ティエラの地より 〜転生少年、深淵に挑む〜   作:エアロダイナミクス

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5、瞑想の果て

 

 

 

 

 

 

 あれから更に4年が経過した。オレももう恐らく13~4歳前後だ。身体も随分大きくなってきた。ここまでで、様々な事件が起きた。

 

 

 

 

 

 一番大きかったのはなんと言っても魔物による大規模襲撃だ。これは2年前に起きたことで、多くの人々が命を落とした。

 

 始めはいつもの襲撃だった。しかし、いつまで経っても襲撃が収まる気配が無い。そして、迎撃に当たっていたダイバーも無限に闘えるわけでは無い。交代をし続けることでようやく保たせてはいたが、そのうち襲撃してくる魔物に中層級が混じり始めた。

 

 魔物にはグレードがある。街の近くは瘴気も浅く、出てくる魔物も獣に毛が生えたような奴等だが、それより深い中層になると話は変わってくる。若干の知性を持ち、武器を使用する魔物が増えてくる。例えば武器を持った2足歩行のトカゲや巨大な豚などである。また、巨大な人型の怪物も現れる。これらは順にリザードマン、オーク、トロルなどと呼ばれる。それ以外にも、人より大きめの小型サイズの恐竜モドキなどもいる。これらは一般的な兵士よりも明確に力が上の敵である。これは普段はあり得ないことだ。普通は奥の魔物は我々のいる場所までは出てこない。彼らは瘴気を元にして活動しているからであり、浅い部分で活動する場合は動きなどが鈍るからだ。せいぜい浅層の魔物が迷って出てくるぐらいである。だからこそ、この襲撃は異常とも言えた。

 

 当然ドニさんも迎撃に当たったが、街の出入り口の東西南北の4つの主要な門を全てカバーできるはずも無い。そして、ついに押し切られ、1つの門が突破された。そこから地獄が始まった。

 

 

 

 

 

 魔物は基本的には人間には対抗できない。対抗できないから魔物なのである。なだれ込んだ魔物を迎撃するために街の警邏や兵士が必死に抵抗するが、浅層級ならともかく、中層級には太刀打ちできない。

 

 領主はあらかじめ避難命令を出していたが、それでも全員が避難できるとは限らない。兵士を始め、逃げ遅れた者から犠牲になっていった。魔物は人々を遊び半分で千切り、喰らいながら進撃する。そうして、街の中枢まで到達されかけたが、ダイバー組合が発掘していた秘密兵器とかいうのをフル活用し、何とか襲撃を押さえ込んでいたらしい。しばらく膠着状態が続いたが、門に殺到する魔物もようやく片付け終わったらしく、ダイバー達も戻ってきた。そして、ドニさんを始めとする数多くのダイバーが魔物を駆逐し始めた。ドニさんの活躍はまさに獅子奮迅の働きだったという。そうして、夜に始まった襲撃が朝になる頃に襲撃は終わったらしい。

 

 らしいばっかりで申し訳ないが、そういうのも、オレはその時自宅に隠れていて様子が分からなかったからだ。何故かその時の記憶があまりないが、気付いたときにはドニさんが戻ってきていて、家の周りは魔物の死骸に埋め尽くされていた。オレはどうやら危なかったらしいがドニさんが全て倒してくれたようだ。オレはと言うと、血にまみれていたので、返り血を浴びたようだが、そこまで接近されて気絶したのだろう。本当に危ないところだったぜ。一刻も早く魔物に対抗できるようにならなければ、という危機感はこの時により強くなったと思う。

 

 

 

 

 

 この襲撃により、本当に数多くの人命が失われた。ドニさんに想いを寄せていた牧場の娘、アナベルさん一家も惨殺され、家畜と共に喰われていた。彼女は頭部のみが発見されたという。また、ダイバーも数多くがこの襲撃で犠牲になった。ダイバーの死傷者はおよそ30人以上にのぼった。これまたドニさんに想いを寄せていたガブリエラさんは、死にはしなかったが、利き手を肩から失い、ダイバーを引退した。

 

 貴重なダイバーの損失は、そのまま防衛力の低下に繋がる。この件を受け、急遽ダイバーの募集がなされたぐらいだ。よっぽど人が足りないのだろう。

 

 一般の被害も相当なものだ。この街にはおよそ5万人ほどの住人がいるが、そのうち500人ほどが犠牲になる大惨事だった。行方不明者も含めれば被害はもっと増えるという。この災害の恐ろしいところは、襲撃が終わっても全てが終わりではないというところだ。

 

 急ぎ瘴気によって汚染された場所や魔物の死骸の浄化を行わなければ、そこが新たな暗黒領域と化してしまう。ダイバー組合の浄化担当職員はこれのおかげで3日以上の徹夜の作業を強いられたし、ダイバーもそれに参加せざるを得なくなった。

 

 

 

 

 

 全てが終わってからのドニさんの落ち込み方は酷かった。彼はこの事件からよりダイブの頻度をあげ、1日2日帰ってこないことはざらになった。あまりにも酷くて他のダイバーからも死に急ぐんじゃ無いと釘を刺されるぐらいだ。この襲撃では数多くの人が亡くなったが、その分彼は数多くの人々を救っていた。だから、あまりやけにならないで欲しいとオレからも伝えた。オレも彼に救われた1人であるのだから。

 

 彼はその時、なんとも言えないような笑顔をオレに向け、頭を撫でてくれた。オレも子供じゃ無いが、その時ばかりは大人しく撫でられていた。

 

 

 

 

 

 そうして、このマドリーの住民はこの襲撃の事を後々破られた西門の地区の名にちなみ、バラスの悲劇と呼ぶようになった。それから人々は、哀しみをこらえながらも復興に力を注いでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうしたこともあって、オレは一層熱心に霊力の獲得にのめり込むようになった。さすがにちやほやされたいという欲望より先に、命の危険を感じたからだ。2年前の襲撃とその後の調査によって分かったが、魔物は霊力に決定的に弱い。だからこそ、ダイバーは霊力の有無を求められるのだ。ドニさんはさっきも述べたようにダイブの頻度が上がり、家にいることが少なくなったので、オレはその時間を活用して瞑想を頻繁にするようになった。もともと2年も続けたからかなり集中して出来るようにはなっていたが、そこからの2年で更に相当の所まで出来るようになった。

 

 そうして、いつしか瞑想中に意識を集中すると、身体全体から不思議な感覚が湧き上がってくる感覚を掴んだ。なんと言えば良いか、丁度自分の中に同じサイズのお湯がある感じだ。もしかするとこれが霊力かもしれない。ようやく掴みかけている気がする。瞑想も後一段階深い部分に没入できれば、おそらくはもっとはっきりとするだろう。あと少しだという感覚がする。焦る気持ちはあるが、それ以上に掴みかけた感覚がオレを前へと進ませる。そして、ついにその日が来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()はあまり覚えてはいないが、いつもよりも深く瞑想できた気がする。コンディションが良かったか、はたまた日が良かったか。その時は丁度満月だったらしい。そして、オレは深く深く意識の底に沈んでいった。

 

 そして、深く()()()()にダイブをしていき、そして自分の中心地へと近づいていく。それは自分の根源。自分という存在が何者であるかの証明。いわゆる魂と呼ばれるモノだ。そこへ近づいていく。どんどん深く、深く、その根源へと。

 

 

 

 

 

 

 

 近づいてみて感じた。巨大な存在。例えるなら宇宙にあるブラックホールのような巨大な空白があった。オレはその時、頭の片隅で()()に近づいてはいけない、という警告を聞いた。しかし、これはオレだ。オレの魂だ。そのはずだ。警告を無視してどんどん近づく。警告はうるさく鳴り響く。しかし、その時にはそこに吸い寄せられるようになっていて、もう引き返すことは出来なくなっていた。

 

 ──オレはその時初めて少しまずいんじゃないかと思うようになっていた。そもそも、警告しているのはオレ自身だ。警告するからには何か理由があるはずなのだ。だが、引き返せない。もうこうなってしまっては見るしかない。オレは覚悟を決めてその巨大な空白に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 背景が変わる。昏い、昏い広大な空間に飛び込んだ。辺りはよく見えないが、気色の悪い渦の様な物がそこかしこに広がっている。

 

 重厚な低音が響き、そこに怨嗟の声とも、断末魔の声とも、はたまた獣どもの唸り声とも判別の付かない声が何重にも聞こえる。巨大な自分の魂と思わしき場所に飛び込んだオレだったが、おかしい。これは()()()()

 

 今までオレは自身の中にダイブしていたはずだ。なのに、何故、周りがこの様な冒涜的なものになっているのか。ホントにこれオレの中か? そうだとしたら流石に病みすぎじゃない…? よく見てみれば、宇宙の様な広大な空間のそこかしこに肉塊のような、機械のような、そしてそれが絶えず蠢き渦を巻くような……直感で理解した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ここは地獄だ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ~うん。間違えてよくないとこに流れ着いちゃったんだね! うっかりうっかり。なんてふざけた事も言えなさそうな恐ろしい気配の中で、オレ自身は、そこを精神体としてただ流されるままに浮かんでいるが、周囲には気付けば想像を絶する様な気色の悪い化け物達が星の数ほど潜んでいた。そして、()()()()()()()

 

 

 ──何でオレガン付けられてんの!?

 

 

 と、思ったオレはその時、記憶の一部を思い出した。オレは、コイツ等と闘っていた、と。絶望的な力量差にもかかわらず、ひたすら足掻いて藻掻いて足掻きまくって闘っていた。いつの記憶か分からない。だが、間違いない。今までそれがトラウマ級の出来事だったため脳が封印していたのだ。その光景がフラッシュバックし、オレを苦しめる。そして恐ろしいことを思い付いてしまった。今までどっか別の所に来たと思っていたが、実は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? と。

 

 しかし、そんな事どうでもいいぐらい極限にヤバいと言うことは分かっていた。精神が悲鳴をあげている。早く逃げ出さないとマズいことになりそうだ……一刻も早く瞑想解除して起きなければ……!

 

 ……が、ダメ! 悪夢は中々覚めてくれない。どうしたらいいんだ!? 早くしないと……! 焦れば焦るほど、中心に向かっていく。ヤバい、このままだとマジで取り返しが付かなくなりそうだ……!

 

 

 

 

 

 

 その想いもむなしく、オレはそのグロテスクな渦の中心部にほど近い場所に到達してしまった。必死に目を逸らそうとして見ないようにした。しかし、その中心部に近い場所で、()()()がいた。

 

 

 

 

 ──頼む! こっち見ないで!! オレも見ないから!!!

 

 

 

 

 それは自分の中心にいるからには、自分であるはずなのだ。何故オレはそんなに〝ソレ〟を恐れるのか。しかし、そんな考えも実際にそいつの後ろ姿を見た瞬間に吹き飛んだ。そいつはこの世の憎悪を一身に詰め込んだかの様な禍々しい雰囲気を発散している。誰なんだコイツは…! 暗くてシルエットしか見えないが、超凶悪な殺人鬼と一緒の檻の中に入れられた様な強烈な不安が絶え間なく襲う。

 

 そいつがゆっくり振り返る。顔は見えないが笑っているのは分かる。

 

 ダメだ、見てしまったらアウトだ。早く覚醒してくれ! 頼む…!! 奴が振り向く前に!!! 早く早く早く早く早く!!!!!

 

 

 

 

 

 オレの祈りが通じたのか、オレの精神が急激に浮上していくのを感じた。助かった…! その時、そいつの笑い声を聞いた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大きな高笑いを耳に残し、オレの意識は覚醒した。そばにはドニさんがいて、オレを厳しい目で見つめていた。顔がひりひりする。恐らく張ってくれたんだろう。そして、ここはドニ家……のはずだったが、様子がおかしい。まるで獣の襲撃にでも遭ったかのように荒らされていた。いや、それどころではない。壁が破壊され、一部の壁などは外が見えている。そして、そこからドニさんだけではなく、近所の人々が遠巻きにオレを見守っている。ドニさんの近くにはダイバー組合のダイバーも近くに控えている。

 

 本当に何が起こった!? オレは……オレはただ瞑想していただけだぞ! しかし、唐突にドニさんが青白い光を放っているのが見えた。他のダイバー達も多寡の違いがあるし色も違うが似たような光を放っている。

 

 

 

 

 

「ナギ……1つ聞く。お前に私の()()()は見えるか?」

 

 

 

 

 

 その恐ろしく迫力のある言い方に、オレはドニさんの殺気を感じた。この人は、返答を違えればオレを殺す気だ、と。周りで見ているダイバー達も似たような表情だ。

 

 

 

 

 

「……見える」

 

「何色だ?」

 

「青白い……光」

 

「そうか。では、自分を見てみろ」

 

 

 

 

 

 そう言われたので、自分の手を見る。すると……白い光が自分を覆っているのが分かった。

 

 

 

 

 

「これは……」

 

「コレを持ってみろ」

 

 

 

 

 

 ドニさんは、オレにあるものを渡そうとしてくる。

 

 それは、魔物の素材だった。そして……その素材は一段と黒い瘴気を放っている。普通はこの瘴気に近づくだけでも毒がある。だからこそ一般人は魔物に対してなすすべが無いのだ。オレはこの街で暮らすあいだ、魔物に触れたことは無かった。あの大規模襲撃の時でさえ、だ。だからこそソレを持つことを躊躇した。しかし、ドニさんは厳しい目でオレを見ている。やるしか無い。

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、オレがその素材を手に取った瞬間

 

 

 

 

 

 ジュワッ

 

 

 

 

 

 と言う音がして、瘴気が消えていった。

 

 

 

 

 

「これは……かなり強い霊力…!」

 

「……どうやら瘴気とは関係ないらしいな。霊力は瘴気とは真逆の性質を持つからな。であれば、この坊主は将来有望だぜ? どうする? ドミニク。オレ等は常に人が足りてねぇんだ。この坊主も役に立ってもらおうや」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 ドニさんが沈黙し、何かを考えているようだ。その表情はほっとしている様にも見受けられた。そして、ひとしきり考えたところでドニさんがオレに告げる。

 

 

 

 

 

「……いいだろう。これからナギは私が訓練する。霊力覚醒、おめでとう。ナギ」









ダイバー組合が発掘していた秘密兵器(意味深)
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