ティエラの地より 〜転生少年、深淵に挑む〜   作:エアロダイナミクス

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 ごめんなさい。1日3回投稿は無茶すぎた…汗 とりあえず今日の分です! もしかしたら3回いけるかも…?


39、処刑者マリア

 

 

 

 

 

「マリアさん。話があるんだけど」

 

 

 礼拝堂で祈りを捧げるマリアの元に、少女が訪ねてきて開口一番にそう言った。

 マリアは平静な顔を崩さず、しかし嫌な予感を感じながらも彼女に向き合う。

 

 

「何の御用向きでしょうか。神への信仰を共にしたいと言うなら大歓迎ですが」

 

「もう分かってるでしょ? 【処刑者】マリアさん? いや、【処刑者】エヴァさんかな?」

 

「……その呼び名は好きじゃないの。そして(わたくし)はエヴァではないわ。それで?」

 

「私を貴女の弟子にして欲しい」

 

 

 要望をストレートに告げるフロウ。その顔には一点の曇りもなく。しかし──

 

 

「お断りします。どこから聞いたか分かりませんが、(わたくし)は引退した身。ご要望には添えません」

 

 

 けんもほろろに断るマリア。彼女は内心で舌打ちする。バレているのかどうなのか。ブラフかどうかを見極めながら。だが、フロウはその表情を崩さない。まるでこれが規定事項かのように。それを見てマリアがイラッとする。確実にこの小娘は私の過去に辿り着いている。そのことで私を脅してでも従わせようというのか。そんな浅知恵にこの私が乗ると思ったのなら大間違いだ。

 

 

「そもそも(わたくし)は教会の長です。ダイバー組合に肩入れは出来ない。それすら分からない小娘でもないでしょう──」

 

「──〝光〟の発現。それと引き換えでは?」

 

「!?」

 

 

 マリアの言葉を遮るようにフロウが重ねる。驚きとともに、真実かどうかを疑おうとしたマリアが、更に驚愕する。

 

 

 フロウの霊力を発し、そこに弱々しいが水以外の要素、つまり〝光〟が溢れていたのだから。

 

 

「な……発現したのですか!? バカな…」

 

「信じる者は救われる。貴女が常々言っている事ですね? ちょっと()()がいるけれど」

 

 

 マリアは深い溜め息をつく。そして、目の前の小娘に向かって諦めたように告げた。

 

 

「……で? 条件は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マリアはフロウと同じく、孤児院出身であった。

 

 

 

 その頃の孤児院と言えば、劣悪な環境と貧しい食事。そして年齢が一定以上になると追い出され、女子は娼婦か、男子は底辺労働者が関の山であった。一攫千金を狙ってダイバーも目指せるが、その死亡率はお察しである。

 

 マリアはそんな中で、天才だった。

 

 ダイバーの両親が死亡し、幼い頃から孤児院へと入ったマリアはそこですぐに頭角を表し、子供達の中のリーダーとして君臨した。まだ幼児とも言える彼女がそうなるのは異例の事態である。そして孤児院の子供達を掌握した後、孤児院外での交流も広めた。そうして足場を固めると同時に、女子の殆どが娼婦になる原因の一つであったセクハラ職員達(強姦魔とも言う)を罠にはめ、肉体的にも社会的にも破滅させた。流石に余裕のない社会でも孤児達を日常的に暴行していた悪党は許されるものではなく、彼らは無事に街の広場で処刑された。

 

 この作戦は、幼いながらに非常に整っていたマリアの容姿と、その容姿を利用して外部の大人達と積極的に交流していたマリアの頭脳と交渉力によって成功に導かれた。そうした経緯を経て、彼女は〝力〟を求めた。外部協力者の手を借りずとも、自分の理想は自分で叶えたい。そのためには〝力〟が必要であると痛感したのだ。

 

 だからこそ、手っ取り早いダイバーの道を選んだ。彼女ならば就職して地道に働いても頭角をいずれ現しただろう。しかし、最短で結果を求めるにはそれが丁度良かった。

 

 彼女は8歳で、当時最強であった白金級ダイバーに弟子入りを求めた。最初は他の門下生に門前払いされようとしたが、彼女の言葉を聞いたそのダイバー、【教授(プロフェッサー)】は、面白がって彼女を弟子にした。当時から変わり者で有名だった彼に、何を言ったかは当人たちの秘密である。

 

 

 そうして、彼の元でメキメキと実力を伸ばした彼女は、10歳で試験に合格。そこから11歳で本格的に活動を初め、14歳の時には【教授(プロフェッサー)】以外の者には勝てない程の実力者へと成長した。その功績もそうだが、彼女の苛烈な闘い方から、いつからか【処刑者】エヴァと呼ばれるようになった。彼女の名は当時、マリア=エヴァンスだったからである。

 

 

 そして、彼女が15歳の時、師匠である【教授(プロフェッサー)】が失踪した。

 

 

 彼女は少なくとも表面上は落ち込む様子を一切見せず、その後も研鑽を続けた。そしてそれ以来、名実共に最強のダイバーとして10年ほど君臨した彼女は、25歳で電撃引退する。そして、何を考えたか、教会へと入り、信仰の道に進んだ。そこで一切のダイバーの功績を切り捨て、名もマリア=エヴァンスから、マリア=エローラへと変えた。いったい何が彼女をそうさせたかは分からないが、それからというもの、あっという間に教会のトップへと至り、自身の莫大な貯蓄を切り崩して慈善事業に励んだり、孤児院経営に乗り出したりするなどの街への貢献をはじめた。

 

 そうして、それまで衰退していた教会の勢力が息を吹き返し、街でも無視できない存在となった時、教会トップである彼女は評議会へと呼ばれる事となった。

 

 

 彼女が30歳の時だ。

 

 

 彼女は、自分の理想通りの権力を最短で掴み取ったのだ。

 

 

 

 尚、非常に美しいマリアが婚姻という形で権力を欲さなかったのは、過去の見聞から男は醜いモノと断じていたためであり、それに伴って男にまるで興味が無かったからである。正確には、自分よりも愚鈍な男に興味が無かった、と言うべきだろう。つまり、大概の男に興味がないのと同義である。唯一【教授(プロフェッサー)】はその枠に入ってはいたが、彼は壮年で、彼女との年齢差が大きかった事と、彼は女性よりも世界の秘密に夢中だったので、結局は何も無かった。この頃から、彼女は自分の貞操は神に捧げると決めていたのかもしれない。

 

 

 

 それから長い年月、教会の長としてこの街に君臨してきた彼女だったが、その容姿に衰えは見られない。彼女の属性は水であり、その秘儀を用いてアンチエイジングしているためである。その反動かは分からないが、ごく稀にダイバー時代の事を思い出して暴れたくなる時もある。または、自身の培った技術を腐らせたくなかったのかもしれない。そんな時は、認識阻害のアーティファクトを身につけて狩りに出かけるのである。

 

 ダイバー組合の現組合長とは同世代で懇意であり、話が通しやすいし秘匿しやすいためできたことだ。ただ、2年前のような緊急事態にも駆り出される場合もある。しかし、流石の彼女も立場というものがある。だからこそ、彼女は徹底的に自分についての情報を消し、その上で、自らの力を完全に衰えさせないように彼女は努力もしていたのだ。つまり、ダイバー組合の最終兵器とは、フロウたちが推測したように古代の超兵器や発掘された武器などではなく、彼女の事だったということだ。

 

 

 

 

 

 

 それが、マリア=エローラという人物の概要である。

 

 

 

 

 

 ──マリアには夢がある。

 

 

 

 いつかこの世界から瘴気を駆逐出来るようにするという夢が。両親を亡くして以来、彼女の中の根本に根付いたその夢を叶えるためにここまで努力してきた。この瘴気さえ無ければもっと人類はより良い暮らしが出来るのに。ならば、必ずやこの瘴気の謎を解いて、瘴気をこの世から駆逐してしまおうと。

 それは、彼女が師匠に弟子入りしたときにも告げた夢だった。

 しかし、実際に最上級ダイバーまで登り詰めてから彼女が感じた事は、不可能という現実の壁だった。瘴気の深さは果てしなく、人間が極限まで鍛えてトップに至っても尚届かない。深奥までが人類の到達限界という時点でどうしようも無いと。【教授(プロフェッサー)】コルテスは、それでも尚その先を見たがった。そして失踪した。そこから比べてみれば、彼女は師匠とは違って現実主義者だったし、最終的なアプローチの仕方が根本から違っていた。

 

 

 

 ──この世界には、何らかの【要素】が足りない。

 

 

 

 

 そう直感で感じ取ったマリアは、あれだけ才能を見せたダイバーをあっさりと辞めて権力を求めた。いつかその【要素】が見つかった時に、自分でそれを手に入れる為に。

 

 

 そうして、長年待って漸く見つかった。

 

 

 まさにそれは希望の光であった。しかし、それも置き土産を残して失われてしまった。彼女の落胆は想像に難くない。それこそビトをブチ殺そうと何度も画策する程度には。しかし、まだ希望が完全に断たれたわけではない。こうして、彼の置き土産があり、その〝力〟を発現できれば、今まで後退するしか無かった人類は大きく前進する。だからこそ、彼女は祈るのだ。必ずや光が我が身に降り注ぎますように、と。

 

 

 そして今。自分より若い小娘が光を発している。この小娘の眼差しや行動が忌々しいことに自分によく似ている。水属性の女はボケっとしているように見えて、その実天才肌が多い。コイツもそのタイプだ。だが、まだまだ力が圧倒的に足りていない。

 そんな奴に先を越されたということが何よりも腹が立つが、それでチャンスを潰すほど彼女は馬鹿ではない。この小娘にもできるならば自分にもできる。できて当然なのだ。だからこそ、最速でそれができるように彼女はその小娘と取引をする。どのようにしたら〝光〟が取得できるか。そのコツを聞き出す代わりに、小娘の欲しがる〝力〟を与えてやろう。さすれば、マリアの夢はまた一歩前進するだろう。長い間待った。だからこそ、彼女は最速を求めて、隠していたその牙を再び表に出そうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「弱い。弱すぎます」

 

 

 マリアの目の前で倒れている少女。息が荒く、体もボロボロだ。相手のマリアは息一つ乱れていない。それが彼我の実力の差を簡潔に表していた。

 

 

「……くっ」

 

「少しスピードを上げただけですぐへばる。スタミナも筋力も霊力も、何もかも足りていない。昔のダイバーの方がよっぽどマシですわね」

 

「…………」

 

 

 

 マリアの得物は、特殊な双剣である。彼女が深層ソロ探索していた時に拾った鉱石と機械を組み合わせて作られた物で、所謂ギミックソードになっている。普段はショートソードに近い大きさだが、蛇腹になっていて、それが使用者の意図にそって自由自在に伸びて敵を攻撃する。

 扱いの難しさは言うまでもないが、それを使用する彼女の技量が突き抜けているため、敵は近づく事も出来ずにその身を裂かれてバラバラにされてしまう。

 

 だが、この訓練ではその特殊な変形を出すまでもなく、いや、似ている模擬刀の一本でフロウは圧倒されていた。

 

 

「これじゃあ貴女は何も掴めず、ただ奪われるだけですね。少しでも(わたくし)に似ていると思っていたけれど、それは勘違いだったようね」

 

「……私とあなたは違う。似ているなんて冗談でも思わない。でもやられっぱなしは性に合わないわ」

 

 

 再び立ち上がるフロウ。それを見て、マリアはため息をつく。

 

 

「ふむ……根性だけは認めてあげましょう。でも実力が伴わなければそれも意味がないもの。最初の方針の通り、立ち上がる限り徹底的にわからせてあげましょう。覚悟を」

 

 

 

 

 

 過酷な基礎向上訓練を午前中に行い、午後にはマリアに徹底的に叩きのめされる。その内容は地獄の訓練といっても差し支えない。大の大人でも3日続けばいい方だろうというような過酷な、もはやイジメとも呼べるような訓練をマリアは課した。

 フロウは時には死にそうになりながらもなんとか耐え、ひたすらに自力の向上に挑む。 

 それ程過酷な訓練を課され、身も心も徹底的に扱かれた。マリアは容赦がない。しかし、イジメに近い内容ではあってもイジメではない。マリアはその自らの秘奥となる技術を惜しげもなくフロウに伝えた。それが分かっているからこそ、フロウもそんな激しい訓練に弱音を吐かずついていった。

 

 

 フロウもマリアとは別方向での天才である。マリアの技術を貪欲に吸収し、自分の力にしていった。

 

 

 

 また、フロウからもマリアに〝光〟発現のコツを丁寧に教えた。祈るのではなく、()()()()()。そして、自分にも()()()()()()()()()()()。それが光を自ら発するコツである。祈るという過程でしかアプローチしていなかったマリアも、そこは盲点だった。長い間神の信徒として生きてきた弊害というものだろう。そして、一度コツが分かれば、マリアはすぐにでも再現できる。伊達にかつてのトップではないのだ。

 そうして、奇妙なWINーWINの関係が3か月続いたある日──

 

 

 マリアも光を発現させることができた。

 

 

 

 その時のマリアが見せた狂喜乱舞は、普段の彼女を知る人物が見れば目を疑ったことだろう。それほどに彼女はこの瞬間を待ち望んでいたのだ。そして、彼女はすぐさま行動を開始する。すなわち、光の霊力の検証である。

 

 

 

 

 彼女は、手始めに【アーク】の補充を試みた。それこそが街にとっても自身にとっても生命線だからだ。フロウと共にエンリケと幾度か実験を行い、それはナギほどのパワーでは無いが成功した。つまり、彼女達の光でも問題なく稼働できたという事である。

 これにはエンリケ以下、霊力開発研究所も狂喜乱舞した。また、その成功に伴って、領主にその成果を報告し、段階的にすべてのダイバーが〝光〟を発現できるようにするべきと主張し、長期的な予算を引き出すことに成功する。

 

 

 それによって霊力開発研究所は【アーク】の量産に踏み切った。数少ない貴重素材はマリア自らが〝光〟の調整と鍛錬を兼ねて調達した。そのころには【処刑者】マリアは後継者に教会を委ね、ダイバーへと完全復帰を果たし、自らの力を遠慮なく行使するようになった。もちろん教会への影響力は残したままであるため、彼女は実質組合のトップと教会の裏トップとして君臨することになった。

 

 フロウはその補佐役として彼女を支えつつ、鍛錬に付き合うという形で行動を共にし、彼女の〝強さ〟を貪欲に吸収していった。また、数少ない〝光〟の発現者としての検証のサポートとしては欠かせなかったので、実質マリアの右腕としてどんどん認知度を高めていくこととなった。

 

 

 ともあれ、フロウが見出したマリアは、このマドリーの街に急激な変化をもたらす重要人物であり、実際にここから人類の反撃は加速していくこととなる。その要となる歴史的な人物であると目されるマリアにいち早く接触し、その薫陶を受けることができたフロウも、急激にその実力を伸ばしていくこととなるのだが、それはまた別の話である──












【tips】

白金級(プラチナクラス)【処刑者】マリア=エローラ(エヴァンス)
属性:水
武器:特性蛇腹剣【エスパーダ・セルピエンテ】

・本来の戦闘スタイルは、ショートソードの二刀流。舞う様な動きで華麗に敵の攻撃を躱し、一方的に相手を細切れにするスタイルであった。元々それで白金級(プラチナクラス)までのし上がったが、伸縮自在で軌道が読めない蛇腹剣を扱うようになり、マリアが動かずとも敵を一方的に細切れにできるようになった。
 敵から見れば、扱いが難しい筈の蛇腹剣を手足のように扱い、的確に急所を狙ってくるので、それらを掻い潜ってダメージを与えるのはかなり厳しい。その厄介さは、彼女の師である【教授(プロフェッサー)】が感心し、自らのスタイルに取り入れる程であった。
 また、水属性を極めており、幻惑、弾丸、レーザー、斬撃など、多彩な攻撃手段を持つ為、敵からしたらより接近は至難となっている。

 敵が万が一にも彼女にダメージを与えて出血させるに至れば、そこから彼女の動きは第二フェーズへと移行する。具体的には、血液すら操作してマリアが積極的に襲いかかってくようになる。蛇腹剣には操作された斬撃性能をもつ血液が纏わりついて攻撃範囲が広がり、更には血液でできた蛇腹剣も追加される。血液の刃は本人の通常の水属性よりも威力、操作性が高く、常日頃から水属性による身体操作を極めたマリアの真骨頂とも言える。マリア自身も華麗な動きで敵を追い詰めてくるため、ダメージを与えれば与える程危険であると言えるだろう。諸刃の剣ではあるが、限界までやり切る精神力をマリアは擁しており、更に彼女は水属性である程度自己回復までできる。故にこのフェーズを乗り切れる敵はほぼ皆無である。
 もし彼女を倒したいのであれば、極大な一撃で戦闘不能に追い込むか、膨大な数の暴力で押し潰すしかない。
 普段はその細身の剣は、ゆったりとしたシスター服の袖の中(極小の収納袋を加工してある)にしまっており、すぐに取り出せる様になっている。
 普段は無手にしか見えないが、一度戦闘に入れば瞬時に袖から剣が飛び出し、即戦う事ができる。彼女は若干衰えたとは言え、常在戦場である為不意打ちも難しいだろう。



 イメージはダクソ3のエルフリーデ、ブラボのマリア辺り。
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