤回。ガキどもには定期的な躾が必要らしい。

 

 

「あ”?」

 

 

 

 今度こそ、彼らは完全に沈黙した。

 

 

 

 しかし、マリアは気付かなかった。この一連の行動こそ、フロウが仕組んだ罠である事を。そして、確信を得た彼女に密かにロックオンされたということを。

 

 

 

 マリアが渋々彼女たちの弟子入りを認める事になるまで、あと数日──

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