ティエラの地より 〜転生少年、深淵に挑む〜 作:エアロダイナミクス
一万字超え!
遂に完成! 脱出用ロケット2号機! くぅ〜疲れました! とりあえず、うろ覚えの機械知識で何とか弄り回して制御もちょっとはマシになったし、燃費もかなりマシになった気がする。コレなら何とかなりそうだ。
本当に上空に深奥層があるのかとか考えてはいけない。あると信じてやるんだよ。まぁ、勝算もあるっちゃある。以前失敗した時、下よりも僅かに瘴気が薄い気がしたんだ。俺の推察は間違っちゃいなかった…と思いたい。
さて、やるに当たって、問題はいかに妨害されないかなんだよな…。特に上空になればなるほど運ゲーに近い。しかし、それでも方法はないわけでは無い。奴等は強烈な光を確認したら直ぐに寄ってたかって襲ってくる。そこで使うのが、ロケットランチャー(仮)だ。これを遠隔で操作して飛ばし、そっちに引き付けてから俺が飛ぶ。どうよ、完璧だろ?
……まぁ、粗があるのは分かってるが、現状ではこれが限界なんだよね。
やってダメだったらまた次の手を考えりゃいいか。よし、そうと決まれば準備しよ。
◆
3・2・1、ファイヤー!
ドドン!
周囲を照らし出しながら、地表から光が打ち上がる。それはさながらロケットの様な、花火の様な。そして、上空まで打ち上がり、丁度空中にいた髑髏雲に着弾。派手な音と衝撃を撒き散らして盛大に爆発した。髑髏雲はその身を割と散らし、怒りに染まる紅蓮色へと変化したが、その光に惹かれて多数の深淵級が接近。空中での殺し合いが始まった。
赤、黄、緑、水、様々な色が闇の中で瞬く様は、とてもとても美しいものだ。派手な体液や気色悪い音がしなければ。それを遠目で眺めながら俺は必死に上空へと飛びたっている。貴重なロケランの一個を犠牲にして
あのデコイがうまく機能すればいいが、何匹かは気付いたな。こっちに向かってきている。それに、下からもデカい反応が追いかけて来てるのが分かる。
だが、ある程度は効果があったらしい。前回よりは距離がある。このまま逃げ切ってみせる!
そろそろ地表から500メートル! 後方から追いかけてる奴はリュウグウノツカイっぽい奴だ。相変わらずクソデカい。だがまだ距離がある…って速っ! もう詰められてきてる! 残り50メートルまで迫った所でその顔面を大きく花の様に開き、捕食態勢に入った。二重三重の口の中に物凄い数の鋭い牙が回転してる。アレに喰われたらミキサーにかけられるようなもんだ。クソっ。予想以上に厳しいな。もうここで切り札を切る事になるとは…だが、仕方ない。引きつけて引きつけて…今っ!
クソデカい口の中に、小さな物体が放り込まれる。それは回転する牙に当たり、無事口の中に飲み込まれた。直後、凄まじい閃光と衝撃波がそこから発生し、リュウグウノツカイはその顔を半分吹っ飛ばされた。
「ヒャッハー! どうだ! 俺の特製手榴弾は! っとと、衝撃もやべぇな! これでまた距離が稼げたぜ!」
今投げ込んだのは、〝工場〟で拾ったブツだ。使い方は何となく分かったので試してみたら、余りの凄まじい爆風で死にかけた事があった。それ以来切り札として持っていた。チマチマと光も込めて。さぞかし効くだろ。
案の定爆風がヤバい事になったが、それすら利用して上空へと向かう。姿勢制御にかなり苦労したが、安定した。
今ので更に上昇して、およそ1キロメートルは飛んだ。まだか、まだ着かないのか! だが、少しずつ薄くなってるぞ! 勘違いじゃない。確実にだ!
今の爆発で追いかけてきた奴らもまとめて巻き込んだが、まだまだその後ろから来てる奴がいる。口から触手生やした巨大タコヒトガタだ。あの野郎、クソデカい癖に翼で飛んでんじゃねーよ! ヤバ、ビーム来る!
ジュッ!
あっぶね、腕掠った! つか溶けた! クソが、痛ぇ! おのれ…復元するとは言え痛いのは痛いんだぞ! 機械に当たんなくて良かったけどよ! お返しだオラァ!
右手だけで取り出した手榴弾を奴に投げつける。それに気づいた奴は咄嗟に離れようとするが遅い! 再び凄まじい光と爆風が周囲に広がる。さっきの奴よりはダメージはないだろうが、離れる事が重要なんだ。ヨシ、かなり怯んでるな。再生してるが、その間にスタコラサッサだぜ!
もう今ので上空2キロをとっくに超えて3、4キロまで上昇。まだか…もう半分以上霊力使ってる! やべーな…どんだけ深いんだ…だが、ここまで来たら諦めない。ギリギリまで飛んでやる。幸い襲撃はひと段落してる。このチャンスを最大限に活かして距離を稼がなきゃ。
◆
もうかなり霊力を消費してる。残り2割ってとこだ。体感ではもう10キロは飛んでるぞ…。前世で言えば成層圏に近い位置にいるぐらいだ。まだ着かないのだろうか。確実に底にいた時よりは瘴気が薄まっているから間違ってはいないはずなんだが──
ピシャーン!
ガッ……な、なんだ!? 何を喰らった!? 全身が痺れる…! 不味い、火炎放射器がイカれてきてる…これは……雷か! 何処だ! ……上か!!
見上げれば、空一面に浮かぶ女性の様な、怪物の様な顔が浮かび上がっていた。ニヤニヤと笑うソイツはこちらの努力を嘲笑うかの様な表情でこちらを見ている。く、クソが…不味いな…ここまで来て…! だが、舐めんな! 俺は諦めねぇからな!
ニヤニヤ笑うクソ女は再び雷を充填させ、俺に落とそうとしている。そうやっていたぶるのが趣味な奴の様だ。野郎…俺の絶望する顔が見たくてワザと最初の威力を抑えやがったな? で、次が本命と。こういう奴は大体そうだ。その顔はムカつくわ。だから俺は絶望した顔なんて見せてやらねぇ。雷が発せられる直前に、俺は大剣を取り出して掲げる。
ガガガガガガ!!
大剣に雷が集中する! 良かった。物理法則は多少は機能している様だ。クソ女め、お返しだ! 奴に向かって全力で飛んで、その雷が滞留した大剣を座ったままで振り抜く!
「ギャッ」
奴の顔面に浅い傷を付けた。奴は恐らく深淵層の底から顔だけ転送してきてる奴だ。その反撃に怒ったらしい奴は怒りにその醜悪な顔を更に醜悪に歪めた。最早悪鬼だ。そしてのべつ幕無しに雷を乱舞してきた。クソが。ここまでか…? いや、まだだ! 見えたぞ! 出口が! 約500メートル先! なんかの構造物が見えるッ!
もう出し惜しみはしない! 光バリアで乱舞を減衰させて、痺れるままに、ラストの手榴弾を取り出し、追い越して下にいる奴へと投げつける!
即爆破した爆風が、奴と俺ごと吹っ飛ばした。流石の2号機も完全にブッ壊れ、ガラクタとなり、俺は下半身が消滅した。意識ごと吹っ飛ばなかったのは幸いだった。ぐんぐんと爆風によって打ち上げられる俺。後100メートル、80、50、いいぞ、後少し! 20、10、5、3……おい待て、ここまで来て届かないのか!!? ふざけんな!
クソ、後2メートルなのに……! 不味い、自由落下が始まる!!
──
刹那、脳裏に浮かぶかつての師の言葉。何故今、いや、確かに
僅かに残った霊力を腕に集中! そして光の
ガッ
掴んだ! そのまま持ち上げるッ!!
「うおおおおぉぉぉぉらあぁッ!!!!!」
◆
…………着いた……
………着いたんだ……
着いたぞーーーッ!!!
俺は間違って無かったッ!! やはり〝上〟だった!! そして…辿り着いたぜ! 深奥層!! 何もかも闇に染まり切った深淵と比べりゃ、ここはかなり
下半身は復元したてのフルチンで、霊力も殆ど残ってねぇ。でも、やったぜ。ここが深奥層! さっきの言葉、アレに救われた形になったな。アレはなんであんな時に思い出したんだろう……もしかしたら記憶とかじゃなくて
さて、深淵から昇ってきたここは、下水みたいな巨大な排水施設っぽい所だ。あまりに巨大で感覚がおかしくなりそうだが、まぁ、深淵よりかはマシだ。まだ人間の痕跡が見えるし。でも暗いし、汚ったねぇ。臭っせぇ。なんか地面はよくわからん汚水と腐敗してるかの様な泥。そこかしこに人骨他、よく分からん骨が埋まってて、更に内臓系の汚物が散見してる。不衛生極まりない。霊力を込めると水を出す鉱石を取り出して、水を出して一度頭から被り、周辺を光で浄化。それで僅か1メートル周囲は石畳が見えた。すぐに他の汚水が流れ込んだが。
いつまでもフルチンじゃ心許ないから、俺の装備を取り出していそいそと履く。これでちょっとは一安心。
……行くか。霊力も回復してきた。深淵よりはよっぽど早い。いつまでボヤボヤしてたらまた魔物に集られるからな。下よかマシだが、それでもまだ厄介な奴がワンサカいそうだ。
見上げれば、巨大な石壁。その上にはうっすら城郭だか街の一部みたいなのが見える。石壁からはそのあちこちから汚水が出てきてここに溜まる。あの遥か上の施設から出た排水かな。それが深淵へと降り注いでいる…ってか。正しく掃き溜めだな。又は肥溜め。
…と、巨大な反応。この肥溜めの主かな? 瘴気量は深淵級に迫る。なるほど、深淵と隣接してるからそれなりに強いって事か…。だがまぁ、コイツ一体なら何とかなる。さて、そのご尊顔は…?
凄まじい咆哮を放ち出てきたのは、汚水と臓物と骨を集めた様なヒトガタ。30メートル級。下じゃ雑魚だな。その手には何やら鈍器っぽい恐竜の頭骨みたいなのや、鋭い針の様な骨を持っている。う〜ん…集合体か。厄介だな。だが、攻撃方法は想像しやすい。いっちょやってみっか。
◆
まず、こんな奴には先手を取らせない。袋から砲台を取り出して初手ロケラン…ヒット! 奴は躱そうとしたが、端っこに当たった。それだけで奴の左半身がバラける。だが、集合体ゆえか、すぐに元に集まってくる。チッ、タフなタイプだな。奴は残った右手を振りかぶり、頭骨を振り下ろしてくる。が、そんなもん食らうかよ。地面に大穴が空いたが、俺はその隙に砲台を収納して懐へと走り始めていた。
奴は再生した左手の骨レイピアで俺を刺そうとしたが無駄無駄。紙一重で躱し、ライトブリンガーと大剣を叩きつける。絶叫して仰け反る敵。おっと、コレは範囲攻撃だな? 案の定奴の身体を中心に黄土色の爆発が起こる。しかし俺はもうそこにはいない。うわ、臭っさ! 俺だから平気だけど、コレ、凄い猛毒な気がする。近づけさせない作戦だな? で、遠距離から骨の散弾を飛ばしてくる、と。かなりな威力だが、二振りの剣で払いのけ、お返しに魚マシンガンをぶっ放す。それで奴はかなりバラバラになったが、周囲の汚水集めてまた再生してる。核が見つけにくいタイプだな…。こんな時に火炎放射器があったら…2号機…まぁ無いもんはしょうがない。自前で何とかするか。散発的に飛んでくる散弾を片手の大剣で切り払い、もう片方の手である鉱石を取り出す。そこに霊力を込めて、そのまま握り潰す! キラキラとした破片を発しながら手のひらに莫大な炎が宿る。奴はそれを見て警戒した様だ。ふふ、怖いか?
その手の中の力が霧散する前に大剣の刀身へと塗りつけると、大剣から莫大な炎を纏った刀身が顕になった。さて、テメェの弱点はコイツだろ? バラけて無限再生する相手の対処は、無限再生する前に全部叩き斬ること! 行くぜ! リサイクル野郎!
炎を纏った剣で最初に行ったのは、そのみなぎる爆炎を撒き散らして猛毒の霧を吹き飛ばす事。その炎は停滞していた腐敗水を軒並み蒸発させた。その猛威は敵の霧を吹き飛ばすだけではなく、敵本体にも届き、その身体を灼く。流石の敵もこれには堪らず、散弾を飛ばす事を中断して回避行動に移ったが、時既に遅く、炎迸る大剣を担いで再び接近し、その身体を引き裂く。
敵は絶叫しながらも、内臓の触手や骨の武器を俺に向けるが、無駄だ。悉くを躱し、逆にこちらも倍以上の手数で斬り刻む。コイツは思った通り炎が弱点だ。面白い様に溶けていく。光の剣と炎の剣でバカスカ斬り刻んでいたら、再生していた動きも鈍くなってきた。
そろそろ核を見つけたいんだが…どこかな? ……ん?
視界の端にコソコソ動き回るモノを発見した。くっくっく、上手く隠したつもりだろうが、そうはいかない。オラァ!
大剣を投擲し、その小さな蟲を刺し貫く。その蟲はギイイィ…と断末魔をあげると、そのまま斃れた。それに伴って、半分崩壊しかけのヒトガタの身体も崩壊し、瘴気へと帰っていく。やはりアイツが核だったか。ま、分かりやすくて結構。
さて…大分キレイになったな。汚物が取り払われて石畳が見える。まぁ、汚物は常に垂れ流しだからしばらくしたら元に戻るんだろうけどな。
今のうちに例の蟲の死骸も一応収納しておく。何かに使えるかもしれないし。さ、進も。
◆
しばらく巨大な石壁を歩きながら観察し、いよいよ直に登るかどうか検討し始めた頃、巨大な穴に行き着いた。排水口だな。20メートル程の高さのトンネルだ。下水が地面にチョロチョロ流れてる。
うーん、臭い! 汚い! まぁ行くしか無いんだけどね。壁登りとどっちがマシかって、こっち一択なんだよな。登ってる最中に襲撃きたら流石に面倒過ぎる。建物内ならまだ休む場所ぐらいあるかもしれないし。あ、ここ自体が魔物ってオチは今のところ無い。何故ならある程度分かるようになったから。さ、行くか。
しばらく暗闇のトンネルを歩く。まぁ長い。後、かなりの分岐があってその度に迷う。縦横無尽に入り組んで、訳が分からなくなる。魔物も蝿人間や蛆虫、ゲジゲジ、ヤスデ、ムカデ、蛞蝓や蛭みたいな奴など、気色悪い奴のオンパレード。まぁ、弱点はどいつもこいつも共通してるからいいんだけどね。深層級ぐらいしか無いから雑魚だし。ただしゴキブリと蚊だけは絶許。ウザすぎるから。
とは言え、深淵の虚無感に比べたらまだいい。グロくてもバリエーションに富んでるから情緒を回復させてくれる。あそこはやっぱ人間のいていいとこじゃ無い。
3日程彷徨って、結晶の部屋とか本棚のある部屋とか発見した。前者は結晶を根こそぎ収納してたら、結晶付きの蛙が出てきたので大剣で処した。我が剣に斬れぬものはあんまり無し! あ、深淵級除く。
後者だが、木造りのボロボロの部屋を発見した。そこはいかにも朽ち果てた部屋って感じだが、ボロでも本棚や机や椅子、簡易的なベッドまで揃っている。朽ち果てかけだし、ベッドのシーツはよく分からん汚いシミで汚れてるし、拘束具とか拷問器具あるし、何よりも椅子にローブ着た人骨が鎮座してる。んー…まぁよくある装飾だな! とりあえず人骨をどけて椅子に座り込む。人骨は案の定動き出そうとしたが、その前に光の霊力浴びせてただの骨にしてやった。アホが。見え見えなんだよ。
でもコイツのローブは使えそうだからとっとこ。
さて、ゆっくりしたい所だが、まずはこの部屋の浄化が先だな。とりあえず1番不穏な気配を放つ本棚。上手く隠してるつもりだろうが、怨念っぽい瘴気が漏れてんぞ。トリガーは机にある一冊の本だ。読んだら呼応して本から怪物が出てくる…かな? 俺には関係ないけどな。深淵じゃ出来なかったけど、今なら出来る。座りながら全身に光の霊力を練り上げて…周囲の部屋全体に発散!
カッ!
おお〜。部屋が気持ち綺麗になった! 肝心の本棚も、収納されてる本の6割が消滅してた。つまり、消えた奴らの大半が魔物だった…ってコト? お前ら多すぎじゃない…? それでも消えなかった本は普通の本だ。残らず持ち帰ろう。
で、机の上の本。まだ残ってた。これ何だ?
なになに…「人体における魔力発生の構造と魔力属性についての考察」か。霊力を魔力って言ってんのかな? まぁ、似た様なもんだからな。どう呼ぼうが勝手だ。で、中身は──
瘴気の脅威とそれに晒された故の霊力の発現の仕方をデータにそって事細かに記載してるな。なるほど…人によってと瘴気量によって差異はあるが、大体5割侵食されたら発現するらしいな。知らなかった。で、8割超えると手遅れで魔人化すると。よく調べたな。発現しなかった奴も連日行えば発現したらしい。ただ、苦痛が酷いので中々進まなかったと愚痴が書いてある。そりゃそうだろうな。最終的に、3割侵食を適度に続けて発現させるのが安全であると締めくくられている……この結論に至るまで何人が犠牲になったんだろうな…まぁ、これはどこも同じだろうから仕方ないか。
で、この著者は霊力の属性変化にも踏み込んでいる。炎を発現する者や水を発現する者の違いは何か、と。
結論はよく分からんとの事。なんでやねん。ただ、色々な観点からアプローチしていて面白い。性格、生育環境、各人のイメージなどなど、綿密に調べている。よく分からないと書いてあるが、上記の事に密接に関わりがありそうだ。確証が持てないから分からないとしたのか。真面目な奴なんだな。そういえば、ドニさんは氷使いだったが、昔は水だったと言ってた。彼なりのジョークかと思ってたが、稀にそういう事もあるらしい。端に属性毎の性格分析がメモとして残ってた。
炎…熱血漢、単純明快
水…穏健、変人、天才肌
雷…兄貴分、姉貴分、親分肌
風…気分屋、自由人、風来坊
土…安定思考、堅実、真面目
氷…寡黙、冷血漢、冷静沈着
無…不器用、愚直、頑固
……だいたい合ってる。何これ凄い。コイツ、中々やるな。それに別属性の可能性も示唆してるし、なんなら多数の属性を操る方法まで記載されている。これはかなり有用な書物だな。で、その方法とは……【詠唱】だと。
……いや、そんな単純な事か? 何々、『霊力を言霊に乗せて発し、イメージを詠唱によって補う事。ただし、属性使いの威力よりも一段と落ちる』…マジか。んで、それに慣れていけば詠唱無しでもいけるらしい。その先に詠唱集が載ってるから試してみよう。
え〜「火よ、この指先へ灯れ」……ほらな、無理じゃん。ん? 指定された量の霊力を音域に合わせて正確に…? 面倒くさいな…でも、やる価値はあるか。練習してみよう。
◆
……
……出来たーーー!
マジかマジか! これは凄いぞ! この技術を進めれば、かなり有用になる! 霊力を込めれば多少詠唱が長くなるが、かなりの威力が出せそうだ。何で今までこの可能性に気付かなかったかなぁ。まぁ、確かに戦闘中は詠唱やってるヒマないし、威力も定量だから扱いは難しいか。ただ、それでもかなり使えると思うんだよなぁ。是非とも持ち帰って研究してもらわなきゃな! ホント有能だなこの骨!
で、詠唱はとりあえず置いといて…この著者、瘴気についても研究してるな。瘴気についての研究がかなりまた綿密に記載されているが、最終的な結論は、瘴気とは〝闇〟の魔力である…と断言してる。マジか…そこにまで辿り着くか…。で、特別な意志を持った魔力故に他者や物質へも影響を及ぼしている、と。そして、瘴気の中心にいる邪神の如き存在が全ての元凶である…か。合ってるな。
「必ずや対になる属性はあるはずだ。しかし、未だかつて見つかってはいない。詠唱でも発現しなかった。恐らく【認識】が必要だ。つまり、使い手が現れれば、人類は反撃の糸口を掴めるであろう」
と、そのページは締めくくられていた。う〜ん…後は研究が続くが、その後彼は神に傾倒したらしい。これまで理路整然としていた研究も願望が増えていく。原因は襲撃で妻を亡くしたからのようだ。嘆きの愚痴がかなり書き殴られている。哀れとは思うが…その後、神の名のもとでかなり非道な人体実験を始めた様だ。周囲の人々は彼を止めようとしたらしいが、残された自分の息子にまで非道を行おうとして、ギリギリで発覚、処刑されかけたが逃げたらしい。で、魔人化してここに来た、と、日記帳の様になった本の後半に書かれていた。マッドの末路って感じだな。だが、なんで骨になったんだ? ……色々と疑問は尽きないが、考えてもしゃーないな。
最後の研究は、他の属性で瘴気の様な事が出来ないかって研究だな。まぁ分からんでも無い。例えば火の霊力に意志を持たせて拡散するって事だろ? 出来なかったらしいが。光もそうだが、何か特別な条件があるのかもしれないな。以前俺は出来たらしいが、今だにどうやるか分からん。これも帰ってから検討だな。
最後に、著者名はレオナルド=コルテス。
……どっかで聞いた苗字ですねぇ。何となくコイツが骨になった理由が分かった気がしたわ。ま、お前の成果は俺が有効に使ってやるからな。
一旦本を収納した俺は、本棚の本も片っ端から回収した。その後ベッドに乗っかってる汚ったねぇシーツを引っぺがして端に寄せ、木の板になったベッドマットに寝転がる。ちょっと疲れたから少し休もう。この身体はほぼ睡眠を必要としないが、流石にここまでの行軍で疲れが澱のように溜まっている。休むなら今がチャンスだな。光の霊力を部屋に充満させて、と……それじゃ、おやすみー。
◆
──飛行機から降りた俺達。機長はじめ客室乗務員は未だに混乱の最中だ。なんでも、連絡が全く付かないらしい。俺も他の皆も自分の端末を確認していたが、全部圏外。どうすんだこれ。俺も流石に不安になってきた。
何人かはCAに食ってかかってるが、彼女達も混乱してて話にならない。そんな時、全員の頭に不快な音を10倍濃縮した様な掠れた嫌な声が聞こえた。
──これより、
言語を喋れない者が、無理矢理作った様な耳に触る声。そのあまりの嫌な音に、全員一様に耳を塞いで座り込む。赤子や子供はかなりの悲鳴と泣き声で叫んでる。気持ちは分かる。なんなら俺だってそうしたいぐらいだ。
しかし、まだまだこれは始まりの合図だった。
泣き声の一つが、更に絶叫へと変わる。彼女の側にいた母親の頭が半分別のものへと置き換わっていた。謎の怪物が地面から飛び出して、彼女の頭を齧っていたからだ。パギパギという不快な咀嚼音を経て、完全に脳髄を齧り取られた母親は、崩れ落ちる前に化け物の複数の腕で抱え上げられ、更に頭から貪り喰われた。そのあまりの光景に、母親の子以外は全員が動きを止めてしまった。これは何だ、悪い冗談か、と。俺はと言えば、これが安全性バイアスかとなんか場違いな事を考えていた。
だが、そんな奇妙な均衡もすぐに崩れた。次々と土中から化け物達が飛び出してきて、手当たり次第に俺達を襲い始めたからだ。灰色の、昆虫か人間か分からない様な太めの身体に長い腕が3対。顔の大部分は蛇だが、その大きな口だけは人間の様で嫌悪感が酷い。外にいる人間は300程度なのに、その倍以上の数の群れ。どう考えても絶望的だ。まず喰われたのは赤子。丸呑みできるのに、態々齧って断末魔を楽しんでやがる。次は子供。名も知らぬ子供は、やだああああぁぁ!! と叫びながら四方から引っ張られ、その身を千切られて臓物を撒き散らしながら喰われた。
その次は女性。老年若年問わず、失禁や脱糞しながら血を撒き散らして喰われた。
では男が無事だったかと言えば、そうでもない。いち早く機内に逃げようとした奴等は入り口に殺到して突っ掛かり、背後から集られて同じように身を裂かれて喰われた。
どんな懇願も、命乞いも意味を為さない。寧ろ化け物達はそれを聞いて嬉しそうに嬲ってくる。
立ち向かった奴も居た。化け物に殴りかかったが、その拳が届く前に化け物のパンチが彼の顔面を陥没させて、目玉が飛び出していた。
──なんなんだ、これは。
俺が何か悪いことをしたのか。ここは地獄か。帰りを待つ妻と子の顔が浮かぶ。これが俺の末路か。よく分からないこんな場所で、こんな気持ち悪い化け物に喰われる事が。──ふざけるな。認めない。こんな結末は認めない!
辺りは絶叫や断末魔の重奏。大人も子供も悲鳴は同じ。やめて、か、いやだ、だ。眼前には化け物がその顔を歪ませながら立っている。周りには同じ様に俺を見ている化け物ども。──貴様ら、俺を、
「うわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
その面に一矢報いようと飛び出した俺の身体は、周囲にいた化け物に四方八方から捕まえられて凄まじい力で噛みつかれた。頭を歯で挟まれ、頭蓋骨に凄まじい圧が加わる。痛い! 痛い!! 痛い!!! 嫌だ、こんな終わりは嫌だ!! 喰われたくない!! 助けて! 助けてくれ!! あがああああああああ!!
ブチブチと手足が千切れる音と、頭と首への尋常じゃない痛みが意識を飛ばそうとするが、ダメだった。最後まで俺は凄まじい苦痛の中、自分の喉が枯れる程の絶叫を漏らしながら、頭蓋骨をゴリッと噛み砕かれた。
痛みと恐怖と絶望の中、最期に感じた事は、神への怨嗟だった。
──それが、
もしかしたら1日1回になるかも…もしそうなったらごめんなさい。