ティエラの地より 〜転生少年、深淵に挑む〜   作:エアロダイナミクス

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50、復讐は誰の為に

 

 

 

 

 

 

【SIDE:グレゴワール】

 

 

 

 

 最大の目的を、最上の形で手にする事が出来たグレゴワールは、期待と性欲ではち切れんばかりの興奮状態にあった。この傍に毅然として佇む少女はあまりにも美しく、深雪そのものだったから。また、余計な付属品が付いてきたが、その少女を恐怖に怯えながらも心配そうに見つめる姿を見れば、この少女に惚れている事が手に取るように分かる。心を読まずとも。だが、少女側からは何と思われていないようだ。そこは残念だったが、処女であるならばそれも些細な事。真偽を確かめたいが、少女の考えは読めない。流石天才と呼ばれるだけはあるな。この歳で既に思考を読ませない術を身に付けているようだ。

 あぁ、早くこの娘の本能からの叫び声を聞きたい。その気持ちが下半身に表れたが、少女は瞬間的に嫌な顔をして、直ぐに元に戻った。気丈な娘だ。だからこそ良い。もうこの場で犯してしまいたい…が、折角完全な姿で手に入ったのだから、我慢、我慢だ…。今、我々は深層の仮拠点に来ている。だが、ここではやらない。我が城にて、心ゆくまで嬲るのだ。既に霊力を削られ始めているからな。急がねば。

 

 

 

 あぁ──実に愉しみだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【SIDE:ミシェル】

 

 

 

 

 ここが……深層。ただの洞窟なのに、恐ろしい雰囲気。こんな所、確かに人類は来てはいけないと本能が警鐘を鳴らしている。あんなにも来たかった暗黒領域だったけど…お父様は正しかった。アンリも辛そうだ。

 しかし、この魔人の本拠地はもっと深いという。ここは仮拠点。もうこの時点で恐ろしい程の瘴気が充満しているのに…。心が挫けそうになる。でも、耐えなければ。もっと酷い環境で、これからこの魔人に肉体を凌辱され尽くすのだ。

 あぁ、あと僅かで私の人間としての生が終わりを迎える。後は永い玩具としての日々。私の青春は、最悪の形で終わり、そして地獄が始まる。適応しなければ。正直に言えば、ちょっとだけ怖い。私が私でなくなる事が。いや…本当は泣き喚きたい。でも、それをしてしまえば、この下衆を更に悦ばせる事になるからやらない。それがせめてもの抵抗。せめて、人間の間だけは……。あぁ、神様。出来る事なら少しでも苦痛が有りませんように…貴方の慈悲が、私に降り注ぎますように……。魔人の下半身を見れば、その望みも叶わなそうだけれど…。

 

 

 触れる事すら嫌悪感を覚える魔人に鎖で手を繋がされて手を引かれ、風景が切り替わる。いよいよ…だね……。思わず目を瞑ってしまった。なるべく精神に負担をかけたくなかったから。さぁ、心を殺せ。いよいよ始まる暴虐に負けないように。

 

 

 

 …………。

 

 

 

 ん? なんだろう…瘴気の圧が……無い? むしろ地上と同じ…? いや、それよりも…

 

 

 

 その瞬間、魔人が急激にその威圧感を落とした。

 

 

 

「ぐうっ……! な、なんだコレは…!」

 

 

 

 その言葉が終わるか終わらないかの瞬間、私に繋がれた手が自由になった。おそるおそる目を開ければ…目の前に黒髪の少年が佇んでいた。

 

 

 

「よぉ、クソカス。テメェはそうやっていたいけな少年少女を何人も弄んできたようだな。それももう終わりだ」

 

 

 その言葉と同時に、魔人の醜い巨体が後方に吹っ飛んだ。よく見れば、その顔面が溶けて蒸気を発している。

 

 

「貴、貴様…! 何者だ!! ここは余の玉座だ!! 不遜なるぞ!」

 

「おーおー、裸の王サマ気取りかぁ? テメェはこれまでさんざんやりたい放題してきたみたいだなぁ」

 

「おのれクソガキ…曲者だ! 1番、2番! 出合え!!」

 

 

 しかし、その台詞に反応する者は誰もいなかった。

 

 

「あぁ、眷属達か? 安心しろ。お前より前に本物の地獄に送っといたぜ」

 

「ば、馬鹿な! 3番、4番!! いないのか!?」

 

「だーかーら。全部殺したって」

 

「まさか……5番までも…!!」

 

「お前のいう番号って、部下の魔人兼愛人の事か? だったらそうだな」

 

「貴様……余が厳選に厳選を重ねた玩具を壊しおって……! 許さん!! 楽に死ねると思うなよ!!!」

 

 

 凄まじい瘴気が魔人から溢れ出す! ここの瘴気は完全に浄化されて清浄なはずなのに、それすら覆い尽くそうとするほどの瘴気! これが公爵級の本気…! あまりの瘴気に霊力が恐ろしい程削られていく…! 

 

 

 !! 身体が、楽になった…? 気づけば、私はアンリと共にその少年に抱えられていた。そして、不思議な石を渡された。

 

 

「お嬢ちゃん達にはこの瘴気は辛いだろ。コレ持っとけ」

 

 

 それは、温かな光を絶え間なく放ち、瘴気を浄化している。一度だけ見たことがある。太陽の石だ。街の中心地に安置され、瘴気の侵入を防いでいる。あの太陽の石は非常に高価で、それこそ、同じ量の黄金など比較にならないほどの貴重な物だ。しかし、その太陽の石よりも小さいこの石は、それよりも圧倒的な力を放っていた。

 この人は……一体何だろう。魔人? いや、それにしては瘴気が感じられない、どころか、温かな光を感じる…。

 

 

「貴方は……」

 

「質問は後だ、お嬢ちゃん。あの糞デブを苦しめて殺すからな。離れとけ」

 

 

 

 そういった瞬間、魔人が恐ろしい程の威力の収束された雷撃を放ってきた。この無駄に広大で豪華な部屋が、消し飛ぶほどの。しかし……

 

 

 

「な……何だその盾は…!?」

 

「無駄無駄。()()()()じゃ、俺にまでは届かんね。お前……鍛えたこととか無いの?」

 

「……ッ! 余を見下したな!? 下等生物の分際で!!!」

 

 

 

 魔人が腰から下げたサーベルを抜き、目にもとまらぬ速さで突進してくる。しかし、ぶつかる直前に真横に吹っ飛んだ。魔人は豪華なステンドグラスを突き破り、部屋の外まで飛んで見えなくなった。

 

 

「ん~流石公爵級。まるで本気が出せない状況でも全然堪えてねーな。ま、いい。全力でやってくれた方がよりアイツも堪えるだろうしな」

 

 

 この人は何を言っているの? まさか…あの魔人を殺すつもり!? しかも、今のはチャンスだったはずなのにわざと煽ってる? ダメだ。いくら素人の私でも分かる。あの魔人がこの程度の筈がない!

 

 

「待って! 貴方は高名なダイバーだとお見受けします!! ですが、ここは逃げの一手です。あの魔人は公爵級! ただの人間で勝てる相手ではありません!! 態勢を立て直せば、まだ勝ちの目があるはずです!!」

 

「お? お嬢ちゃん、この状況なのに冷静によく見てるなぁ。でもな、アイツは絶対に生かしちゃおけない。ここで始末する」

 

「だから! そう言う問題じゃなくって!!」

 

「分かった分かったから。でもな、心配すんな。()()()()なら余裕だから」

 

「そんな……折角、折角助かったのに!! アンリ、この人を止めて!!」

 

「お嬢様……私には何が何だか…」

 

「お、チビ助、お前はこのお嬢ちゃんを押さえといてくれねーか? なに、心配すんな。必ずあいつをブチ殺してきてやる」

 

「あっ、待って!!!」

 

 

 

 彼は、私の懇願も一顧だにせず、腰にぶら下げた筒と、背中の大きな剣を抜き、意気揚々と窓の外へ飛び出していった。

 

 

「……お嬢様、助かりましたね! どうやらここは清浄な空間のようですし、一刻も早く脱出しましょう!」

 

「お黙りなさい、アンリ!! ……くっ、この私の覚悟……どうしてくれようかしら…! アンリ! ここで私は待つわ! 逃げたいなら一人で逃げなさい!!」

 

「お、お嬢様…! でも、でも…!」

 

「何もしないなら黙ってて!!!」

 

「そ、そんな~~」

 

 

 ギャーギャーとうるさいアンリを黙らせ、周囲を見渡すと、部屋の四隅に私たちが持たされた物と同じ太陽石が燭台のように掲げられ、温かな光を発していた。破れた窓の外からは、超濃厚な瘴気が入ろうとしているが、窓の中までは入ってこない。だから、この空間が保たれているのだ。

 窓の外からは凄まじい爆発音が響いている。人智を越えた戦闘が繰り広げられているようだ。最早、私の知るような世界ではないかもしれない。だけど、私は見たい。

 

 

 覚悟をしていた。街の犠牲になると。でもそれは、粉々に打ち砕かれた。無論、いい意味で。私の神様への祈りは辛うじて届いたようだ。だから、見届けたい。あの少年の自信と、その明るさに私は賭けてみたくなった。

 

 

 

 もしこれで、あの魔人を打ち破るようであれば……私は彼に全てを捧げても構わない。

 

 

 

 だから──

 

 

 

 

 勝って。

 

 

 

 

 そして、この絶望の連鎖を終わらせて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【SIDE:ナギ】

 

 

 

 

「あのさぁ……いつも思うんだけど、飛んでるのってズリィよな」

 

『マスターは人間故…致し方なし』

 

「は~めんどくせ。でも、()()()()の相手に3号出すのもな。ダセぇし」

 

『では、どうするので? あの魔人も、周囲の瘴気で折角与えたダメージを回復しつつありますよ?』

 

「ん? アイツはどうとでもなるからな。しゃーない、アレ、やるぞ」

 

『またぶっつけ本番ですか? ちょっとしか練習できてないじゃないですか』

 

「だって、かっこいいじゃん!」

 

『はぁ~。分かりました。それでピンチになっても知りませんよ?』

 

「そんときゃフォローよろしくぅ!」

 

『本当に無駄にテンションが高い……では、どうぞ』

 

 

 

 屋根にへばりついて、糞魔人を観察していた俺は、光の霊力を凝縮し、全身にまんべんなく、そして特に背中へ集中して廻す。光には質量がない、それに、重力に殆ど左右されない性質がある。つまりだ。よっぽど濃い闇(奈落級以上)でも無い限り、重力に縛られない! 

 

 で、だ。そこに風の魔力を推進力として付け足すと……空を自由に飛び回れるのだ!!

 

 更に! 背中の光の霊力を翼状にして、風受けにすると…超、かっこいい!! ヒュー! お、見ろよ、あの魔人、戸惑ってやがる。そりゃそうか、光の霊力なんて初めて見ただろうからな。くっくっくっ、俺はこれまでいたぶってきた奴等とはひと味違うぜぇ? さぁ、行くぞ。テメェの惨めな鳴き声を、アイツらに聞かせてくれよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【SIDE:グレゴワール】

 

 

 くっ……何なんだ! 一体何だというのか!! 我が玉座が…! 事もあろうに、光に…そう、光だ! そんな霊力は存在しなかった! 全く未知の力だ……。認めたくはないが、深淵に潜む怪物ども以上かもしれん…。だが、たかが人間如きに余が無様を晒すわけにはいかん。必ずや大出力を今度こそ叩きこんで、潰してやる…!

 流石に外までは光に侵されていなかったのが幸いだった。部分変化で翼を生やし、ダメージを瘴気で回復する。あの小僧め…! 許さんぞ……! 最も苛烈な拷問で引き裂いて、永劫に苦しめてやらねば気が済まない……窓から出てきたな。……? 何だ? 誰と喋っている? …うっ、これだ。この光、まるで断罪の天使のような…いや、そんな事は無い! あの小僧は人間だ! 余が恐れることなど何もない。現に、奴は人間故に飛べな……飛んだ!! クソ……だが、先ほどまでの余とは違うぞ! ありとあらゆる力を用いて、必ず貴様を葬ってやる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【SIDE:ナギ】

 

 

 

 

 正面から莫大な瘴気の収束が起きる。ココまでの瘴気は流石に公爵級といったところか。奴は、その有り余る瘴気を凝縮し、更に手に集中させて俺に向ける。ふ~ん。()()も使えるんだな。ま、長らく生きてたんだ。そりゃそうか。俺の周りにある瘴気が凝縮して、物理的に圧迫してくる。うん。普通のダイバーだったらぺしゃんこだな。でもな、それはもう知ってるし。何ならもっと強い攻撃を切り抜けた俺にとっちゃ、ヌルいんだよ。大剣を一振りっと。

 

 

「!! 馬鹿な! 余の圧殺撃が!!」

 

「ぬるいぬるい。まさか、それだけで終わりか? ざぁこざぁこ♡」

 

 

 ビキビキビキ…

 

 

 おーおー、キレてますねぇ! 血管が千切れそうな音が聞こえてきそうだぞ。血圧大丈夫か?

 

 

「貴様ぁ…!! ならば、コレはどうだ!!!」

 

 

 奴がその腕を斜め下に振り下ろすと、連動して周囲の瘴気が爪の形に振り下ろされる。おっと、これは中々。ガギッと音を立て、ドニ剣が拮抗した。おおぅ、拮抗するとは。やるね。更に、続けてもう一つの腕が振り下ろされる。それをラブやんで受け止める。ん~さすがは公爵級って事だね。

 

 

「くくく…コレなら貴様も何も出来まい! 喰らうがいい!!」

 

 

 その汚い顔にある大きな口をがぱっと開き、瘴気を収束させる。汚ねぇ口だなぁ。犠牲になった女の子達も可哀想に……どうせ人肉とか喰ってるだろうし。っと、超巨大エネルギー。そして俺の後ろには玉座のある尖塔っと。なる程、避けさせないつもりね。でも馬鹿だなぁ。それ、無駄なんすよ。

 

 

 凄まじいエネルギーの奔流が魔人から放たれる。直系にして10メートルはありそうな超高密度の瘴気の奔流だ。そして、それが俺を飲み込もうとする直前に、その全てが飲み込まれて消えた。

 

 

「な、その盾は自動で動くのか!?」

 

 

 呆然としてやがる。くくく…いい感じになってきたな。よ~し、今度はこっちの番だぜ。

 

 

「ラブやん、出番だぜ!」

 

『人使いの荒いマスターですねぇ。私は今、敵の攻撃を押さえてるのが見えませんか?』

 

「人じゃねーだろオメー。いいからサッサとやれ」

 

『ハイハイ。じゃ、引き金を引くのはマスターでお願いします』

 

 

 ぞろり、と、収納袋からマシンガンやロケットランチャーが現れ、浮遊する。からの……ファイアー!!!

 

 

 

 猛烈な勢いで放たれた弾丸は、奴の身体めがけて殺到する。奴も慌てて瘴気を凝縮させて盾を張るも……何発かは押さえていたが、すぐさま盾は崩壊し、奴の身体を削り取る。ふっふっふ。光の弾丸は瘴気特効なんだ。悪いね。その隙間にロケラン発射!

 

 

「ぐぎゃあああぁぁぁぁ!!! グボッ!!!」

 

 

 

 汚ねぇ花火だ。クソデブなせいで中身が派手に飛び散ったな。中庭に墜ちたか。さて、そろそろ締めだな。ん? 複数の属性が飛んできた。炎、氷、土と。なるほど、一応そんな事も出来るのね。長生きしてるだけあるわ。でもな、俺の早口を舐めんなよ!!

 

 

【逆巻く炎よ、貫く槍となりて敵を討て】

【氷の刃よ、敵の矢を打ち落とせ】

【大いなる土塊よ、迫る脅威を退け、敵の元へ墜ちよ】

 

 

 

 

 かなりの早口で詠唱された魔術は、性格に敵の炎を相殺し、氷は打ち落として破壊し、隕石は更に大きな隕石によって砕かれ、更に敵の元へと墜ちる。中庭の一画で再生しながら魔術を撃っていた魔人は、その隕石弾に巻き込まれた。お、うまく核を逃がしたな。生き汚い奴。まぁそれぐらい無いとこっちもアレだからな。もっとがんばってくれ。そらそら、続けて行くぞ~?

 

 

 

【吹き荒ぶ暴風、渦巻く黒雲、轟く豪雷よ、我より来たりて総ての敵を滅すべし!】

 

 

 

 奴の周囲に巨大な水属性による雷雲が発生し、そこから凄まじい雷と全てを斬り刻む風の刃が無数に放たれ、荒れ狂う。再生しつつあった奴は、それで更に斬り刻まれる。

 

 

 

「おーおー、ミンチよりひでぇや!」

 

『マスター。もう残存霊力が半分を割ってますが。さっさと決めないので?』

 

「ん~分かってるさ。でも、心配すんな。コレは()()()()だからな」

 

『……()に必要なのです?』

 

「決まってんだろ。ここにいる数多くの犠牲者と、逝ってしまった者達にだ」

 

『……そうですか。ではお気の済むまでどうぞ』

 

「おう! さて、まだまだいくぜぇ! テメェの罪を数えな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【SIDE:ミシェル】

 

 

「ねぇ!! 見た!? 何アレ!! 何なのあの属性は!!」

 

「お、お嬢様…逃げましょうよ~」

 

「貴方にはアレが何か分からないの!? もしかしたら人類の希望になり得るものよ!! あぁ、夢にまで見た……私なんかじゃ到底及ばない力……本当に、本当に綺麗ね……」

 

「……! いけません! お嬢様!! 彼はたまたま敵対している魔人の一人かもしれないじゃないですか!? そうじゃないにしても、あんな得体の知れない奴なんかを信用できないです!! だから早く逃げましょう!?」

 

「~~~!! いい加減にしなさい!!! 貴方はこれ以上醜い嫉妬を剥き出しにしないで!! それ以上言うなら貴方とはお別れよ! 好きにしなさいな!!」

 

「うっ! ……も、申し訳ありません…出過ぎたマネを…お許しください…」

 

「……私も言い過ぎたわ。でもね、今だけは、私の好きにさせて…」

 

「は、はい……わかりました、お嬢様…」

 

 

 

 全く…この子の気持ち、分かってはいるんだけどね。お父様も公認の、半許嫁の様なものってのも分かってる。でも、私には昔から手の掛かる弟という認識以上は持ち得ない。優柔不断で意思薄弱。確かに鍛治の技術は目を見張るものが有るけど…それすらも私に劣る。あるとすれば、力のある鍛冶組合の後継者というだけ。そんな子に恋愛感情を持つ事なんて難しい。

 それに何より、さっきの連れ去られるあの場面で私の邪魔をした事が許せない。私を案じての決断に見えるけれど、キツい言い方をすれば、結局は自分の欲望を優先させただけじゃない。あの場面での最善は私を見捨てる事。そして、街に残って少しでも復興の手助けをする事こそが、この子にできるベストだったのに…。わざわざそれを自分から捨て、望まれないのに地獄の共を決めた。それはヒロイックに見えて、実は何のメリットも無い。確かに悲劇として語られるでしょうね。でも現実は、ただただ街にとっての貴重なリソースを擦り潰し、あの下衆を悦ばせるだけ。私が何故、アレが現れた瞬間に出て行ったかを理解しようともしない。

 

 私を好きなのはわかる。そして、その私が酷い目に遭うのが耐えられないという事もわかる。でも、お父様はそれを耐え切った。私を最愛として、誰よりも愛するお父様は、それでも領主として、非情な選択を選んだ。それこそが、あの時に出来る最善だったから。耐えられない程の精神的な苦痛に苛まれながらも、その選択をしたお父様を私は心から尊敬する。だから私はあの時涙も見せずに乗り切れた。だからこそ、よりこの子が許せなくなる。

 

 ……いけない。思考がネガティブだ。いつもならこんなことは考えないのに。私の覚悟を汚された様な気がして、心の中でとはいえ、酷いことを考えてしまった。だけど、こんなに覚悟を決めた私が、それが簡単に覆されたことで心の中がグチャグチャになってしまった。そのせいで、こんなにも私は……私は…。それをもたらしたあの人に、私はどんな感情を抱けばいいんだろう。こんなに酷い環境下で、それでもパワフルで、明るくて、暖かい。まるで、絵や小説の中から出てきた主人公の様だ。悪が栄えるとき、ピンチの時に颯爽と現れるヒーロー。圧倒的な格上に対しても、絶望を覚えず、立ち向かうことの出来る光。そんなの……とっても……

 

 

 

 ……いや、そんな事を考えている場合じゃない。とにかく今は、見届けなければ。あの人が本当のヒーローか。それとも、ただの道化か。でも、私には確信がある。きっとあの人は、勝つ。だってほら、あの人は、あんなにも眩しいから。

 

 

 そして、今、彼は敵の圧倒的な不可視の攻撃や莫大な量のエネルギーの奔流を防ぎきり、更に謎の機械で魔人を蜂の巣にして爆発させた。普通の魔人ならアレで決まりだけど、そうは甘くないわよね……。

 

 

 えっ、まさか…そんな、複数属性!? 火、氷、土…そんな馬鹿な!? やはり公爵級魔人…恐ろし…え? 彼も!? なんで…しかも打ち勝ってる!? そんな事が…遠くでよく分からないけど、あの口の動きに霊力が僅かに見て取れるから、そう言う技術なのかしら…えっ、属性の混合!? まさか! アレは私にしか出来ないのに!? しかも、あの属性は、雷、風……と、恐らくそれを増幅するための水…3属性の混合!?

 

 

 ……はは、私って天才だと思ってたけど。世界は広いわね。私の常識なんてとっくにあの人に陵辱されて、プライドはズタボロよ。でも、それがなんだか心地いい。私の初めてを奪われたというのに。

 

 

 いいわ、もう完全に吹っ切れた! だから、ねぇ…私にもっと見せて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 貴方の、その力を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【SIDE:グレゴワール】

 

 

 

 

 馬鹿な……そんな馬鹿な…! この余が、こんなところで、こんなガキに…!! 肉体は細切れにされて、再生に時間が掛かっている。何よりも、あの光の霊力が痛い。属性攻撃も、余を凌駕する練度で、更に複合で放ってきた! 幸いにも光ではなかったため、再生ができるようになったが、それも遅々として進まない…おのれ…かくなる上は、魔物化のリスクは高まるが、変身して──

 

 

 

 ズッ……

 

 

 

 なっ…いつの間に…!? い、痛い…痛いいいいぃぃ!!!

 

 

「させるわけねーだろ、このド外道が」

 

「がっ、がああぁぁぁ!! 貴、貴様…何を…!? へ、変身が……」

 

「最近ラブやんと話して分かったんだよね。お前らって、核の周辺のこの辺りをこねくり回して変身すんだろ? そこを光でちょいちょい弄りゃ…こうなる」

 

 

 バツッという音と共に、余の身体が千切れ、胸から上しか残らなくなった。くっ、再生を…

 

 

「おっと、触手伸ばしても無・駄」

 

 

 ジュッ

 

 

「あぎゃあああぁぁぁッ!!!」

 

 

 痛い痛い痛い痛い!! 身体が、溶けた!!! あまりの激痛、あまりの苦痛!! こ、コレは耐えられぬ!!! 

 

 

「や、やめろ、やめてくれ!!! 余が悪かった!」

 

「え? なんて?」

 

「頼む、やめてくれぇ!!」

 

「あのさぁ…なんでお前、自称が余、なの? エラソーじゃない? ムカつくんだけど」

 

「……ッ! 余…いや、私が悪かった! 償いなら何でもする! もう街は襲わない!! だから見逃してくれ!!」

 

「私~? まだ自分の立場が分かってねぇようだな!」

 

「ヒッ、痛、痛い痛い痛い!! わ、分かった、ぎぃっ、痛たたたた! 分かりました。この底辺ゴミ魔人めが悪うございました!! だから、許して、許してくださいいぃぃぃ!!!」

 

「う~~~ん。言い方はいいか。ただねぇ…」

 

「えっ、こ、これ以上、何を…」

 

「高いんじゃないかなぁ」

 

「な、何が……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()が」

 

「」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いや、マスター。その()は私越しに貴方が持ってるじゃないですか』

 

「お? あぁ、そっか! いやぁうっかりうっかり。じゃ、そのまま刺しといて」

 

 

 

 痛みでなにも考えられない…そんな私を奴は光の剣で刺し貫いたまま無造作に地面に叩きつけた。

 

 

 

「ぶえっ!」

 

 

 更にその私の頭に硬い物体が乗せられる。こ、これは…! ()()()()()!? な、何たる屈辱…!

 

 

「ほ~ら。見えるか? アレが」

 

 

 その足を捻りながら、私をとある方向に向ける。アレは…石碑? 5つあるし、なにやら名前が書いてある……。なんだ? あんなものあったか?

 

 

「あれ? わかんねぇ? ……はぁ~。お前って、本当に、本当に糞なんだな」

 

「えっ、痛い痛い!! やめてやめて止めて!」

 

 

 光の剣で核の周りをグリグリされる。それだけで、私は絶大な痛みに苛まれる。5つの石碑…名前……はっ!

 

 

「わ、分かった! 女達か!?」

 

「言・い・方」

 

「痛たたたたたた!!! ごごめんなさいぃぃぃ!!! わ、私、いや、底辺ゴミ魔人の眷属達…ですか?」

 

「そうだ。テメェの女達だ。名前すら覚えてなかったの、か!!」

 

 

 グリッ

 

 

「ぎゃあああぁぁぁ!! 核が! 核が削れた!!! 本当に止めて!!」

 

「お前は、そういった人々の懇願を受け入れたか? ん? 正直に言え」

 

「ひっ、ひっ……えっ…そ、それは…痛たたた!! い、いえ、しませんでしたぁ!!!」

 

「じゃあしょうがねぇなぁ。諦めろ。あの女達も、くたばる前にお前のこと糞キモ豚野郎、死ねばいいのにって言ってたしな! 傑作だったぜぇ!! 必死で俺に媚びてやがんの!! さんざっぱら遊んだ末に殺してやったがなぁ!!!」

 

「あっ、あっ、あげます! あげますから!! まだまだ壁に、美しい女達はいっぱいいますぅ!! だから助けてください!! この底辺ゴミ魔人も下僕でも何でもやりますからぁ!!!」

 

 

「ほぉ…何でもやるねぇ…その言葉に偽りはないか?」

 

「も、勿論です!!」

 

「よ~し、じゃあこれで最後にするからな? これからやる事何でも受け入れるんだよな?」

 

「痛たたた! はい!! 何でも受け入れます! だから許して!!」

 

 

 

 な、何とか乗り切ったか? お、おのれ…調子に乗って…! 必ずや隙を突いて貴様をゴミ屑のように…いぎいぃぃっいッ!! しまった!! 閉心の術が乱れていた!! この怪物は心すら読めるなんて当たり前の事を失念していた!!!

 

 

 

「あ~残念。お前、嘘ついた。俺、お前の嘘、見える」

 

『なんでカタコト?』

 

「いっ、いえ! 滅相もありません!! ほら! 今はそんなこと微塵も考えてませんからぁ!!」

 

「うるせーぞラブやん。ま、そーいうことで。本当に残念だったねぇ。あと少しで助かる所だったのにねぇ」

 

 

 い、いやだ、こんなところで…こんなところでぇぇぇぇ!!!

 

 

 光の輪が、私の肉体を砕き、心臓を砕き、そして頭と、同じ場所にある核だけが残された。そして、光の剣が抜かれるが、それに代わり、私の核を覆うように光の霊力が私を包む。あまりの痛さに絶叫しすぎて、滅多に壊れない筈の声が枯れる。それ程の、地獄のような苦痛。しかし、苦痛を与えるばかりでその光は私を押しつぶさない。な、なんで…? こんなにも痛いならもう殺して欲しい。お願いだ、殺して、コロシテ…。

 

 

「殺してほしい? ん~何言ってるかわかんねぇな! お前、壁の人たち殺してないじゃん。俺も同じコトして何が悪いの?」

 

「嫌です…イヤです…もう殺してください……痛いんです……」

 

「…………お前がな、あの人達を汚い欲の為に殺さずに苦しめ続けていた。俺はそれが許せない。まだ、彼らを殺してあげてたなら、ここで殺してやったのにな」

 

「言うとおりにします……必ず殺して丁重に葬ります…だから……」

 

「遅いんだよ。何もかも。ただまぁ、壁の彼らも、これで溜飲が少しは下がったかな? 今のみっともないお前の姿を見られるように、光のヴィジョンで映してあげてたからな」

 

「うぅ……」

 

「どれどれ…? おーおー。彼ら、必死に口動かしてるぜ、見るか? 彼らがお前の助命を嘆願してりゃ、助けてやろう」

 

「ごめんなさい…ごめんなさい……許して…許して…」

 

 

 

 壁の魔人達は、蟲にその身を囓られながらも必死に何かを訴えていた。でも、彼らが何を言っているのか分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 シ・ネ!

 

 

 

 

 

 

「」

 

「はい、終了! じゃあな!!」

 

「ま、待ってください……! どうか、どうかチャンスを、チャンスを……!」

 

「彼らのチャンスを奪っといてよく言うぜ。ま、お前も永遠に苦しむがいい。お前が遊び半分にやった様にな」

 

 

 

 肉体と精神と魂が激痛に苛まれる中、私はナニカに閉じ込められた。な、何だココは……

 

 

 

 

「きこえるか~。お前は今、封印石に閉じ込められている。これは深淵製の特別な奴だ。俺以外の者には絶対に解除できん。そして、少しでも普通の霊力を流すと…」

 

 

 

 いぎゃあああああああああ!!!! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!

 

 

 

「と、まぁこうなる。わかったか。俺はお前を絶対に許さない。永遠に苦痛に悶え苦しみ、犠牲者に詫びろ。それがお前の罰だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お嬢様……あいつ、本当に魔人じゃないんですか?」

 

「…………」

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