ティエラの地より 〜転生少年、深淵に挑む〜   作:エアロダイナミクス

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51、慟哭

 

 

 

 

 

 

 

 さて……とりあえず、クソ野郎のお仕置きはすんだ。もう、本当にゴミ屑野郎だったな。ムカつくからもうちょっと霊力流しとこ。うん、汚い悲鳴が微かに聞こえる。いいね。あのお嬢ちゃんを送り届けるついでにお土産として渡そうかな。

 とりあえず、これからこのクソみたいな城の装飾になった哀れな人たちを何とかせにゃあな。

 

 

「ラブやん、ビジョン担当お疲れ」

 

『全く、本当にそうですよ。剣も出しっ放しであの規模のビジョンを制御するのは難しいんですからね』

 

「怒るなって。あとさ、ついでに聞きたいことがあるんだけど…」

 

『魔人は元に戻せないか、ですか?』

 

「よく分かったな。前もこの話したけど…本当に無理か?」

 

『無理です。貴方もこの闘いで理解したのでは? 光で浄化しようにも、彼らの肉体は完全に瘴気に汚染されきって変質しています。浄化すれば肉体が溶けます。再生も不可能です。さりとて、普通の霊力では到底浄化には至りません。この変化は残念ながら不可逆なのです。同じように、魔人から魔物になっても、戻ることはありません』

 

「そっか……仕方ない。ならば、やっぱり苦しめずに殺してあげるのが慈悲か」

 

『肯定。ですが、それをやる前にひとまず休まれては?』

 

「ん、確かにそうだな。霊力を使いすぎたし、とりあえずあそこに戻るか」

 

 

 

 

 そうして、俺達は中庭を抜けて再び玉座のある建物に戻り、階段を昇って玉座のある部屋の前に来た。あ、そうだ。ここ、あのお嬢ちゃん達いるじゃん!

 やべぇ、絶対絡まれる。今は疲れてるから相手するの面倒臭いし…。中庭とかに太陽石置いてテント張って寝よ。

 

 そう決意して、再びそーっと扉の前を去ろうとしたとき…

 

 

 バーン!! と勢いよく扉が開かれた。

 

 

「貴方様!! どこに行くのです!!」

 

「げっ、い、いや。キミ達も疲れてるだろうし、少しは休んで貰おうかな~って?」

 

「心配はご無用! むしろ、色々と説明して貰うまで休むに休めません! お願いですから、私達をおいていかないで……!」

 

「……あ~悪かった。うん。ちゃんと説明すっから。な?」

 

 

 

 しまったなぁ。そっちのケアをまず最優先にしなきゃだったわ。俺も馬鹿だな。よし! 腹くくるぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──というわけで、俺はこれからマドリーに帰りたいってわけよ」

 

 

「なんと……そんなことが……」

 

 

 

 俺は、そこから1時間使って懇切丁寧に俺の状況を2人に説明した。いや、前世の話とか、俺の秘密とかは流石にぼかしたよ? でも光を見られちゃってるから、そこは説明したけどね。なんてったって、アンリ君? が俺を魔人じゃないかってすっごく疑ってくるからさぁ。俺はBSSの竿役にはなりたくないから、そう睨むのはやめてくれって。マジで。ミシェルちゃんもアンリ君怒らないであげてもろて。

 でもこの子、絶対に分かってやってるよね。色々と。だって、俺の説明でぼかしたところは必ず突っ込んでくるし、何とか誤魔化しても、その誤魔化した部分を察してるよね。マジで頭いい。これで14歳? 中学生じゃん。俺なんか14歳は前世でも今世でもアホだったよ? それにめっちゃ美人だし。頭が良くて美人、なんとなくフロウを思い出すな。早く逢いたいなぁ。あ、不機嫌になってる。やべ、この子もしかして心読める? 嘘だろ…どんだけ天才なん? つか、その霊力量、黒色に達してない? 本当に領主の娘? はぁ~。いるところにはいるもんだね。だからこの下衆もこの子を狙ったのか。こんな子が失われたら本当に世界の損失だな。ちょい強めに霊力ながそ。

 

 

 

 ギャー!!

 

 

 

 うん。ホントに思い出すだけでムカつくからね。え? これ? いいよいいよ。貸す貸す。ドンドコ霊力流して。出来れば街の人たちにもやって欲しいから、全力は止めといてね。え? 封印は解けないか? ……そこに気付くか。やっぱり君、14歳じゃないだろ。安心して、俺以外は絶対に、絶対に解けないから。君が心配するような破滅主義者とかに奪われても絶対大丈夫。俺の個体認証付けたからね。それに破壊も不可だから安心して。それに、俺ももうコレ手放すから。コレが壊れるときは、確実に中のコイツが死んだときだからさ。

 

 

 

 とりあえず、話は一旦ここまででいい? ちょっと休みたいから。うん。流石に俺も疲れてるし、君達もそうだろ? 寝やすいように俺が作った小屋出すから。ベッド付きだよ。後は若い2人で寝てな。俺? 俺は何とでもなるし、むしろ気を遣われる方が困る。君達素人でしょ? い~のい~の! 本当に。ほら、出したから入って入って! じゃ、お休み~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、すぐにアンリ君は蹴り出され、しくしく泣きながら小屋の前でうずくまっていた。そのあまりにも哀れな姿を見て、俺は彼に予備のベッドを貸してやった。俺はというと、2つのベッドが埋まったため、雑魚寝。まぁ深淵の時に比べりゃマシだから。

 

 はぁ~もう本当に疲れた。さ、寝よっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【SIDE:ミシェル】

 

 

 

 

 

 あんなことがあったのに、私はぐっすりと、本当にぐっすりと眠ってしまった。なんなら今が1番調子がいいぐらい。力が無限に湧いてきそうな気分。心なしか、霊力も強くなってる気がするわ…ここは深奥層、人類未到達地点で、本当に危険な場所のはずなのに…。なんなのよこのベッド…。

 それもこれも、あの人がいけないのよ! ナギさ…くんが。あんなに大人な雰囲気なのに、まだ18って…やだ、あんまり年齢変わらないじゃない! もう! ……シュトルバーン、ね。かっこいい苗字。師匠兼養父から受け継いだって。きっと素敵な方だったのでしょうね。あれだけ目をキラキラさせながら語ってくれるんだもの。お会いしたかったわ。でも、その彼のお陰で、ナギくんが生き残ることが出来たって。本当に素敵だわ。これで世界も救われる。彼ならきっとやってくれる…キャッ、彼って! いやいや、落ち着いて! 私。深呼吸……ふぅ。あぁ、いけない。なんか変だわ。どうしちゃったのかしら。なんにもしてないのに、鼓動が早い。顔が熱い。病気かしら……?

 

 

 

 ……なんてね…はぁ……何を見ない振りしてるんだか。似合もしないカマトトぶっちゃってさ。分かってる。私に何が起きたか。そう、私はこんな状況で、事もあろうに……恋……をしてしまった。お陰で、起きてからずっとこの調子。自分でもこんなに制御不能になっちゃうなんて、むしろ笑っちゃうわ。私って、案外チョロい…?

 

 いや、あの人がいけないのよ!(以下無限ループ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 や、やっと落ち着いた。決め手はアンリね! アイツの事思い出せば、スンってなる事に気付いたわ! これでやっと表に出られる。後は、下衆への罰。コイツの悲鳴が、私を現実に戻してくれる。兎に角、早く支度して出なきゃ。まだまだ聞きたい事は沢山ある。魔術理論とか、光の霊力とか。私ならきっと出来るから。そうしたら、ナギくんと…って! ダメ! いい加減に起きるの!! はい、アンリ! ……ヨシ! 落ち着いた! いや、まだ! 下衆魔人! ……うん、落ち着いた。さ、思考を締め出して早く出よう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【SIDE:ナギ】

 

 

 

 

「おはよう! 2人とも!!」

 

 

 バーンと小屋の扉を開いて出てきたのは、ミシェルお嬢様。そんな中、俺は2人の為に朝食を作っていた。流石に蟲魔物をそのまま生でってのはアレだったので、きちんと肉とか植物っぽい魔物を使う。スーパーミスリル君でフライパンにして、鍛治用簡易かまどに火を起こし、そこに魔物油敷いてソテーに。味付けはとりあえずめっちゃ美味い岩塩みたいなのを細かく砕き、焼く前に下味をつけてジュウジュウと焼く。う〜ん、こんな凝った料理は俺も久しぶりだな。

 クッソ美味そうな匂いがプンプンしやがるぜ。

 

 派手な登場をしたお嬢様は、凄まじく美味そうな匂いに固まり、それまでグースカ寝てたアンリ君は、凄い勢いで飛び起きた。君、繊細そうに見えて割と図太いね。嫌いじゃないぜ! そういうの。

 

 

「おはよう。ささ、色々と話さにゃならんけど、とりあえず飯だ。丁度出来たから食べようぜ!」

 

「あ、あの……」

 

「あぁ、遠慮すんなって。それに毒じゃねぇのは確かめてあるし、安全だよ?」

 

 

 もじもじしてるお嬢様に声をかける。しっかり寝て、腹減ってる筈なんだけどなぁ。とか思ってたら、くぅ〜〜と、可愛らしい音が鳴った。

 その瞬間、お嬢様の顔が真っ赤に染まり、その顔を手で覆った。うん…まぁ気にすんなって方が無理か。なんせ、支配層の娘だもんな。マナーとか完璧だろう。フォローす

 

 

「お嬢様、はしたないですよ!」

 

「!! アンリ! 貴方は黙ってなさい!! 貴方こそ、恩人に料理をさせて主人よりも支度が遅いとはどういう事ですか!!」

 

「はっ!! あっ…すみませんでした!!」

 

 

 

 アンリ君……君さぁ、大体君も寝癖でベッドの中で言ってても説得力無いんだわ。そりゃ怒られるわ。つか君もぐーぐー鳴ってない? ほら見ろ、赤面してたお嬢が、ゴミを見るみたいな目で見てるぞ。全く…本当頑張ってくれよ。そんな事じゃお嬢様は振り向かないぞ? まぁ、この年齢での等身大の男子あるあるなんだけどね。個人的には共感できるし、好感ももてる。寝る前にはあんなに落ち込んでたのに、ウジウジしてないのはいいこった。

 

 

「お嬢様よ、それまでにしときな。疲れてたんだよ。色々とあっただろうからさ。んな事よりも、出来たから食べようぜ。腹減ったんだよ」

 

「ナギさ…くん? 私をお嬢様って言うのはやめていただけますか? この場所ではそのような気遣いは不要です。だからこそ、貴方も私に様付けはやめさせたのでは?」

 

 

 おっと、地雷踏んじまった。しかも流れるような正論付き。こりゃ俺の負けだわな。

 

 

「悪い悪い、そうだったな。気をつけよう。ミシェルちゃん、アンリ君、飯食おうぜ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「御相伴に預かりますわ」

 

 

 

 

 

 

 作業テーブルをとりあえず出し、スーパーミスリル製の簡易的な椅子を3脚出して、全員で食事タイムに入った。食器類はスーパーミスリル君で生成。本当に便利すぎん? もうコイツ無しじゃ、俺サバイバル出来ないぐらい依存してるわ。

 

 さて、お味は…

 

 

 

 

 

 

 

 うっま!!!!

 

 

 

 なんじゃこれ!! 焼いただけだぞ!? いや、下味付けたけどさぁ! 美味すぎて次元が違うわ! 前世で食ったどんな高級ステーキが雑巾に感じられるぐらいに美味い…! 我ながらヤバい物を作ってしまった…こりゃ、戦争起きるんじゃねぇか…?

 横を見れば、アンリは涙を流しながら「うめ…うめ…」と頬張ってるし、ミシェルちゃんは優雅にナイフとフォークを使っている様に見えて、その実かなり早いスピードで肉を頬張っている。澄ました顔も崩れかけてるからよっぽどだ。

 

 結果的に。1キロじゃ全然足りず、最終的に3キロは焼いて食べた。つか、絶対にもっといけるけど、歯止めが効かなくなりそうなのでやめといた。

 

 

 ふぅ〜美味かった。洗い物も簡単に出来る。流石はスーパーミスリル君。素晴らしいね!

 アンリ君は鍛冶屋の息子らしく、スーパーミスリルに興味をもったようだ。しきりに触ったり叩いたりして確かめている。でもやらんぞ?

 

 

 さて……今後の事について話すか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まず、俺は最初にクソ魔人の犠牲者を始末してくる。だから少し待っててくれ。その後、掃除してここを旅立つ。君達を元の街まで送り届けよう」

 

 

 俺がそう告げた時、すかさずミシェルが疑問を発してきた。

 

 

「まず、犠牲者の始末とは? そして、旅立つにも方針や指針はありますか?」

 

 

 まー気になるよね、そこは。

 

 

「いい質問だミシェルちゃん。まず、この城にはまだまだそのクソ魔人に苦しめられてる人々が100…いや、1000人規模でいる。だけど人々と言っても魔人化してるんだ。だから、助けたいが助けられん。結局は楽に逝かせてやるしかないから始末する」

 

 

 ギャーー!

 

 

 

「ま、分かるよ。ソイツには絶えず霊力流しといてやれ。話を戻そうか。それが完全に終わったら、ここを綺麗にするんだが、ちょっと探索をする。ソイツが溜め込んだ宝を全部いただくからな!」

 

「ぜ、全部…! どれぐらいになるんでしょうか!」

 

 

 アホ! 黙ってろ! んな事言ったら……。

 

 

「アンリ!! 少なくとも貴方の物にはならないわ! 弁えなさい!!」

 

 

 ほらな、やっぱり怒られた。アンリ君はもーちょっと好感度メーターとか気にした方がいいんじゃない? いくら婚約者でも、好感度マイナスになると爆弾つくよ?

 

「んんっ! ……まぁ、でもその宝は全て君らの街へ還元するからな。広い意味では君らのもんだ」

 

「えっ、いや、それはナギ君のものって意味で言ったのですが…」

 

「バカいえ。コイツは散々君らの街から搾取してきたんだろう? それを俺が奪うわけにはいかんでしょ」

 

「……私達にとっては大変ありがたいですが…いいのですか?」

 

「いいさ。昨日言ったけど、俺には深淵産のお宝が山程あるからな。これから探す中で、どーしても欲しいのがあったら、その中から交渉させてくれ」

 

 

 そして、1番肝心な話題。あまり言いたくないんだけど、しゃーない。

 

 

「で、最後に、君らの街だが……厳しい」

 

「「え?」」

 

「方向、距離、何もかもが全く分からない。正直、マドリーに行くより大変かもしれない。深奥層は空間が歪むからな。深淵に近いここは、時間すら歪むかもしれない。だから、ちょっと覚悟を決めてくれ。先にマドリーに着いてしまう事だって十分有り得るからな。だが、魔物や魔人からは必ず守ると約束しよう」

 

 

 お、2人とも黙りこくったな。俺の言ってる事を吟味しているのだろう。すると、俺の視線に気が付いたのか、ガバっと顔をあげたミシェルは慌てながら理由を述べた。

 

 

「いや、決してナギ君に不安を覚えているとかではないですからね! 逆に私達が付いていけるかという不安があって…」

 

 

 アンリがコクコクと頭を振っている。なるほど、確かに説明が足りなかったな。

 

 

「あぁ、ごめん。確かに不安になるのも仕方ないか。まず、君達には太陽石を持ってもらう。これで瘴気によって侵される事は無い。そして、道中だけど、必ず俺が守るし、君達にも話したが、喋る聖剣ライトブリンガーが守護してくれるからな。深奥層を抜けさえすれば、かなり安全になるだろう」

 

『お任せあれ。私とマスターであなた達を護りますから』

 

「……何から何までありがとうございます。ただ、私としては、一つ提案があるのですが」

 

 

 提案? なんだろう。

 

 

 

「魔人が私を攫う時、深層を経由しました。そこは魔人の仮拠点のようでした。私達の街を襲う為に設定したと思うのですが、私はそこで幾つかの帰還石らしき物を見ました。魔人は、定期的に移動する為にそうしていたのでしょう。つまり、それを探せば街の近くの深層まで飛べませんか?」

 

 

 

 

 ……!

 

 

「グッドだ! 確かにコイツならやりそうだ! 調べる価値はあるな!! 極限状況なのによく見てくれた! 凄いぜ!」

 

「無いかもしれませんが…」

 

「いーのいーの! 有れば儲けものって思えばなんて事ないさ! 逆に、あったら凄いぞ! 一気に事が進むかもしれないからな。なんか俺、深奥層からの脱出が出来ないからさぁ」

 

『本当に運が悪いですものね、マスター』

 

「そ、それは良かった。喜んでいただけて何よりです…」

 

「よーし、希望が見えてきたな! じゃあ待っててくれな! ちょっと(とむら)いに行ってくるから」

 

 

 気分爆上げ! 漸くクソキモ深奥層から出られるかと思うと心がぴょんぴょんするぅ! とにかく血! 内臓! 骨! 蟲! みたいなよく分からんぐちゃぐちゃから、俺は卒業します!! しばらく見たくありません! そうと決まればさっさとやっちまうか! …と思って行こうとしたら、お嬢から待ったがかかった。

 

 

「待って! その(とむら)い、私も連れていってくださる?」

 

「……え〜…それは…かなり精神的にもクるから、やめた方が…いいんじゃないかなぁ」

 

「……私は、次期領主候補として見届けなければならない義務があります。それに、汚れ仕事をナギくんだけに押し付けたくありません」

 

「お、お嬢様…やめた方が……」

 

「貴方は黙ってて! 行きたくないなら貴方はここで待ってなさい!」

 

「まぁまぁ、アンリ君の言う事も分からなくはないからね。本当に酷い状況だからなぁ。それでも、行くんだね? ……うん、分かったよ。ならば、後悔しない様に覚悟を決めておいてね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2人に太陽石を持たせて、玉座の間を出る。そのまま階段を降りて、中庭へ。俺は、ここももう慣れちゃって勝手知ったるになってるけど、2人はそうじゃないから、ビクビクしながら付いてきた。主にアンリが。ミシェルちゃんは、悪趣味装飾に顔を顰めはするものの、基本堂々とついてきた。ビクビクするのは最初だけだったな。もうちょい頑張ろう、アンリ君。まぁ、素人が初めての暗黒領域を歩くとなると普通はこうなるか。ミシェルちゃんが異常なんだよね、この場合。実際すげぇ胆力だとは思うよ。だから、絶望の未来しか無くても毅然とした態度でいられたんだ。そこは本当に尊敬に値する。頭が天才レベルでいい。めちゃくちゃ美少女、ベテランダイバーを凌駕する霊力、凄まじい胆力←new!

 これで領主の娘って、チートだよね? 将来滅茶苦茶期待されてそう。だからこそ、早く帰してやらないとなぁ。相当いい女だよ実際。アンリ君、壁は相当高いぞ! がんばれ!

 

 

「あれほど激しい戦闘による破壊痕が…しかも形が微妙に違う…」

 

「ん? あぁ、アレね。深奥層では良くある事みたいだな。ここは瘴気が強すぎて、建造物すら再生しやがる。より禍々しくな。まるで魔物みたいだ。もしかしたら、ここもどっかに核があるかもよ?」

 

「こ、怖い事言わないでくださいよ〜。つまり、僕らは怪物かもしれない腹の中で寝てたんですか…?」

 

「いや、まぁビビらせるつもりは無かったんだ。すまん。だけど、太陽石の有効範囲にある結界内には奴等手出しが出来ないから安心してくれ」

 

「アンリ、上に立つ者として、あんまり情け無い姿見せないで」

 

「そ、そうは言ってもお嬢様…」

 

「まぁまぁ。アンリ君の反応が普通だからな? あんまり厳しくしなさんな。まだ君たちは若いんだから」

 

「それは貴方もでしょう? ナギくん」

 

「俺は何回も言うが特殊なの。それがなきゃ今頃ビビり散らして動けなくなってるさ」

 

「でも今は違う、そうでしょう? ……あ、アレは何?」

 

 

 ミシェルが中庭の真ん中にある石碑に目を付けた。俺が葬った魔人達の墓だ。

 

 

「あれは…クソ魔人の犠牲者兼加害者だな。俺が一足先に葬って墓を作ったのさ…何か気になる事でも?」

 

「…………」

 

 

 ミシェルは無言になり、そのまま石碑に向けて歩いて行った。そして、そこに刻まれた文字を見て、崩れ落ちた。慌てて駆け寄ると、涙を流して石碑に縋り付いている。

 

 

「おい、どうした!!」

 

 

 ミシェルは涙をハラハラと流して答えようとしない…まさか! 俺はアンリを振り返ると、アンリも顔を蒼白にして呟いた。

 

 

「ネレイス様…と、ポレット様…」

 

「な!? 知り合いか!?」

 

「え、えぇ……他は分かりませんが…お嬢様の…お母様と従姉妹に当たる方、です…」

 

「な、なんだと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 深奥の瘴気は、相変わらず暗澹と、しかし静謐に、我々を平等に包み込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お母様は……どうだったのです?」

 

 

 ミシェルがひとしきり泣いて、立ち上がった後、俺に問いかけた。これほど答えたくない質問は初めてだ。だが、言わねばならない。

 

 

「……魔人として、奴に仕えていた。俺も襲われたから一思いに殺した…すまない」

 

「いえ……ありがとうございます。お母様やポレットがこれ以上罪を重ねず、地獄へ送ってくれた事、感謝します。真に恨むとすれば……」

 

 

 そうしてミシェルはポケットから封印石を取り出して霊力を徐々に込め始めた。いつもは程々にする所を、鬼気迫る表情で際限なく出力をあげている。中の悲鳴も徐々に激しいものへとなっていく。あまりの様子に、流石のアンリも声を掛けることを躊躇っている。

 

 

「……君には、その権利がある。そのまま砕いてしまえ」

 

 

 彼女なら誰も文句は言わないだろう。中の奴もそれだけの事をした。その復讐は誰にも止める権利はない。

 だが、ミシェルは封印石が砕ける直前まで力を込めた後、込めた霊力を解除した。

 

 

「……やらないのか? 誰も文句は言わないぞ?」

 

「……いえ。コレ、は一時の感情で楽にしてやる程甘い処置はしません。永遠に苦しめる様に体制を作り、未来永劫苦しんでもらいます。それが、この下衆の罰……そんな私を軽蔑しますか?」

 

「いや? 俺としてはどちらでも有りだと思ってるし、君がそうするのは当然だと思う。俺も君の意見に賛成だな……よく耐えたな」

 

「…………ひっ…ひっ……わ、わだじ…おがあざまに、ずっどあいだぐで……こんな……ごんなのっで……!」

 

 

 ……無理もない。まだ14歳の少女なのだ。俺はアンリを見た。だが、彼はオロオロするばかりでどうしていいか分からないようだ……参ったな……。仕方ない。すまん親父さん。ちょっとばかり代わりをやるが、許せ。

 

 

 ふわりと彼女の肩を抱き、そのまま背中を軽くポンポンと叩く。

 

 

「今だけは俺たち以外に誰もいない。泣けるだけ泣いておけ」

 

 

 そう伝えると、ミシェルは俺の胴体にギュッと手を回し、号泣し始めた。すごい力で抱きつかれているが、それを振り解くのは躊躇われた。アンリが凄い目で見てくるが、これ、本来お前がやんなきゃならなかったんだぞ! 反省しろ! 目で合図したのに動かなかったお前が悪いんだからな!

 

 

 

 ……でもまぁ、そんな雰囲気でもないしな。とにかく、今は落ち着くまではぽんぽんしてやるか。思い出すな。前世での事を。昔も叱られて泣いていた娘をこうして慰めてたっけ。

 

 

 

 

 

 思う存分泣くといい。そうしたら、また立ち上がれるさ。俺たちは、生きているのだから。

 

 

 

 

 

 彼女の慟哭は、深奥の空へ奏でられ、そして消えていった。

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