ティエラの地より 〜転生少年、深淵に挑む〜   作:エアロダイナミクス

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48、深奥の城

 

 

 

 

 

 

 そこは、端的に言えば城であった。城のような建造物、であるとも言える。外観は西洋風の城そのものなのだが、その建物の壁一面に人が埋め込んであるのだ。それらは一様に苦しみ踠く表情や動作をして固まっており、そして何より、()()()を発している。その数が膨大な為、まるで仏教の読経の大合唱にも聞こえるのだ。最低過ぎるBGMだな。

 背景も、相変わらず太陽は赤く蕩け、禍々しい雰囲気を演出している。総評としては、言葉を選ばず言えば、クソほどに趣味悪い。まるで、最終決戦する魔王の城、みたいな風情だ。その感想が思わず声に出た。

 

 

「魔王の城…だなぁ」

 

『否定。魔王は深淵の先にいます』

 

「雰囲気がって事で。言葉の綾さ。ここの主は精々公爵級だろう。居城を見るに、魔王気取りだろうけどな」

 

『魔人……前職では中々捕まらなくて苦労していました。〝工場〟にとっては最重要研究対象だったので。ただ、彼らは知恵が働くのですぐ逃げられましたね』

 

「そーいや、お前らの中で、魔物と魔人の違いって何だ?」

 

『回答。瘴気に汚染されて染まったのが魔人。精神と魂まで浸されたのが魔物、と定義しています』

 

「ん? 瘴気に染まってんのに、アイツら精神は無事なん?」

 

『無事ではありません。肉体は変貌しきっていて、確実に精神も影響を受けています。しかし、元の人間の精神を若干残しているのです。サンプルが少ないですが、〝工場〟が捕まえて解析した結果はそうです』

 

「ふ〜ん。で、それが染まり切ったら?」

 

『マスターが先程戦った様な、人型タイプへと変貌します。いや、変貌は人型に限りませんがね。〝工場〟のログによれば、捕まえた魔人を改造したら例外なく魔物へと変貌したとの事です。彼らは優秀な〝工場〟の駒になってました』

 

「……マジかぁ。それはちょっとビックリだわ。つまり、深淵にいる人型の奴等って……」

 

『捕食されずに生き延びたけれど、精神と魂まで瘴気に侵された魔人の成れの果て、って所ですね。そもそも瘴気特有の憎しみや破壊衝動などの負の思念に支配された怪物、それが魔物です。人間ベース以外にも勿論居ますけどね。ちなみに、魔人は深淵では例外なく魔物へと変貌しています』

 

「なるほど……って、ちょい待て。じゃあ魔王はどうなんだ?」

 

『アレは例外中の例外という認識です。そもそも、解析しようにも力の差がありすぎて、〝工場〟の総力をもってしてもまず勝てないでしょう。だから、推察しかできませんが…古の時代から存在した魔人が力を付けたか、それとも魔物が更に進化してそうなったか…つまり、なんとも分からないというのが結論です』

 

 

 俺たちは、そうした取り留めもない話をしながら、城の門を通過した。魔人と魔物の違い、そして魔王の事について知れたのは収穫だった。相変わらず、壁の人々は血塗れで壁に固定されて呻いている。いい加減鬱陶しい。ラブやんによれば、コイツらは低位の魔人らしい。大方、上から攫って来た奴等だろうな。嬲りに嬲った挙句、壁装飾として永劫に苦しめていると見た。それは壁の奴らの欠損具合を見りゃ分かる。全く反吐が出る。

 

 

 待ってろよ。ここのクソ主人殺したら苦しみから解放してやるからな。

 

 

 

「……これで精神が残ってるって言われてもなぁ。悪趣味すぎん?」

 

『何を仰る。嗜好に関しては魔人はこの海の中でもトップクラスに悪逆ですよ? 私としてはむしろ、そうだからこそ人間に興味を持っていたぐらいです。魔物を上回る残虐性、嗜虐性、狡猾さ、悪辣さ、それら全てを鑑みても、他の魔物より一回りも二回りも勝る。強さは別としても、それだけで研究する価値はあります。まぁ、マスターを見てそれを覆されましたがね。本当に人間とは、何とも面白い』

 

「人間にも色々あるってこったな。光も闇もある混沌。だからこそいいんだ。魔人になっちまったら光だけブッ壊れて、闇が増幅されるみたいだから参考にはならんがね。俺は人間で良かったって思うぜ?」

 

『……マスターは、どちらかと言えば…』

 

「? なんだ?」

 

『……いえ、なんでもありません。さて、ここからのプランはどうしますか』

 

「あからさまに話題変えやがったな。まぁいい。とりあえず、まっすぐ行ってブッ飛ばす、だな」

 

『相変わらずノープランですね』

 

「辛辣ぅ! だが、それがいい!」

 

『何言っても変わらないじゃないですか…まぁ、お任せしますよ。マスターがどうされるか、私としても興味があるので』

 

「そうだろ? ま、見てなって」

 

『そうですか。では、お手並みを拝見いたしましょう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『(マスター、貴方は光と闇の混沌が人間と定義した。ならばマスター、貴方の闇はどこにある? この闇の凝縮した坩堝で、平然と光を貫ける貴方は、一体何者なのですか……私はそれこそが知りたい)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見事な西洋の古城の様相を模したこの建造物自体は見事な造りだ。門を潜れば、石造りの狭いアーケード。クソみたいな雰囲気さえ無ければ観光地としてもいけそう。ただ、こちらではキモい蟲の寝床や苗床と化している為台無しだ。石に埋められた魔人を喰ってたクソデカウデムシをブチ殺し、ムカデ、ゴキブリ、蜘蛛の大群を切り刻みながら進む。

 アーケードを抜けたら、本館へ。内部は天井が高く、ゴシック様式の様な構造で、天井は尖塔アーチとなっている。壮大な雰囲気を演出しているつもりだろうが、ステンドグラスが拷問の図。あと、これ見よがしに拷問器具飾るの流行ってんの? 全部使用した後ある痕跡が見られるし。装飾の代わりに生首とか人骨とか飾るのやめてもらいますー?

 そのエントランスは左右に道が続き、正面には扉があり、迷わずそこを開ける。すると、中庭に出た。本館も中庭を囲み、大きく円を描いている。左右の建物には大きな扉が見え、その扉がゆっくりと開いた。そこから、5人ほどの人影が出てくる…よく見れば、豪華な鎧を身につけている。そして、全員が見目麗しい女魔人だ。伯爵級、かな? ……なるほど、ここにいる王様気取りは、そういう奴ね。媚び諂う美しい女は生かして、下僕にしてると。ホントやなヤツ。まぁいいさ。貴様は今日この日が精算の日だからな。本物の地獄へ堕としてやろう。

 

 

「止まるがいい、下賎な人間よ。ここまで来られたことは褒めてやろう。だが、それ以上進むのであれば、貴様は想像もつかぬほどの苦痛を味わう事になるだろう」

 

 

 女どものリーダーであろう、1番上等な鎧に身を包んだ女が、俺に向かって警告を発してくる。言葉自体はただの警告に過ぎないが、その表情を見れば満面の笑みを浮かべてる。嗜虐性が隠し切れてないぞ。進まなくても苦痛とやらをお見舞いするつもりだろ?

 

 

「下賤はどちらだか。こちらこそ、大人しくお前らの主の所に案内するなら、楽に逝かせてやるぞ?」

 

 

 その言葉に、女は激怒したらしい。さもありなん。あからさまに見下してたからな。

 

 

「貴様……!! 身の程を弁えろ!! もういい! 主に献上するつもりだったが、この私が直々に教育を施して、永劫に苦しめてやる!!!」

 

「え〜っ、ネレイス〜、久しぶりの人間だよぉ? 私にちょーだい?」

 

「そうだそうだ! 横暴だぞ!」

 

「わたくしも御相伴に預りたいものですねぇ。ご主人様に叱られますわよ?」

 

「お願い。ワタシ達にも頂戴」

 

「……チッ、分かったよ。みんなで仲良く分け合うさ。私もお仕置きは避けたいからな。それより、傷を負うなよ? 連帯責任になるからな」

 

 

 

 ……何やら、揉め始めた。しかし、結局は全員で来るらしい。それにしても、ここのご主人様とやらはいい趣味してやがる。羨ましくもないが。さぞかしムカつく奴なんだろうなぁ。あ、一応確認しとこ。

 

 

「あー…一応聞いとこう。俺をどうするつもりだ?」

 

 

 奴等がピタッと話を止めて、いやらしい笑みを浮かべて嬉々として語り出す。

 

 

 

「決まってるじゃ〜ん? まずは〜鋭い針の椅子に縛り付けて〜」

 

「爪を剥いで先端から擦りおろす!」

 

「顔面の皮剥はお任せを」

 

「激痛を齎す返しの付いた針を建国に合わせた数の250は打ち込む」

 

「喜べ。×××周りは入念に虐めてやろう。沢山器具はあるからな。嬉しいだろう? 貴様が男で良かったなぁ。女だったらもっと苦痛を味わうところだったからな」

 

「どれぐらいで魔人化するかな〜。楽しみ〜」

 

「あまりに早い殿方は嫌われるぜ? 3日ぐらいは保って欲しいな。少しは気概を見せろよ?」

 

「何処に飾りましょうかねぇ。あ、見たと思いますが、終わっても蟲達の苗床兼食料ですからね」

 

「ご主人様が戻る前には終わらせたい。鳴き声は楽しみ」

 

 

 う〜ん…蕩け切った表情で嬉々として語るなぁ。コイツらガチでやるつもりだ。こりゃ救いようがねぇなぁ…分かっちゃいたが。

 

 

「……最後に聞いとくが…これまでどれぐらいの数それやってんだ?」

 

「なんだ? 怒ったか? これは楽しめそうな奴だな」

 

「お前、ここに来るまでの城壁見てねーのか?」

 

「アレの半分はわたくし達の()()ですわよ」

 

「貴方はこれまで喰った家畜の数を数える人間?」

 

 

 はぁ〜ダメだこりゃ。ホントに人間の精神残ってんのかコレ? もう完全に化け物の思考じゃん。まぁいい。コイツらも元は犠牲者だったかもしれんが、ここのご主人様とやらと同罪だな。となれば、そのご主人様とやらが戻る前に全員地獄(本物)に還してやろう。

 

 

「ラブやん、出番だぜ。ドニ剣もな」

 

『あ、話終わりました? あと、ドニ剣って…ネーミングセンス』

 

「うるせー。これが一番呼びやすいんだよ」

 

 

「ほう、貴様…面白いモノを持ってるじゃないか。主の良い土産になろう」

 

 

『いやぁ……そもそも貴女がたの様な下賤な腐れ×××では私は扱えませんし。私も虫唾が走るのでお断りです』

 

「あ”あ”!? テメェ、スクラップにすっぞ!?」

 

「おーおー煽りよる。お前、そんな事も出来るんだな」

 

「待て! エルマ! ……貴様ら、楽には死なさんからな…! モンモランシー、エルマ、シモーヌ、ポレット! 全員で掛かるぞ!! ただし殺すなよ…すぐに豚の様な悲鳴をあげさせてやる…!」

 

「そーゆー事は、勝ってから言ってどうぞ。無理だと思うけど」

 

「   」

 

 

 

 瞬間、ガチギレした奴等から、様々な属性の攻撃が乱れ飛んで来た。ん〜、これ、魔術じゃない方か。雷、水、火、風、氷っと。生前の属性はそのまま使えるのね。得意属性だからか、それともコイツらが伯爵級だからか、それぞれが超高威力。でも残念。

 

 

「ラブやん」

 

『はいはい』

 

 

 俺たちの眼前に、攻撃が始まる前から収納袋から取り出した大楯が現れ、それが浮遊してそれぞれの攻撃を受け止めている。通常はそれで受け止められる威力ではないが…

 

 

「なっ!? バカな!! 我々の技が…」

 

「吸い取られてる…!?」

 

 

 くっくっくっ。驚いてるな。さて、バレない様に、中のエネルギーを浄化して、と。収納するだけじゃ勿体ないじゃん? そのエネルギーを攻撃に転用したり、こっちが貰ったりする機能も付けたんだぜぇ! じゃ、いただきます。

 

 

 

「や、奴の霊力が…ぐんぐん増えてる〜!!」

 

「いかん! 属性攻撃を止めろ!!」

 

 

 お、止まった。まぁ随分吸えたからいいか。コイツらにはこれぐらい有れば十分だ。

 

 

「さて……随分と長い事人々を虐げてきたお前らを、いち人間として許す事は出来ない。覚悟はいいな」

 

 

「……ッ! 偉そうに! 下等生物の分際で!!」

 

「道具が凄いだけでイキってる。大した敵じゃない」

 

「あぁ、そうだな! 四肢を直接潰して徹底的に痛めつけてやる!!」

 

 

 

 我慢の限界に達したか、ブチ切れた火属性の奴が、突っ込んで来た。他の奴らもそれに続く。やっぱこういう時に一番槍は火属性なんだな、と、妙に感心しながら、ドニ剣で受け流し、剣の背で全員の顔面を打ちのめす。

 

 

「ぶっ! くっ、クソ…かなりの手練だわ〜」

 

「うぅ…ここに来れる奴だ、流石に一筋縄ではいかんか……仕方あるまい、アレをやるぞ」

 

「えぇ……アレ、不細工になるから嫌なんだけど…」

 

「言ってる場合じゃない。お仕置きは嫌。やるよ」

 

 

 

 ゴギゴギゴギ…

 

 

 

 それまでの見目麗しい女騎士の集団が、途端に化け物へと変貌し始める。これって…魔物だよなぁ。

 

 

「なぁ、コレでも魔物じゃねぇの?」

 

『いえ…際どい所ですが、まだ魔人ですね。これを繰り返したり、理性を失えば魔物化しそうですが。いわば、本気の形態ですね。魔物化への綱渡りという意味では諸刃の刃でもありますが』

 

 

「何をゴチャゴチャ言ってる!! 貴様はここで惨めに壁の一部となるのだ!!」

 

 

 気性も荒くなってるな。理性があるかどうかが鍵か。まぁ、コイツらの理性なんてたかが知れてるが。そう来るなら俺も本気出すぞ。

 

 

 凄まじいスピードで突っ込んで来た雷の奴に、ラブやんの刃を瞬間的に出して、四肢を切断する。すれ違いざまにやったので、奴は後方にぶっ飛んでいき、壁に衝突した。

 

 

「!!!」

 

 

「き、貴様…何をした!!? ネレイス! サッサと再生しろ!!」

 

「今やってるんだ!! クソっ…な、何故だ……何故再生できん!?」

 

「そんなバカな……」

 

 

 呆然としてるな。チャーンス!

 

 

 意識の間隙、それは人間に限らずどんな生物にも存在する。特に想定外の事態が起きた時、それは顕著に起きうる。なまじ知性がある奴だとそれが長くなり、言語を操る奴なら更に伸びる。本能で動くタイプは立て直しが早いが、コイツらは知性持ちかつ、言語を主としてコミュニケーションをはかっている。つまり……カモだ。

 

 

 

「「「「 !!!!? 」」」」

 

 

 4人の魔人のそばを通り抜けざまに、ラブやんと光を纏ったドニ剣で、全ての四肢を切断。尻尾や翼がある奴はそれもついでに斬っといた。俺が彼女らのそばを通り抜けた後、最早立てる者は居なくなっていた。

 

 

「な…なんだ…何が起きた…!」

 

「ぐっ…確かに再生しない…! 攻撃の正体が掴めない…! 貴様! 何をした!!」

 

「言うわけねーじゃん。アホなの? ま、ただでは死なさん。精々反省しろ」

 

 

 

 複合魔術【火炎旋風(フレイムトルネード)

 

 

 

「「「「「ぎゃああああああああぁぁ!!!」」」」」

 

 

 炎の竜巻が5人を包み、焔と旋風で焼き尽くされる。これで死ぬとは思わんが、魔物化させないギリギリのラインまで削る。術を中断すると、プスプスと焦げた匂いを発しながら、半分炭化した奴等の姿が見えた。

 

 

「ば…馬鹿な……属性が混じる……? そんな事が…」

 

 

 お、かろうじて喋れるか。まぁ、光属性じゃない分、再生は出来るからな。そろそろいいか。

 

 

 ブゥン……

 

 

 ライトブリンガーがその全貌を現す。光そのものの刃、闇に染まった奴にはさぞかし痛いだろうな。俺には分からんけど。だが、他者を虐げ、悦に浸っていた貴様らには甘んじて受けてもらうからな。

 

 

「…ひっ、な、なんなのよソレ!!」

 

「や、やめて……わ、私達は、ここの糞キモ豚に攫われて仕方なくやってただけなの…!」

 

「お願い…やめて…やめてくれたらなんでも…望む事何でもするから!」

 

「奴隷になります! 貴方の望むまま、好きに命令して! ご奉仕する…させていただきますわ!」

 

「痛い…痛い…たすけて……痛いよぅ…」

 

 

 危機的状況を察してか、即座に命乞いを始めた5人。いつの間にか人間の姿に戻り、その肉体をわざと惜しげもなく晒しながら、こちらの情に訴えかけてくる。その姿に深い溜息をつく。

 

 

「無駄だ……と、言いたいが、そこまで言うなら質問に正直に答えろ。1つ目、お前らはそうやって命乞いしてきた奴を1人でも救ったか?」

 

「もちろんよ! ご主…糞豚野郎がいたから無理な人もいたけど、救える分は救ったわ! ねぇみんな!」

 

 

 その言葉に一斉に頷く女達。

 

 

「…………。2つ目、お前らは、ここで助かったら、これ以上人を虐げないと……本当に誓えるか?」

 

 

「「「「「誓います!!!」」」」」

 

 

 俺の質問に希望をもったのか、弱々しい声色に喜色が混じる。その言葉を受け、俺は彼女らの元へ歩み寄る。それを見て、女達は弱々しいながらも、自らの肉体をアピールする様な煽情的なポーズをさりげなくとっている。…逞しいものだ。思えばコイツらも、ご主人様とやらに命懸けでアピールしたお陰で、壁装飾にならずに済んだのだ。それを考えれば哀れではある。想像を絶する恐怖と苦痛の中、敵に媚びねばならなかったのだ。最低の選択肢を選ばざるを得ない。そうしなければ永遠に苦しむ事になるからだ。恐らく、ありとあらゆる事はやったのだろうな。

 取り止めもなくそんな事を考えながら、1番近くに倒れていた氷女の元へ辿り着く。

 

 

「痛い……痛いよ…助けて…お兄ちゃん……」

 

 

 涙を流し、苦痛に顔を歪ませながら情けをねだる。どうやらこの子は一番若かったらしい。まだ少女の顔をしている。俺は何となく、フロウの顔を思い出した。その俺の表情を見て、ポレットと呼ばれた少女は一層俺に救いを求める。そんな彼女に、俺は手を差し伸べ、ポレットもその手を伸ばし……

 

 

 

 ズ……

 

 

 

 湿った音を立てながら、ライトブリンガーが彼女の核を貫く。

 

 

「えっ…な、なんで……いっ、いだいぃぃぃいッ!!」

 

 

 ザンッ

 

 

 

 続けて振った大剣の一撃で、彼女の首は容易く飛んだ。その端正な顔を苦痛に歪ませながら。

 

 

 

「そ、そんな!! ポレット! どうして……!」

 

 

 助けると思ったか? だが、ダメだね。ネレイスとか言う奴が焦りながら聞いてくるから、その理由を説明してやろう。

 

 

「お前達は2つ、間違いを犯した。まず1つ。お前達、俺が何の言語を喋っているか…分かるか?」

 

「えっ…。何の話…」

 

「分かりやすいように()()()()()。Ahora, ¿sabes de qué estoy hablando?」

 

「!? 何を言ってるの……?」

 

「ほら、わからねーだろ? 俺は実はずっとコレで喋ってる。お前達の言葉に変えて、な。逆も然り。実はな、俺はお前達の言葉は手に取るように分かる。そして、考えていることも全て俺に筒抜けだ」

 

『あ、ちなみに私は大体の言語をインストールしているのであしからず』

 

「「「「 !? 」」」」

 

「まさか……そんな高位階の魔人にしかできないような事をたかが人間が……」

 

「ダウト。それがお前達の敗因だ。注意していれば見抜けたはずだ。俺の言語と口の動きの齟齬が。お前達はたかが人間と侮り、観察を怠った。口の周りに起こる風の魔術に気が付かなかった。それが間違いの1つだ」

 

「そ、そんな…」

 

「もう1つは……」

 

 

 ザンッ

 

 

 新たに首が飛ぶ。驚愕の表情のまま。それは、火の女。たしか、エルマとかいったか? 続けて、核に深々とライトブリンガーを差し込み、破壊する。それだけでエルマの身体は崩れ落ちた。()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……ご覧の通り、お前達の言葉は嘘ばかり。それで信用するに足ると本当に思ったか?」

 

「ま、待って! ソイツは我々の中でも性格が歪んでる奴なの! 一番に糞野郎に媚びて、他の女達を罠に嵌めて、壁にして……そんな奴と一緒にしないで!!」

 

「だから言ったろう? 俺は、お前達の考えは手に取るように分かると。読めるんだよ、お前達の記憶、考え、全てがな。唯一のチャンスをお前達は見誤った。それが間違いの2つ目だ」

 

「や、やめ」

 

 

 ズズッ……

 

 

「「ぎゃああああぁぁ!!!」」

 

 

 スパパン!

 

 

 風と水、二人の核を二つの剣で貫き、破壊した後、返す手で首を同時に刎ねる。モンモランシーとシモーヌ、だったな。

 

 

 

「ひっ、ひいぃぃぃ!」

 

 

 雷女、ネレイスが達磨状態でも身を捩らせて後ずさる。久方ぶりの恐怖でも感じているのだろうか。なるほど、確かに精神は人間味を残しているようだな。

 

 

「先ほども言ったが…お前はそのように恐怖する人間に対して…少しでも慈悲を見せただろうか。いや、答えなくていい。お前の記憶によると、嬉々として拷問にかけていたようだからな。ならば、これは自業自得というものだ。甘んじて受けるがいい」

 

 

 遂に背後を見せて逃走し始めたネレイスの背中から胸にかけて、ライトブリンガーが飛び出した。核を一撃で貫いた。これで終わりだ。あまりの激痛に身をよじらせながら、ネレイスは振り向いた。その顔は、泣きそうな、それでいて何かを訴えるような表情をしていた。それは、初めて見せた、コイツの真実の顔。その顔を見て、首を刎ねることを一瞬戸惑った。

 

 

「う、ぐうぅ……じゃあ…どうすれば…よかったのよ…! ぐぎぎ…大人しく地獄を永遠に味わえと…? 何人、何千人とそうなった…世界で一番嫌いな奴に媚びて、諂って……身体を売りまくって……他人を蹴落として……う…ぐ……私、は……! どうしたらよかったのよ!!!」

 

「……そうさな。だからこそ、その苦しみを終わらせてやるさ」

 

 

 

 最後の首が飛ぶ。その顔は苦痛にまみれていたが、それでも尚、どこか清々しい様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【SIDE:ライトブリンガー】

 

 

 

 

 

 

『マスター。貴方は何故私を生かしたのです?』

 

 

 マスターは、女達の身体を魔術で焼き払い、それぞれを中庭の土に埋め始めた。あれほどもったいぶって殺した割には、手厚く葬っている。てっきり、この城の主への見せしめにでもするかと思っていたのだが。私にはマスターの考えがいまいち読めない。この環境下で闇を微塵も見せない癖に、このたびのやり方は、彼の闇を強く感じた。その違いは何だ? マスターの言っていることも矛盾だらけだ。彼の基準が分からない。もし、あの魔人達がダメなのであれば、当然私自身もダメなはずだ。何故なら、私の生まれは闇そのものなのだから。だから、彼に直接問いかけた。その問いを発したとき、彼は動きを止め、私を掴んで目線の高さに掲げた。彼はいつも私に話しかけるときはそうするのだ。

 

 

「ん? どうした急に」

 

『貴方の基準が分からない。あの魔人がダメなのであれば、私も当然ダメなはずです』

 

「あ~、それね。確かに確かに」

 

『そこで納得しないで欲しいですね……ふざけてないで、私の問いに回答を求めます』

 

「ふざけてなんてないんだけどな…まぁ、どうやら珍しく真剣みたいだから答えようか。お前は浄化できた。アイツらは無理だった。以上だ」

 

『……? それはどういう…』

 

「……ヘッ、冗談だよ。本当は、お前は極悪機械魚から更正したみたいだったからな。嫌な感じを受けなかった。アイツらは見ての通り、芯から腐ってた。考えを読んでも、記憶を覗いても、どこまでも腐ってた。だからさ」

 

『私のメモリーからは、彼女たち程嗜虐的ではありませんが、それに近いことはしていましたよ?』

 

「それは、本当にお前の意志か?」

 

『!? それは……』

 

「お前はAIだ。良くも悪くも命令には忠実だ。自我が発生したのは浄化してからだろ? ならば、命令を実行してきたのはお前の意志じゃあない。〝工場〟の罪だ。それをお前に責任を問うのもおかしな話だよな。あの女達は自らの意志で残虐行為を楽しんでいたし、利己的な考えしか頭になかった。だから責任を感じてもらいながら殺した。犠牲者が少しでも浮かばれるようにな」

 

『……犠牲者が…浮かばれるように?』

 

「そうさ。ま、難しく考えなさんな。結局は俺が気に入ったか気に入らないかの問題なんだよ。アイツらは仮に浄化出来ても仲間にゃしたくないっていう俺の利己的な考えでもあるからな」

 

『なるほど。主張の理解はできました。ただ……』

 

「なんだ、まだ納得できないか。思ったより頭の固い奴だなぁ。AIだからか? ま、なんだかんだ言って人間は矛盾だらけだしな。混乱させちまって悪かったよ」

 

『いえ……こちらこそ、変なことを聞いてしまって申し訳ない。回答ありがとうございました』

 

「どういたしまして」

 

 

 

 にこやかにそう返して私を腰のホルダーに差し込むマスター。しかし、私はこの会話の中で確信してしまった。

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 いや、厳密には嘘ではない。だが、誤魔化している。彼の言った事の真実は、最初に述べたことのみ。他は適当な後付けだ。敵の考えを見抜く。深淵では必須技能だ。それは瘴気を使うことで可能になるが、防ぐ方法も無論ある。それ故に、深淵生物は例外なく心を読ませないように意図を隠すのだ。

 マスターはそれが完璧に出来ている。少なくとも力の差が歴然としすぎていない限りは自分の情報を読ませないし、自分より弱い生物には完璧に記憶すら読み取ってしまうだろう。だが唯一、仲間として認識している者にはガードが甘い部分がある。そして、私は〝工場〟所属時代に、魔人捕獲ミッションで会話から情報を読み取る手法のデータをインストールされていた。

 

 

 だから、分かってしまった。

 

 

 彼は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と。

 

 

 その証拠に、彼は会話中にほぼ、一切の感情をもっていなかった。それは声の抑揚やトーンから分かる。ただただ作業の様に、義務のように行っていた。唯一、最初に少女を殺すときだけ、感情が揺れた。

 

 

 それは何故か。

 

 

 

 何のために?

 

 

 

 ……分からない。しかし、収穫だった。彼はやはり、普通の人間ではない。闇もある人間に見えて、その実、やはり彼は闇を持たない。それが分かった。

 

 

 …………!? いや…そうか! まさか、彼は、普通の人間に擬態している?

 

 

 ……面白い。点Aと点Bが繋がった。そういうことだったのか。 

 

 

 

 マスターは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これが結論だ。QED。

 

 

 

 彼の明るさや、博愛の精神、陽気さなどは本物だ。しかし、傲慢、憤怒、嫉妬、怠惰、強欲、暴食、色欲など……それらの感情はわざと演じている。わざとらしい乱暴な言葉遣いも、復讐という名の下で感情を動かしているように見せたのも、全ては人間に見せるため。私すら欺こうとするほど徹底している、いや、自分自身すらも欺こうとしているように感じられる。あまりに強い精神力。そして技能。人間離れした肉体。彼の出自を、彼の生態を知りたい。このことに気づいてから、より知りたくなった。

 

 

 いずれにせよ、彼は特異点だ。特異個体中の特異個体だ。彼の目的が達せられるとき、その牙は、魔王、いや、存在すらあやふやな【原点】にすら届きうるかもしれない。そうなったら、世界は再び大きな変革を起こすだろう。それまでは、私は彼を守護(まも)ろう。必ずや、その先を見るのだ。

 

 

 

 

 これからは、それを私の生存する定義に設定するとしよう。








※ラブやんは若干主人公を誤解してます。
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