ティエラの地より 〜転生少年、深淵に挑む〜 作:エアロダイナミクス
──それから更に3年の月日が経った。オレももう9歳ぐらいだ。どうやらオレは普通に成長するらしい。しかもこの若さというのは様々な知識などを即座に吸収する。オレはこの頃には完璧なコミュニケーションがとれるようになっていた。その頃にはオレも随分今の暮らしに慣れ、家事周りの事もかなり出来るようになった。また、街での基本的な知識などはドニさんが教えてくれたので、生活する分には全く問題が無くなった。
しかし、問題もある。街の人々はオレに対してどうもよそよそしいのだ。オレってばこんなにフレンドリーなのにね。オレと話していても会話を早めに切り上げているようにしている感がある。完全に拒否しているわけでは無いが、あまり関わり合いになりたくないようだ。オレが外界から来たヨソ者だということに起因しているのだろうか。
同年代の子供もオレを遊びには誘わない。こっちから誘ってもいいが避けられる。しかし、無理矢理遊ぼうとするのも良くないからしゃーない。それでも寂しいものはある。まぁ、たまに孤児院の可愛い女の子がこっそり話しかけてくれるからいいんだけどね。オレはロリコンじゃないがテンション上がる。その娘の優しさは五大陸を駆け巡るで。お礼にオレも自分の数少ないボキャブラリーと前世で辛うじて覚えてる昔話でめっちゃ楽しませたからヨシ! でも、彼女でも堂々と接触してこないところを見るとオレの立場って相当アレなんだろうな。まぁいい。切り替えいこ。
とにかく、オレは何となく避けられているが、ドニさんの庇護下にいるからこそまだ村八分みたいな状態にならずに済んでいるという状況だ。そんな中での情報収集は困難を極めたが、オレの必殺隠密(素人)といつの間にか懐に入る話術を駆使して、何とかダイバーについてある程度のことはつかめたと思う。
まず、資格。ダイバーになるためには、最低限の「力」が必要だ。まぁ妥当だ。そうでなければ無駄死にするだけだからな。だから、誰でもなれるわけではない。例外はあるが、今は関係ない。
よって、ダイバー組合で試験が行われる。試験といっても最低限の力があるかどうかの試験だ。だが、試験官は元ダイバーだ。生半可な力量では試験には突破できないとの事。これは試験を受け続けるホセから聞いた話だ。彼は月に一度ダイバー試験を受け続ける商家の三男だが、このままだとうだつが上がらないと、一攫千金を狙っているらしい。偶々昼間から酒を呑んで管を巻いている所を見つけて根掘り葉掘り聞いた情報だ。
ダイバーは過酷な職業だ。死傷率も半端なく高いらしい。だからこそ、生き残った者は重宝される。そして、前にも述べたが、彼らは超絶的な力を使えるし、また夢のようなアイテムを持ち帰ってくることが出来る。一人前のダイバーはアイテムボックスのような物を持ち、そこに様々な物品を入れて帰還するらしい。だからこそ、街中から一目置かれるのだ。
次に、契約だ。彼らはもれなくダイバー組合との契約を交わす。モグリはいない。仮に彼らとの契約無しにダイブした場合は大変厳しい罰を受ける。現役数名のベテランダイバーに捕獲命令が出され、捕まったらもれなく処罰されるのだ。ここで言う処罰とは、処刑一択である。それほど厳密に管理されなければならないのは、彼らの力の他に瘴気の蔓延を防ぐため、と言われている。そして、ダイバー組合を通じて戦利品は街へと還元される仕組みだ。もちろん、発見した本人にアイテムの所有権があるが、それはダイバー組合との協議の末に金に換えられ、街へと還元される。資源のほとんどはダイバー組合の買い取りとなるらしい。武具や、強化素材、肉などが出たときは、ダイバーにそのまま卸されるらしいが。
それほどの制約を受けている代わりに、彼らへの優遇は凄まじい。等級の高いダイバーはまさに大金持ち同然の暮らしをしている。その他、様々な税金が免除になったり、役所の手続きが免除だったりと一般人から効いたら羨むばかりの優遇っぷりだ。だからこそ、以上の2つをクリアしてでもダイバーを目指す輩は多いらしい。
ちなみにドニさんはかなり等級の高い、というか一流の中の一流ダイバーのはずだが、彼はなぜか質素な暮らしをしている。彼にとってはその方が良いらしい。稼ぎのほとんどを孤児院や街に寄付していると言うからホントに聖人のような人だ。そんな人だからこそ、オレを保護することが出来たのだろうと最近理解できた。
また、彼はモテる。どれぐらいモテるかというと、どこぞのラノベの主人公かってぐらいモテる。彼に世話を焼きたがる近所のアナベルさんをはじめ、ダイバー仲間の女性、ダイバー組合の浄化施設の職員、受付、八百屋の娘、大商家の娘etc……数え上げればキリが無い。そして、彼を巡る熾烈な争いが水面下で起こっているらしい。オレを保護したのはそんな女の争いを避けるためもあるのでは、と邪推したこともあるぐらいだ。
だからこそオレは、サッサと独立してドニさんに幸せになって欲しいと思うのだが……彼にもなにやら複雑な事情があるのだろう。いい歳して結婚など目もくれないでひたすらダイブする日々を送っている。
まぁオレは世話になっているから、あまりその辺は触れない。とにかくオレはオレでダイバーになって、この世界では裕福な暮らしをしていきたい。ただそれだけだ。
ダイバーは不思議な技を使う。これは霊力といって、人間本来の精神の力であるらしい。これらを自由自在に操るのがダイバーだ。ただ、この力は常人には扱えない。というのも、この力は瘴気に触れ続けることで覚醒するかららしい。そして、瘴気は人体にとっては毒だ。だからこそ、この力は中々身につけることは出来ない。仮にダイバー試験を受かっても、この段階で挫折する者も多いという。そんな彼らは、領主の常備兵や警邏にスカウトされるという。そして、街の治安を守っている。よく出来たシステムだ。
そして、そこで耐え続け、霊力を覚醒させた者だけがダイバーになれる。つまり、選ばれた者しか出来ないのだ。さて、そこでオレである。オレはどうやら濃厚な瘴気の中で発見されたらしい。つまり、瘴気への耐性があると共に、霊力の素養があるのでは無いだろうか?
そこに考えが至ったので、オレは早速どうにかして霊力を覚醒させることが出来ないか試してみることにした。
──しかし、どのように覚醒させるか全く分からない。ドニさんは教える気は無いようだ。それは分かっていた。だが、これは他の一般人も分からない事だ。ドニさんのダイバー仲間のガブリエラさんに聞いても、申し訳なさそうな顔をしながら、口止めされている、と言われた。結構彼女にはドニさんへの手紙を仲介したり、情報を与えたりしていたが残念だ。まぁ、情報が漏れたら大目玉どころじゃ無いから言えないのだろう。しょうが無い。しかし、今後は彼女からの秘密依頼はあまり受けないようにしようと心に誓った。
そうなれば、後は自力で見つけるしか無い。自分の記憶にある漫画や異世界転生物の知識を役立てる時だ。はっきり言って全く先が見えないが、どうにかして糸口を掴みたい。
それで様々な方法を試してみた。限界まで体力を使い切ったり、重い物を持ち上げようとしたり、果ては蝋燭の炎を動かそうと念じてみたり……とにかく生活の中で出来そうなことはやってみた。ドニさんはまたか…と言った表情でオレを見ていたが、めげないでチャレンジし続けた。
──そして、本当に色々な方法を試してみて、最後に辿り着いたのが瞑想だ。
古来から修行は瞑想が重要なファクターを担っている。転生物の主人公は、時には赤ん坊の時から瞑想を始めて不思議なパワーを発見し、そしてソレを訓練により非常識なレベルまで高めていた。あれ? オレなんかやっちゃいました? 的なアレだ。そもそも霊力は精神の力らしい。で、あれば、この瞑想という奴はかなり効果的なのでは無いだろうか? そして今、オレの年齢は大体9~10歳程度。始めるに当たって遅すぎると言うことは無いだろう。他に方法が思いつかない今、オレはこの方法を極めることにした。決して他に相手をしてくれる人がいないからではない。決してだ!
早速瞑想を始める。ドニさんが自室で就寝し、オレは藁布団の上で寝る前に瞑想を始めた。始めたはいいものの、何をやっていいか全く分からない。分からないので、とりあえず精神を集中させ、意識を空にするところから始めた。
やってみたら分かると思うが、意外とこれが難しい。どうしても雑念が入るのだ。それを限りなく空っぽにする。そうすると……うっかり寝てしまって朝になる。
最初はそんなもんだと自分を慰め、毎晩繰り返しやってはみたものの、一向に上達する気配が無い。まぁいい。時間はたっぷりある。なんたって今のオレはガキンチョだからな! とりあえず他の糸口を探しつつ、自分の力を信じてやってみようと思う。